会社では多くの社内行事やイベントが行われますが、強制参加は違法の可能性があります。
例えば、歓迎会や社員旅行、運動会、キックオフミーティングなど、社員の一体感を高める重要な役割がある一方で、「できれば参加したくない」「行くのが面倒だ」と感じながら、嫌々足を運ぶ人も少なくないのではないでしょうか。
表向きは「任意参加」でも、欠席しづらい雰囲気がある場合、「実質的に強制ではないか」と疑問を抱くこともあります。断れば人間関係が悪化したり、評価が下がったりといった不安もあり、明確に拒絶すればパワハラを受けるおそれもあります。
今回は、会社行事への強制参加が違法なパワハラとなる具体例と、断り方、万が一トラブルになった場合の対処法まで、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社行事に強制参加させようとするのは、違法なパワハラになる可能性がある
- 強制参加の社内行事は「労働時間」に当たり、残業代を支払う必要がある
- 業務命令として会社行事への参加を命じられたとき、断り方に注意する
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会社行事に強制参加させるのはパワハラ?

結論として、会社行事に強制参加させるのは、パワハラの可能性があります。
「任意参加と言われたが、断れる雰囲気ではない」「参加しないと評価に影響しそう」といったように、参加をめぐって強いプレッシャーを感じる場合、違法の疑いがあります。「必ず出席するように」といった表立った命令がなくても、次のような圧力はパワハラに当たる余地があります。
- 参加を断ったことを理由に人事評価を下げる。
- 「参加しないと評価に響く」「協調性がないと思われる」と告げる。
- 断った後も、何度も執拗に誘う。
- 欠席者を社内で名指しで批判するなど、同調圧力をかける。
これらの圧力は、上司部下など、職場における優越的な関係を背景に、不当な負担を強いるものと考えられます。形式上は「自由参加」でも、実態として断れない状況が作られているなら、強制に等しいと考えられます。
例えば、強制参加にされやすい会社行事やイベントに、次の例があります。
- 季節の行事
初詣、花見、納涼会、運動会、ハロウィンパーティ、クリスマス会など - 区切りとなる飲み会
新年会、キックオフ、社員総会、決算会、忘年会など - 懇親や親睦を目的としたイベント
歓送迎会、親睦会、懇親会、表彰式、社内の部活動や委員会、社員旅行など
もっとも、全ての会社行事がパワハラになるわけではありません。
次章「会社行事への強制参加はどこまで許される?」の通り、業務との関連性が強い行事への参加は、業務命令として適法に命じられ、適正な対価(賃金や残業代)が支払われるなら、違法ではないケースもあります。
会社行事への強制参加はどこまで許される?

では、会社行事への強制参加は、どこまで許されるのでしょうか。
この問題の難しいのは、労使の意図が大きく異なる点にあります。労働者が「嫌々参加している」としても、「社員のためのサービスだ」と思っている会社もあります。福利厚生の一環といった気持ちの経営者も少なくありません。
会社行事が違法なパワハラになるかどうかは、業務との関連性、参加強制の程度や不参加に対する不利益、対価の有無、精神的負担の大きさといった事情が考慮されます。
業務との関連性が非常に強い場合
業務との関連性が強い社内行事の中には、適法に運営されるものもあります。
例えば、顧客とのキックオフイベント、社員総会や決起会など、業務と密接に関連している場合、参加を強制されても従う必要があることもあります。会社は、労働契約に基づいて、労働者に業務命令を行う権利(業務命令権)を有しているからです。
ただし、業務命令権は、あくまで業務に関連した命令に限って許されるものであり、関連性が薄い社内行事への参加を強制することはできません。また、業務命令によって参加を強制する場合、それは仕事の一環であることを意味し、賃金や残業代が発生します。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説

業務時間内に開催される場合
業務時間内に開催される社内行事には、参加すべきと考えられます。
例えば、社内のコミュニケーションを円滑にするために、ケータリング形式で会議室で懇親会ランチを行うようなケースがこれに該当します。
労働契約に基づく業務命令権は、業務時間内の労働者の行動に及びます。業務時間に対しては給与が支払われているため、労働者は会社の命令に従う必要があります。当然ながら、社内行事に参加している時間が業務時間内に含まれる場合、その分の賃金は通常通り支払われます(社内行事だからといって控除するのは違法です)。
「サービス残業の違法性」「サービス残業の相談先」の解説


