業績悪化に苦しむ会社にとって人件費の削減は喫緊の課題であり、管理職といえどリストラの対象となることがあります。
重要な役割を担う管理職は「リストラされにくいのでは」と考えるのは幻想です。むしろ、役職が上位なほど給料は高くなり、コストカットの対象とされる危険があります。長年尽くし、住宅ローンや教育費のかさむ年齢で辞めさせられるダメージは計り知れません。
会社のために頑張った管理職がなぜリストラされるのか
今さら会社を辞めさせられても、高齢で転職は難しい…
高給であり、ポストも制限されるといった事情から、むしろ管理職ほどリストラされやすいこともあります。若返りを図る企業にクビにされ、高齢になって転職活動しなければならないのは不安でしょう。しかし、会社の対応は必ずしも適法とは限らず、違法ならば争うべきです。
今回は、リストラされた管理職がすべき対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 管理職といえど、長期雇用に甘んじてキャリアアップを怠るとリストラされやすい
- 管理職のリストラは新たな人生のスタートだが、同条件での転職が難しいこともある
- 違法な扱いなら、退職条件を交渉したり、解雇の無効を主張して争ったりできる
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
管理職がリストラされやすい理由
まず、管理職がリストラされやすい理由について解説します。
冒頭で解説した通り、管理職は重大な役割を担うため、必要不可欠であり辞めさせられづらい、という場合もあります。しかし実際は、管理職ほどリストラされやすい理由があります。
なお、逆に言えば、上記の特徴を満たさない管理職なら、リストラはされにくいと考えてよいでしょう。例えば、能力が高い、他社に転職しても重宝される知見を有する管理職は、辞めさせられることはありません。このような人は、積み重ねた年齢や経験をもとに、上昇した給与を払っても残す価値ありと判断されるからです。
社員の若返りを図りたい
管理職をリストラするとき「社員の若返りを図りたい」と示唆されることがあります。
昔ながらの年功序列は、勤続が長くなるほど役職が上がり、給料が増える仕組みです。新入社員が最も給料が低く、長く勤続する従業員ほど定期昇給し、給料が高くなる傾向にあります。その結果、長く勤める社員は、実務能力や成果に比べて給料が割高な状態になっています。
古株が残り続けて社員が高齢化すると、会社にとっては人件費の増大を意味します。このような組織構造を変革し、社員の若返りを図ったり、年功序列から成果主義に移行させたりといった「変化」を企業が望むとき、まず手始めに管理職のリストラが断行されます。
「リストラを拒否する方法」の解説
給料が上がりすぎた
なぜ、管理職がリストラされてしまうのか。わかりやすい理由は、仕事の成果に対して給料が高くなりすぎているからです。
業績の立て直しを図る際に、短期的に効果を発揮するのがコストカットです。
経費のなかでも大部分を占めるのが人件費であり、真っ先に削減の対象とされます。このとき、管理職のポジションは、次の点でリストラの対象となりやすいです。
- 非管理職に比べて給料が高い
- 営業職など現場の人員に比べ、管理職は売上・利益に直結しない
- マネージャーポジションの方が少ない人員で足りる
売上・利益に直結する営業職などのプレイヤーよりも、マネージャーポジションの管理職は、リストラをしても影響が少ない面があります。その上に、役職が上がるにつれて給料は高額になっていることが多く、リストラしたときの経営に与える効果は大きいものです。
一度上げた給料を一方的に下げるのは違法になる可能性があるため、勧奨して管理職に辞めてもらうことが抜本的な解決に繋がります。
「減給の違法性」の解説
ポストが足りない
管理職のポストが足りなくなりやすいことも、リストラされる理由の1つです。
管理職が過剰になると、不採算部門を廃止するなどしてその長を辞めさせるケースは少なくありません。すると、そもそも管理職を任せるにふさわしい人材に対して、ポストが不足してしまい、余剰となった人員をリストラするしかなくなります。一度管理職に昇格させてしまうと、降格させたり、雑用をはじめとした専門性の低い仕事に異動させたりはしづらくなります。
しかし、不当な降格や異動はもちろんのこと、辞めさせることもまた違法の可能性があります。不当な処分の犠牲になったら、労働問題に精通した弁護士に相談しましょう。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
管理職がリストラされたら?その後はどうなる?
