働いているのに、労働時間としてカウントされないのが「ステルス残業」。ステルス残業が増えると、本来得られたはずの残業代が払われず、気づかないうちに損をしてしまいます。
過労や健康リスクに繋がる長時間労働は抑制すべきという社会の流れのなか、違法な残業を強要するブラック企業は、評判を落としています。しかし、ステルス残業によって、残業が見えないように隠れていると、問題点が判明しません。「明らかに残業があるのに残業代を払わない」といったわかりやすいケースは減っており、外から見えないよう残業を覆い隠し、ステルス残業にしてしまうのが、ブラック企業のやり方の主流となっています。
今回は、ステルス残業の意味と問題点を解説し、隠れていた残業を見える化して未払いの残業代を請求するための具体的な方法を解説します。
- ステルス残業は、見えない残業で、労働者から積極的に隠されることもある
- ステルス残業を労働者が進んでしてしまうのは、短期的にはメリットがあるから
- ステルス残業だと、残業代がもらえず、心身を故障しても責任をとってもらえない
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ステルス残業の現状と問題点
まず、現代に特有のステルス残業の問題点について解説します。
ステルス残業とは
ステルス残業とは、労働者が実際に働いているにもかかわらず、労働時間として正式に記録されていない残業のことを指します。「ステルス」の意味通り、目に見えない残業のことであり、「隠れた残業」「未記録残業」などと呼ぶこともあります。
ステルス残業は、タイムカードや勤怠管理システムに記録されないため、企業側で残業時間を把握することができず、労動者もその分の対価として残業代を受け取れません。ステルス残業によって、労働基準法上の義務である残業代が未払いとなっている場合は、違法です。
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ステルス残業が蔓延する背景
ステルス残業が、最近特に増えている背景には、いくつかの原因があります。
残業代未払いや長時間労働の違法性がさほど問題視されなかった頃は、残業は、目に見える形であからさまに行われていました。しかし、働かせすぎが違法とされ、労動者から残業代請求などの権利行使が行われるにつれ、違法な残業を表立ってさせる企業は減りました。
その一方で、違法な実態がなくなったわけではなく、目に見えなくなっただけです。社長や上司からの「残業せざるを得ない」といった無言のプレッシャーで、ステルス残業を強いるケースはむしろ増加しました。特に、残業が当たり前の文化のある企業では、残業時間を記録するのはタブーとされ、労動者が自主的に労働時間を隠してしまう場合もあります。そして、外から把握することのできないステルス残業だと、その違法の責任を追及することも困難になってしまいます。
ステルス残業の具体例
記録に残らないのに隠れてこっそりと行うステルス残業は、具体的には次の例があります。
- タイムカードを提示に押した後も、居残ってステルス残業する
- 自宅に仕事を持ち帰り、ステルス残業する
- リモートワークで、申告した以上の時間のステルス残業をする
- 会社にバレないよう休日にステルス出勤する
これらの具体例は、会社の雰囲気として、ステルス残業をせざるを得ない状況に追い込まれる場合もありますが、業務過多などが理由で、労動者が自発的に残業を行い、時間外も仕事を続けてしまっているケースもあります。
労働者はタイムカードに実態を反映させ、会社に残業していることを伝えながら仕事をすべきであり、そうでないと、実際の労働時間が記録されず、ステルス残業になってしまいます。ステルス残業は、残業代が得られず、正当な賃金を受け取れないという大きな経済的損失があります。それだけでなく、ステルス残業が常態化すると、本来の労働時間を超えて働き続けた結果、健康リスクが増大し、過労になってしまう弊害があります。
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ステルス残業は違法となる
労働基準法は、企業に対して、社員の労働時間を適切に管理する義務を課しています。これは、長時間労働による労動者の被害を防止し、労働時間に応じた対価を支払わせるための重要なルールです。したがって、これらの義務に反するステルス残業は、違法な行為です。
労働時間を把握する義務に違反している
ステルス残業は、企業の負うべき、労働時間を把握する義務に違反します。労働安全衛生法は、次の通り、タイムカードや勤怠システムなどの客観的な記録方法で、労働時間を把握しなければならないと定めるからです。
労働安全衛生法66条の8の3
事業者は第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働安全衛生規則第52条の7の3
1. 法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2. 事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
また、把握した労働時間が長くなりすぎないように管理し、36協定の上限(限度時間)を超えないように配慮しなければなりません。記録に残されないステルス残業が、これらの義務に違反しているのは明らかです。
