ひとたび「問題社員」と目をつけられると、退職勧奨の標的になります。退職勧奨は拒否することができますが、その後の対応はどうしたらよいでしょう。退職勧奨を何度繰り返されたとしても、辞めたくないなら断り続けるのが正解であり、受け入れる必要は全くありません。
ミスは誰しもあることですが、仕事における小さなミス、上司との相性の悪さなど、積み重なれば「問題社員」と指摘され、拒否していても何度も退職勧奨を継続されることがあります。当然、断り続けるべきですが、その後に不当解雇や異動などの不利益な処分を受けないかも心配でしょう。
今回は、何度される退職勧奨を拒否するときのポイントと、その後の対応、断り続けて不当解雇されるケースの対処法などを、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職勧奨は拒否できる!何度されても、断り続けるのが適切な対応
- 退職したくない場合も、条件によっては応じる場合も、まずは拒否するのが良い
- 退職勧奨を拒否して解雇や異動など不利益を受けたら、違法の可能性あり
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
退職勧奨は拒否できる
まず、退職勧奨は拒否できます。退職勧奨とは、会社が労働者に、自主的に退職するよう勧める働きかけのこと。面談などに呼び出して「辞めてくれないか」と依頼するのが典型例です。
退職勧奨は拒否するのが基本
退職勧奨は拒否できますから、「まずは拒否する」というのが基本の対応となります。これは、拒否して辞めたくない場合は当然、受け入れて退職する場合も、条件交渉を有利に進めるために理解しておくべき大切なポイントです。
退職勧奨は、通常、何度も行われることはありません。
労働者が応じて退職しないならそれで終わり。また、労働者の問題点を理由にされたなら、次は懲戒処分や解雇など、別の処分に進みます。退職勧奨は、あくまで任意に、自由な退職を働きかけるだけであり、この範囲に留まるなら全く違法ではありません。
しかし、会社にも、退職をしてほしい理由があることでしょう。無理にでも退職させようと、嫌がらせ的に、何度も働きかけを繰り返すケースは珍しくありません。「問題社員」だと目を付けられたり、社長に嫌われたりすれば、何度も退職勧奨を受けてしまいます。しかし、感情的になって繰り返し退職勧奨するのは、違法の疑いが強いので、説得に応じて退職届を出すのはやめてください。
「退職勧奨への対応」の解説
拒否したのに繰り返し退職勧奨を受けたら違法
会社が労働者に対して、退職勧奨をすること自体は、違法ではありませんが、拒否してもなお繰り返し退職勧奨することは、違法の可能性が高いです。
というのも、退職勧奨は拒否できるのが原則だからであり、拒否できないならもはや、それは法的には「退職勧奨」ではありません。仕事にやりがいがあり、社内でキャリアアップしたいなら、退職に応じる必要はありません。
つまり、退職勧奨は、会社から労働者への「お願い」であり「強要」ではありません。拒否できないなら、法的には退職強要、もしくは解雇を意味します。
労働者としても、辞めたくないならはっきりと拒絶の意思を伝えましょう。曖昧な伝え方だと、働きかけは止みません。結果、自分は拒否しているはずなのに更に働きかけされ、断り続けなければならなくなり辛い思いをします。「辞めたくありません」「退職はしません」と明確に発言してください。
本解説の通り、「拒否しても何度も繰り返される退職勧奨」に「断り続ける」ケースでは、断った回数や程度によって違法かどうか判断されますが、それは少なくとも「はっきり会社に伝わるよう断っている」ことが前提です。
「違法な退職強要の対処法」の解説