リストラを示唆された管理職にとって、今後の生活がとても心配でしょう。管理職に出世するほどに1つの会社で長らく同じ生活をしてきた人ほど大きな変化に弱いものです。リストラの対象となったことは第二の人生の始まりであり、価値観の転換が必要となります。
長年の貢献は無価値となる
まず、これまで長年貢献してきたことは、あくまで社内でしか通用しないものと割り切るようにしてください。他社に転職した場合、過去の貢献に価値はありません。
年功序列の末に給料が高くなってしまった役職者のなかには、入社当初は、終身雇用を前提としていた人も多いことでしょう。新卒時代の安月給、単身赴任や長期出張、全国転勤といった会社の厳しい指示も「長く安定して働けるから」と信じて命令に従い、貢献してきたことでしょう。管理職のリストラに遭うと「裏切られた」という気持ちになることも多いものです。
また、実際の能力や業績ではなく、勤続年数の長さや忠誠心、過去の成功実績といった理由によって過度に高い評価を受けていた人は、リストラ後の転職で苦しくこととなります。
「不当な人事評価によるパワハラ」の解説
社外では通用しない能力・経験もある
ポテンシャルを重視し、未経験でも採用してもらえるのは30代が限度といったところでしょう。管理職を経験した40代や50代の方がリストラされると、社外で通用する明確な能力に乏しいケースも少なくありません。
業務遂行能力のなかには、社外でも通用する普遍的なものと、社内でしか通用しないものがあります。例えば、簿記や英語力、国家資格のように他社でも評価される能力を磨いていれば納得のいく転職ができるかもしれません。しかし、社内の人間関係で出世していたり、特定の業界でしか通用しないノウハウ、長時間労働による貢献といった評価のされ方だったりすると、転職時には良い評価は期待できません。
一方で、経験を生かした同業他社への転職を嫌う前職から、競業避止義務の誓約書を強要される事例についてもよく相談が寄せられます。
「退職後の競業避止義務」の解説
同じ管理職としての転職は困難な場合がある
運良く転職先が見つかったとしても、次も管理職として採用されるとは限りません。ひとたびリストラされてキャリアをリセットされると、管理職以外の他の職種、正規雇用以外の仕事なども視野に入れて、網羅的に幅広い可能性を模索しなければなりません。
好条件に固執したり、管理職としての転職にこだわったがために、再就職先の決まらないまま退職せざるを得ない方も少なくありません。前職に近い、経験を活かせる業務でも、あからさまな待遇差を前に心が折れることでしょう。これまでの生活を維持したい思いが強いと、職場を探すだけで時間が過ぎていきます。
リストラ後の現状に不服なとき、辞めさせられたこと、つまり「解雇」を争うことも検討すべきです。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
管理職のリストラにはメリットもある
一方で、リストラされた管理職がみな不幸な人生を送るともいえません。「新たな人生の門出」と肯定的に捉えればメリットもあります。
重要なポジションの管理職すらリストラせざるを得ない会社の経営状況は、かなり悪化しているといえるでしょう。このまま在籍して努力を続けても、正当な評価が得られず、会社の都合によって給料を減らされる危険もあります。最悪は、整理解雇によって強制的に追い出され、後悔してしまうこともあります。
考え方次第ですが、「ピンチはチャンス」と捉え、落ち目の企業に残って働き続けるよりも、見切りをつけて再出発する方が幸せなこともあります。やる気さえあれば、再挑戦をするのに「遅すぎる」ということはなく、年齢を理由にあきらめるのはよくないです。
早期退職や役職定年など、管理職ならではの早く会社を去る方法によって、早めに見切りを付けるのも十分考慮に値します。
ただし、リストラされた管理職が将来を再構築するには、人生設計を見直さねばならないことも多いです。再出発は新たな挑戦であり、すぐに同じ待遇、同金額の給料を確保するのは難しいことも理解しなければなりません。
これまでの貯金や投資、借入や住宅ローンなどを考慮し、経済面では計算し直すようにしてください。生活水準を下げるなど、家族の理解が必要となる場面もあります。
管理職のリストラが違法となるケースとは
会社の対応が違法なケースなら、法的な手続きで解決できる場合があります。管理職のリストラが違法になる具体例は、次の通りです。
管理職なのにリストラされたとき、違法ではないかと不安に思うケースもあるでしょう。違和感を感じる場合には、違法な退職勧奨、もしくは、不当解雇の可能性があります。
会社と争う際にも、役職者だと労働組合に加入できない可能性があるため、その際は弁護士にお気軽にご連絡ください。疑問を解消して、違法な場合には会社と争うべきです。
違法な退職勧奨の場合
違法な退職勧奨なら応じる必要はなく、しっかり拒絶しましょう。