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未払い残業代が生じる
隠れてこっそりとされるステルス残業では、何時間残業しているのか、どれだけの残業代が適正なのか、企業が知ることができず、正しい残業代を計算できなくなってしまいます。
労働基準法37条は、決められた時間を超えて働いた場合に、割増賃金(残業代)を支払う義務を定めます。しかし、ステルス残業によって残業が記録されていなかったり、故意に隠されたりすると、残業代が支払われないまま放置されてしまいます。
労働者には、働いた分の正当な対価を受け取る権利がありますから、労動者自ら、できるだけ残業を記録に残し、未払いの残業代を請求するのが適切です。
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過剰労働になりやすい
ステルス残業は、会社が労働時間を把握していない結果、長時間労働を止めることができず、健康被害が生じてしまいやすいというデメリットがあります。また、過剰労働について会社の責任を追及しようにも、その記録が残っていないと難しいこともあります。
本来、業務によって生じた病気やケガは、労災であると認定してもらい、手厚い補償を受けられたはずが、ステルス残業だとその時間数を証明できず、労災認定を受けられない危険があります。
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ステルス残業を見える化することが大切
次に、ステルス残業の「見える化」について解説します。
ステルス残業は、労働時間が記録されないことが最大の問題点です。そのため、対策として、ステルス残業を「見える化」することが非常に重要です。
労働者が残業を記録する努力をすべき
企業が、労働時間を正確に記録せず、ステルス残業を放置しているときは、労動者が証拠を集め、残業時間を正確に伝える努力をしなければなりません。
自身の労働時間を正確に記録しておけば、ステルス残業のトラブルについて、残業代請求の訴訟を起こしたり、労災の申請をしたりといった方法で解決することができます。特に、会社がタイムカードの改ざんをするなど、意図的に残業を隠してしまおうと画策しているときには、労動者が準備していた記録が大きな力を発揮します。
「タイムカードを開示請求する方法」の解説
ステルス残業を見える化する具体的な方法
ステルス残業を見える化できれば、実際に働いた時間に応じた残業代を請求することができます。労務管理の問題点に応じて、残業の見える化の方法も変わりますが、具体的には次のような手法を組み合わせて、対策するのがよいでしょう。
ステルス残業の起こりやすい環境では、労働者が積極的に自らの時間を管理することが重要です。残業代が払われないなら残業しない、承認制や許可制なら、そのルールに従った時間しか残業しない、といったように、自主的にステルス残業をしないよう注意してください。
「残業の証拠」の解説
ステルス残業の残業代を請求する方法
ステルス残業をなくすには、残業代を請求するのが最善の方法です。
ステルス残業が起こってしまう会社に問題があるのは当然ですが、違法なやり方に屈する労動者も、ステルス残業を助長してしまっています。より良い職場とするために、自身の権利は強く主張しなければなりません。
企業側にステルス残業の対策を求める
違法なステルス残業に気付いたら、まずは企業に対策するよう求めましょう。
ステルス残業を減らしたくても、労働者の努力だけでは解決できません。労働者が、ステルス残業をなくそうと意識改革を図っても、会社がステルス残業するようプレッシャーをかけてきたり、到底終わらないほどの仕事量だったりすると、残業せざるを得なくなってしまいます。企業が検討すべきステルス残業の対策には、次のものがあります。
- 労働時間を適切に把握する
- 透明性の高い労働時間管理システムを導入する
(クラウド型タイムカードなど) - PCやスマホのログを自動で保存しておっく
- 労使協定や就業規則が適法なものとなっているか見直す
- 上司や管理職を教育し、過度な残業を強制させない
- 定期的に労働環境について社員からフィードバックを得る
- 柔軟な働き方を導入する
(フレックスタイム制、リモートワークなど)
会社にとっても、ステルス残業を把握しきれないことにはリスクがあります。長時間労働で、うつ病や過労死などの労災事故を起こせば、会社に安全配慮義務違反の責任があるからです。
弁護士に相談する
労働問題に詳しい弁護士に相談することで、ステルス残業をなくすための残業代請求について、スムーズに進めることができます。弁護士費用が発生するため、初回の相談時に見積もりを確認し、損しないように注意しましょう。
残業代の未払いが高額であったり、労災隠しが発生してしまっていたりするケースでは、労働基準監督署に通報し、指導をしてもらう方法も有効です。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談」の解説
適正な残業代を請求する
以上の通り、労務管理の不適切な会社において、どうしても発生してしまうステルス残業が、会社にはたらきかけても改善されないときは、残業代請求が良い対策となります。悪質なブラック企業で、ステルス残業がなくならないのは、「労動者が積極的に無償で働いてくれるのだから、ステルス残業を減らす必要はない」といった誤った考えで放置しているからです。