辞めたくないなら退職勧奨は断り続けるのが正しい対応
会社に愛着があり、業務にやりがいを感じているなら、辞めたくないことでしょう。「絶対に辞めたくない」なら、何度退職勧奨を受けても、断り続けてください。どれほど有利な条件に感じても、揺らいではいけません。
退職勧奨を拒否し、それでもなお続く辛い状況に立ち向かうのは非常に大変です。「問題社員」のレッテルを貼られ、嫌がらせとして退職勧奨を繰り返されるケースもあります。働きかけを何度も受けると、居づらくなり孤立するので、早期の対処が不可欠です。
最初の退職勧奨の時点から拒否し続ける
退職勧奨を受け、「条件次第では辞めていいかな」とまったく思えないこともあるでしょう。こんなときでも、初期段階から、明確に拒否するのが重要なポイントです。少しでも迷う素振りが見えれば、会社としても働きかけをやめないからです。
結論を明確に伝えなければなりません。会社にきちんと伝わっていないと、裁判所でも、軽く見られてしまいます。
「条件次第では退職してもよいと思っていた」と評価されかねません。
はじめからそこまで覚悟の決まらない人もいるでしょう。それほどに、すぐ会社を辞めるというのは大きな出来事です。ただ、弁護士としてのアドバイスは「『辞める』という明確な決断ができていないなら、まだ拒否しておけばよい」ということ。そのうち、何度も勧奨を受けるうちに「条件次第では辞めたい」と思えば態度を変えればよいですし、「絶対退職したくない」と考えるに至れば、更に強く拒絶すればよいのです。
退職勧奨を目的とした面談には応じない
退職勧奨を拒否した後も、しつこく面談や話し合いを要求されるなら、退職勧奨を目的とした面談にはそれ以上応じる必要はありません。
とはいえ、退職勧奨を拒否するならその後も仕事は続けることになるので、面談を要請されたら、その目的がなにか(退職勧奨か、それ以外の業務に関することか)を確認し、退職勧奨を目的とするもののみ拒否するようにします。
「会社からの呼び出しへの対策」の解説
弁護士に相談する
退職勧奨が、何度も繰り返され、細かな問題点まで指摘されることもあります。会社が、辞めさせるプレッシャーを強めるに従い、違法な退職強要に及びます。労働者だけでは、退職を断るのが困難なケースもあります。
辞めたくないとはっきり示しても、退職強要が続き、解決できないなら、弁護士に相談ください。本人では直接伝えづらいとき、弁護士に代わりに伝えてもらうのが有効です。弁護士のサポートを受ければ、退職勧奨を拒否した後も、会社に居づらい思いを緩和することができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
退職勧奨の違法性を指摘する書面を送付する
弁護士に依頼すれば、度重なる退職勧奨の違法性を指摘し、ストップするよう強く求めることができます。弁護士は、退職勧奨の違法性を指摘する書面を作り、内容証明で送付することによって会社に警告をすることができるからです。
それでも続く違法な扱いには、労働審判や訴訟など、裁判所での解決もサポートできます。
健康に配慮する
何度も退職勧奨を受けるのは、「理由なきいじめ」に等しいもの。しかし、繰り返されると、「問題社員なのでは」「自分が悪いのでは」と責めてしまうかもしれません。1人で悩み続けると、精神的ダメージが大きく、心身の健康を損ってしまいます。
うつ病になるなど、出社が難しくなれば、退職勧奨を続けたブラック企業の思うツボ。結局、会社を辞めざるをえなくなってしまいます。拒否を続けてもなお続く勧奨は、パワハラと考えるべきです。パワハラによって負った苦痛は、労災申請したり、慰謝料請求したりといった方法で対抗すべきです。
「労災の慰謝料の相場」の解説
退職勧奨を拒否したその後の流れは?