適法な残業命令がある場合
業務時間外の社内行事への参加が強制される場合、残業と評価されます。
強制参加の場合には、業務として命令しているため、業務時間外であっても「労働時間」に該当し、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えれば残業になります。したがって、残業命令を適法に行うための次の要件を満たさなければ、その命令は違法となります。
- 就業規則や労働契約に残業命令の根拠があること
- 36協定を締結すること
- 残業の上限規制(原則として月45時間・年360時間)を超えないこと
- 労働基準法に基づく適正な残業代が支払われること
以上の要件を満たさない場合、残業を命じることができないため、業務時間外の社内行事やイベントに強制参加させることもできません。また、残業を適法に命じられる場合でも、その社内行事に参加することの負担が過大である場合は、違法なパワハラになる可能性があります。
なお、残業代については「会社の行事にも残業代が支払われる」をご参照ください。
「違法な残業の断り方」の解説

飲み会形式の社内行事の場合
社内行事の中でも、飲み会形式の場合、強制が難しいと判断される場合があります。
ここまで解説した通り、会社行事への参加を強制できるのは、業務に関連して業務命令として行う場合に限られます。しかし、「飲み会」は、業務上の必要性が認められにくいのが実情です。価値観や趣向によっては、「お酒が嫌い」「飲み会は下らない」という人もいるでしょう。
お酒を介してコミュニケーションを取る必要性は説明しにくく、飲み会形式の社内行事への強制参加を正当化することは難しく、拒否できる可能性が高いと考えられます。飲み会の席は、酔ってセクハラやパワハラが起こりやすくなっているので、特に注意すべきです。
「飲み会でのセクハラ」の解説

会社の行事にも残業代が支払われる

次に、「社内行事に残業代が払われるのか」という疑問に回答します。
この問題は、社内行事への参加が強制か、それとも任意かという点と関連します。社内行事への参加が強制されるなら、業務命令ということであり、参加した時間が「労働時間」となり、残業代を請求することができます。
労働時間にあたる場合は残業代を請求できる
残業代の対象となる「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されます(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日判決)。この労働時間が、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えるとき、時間外割増賃金(残業代)を請求することができます。
労働者が自主的に望むのではなく、会社の命令によって参加を強制されているとき、その社内行事やイベントの最中は「指揮監督下に置かれている」と評価できます。したがって、社内行事やイベントの時間も含め、1日の労働時間が8時間を超えれば、残業代を受け取ることができます。
なお、直接的に参加を強制される場合だけでなく、不参加に対して不利益があったり、パワハラがあったりといったケースも、事実上強制されていたとして「労働時間」に該当する可能性が高いです。また、社内行事やイベントの当日だけでなく、幹事や実行委員会に指名されるなど、準備に要した時間にも残業代が発生します。
「労働時間の定義」の解説

休日開催なら休日手当が発生する
会社行事が、法定休日に開催され、強制参加の場合、休日手当の支払いが必要となります。
労働基準法では、週1日もしくは4週を通じて4日の法定休日を与えることが義務とされており、休日労働には通常の1.35倍(35%割増)の休日手当の支払いが必要とされています。この場合も、前述の通り、強制か任意かは実態に沿って検討すべきであり、断りにくいのであれば、事実上の強制であると判断することができます。
一方で、完全に自由参加であり、不参加による不利益が一切ない場合には、労働時間とは認められず、休日手当も発生しません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

会社の行事に残業代が支払われない時の対応

行事や社内イベントは、参加を強制されれば「仕事」であり、残業代を請求できると解説しました。しかし、このような知識を理解せず、従業員に適正な残業代を支払わない会社もあります。
以下では、社内行事やイベントに参加させられた際の残業代請求の方法を解説します。
「強制参加」の証拠を集める
社内行事やイベントに要した時間について残業代を請求するには、「強制参加であること」を証明しなければなりません。会社が暗に強制しようとプレッシャーをかけてくることも多いため、この証明は、労働者が事前に証拠を準備しておかなければ難しいケースもあります。
証拠として活用できるのは、次のような資料です。
- 参加を強制するという社長や上司からのメール
- 社内行事、イベントの案内、パンフレット
- 社内行事への不参加を理由にされた不利益な処分
「残業の証拠」の解説