退職勧奨はあくまで、会社が労働者の自主的な退職を働きかける行為です。つまり、退職するかどうかの最終決定は労働者自身がすべきものです。そのため、断り続けているのに何度も退職を求められるケースは、違法な退職勧奨である可能性が高いです。
なお、ハラスメントなどで居心地を悪くさせて退職させようとする陰湿な手口にも注意してください。特に管理職のリストラの場面では、ポジションに見合った仕事を与えない、窓際的な閑職に追いやる、年収を著しく下げるといった、管理職のプライドを傷つける特有の手口が用いられます。
「退職勧奨のよくある手口と対処法」の解説
不当な整理解雇の場合
次に、一方的に辞めさせられたときは「解雇」となります。業績を理由に、管理職のリストラに利用される解雇は、法律用語で「整理解雇」と呼びます。
整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性)を満たさない場合には不当解雇であり、無効です。管理職のリストラの場面では、具体的には次のようなケースがあります。
具体例①:業績が黒字のケース
整理解雇には、人員削減の必要性がなければなりません。そのため、管理職の高い人件費を削減しようといった不当な目的でリストラ対象にするのは許されません。業績が黒字のケースでは、このような目的の不当性がある疑いがあります。
具体例②:希望退職の募集がされていないケース
業績を改善するための、解雇以外の手があるときも、違法となる可能性が高いです。
管理職のリストラでは、マネジメント層のポストが限られていることが理由とされるケースがありますが、この場合にも「管理職を辞めたい」と考えている社員のいる可能性を考慮し、先に希望退職を募集すべきです。その他に、配置転換や出向、転籍などで限られたポジションを調整できるケースもあります。
具体例③:給料が高いからと目をつけられたケース
会社が整理解雇を行うためには、合理的な人選基準に基づく必要があります。恣意的な人選に正当性がないのは明らかです。
特に、マネジメントの能力は可視化できない部分も多いもの。管理職の給料が高いことが災いして目をつけられ、リストラ対象となる場合、違法の疑いがあります。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
管理職がリストラされたらすべき対処法
次に、残念ながらリストラ対象となった管理職がすべき対処法を解説します。
リストラが不服なら、速やかに行動に移し、会社と必要な協議を尽くす必要があります。また、それでもなお納得のいかない結末となるなら、裁判で争うことも視野に入れてください。
退職届や合意書は一度持ち帰る
リストラ対象となった管理職は、まず面談の機会を設けられ、退職を促されるのが通常です。退職に応じる場合の条件が提示されるでしょうが、言われるままにサインしない方がよいでしょう。
面談で提示された書類は、その名目に関わらず、その場で署名せず一旦持ち帰るようにします。退職届や合意書を締結すれば、後から撤回を求めて争うハードルは高くなります。間違っても、投げやりになって退職を認める発言をするのは避けてください。納得のいかないものに安易に同意してはいけません。
「退職届の撤回」の解説
理由をしっかり確認する
管理職なのにリストラされたら、その理由に不可解な点がないかを確認してください。将来に会社と戦おうとするなら、理由の説明については書面で回答するよう求めましょう。
書面による会社の回答は、勧奨に応じず解雇されたとき、紛争になった際の証拠として活用できます。あわせて、面談時に不適切な発言がある場合に備えて必ず録音しておいてください。
「パワハラの録音」の解説
未払いの給料がないか確認する
退職を受け入れるにせよ、未払いの給料がないかを確認してください。というのも、合意書に清算条項が付いていると、今後の請求は拒否されてしまうからです。
管理職のリストラでは、残業代の未払いが問題となりやすいです。というのも、「管理職には残業代を払わなくてもよい」という誤った考えを持つ企業が多いためです。しかし「管理職には残業代がない」というのは誤りです。会社が管理職扱いしても、労働基準法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(いわゆる管理監督者)の要件を満たさない限り残業代請求は可能です。
「管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説
退職時の手続きと今後の流れを確認する
退職後のキャリアプランがどうあれ、退職時の手続きを事前にチェックしておきましょう。以下の資料を受領しておくことは、今後の転職活動でも大切です。
管理職のリストラの場合、提案される条件を承知できず、転職活動が長引く可能性も考えておかなければなりません。失業保険がスムーズに受給できるよう、離職票を確実に受け取っておきましょう。
「退職したらやることの順番」の解説
有利な退職条件となるよう交渉する