退職勧奨を受けた際、労働者は拒否する権利があると解説しましたが、その後の流れが不安で、安易に拒否できず、応じてしまう人もいます。そこで、退職勧奨を拒否した後に起こり得る状況と、その対処法について詳しく解説します。
その後も働き続けることになる
退職勧奨を拒否した場合、基本的には労働者はその後もその会社で働き続けます。労働者の意思に反して辞めさせるのは、すなわち「解雇」であり、会社がクビだといわない限り、職を失うことはないからです。つまり、退職勧奨を受け入れるか、拒否するかは、労働者の自由なのです。
当然ながら、勤務し続けた分の給料がもらえますし、仕事を取り上げられることもありません。
拒否した後の退職勧奨は違法になる
退職勧奨そのものが直ちに違法になるわけではないものの、拒否した後も執拗に続くならば、違法とされるケースもあります。例えば、不当な圧力をかけて辞めさせようとしたり、「拒否すれば解雇になる」など誤解を招く情報を与えて誘導したりといった手口がありますが、いずれも違法です。
その理由は、退職勧奨はあくまで「お勧め」であり、拒否しても続けるならその範囲を超えるからです。すると、退職の強要となり、一方的に辞めさせること、つまり「解雇」と評価されます。解雇には正当な理由が必要ですが、退職勧奨を続け、無理やり辞めさせようとするような会社に、解雇に相当するようなまともな理由があることなど珍しいでしょう。
一度拒否した後に、再び同様の退職勧奨が繰り返される場合、それはハラスメントに該当して違法なのではないか、慎重に検討してください。
「退職勧奨の手口」の解説
退職勧奨の拒否を理由とした不利益な処分は違法
退職勧奨を拒否したことを理由に、減給や降格、異動や解雇といった不利益な処分をするのは違法です。退職勧奨を拒否するのは自由なわけで、それを理由に不利益な取扱いを受けてしまっては、実際には自由な意思表示は制限されてしまうからです。労働者の権利を保護し、安心して退職勧奨を拒否できるようにしなければなりませんから、違法な扱いをされたら争うべきです。
退職勧奨を拒否したことで不当な扱いを受けたら、労働基準監督署に相談したり、弁護士に相談して法的措置を講じてもらったりするのがお勧めです。
懲戒処分とされた場合
退職勧奨時に、応じず拒否した場合には懲戒処分を下すと示唆されることがあります。懲戒処分には、戒告や譴責など軽度なものから、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇や懲戒解雇といった重度な処分までありますが、たとえ軽度な処分でも将来的な不利益は大きく、退職勧奨に応じざるを得ないプレッシャーとして機能してしまいます。
なお、裁判例では、懲戒処分を下されるか、退職勧奨に応じて会社を辞めるかの選択を迫った事案で、労働者に選択の機会があったので違法ではないと判断した例があります(A病院事件:札幌高裁令和4年10月21日判決)。ただ、あくまで懲戒処分に理由があり、不当処分でないことが当然の前提で、理由のない処分で脅して退職させようとするのは違法です。
異動を命じられた場合
退職勧奨を拒否したことを理由に、転勤や配置転換など、異動を命じられることがあります。退職勧奨において「この部署ではあなたの仕事はない」などと脅され、拒否した場合の異動を示唆する行為も、違法となる可能性があります。
配置転換に業務上の必要性がない場合、不当な動機、目的による場合、そして、通常甘受すべき程度を著しく超える場合は権利濫用として違法です(東亜ペイント事件:最高裁昭和61年7月14日判決)。退職勧奨を拒否したことを理由にする異動は、違法の可能性が高く、裁判例でも、退職勧奨を拒否した後の配転命令について業務上の必要性を否定し、勧奨拒否を理由とした嫌がらせであり無効だと判断した例があります(フジシール事件:大阪地裁平成12年8月28日判決)。
減給、降格を命じられた場合
減給、降格は、人事処分として行われることがありますが、いずれも理由が必要となります。そして、前述の通り「退職勧奨を拒否したから」というのは正当な理由にはなりません。労働者にとって不利益なこれらの処分は違法になるのは明らかです。
解雇された場合
不利益な処分の最たる例が、解雇です。解雇されると、労働者の意思とは無関係に会社から追い出され、仕事を続けられなくなってしまいます。
しかし、退職勧奨を拒否したのを理由として解雇することは違法です。解雇は、解雇権濫用法理によって制限され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、違法な不当解雇として無効になるからです(労働契約法16条)。