内容証明で社内行事の残業代を求める
残業代の生じる社内行事の強制があったら、即座に残業代を請求します。請求は、まずは内容証明を送付し、交渉することからスタートします。
交渉で解決できれば、会社に残ったまま、円満に残業代をもらうことができます。今後の扱いとしても、社内行事やイベントを強要されるパワハラは減ることが期待できます。残業代請求することは「社内行事は嫌だ」という率直な思いを伝える意味もあります。会社の「やってあげている」という思いが強かった場合、これを機に誤解が解けるかもしれません。
「残業代の請求書の書き方」の解説

労働審判・訴訟で社内行事の残業代を請求する
交渉で解決できない場合、社内行事への参加強制の残業代を請求するため、労働審判を行います。ただ、労働審判を行う場合には、退職を前提として考える方が多いでしょう。
社内行事への不満が大きく、会社に残る必要もないと考えることもあります。それならば裁判所の手続きを利用し、徹底的に残業代を請求しましょう。
話し合い(任意交渉)でも労働審判でも残業代トラブルの解決にいたらない場合には、最後は訴訟による解決を検討します。労働審判で解決できないとき、訴訟に移行することもあります。社内行事を参加強制され、心身が疲弊するなら、もはやブラック企業に残るメリットもないでしょう。強く残業代を要求した上で、退職することも検討しましょう。
「労働問題の種類と解決策」の解説

会社行事に参加したくない時、拒否できる?

最後に、どうしても社内行事に参加したくないときの対応を解説します。
社内行事やイベントは、労働者側で拒否することができるケースがあります。違法なパワハラに該当する場合は、拒否すべき典型例です。ただし、トラブルを拡大しないためにも、断り方には注意しておきましょう。
不適切な行事は拒否できる
賃金や残業代を支払っても、強要することができない行事も存在します。次のような場合、そもそも強制参加とすることは適切ではなく、労働者としては拒否すべきです。
- 社内行事が多すぎて、心身の健康を崩してしまった。
- 社内行事の時間が長すぎて、プライベートがない。
- イベントで飲まされ、体調が悪化してしまった。
- 社内の行事が、個人の宗教、政治、信念を侵害している。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

不参加を理由とした不当な評価や処分は違法
行事への参加を断ったことを理由に、不利益な扱いをすることも違法の可能性があります。
自由参加であるはずの行事や、業務との関連性の低いイベントであれば、不参加だったからといって人事評価を不当に下げたり、無視や仲間外れといった職場いじめを行ったりするのは違法です。不参加を理由に報復を受けた場合、パワハラの証拠を確保して、弁護士に相談しましょう。
会社行事の断り方に注意する
ただし、断り方にはくれぐれも注意しておきましょう。
特に、適法な業務命令として参加を指示された社内行事やイベントを拒否する場合、不利益な扱いを受けるリスクがあります。少しでもリスクを軽減するために、会社との対立を深めないように断る方法を理解しておいてください。
例えば、できるだけ穏便な伝え方は、次のようなものです。
- 健康状態を理由にする
「お酒が飲めない」「タバコを吸う場所が苦手」「体調が悪い」 - 家庭の事情を理由にする
「幼い子どもの世話が必要」「家族の介護が必要」「妻との門限がある」
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説

【まとめ】会社行事への強制参加は違法か

今回は、会社行事やイベントへの参加を強制された場合の対応について解説しました。
「全員出ているから」「毎年恒例だから」といった雰囲気に従い、参加を強制されている人もいるでしょう。評価や人間関係への影響を気にして、負担を感じながら応じる人も多いです。
しかし、事実上の業務命令であるにもかかわらず残業代や休日手当が支払われない場合、不利益を被ってしまいます。業務時間外に開催され、欠席しにくい状況があるなら、名目が「懇親会」や「親睦行事」であっても実質は「業務」といえます。その場合、参加した時間は「労働時間」として扱われ、賃金や残業代の支払いが必要となります。一方で、対価が生じないなら、「自由参加」が基本となり、拒否することができます。
また、違法な命令を拒否したからといって、それを理由に不利益な扱いを受けることも許されません。不安を抱えたまま我慢するのではなく、法的な基準を理解しておきましょう。
- 会社行事に強制参加させようとするのは、違法なパワハラになる可能性がある
- 強制参加の社内行事は「労働時間」に当たり、残業代を支払う必要がある
- 業務命令として会社行事への参加を命じられたとき、断り方に注意する
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