管理職のリストラは、他の退職事案に比べても、労働者の不利益が大きいもの。退職に応じるなら、できるだけ有利な退職条件となるよう交渉しましょう。
交渉によって勝ち取るべき条件は、例えば次のものです。
- 退職金の増額、特別退職金の支給
- 離職理由を会社都合にしてもらう
- 在籍期間の延長を求める
- 未消化の有給休暇を買い取らせる
- 退職までの就労免除と給料の支払いを求める
- 再就職の支援を求める
重要な秘密に触れる機会の多い管理職は、リストラで退職する際にも誓約書を書くよう求められる可能性が高いです。このとき、秘密保持義務、競業避止義務など、退職後に過大な負担のないよう注意してください。
また、役職者は、転職時にリファレンスチェックをされる可能性があります。そのため、自身の利益のためにも、使用者側にも口外禁止条項を定めておくメリットがあります。
「誓約書を守らなかった場合」の解説
違法なやり方には徹底して争う
違法なリストラを受けた管理職は、決して屈してはならず、自身の不利益をなくすために争わなければなりません。
会社と争う際には、証拠が大切です。解雇が違法だと主張するには、その理由を書面化させておくのが重要。会社に要求し、解雇理由証明書を交付するよう強く求めてください。労働基準法22条により、解雇予告をした会社は、労働者が求めたらその理由を必ず文書にして示す義務があります。
会社が発行する文書で理由を確認することによって、都合よく解雇理由を後付けされるリスクを防ぐこともできます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
管理職のリストラについて判断した裁判例
最後に、管理職のリストラについて判断された裁判例を解説します。
リストラされた管理職が会社と争う場合、解雇の撤回を主張します。ただ、労働審判や訴訟で争われる場合、解雇の解決金を払うことにより合意退職するという、いわゆる金銭解決で和解するケースも少なくありません。
東京地裁令和3年12月13日判決
外資系銀行の部長が、整理解雇の違法性を争って地位確認と未払賃金の支払いを求めた事案。裁判所は、以下の事情から、人員削減の必要性は認め難いと判断しました。
- 赤字の年度もあるが、大幅な黒字を計上した年度もあり、解雇当時、業績悪化があったとは評価し難いこと
- 直近の年度において過去最高益を計上したこと
- 原告の働く部門は、一時大きく収益が低下したが、後に回復し、解雇後も事業規模を縮小せず存続おり、現在では解雇当時を上回る収益があること
更に、降格や賃金減額などが検討されず、部門の人員構成の合理化を図るせよ、希望退職や配置転換も検討されていないことなどから、解雇回避努力義務が尽くされておらず、人選の合理性もないと判断しています。結論として、解雇を無効し、解雇後も月額350万円の給料の請求権を有すると判断しました。
神戸地裁姫路支部平成24年10月29日判決
管理職が、上司の執拗な退職勧奨を違法だと主張し、損害賠償を求めた事案。退職しない姿勢を明らかにした後も、次の発言が繰り返された事実が認定されました。
- 「自分で行き先を探してこい」
- 「管理職の構想から外れている」
- 「ラーメン屋でもしたらどうや」
- 「管理者としても不適格である」
- 「商工会の権威を失墜させている」
- 「君は人事一元化の対象に入っていない」
- 「異動先を自分で探せ」
管理職のリストラによくあるプライドを傷つけるやり方です。裁判所は、これらの発言が名誉感情を不当に害し、心理的圧力を与えると評価し、発言した社員、使用者である会社の責任を認め、約120万円の支払いを命じました。
「裁判で勝つ方法」の解説
まとめ
今回は、管理職のリストラと、その対処法を解説しました。
管理職ほどリストラされやすいと考えて、慎重に対処してください。リストラはいわば「戦力外通告」。長年貢献した管理職にとってこれほど辛いものはありません。貢献度も高く、愛社精神も高い人は多く、容易にはあきらめきれないでしょう。同じ会社に長く居続けるほど、普遍的なスキルは身に付きづらく、転職活動は困難を極めます。
管理職がリストラされそうなとき、意に反した退職には決して応じてはなりません。仮に退職せざるを得ないにせよ、退職金をはじめとした条件交渉は、その後の人生に大きく影響します。提示された退職合意書に迂闊にサインするのは避け、望まない勧奨は拒否するのが原則です。
不利益の大きい管理職のリストラについて、裁判でも適法性が厳格に判断されます。違法な扱いについて交渉や訴訟で争うサポートを受けるため、弁護士に是非ご相談ください。
- 管理職といえど、長期雇用に甘んじてキャリアアップを怠るとリストラされやすい
- 管理職のリストラは新たな人生のスタートだが、同条件での転職が難しいこともある
- 違法な扱いなら、退職条件を交渉したり、解雇の無効を主張して争ったりできる
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】