裁判例でも、職場で暴力を振るった社員に対し、防犯カメラ映像を確認していないのに録画があると脅し、懲戒解雇となる旨伝えて退職の意思表示をさせた点について自由な意思に基づくものではなく無効と判断したもの(グローバルマーケティングほか事件:東京地裁令和3年10月14日判決)、退職勧奨を拒否すると解雇になると誤信により応じさせた退職合意について錯誤により無効と判断したもの(横浜地裁川崎支部平成16年5月26日判決)があります。
退職勧奨を拒否する際は、その意思を明確に伝えるのが重要です。また、不利益な処分を受け、不当だと感じるときは、その証拠を保存し、弁護士に相談してください。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
「条件次第では受け入れる」と考える場合もまずは拒否する
退職勧奨を何度も受けると、もう会社に居続けたくないという人もいるでしょう。感情的な原因で、パワハラ社長と対立してしまったら、もう限界なのもわかります。
「条件次第では退職してもよい」と考えるケースでも対応は注意が必要。前述の通り、それでもなお「まずは拒否して条件交渉」というのが基本です。何度も拒否しながら、退職勧奨の席につくのは労働者にとってメリットです。会社の要望を聞いて交渉したり、労働者側から有利な条件を提案したりできるからです(初めから応じてしまっては、交渉を有利に進められません)。
労働者側に有利な、退職条件についての交渉カードには、次のものがあります。
金銭的な退職条件
退職勧奨によって会社を辞めるとき、重要なのは、金銭的な退職条件でしょう。労働者としても、最も交渉したいと感じるのではないでしょうか。むしろ金銭的な退職条件がまとまらないと、退職したくはない方も多いはずです。金銭的に、少しでも多くの金額を勝ち取って退職するため、次の点を交渉すべきです。
- 退職金の増額
- 慰謝料に相当する解決金
- 未払い残業代
有給休暇(年休)の条件
有給休暇は、労働者の権利として労働基準法39条に定められ、一定の勤続を経れば、正当な権利として、給料をもらいながら休めます。日本は有給休暇の消化率が低く、多くの休暇が未消化で残っている方も少なくありません。長年勤めた労働者なら、退職時に必ず交渉すべきです。
何度も退職勧奨を受け続けるときは、会社に譲歩してもらえることもあります。有給休暇を消化して退職する、もしくは、辞めるとき有給休暇を買い取ってもらう交渉をしましょう。
「退職前の有給消化」の解説
退職日についての条件
最後に、退職勧奨に応じるときは、退職理由にも注意を払っておいてください。自分で辞めたくて辞めるわけではないなら、会社都合退職にしてもらいましょう。
会社都合のほうが、自己都合より、失業保険で有利に扱われるからです。退職日についても、退職勧奨ならば柔軟に調整できます。解雇のように、「必ずこの日に辞めなければならない」のではありません。次の就職先との関係なども考えて、有利に動きましょう。
特に、転職が決まっているなら、引き継ぎ期間を考慮しなければなりません。無職、無収入の期間が長くなりすぎないよう、調整してください。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
まとめ
今回は、何度も退職勧奨をされ続けても拒否できることを解説しました。
「辞めたくない」ならば、繰り返される退職勧奨を拒否しなければなりません。対処法は、強い意思で断り続けることに尽きます。しかし、そのような対処は思ったより難しく、心が折れてしまう人も多いもの。
拒否してもなお続く退職勧奨は、違法な退職強要で、不当解雇と同じく違法です。1人で戦い続けても、退職の働きかけが止まないなら、弁護士に相談ください。
- 退職勧奨は拒否できる!何度されても、断り続けるのが適切な対応
- 退職したくない場合も、条件によっては応じる場合も、まずは拒否するのが良い
- 退職勧奨を拒否して解雇や異動など不利益を受けたら、違法の可能性あり
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】
★ 退職勧奨の労働問題まとめ
【退職勧奨・退職強要】
- 退職勧奨とは
- 退職勧奨のよくある手口
- 違法な退職勧奨を断る方法
- 退職勧奨は会社都合となる
- 退職勧奨と解雇の違い
- パワハラとなる退職強要
- 「退職しないと解雇」は違法?
- 遠回しに辞めろと言われたら
- 「明日から来なくていい」
【リストラ・希望退職】
【報復人事・左遷】