このような考えは、残業代請求をきちんとすれば、無くすことができます。労動者の努力によってもステルス残業が蔓延している会社では、未払い残業代の額が蓄積して、相当高額となっているおそれもあります。労働基準法に基づいた残業代を全て請求することで、会社にステルス残業を放置することのリスクを理解させなければなりません。
残業代請求は、まずは交渉によって請求し、解決しない場合には、労働審判の手続きを利用して、迅速な解決を目指します。労働審判は、通常3回以内の審理で結論が出るため、スピーディに解決することが期待でき、労動者にとっても訴訟より負担が少ないです。
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労動者が自発的にステルス残業をしてしまわないための注意点
残業代の未払いや健康被害など、労動者にとってデメリットばかりでメリットは無いのに、むしろ率先してステルス残業をしてしまう人がいます。最後に、労動者が自発的にステルス残業をしてしまう理由ごとに、ステルス残業を避けるための注意点を解説します。
責任感の強さ、社内で良い評価を得たいという心理、社風の影響といった理由はいずれも理解できるものですが、行き過ぎると不利益は甚大です。
責任感の強さについて
ステルス残業をしてしまう労動者の多くは、強い責任感を持って仕事に取り組んでいる人です。しかし、その責任感が行き過ぎると、「業務時間外でも仕事を終わらせなければならない」「遅れた分の残業代で会社に負担をかけてはならない」といった誤ったプレッシャーを感じて、タイムカードを切った後に働き続けるなどといったステルス残業の原因を生んでしまいます。
責任感が強いのは良いことですが、健康やプライベートを犠牲にしてまで尽くす必要はありません。残業のルールを守ることは、自身の健康を守ることだけでなく、長期的な目線で見れば、仕事の質を高め、会社に貢献するためにも重要なことであると理解し、ステルス残業は止めましょう。
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良い評価を得たいという心理について
多くの人は、会社の評価を気にし、「高く評価されたい」と希望しています。その結果、自発的に長時間働いて、ステルス残業を生んでしまいます。「多く働けば良い評価が得られるはず」「残業を報告しなければ短時間で成果を上げたように見える」といった心理が、ステルス残業を自主的に行う理由となっているのです。逆に、残業を全て報告すると、「長時間働いているのに成果が出ていない」といった印象を抱かれてしまうことを恐れているともいえます。
しかし、長く働いたからといって、必ずしも高評価に繋がるわけではありません。評価されるべきは、労働時間の長さではなく、成果であるべきです。そして、しっかりと時間内で仕事を終える姿勢は、自己管理能力があって効率的な働き方ができる、という優秀さの表れでもあります。
むしろ、「残業代をもらわずに長く働いた人が偉い」という価値観の会社はブラック企業であり、早々に見切りをつけて退職すべきです。
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ステルス残業を助長する社風や慣行について
企業によっては「残業が当たり前」「定時に帰る人は無能だ」といった暗黙のルールが根付いている会社もあります。このような社風だと、自発的に残業をしないと職場で浮いてしまうので、ステルス残業を行わざるを得ない心理になってしまうことが少なくありません。
社風に流されてステルス残業をするのは止め、自身の労働環境について、法的な観点から見つめ直すことが重要です。違法な状態になっていると気付いたなら、周囲の社員がしているからといって、ステルス残業をしなければならないわけではありません。
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まとめ
今回は、隠れて見えない残業、つまり「ステルス残業」について解説しました。
ステルス残業は、知らない間にあなたの労働時間を長くし、適正な賃金を受け取れない原因となってしまいます。ステルス残業には、悪質な会社がこっそりと残業を隠すことだけでなく、記録に残さないで残業をすることで、労動者もまた、知らぬうちに協力してしまっているケースもあります。
長時間労働と残業代の法規制が厳しくなるほど、ルールが守られればよいですが、これまで表立ってされた違法な残業が、こっそりと隠された形に変わるだけでは意味がありません。労働基準法に基づいて、正確に労働時間を把握し、適正な残業代を受け取ることは労動者の権利です。ステルス残業もまた、違法残業の一種であることに違いはなく、未払いの残業代があるなら、徹底して会社の責任を追及しなければなりません。
- ステルス残業は、見えない残業で、労働者から積極的に隠されることもある
- ステルス残業を労働者が進んでしてしまうのは、短期的にはメリットがあるから
- ステルス残業だと、残業代がもらえず、心身を故障しても責任をとってもらえない
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