ボーナスを楽しみに働く人は多いでしょう。しかし、やむなくボーナス間近で退職せざるを得ない場面もあります。良い転職先が見つかるなどプラスの理由ならよいですが、ハラスメントなど、会社側の原因によるマイナスの理由もあります。
このようなとき、会社を辞めるとしてもボーナスはもらえるのでしょうか。「退職するならボーナスは減額する」という悪質な会社もあるので、「退職しても賞与がもらえるのか」が問題となります。
ボーナスの支給は、法律上の義務ではありません。そのため、支給の条件は、会社の裁量で決められます。多くの会社は、ボーナスをもらえるかの判断は「支給日に在籍していたか」を基準とします(支給日在籍要件)。そのため、近々退職する予定でも、賞与を減額されないよう、隠れてこっそりと進めるべきケースもあります。
今回は、ボーナスと退職の関係や注意点を、労働問題に強い弁護士が解説します。得られたはずのボーナスを逃さないよう、注意しましょう。
- 支給日在籍要件があると、ボーナス前に退職すると賞与はもらえない
- 労働者の意に反する退職の場合には、退職後でもボーナスをもらえる可能性がある
- 退職予定者に対するボーナスの減額幅が著しいときには違法となる可能性がある
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ボーナス前に退職すると賞与はもらえない可能性が高い
「ボーナス前に退職するのはもったいない」と言われることがあります。あてにしていたボーナスが不支給になってしまうと、生活の計画が狂ってしまいます。
多くの会社では、ボーナス前に退職すると、賞与はもらえなくなってしまう可能性が高いです。これは、以下の「支給日在籍要件」が大きな理由となっています。
支給日在籍要件とは
ボーナス前に退職してしまった場合、賞与がもらえるケースは少ないです。というのも、多くの会社では、支給日在籍要件を定めているからです。つまり、支給日に在籍する労働者のみがボーナス支払の対象となるという要件のことです。
支給日在籍要件は、具体的には、就業規則や賃金規程に次のように定められます。
第○条(賞与の支給日在籍要件)
前条の賞与の支給日に在籍しない労働者には、賞与を支給しない。
このような規定があると、支給日より後に退職するのでなければ、ボーナスはもらえません。
労働者としては、前回のボーナスから退職まで働いている分の対価はもらいたいと考えることでしょう。会社が、支給日在籍要件を設ける理由は、ボーナスには「これまでの労働の対価」という意味合いのほかに「今後の労働に対する感謝」「将来の期待」といった趣旨が含まれるからです。労働者にとっては不利益でしかありませんが、この要件の有効性が争いとなった裁判例でも、合理的なものであるとして有効性を認められています(大和銀行事件:最高裁昭和57年10月7日判決など)。
なお、会社に在籍していればよく、退職前の有給消化中でもボーナスはもらえるのが原則です。
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ボーナス前に退職しても賞与がもらえるケース
支給日在籍要件が設けられていない会社ならば、ボーナスの対象期間に在籍していれば、退職後であっても賞与を受け取ることができます。
これに対し、支給日在籍要件があれば、支給日に退職しているとボーナスはもらえませんが、あきらめてはいけません。次の裁判例のように、労働者に非がない場合、救済されるケースもあります。
- ボーナス直前に整理解雇された場合
(リーマンブラザーズ証券事件:東京地裁平成24年4月10日判決)
整理解雇は、退職日を自分で決めることのできない、会社都合の離職。ボーナス直前に整理解雇された場合にまで、支給日在籍要件を適用してボーナスを全く支給しないのは不合理であると判断された。 - ボーナスが遅れて支給された場合
(ニプロ医工事件:最高裁昭和60年3月12日判決)
ボーナスが予定日よりも遅れて支給され、その間に退職した事案。この場合にも裁判所は、支給日在籍要件の適用を否定した。
なお、これに対し、懲戒解雇や普通解雇など、労働者にも一定の責任のある解雇の場合には、支給日在籍要件が適用され、支給日までに会社を辞めていればボーナスはもらえないと考えられます。この場合、その解雇に不服があるなら、不当解雇であると主張して争うべきです。
ボーナスを失わないようにするには、退職のルールを知り、計画的に進める必要があります。
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ボーナス前に退職する予定を伝えると減額される?
「支給日在籍要件」の裏返しとして、支給日に在籍してさえいれば、ボーナスは受け取れます。とはいえ、退職を予定している場合、決して安心できません。ボーナス直前に退職を伝えたことで、不当に賞与を減額される危険を回避しておく必要があります。「ボーナスを満足にもらえないのでは」という疑念が生じると、ボーナス前の退職には踏み切りづらいでしょう。
そこで次に、ボーナス前に退職を伝えた場合に損しないための知識をお伝えします。
退職予定でも、在籍中ならボーナスはもらえるのが原則
退職届を提出しても、直ちに退職となるわけではありません。労使の合意によってすぐに辞める場合もないわけではないものの、多くの場合は、有給消化や業務の引き継ぎなどで、退職日までは一定の期間があります。法律上は、労働者からの一方的な退職の意思表示なら、2週間後に退職の効果が生じることとされています(民法627条1項)。
このとき、既に退職の意思表示をしていたとしても、まだ在籍中に支給日が到来したならば、ボーナスをもらえるのが原則です。要は、重要なのは「退職日」であり、「最終出社日」や「退職の意思表示をした日」がボーナス前でも関係ありません。
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退職するといったらボーナスを減額されるのは違法?
退職予定者でも、支給日に在籍していればボーナスはもらえると解説しました。ただ、将来に退職を予定していることで、ボーナスを減額されてしまうケースがあります。このとき、退職するといったことを理由としてボーナスを減額するのは、違法となる可能性があります。
確かに、退職が決まった人に、将来の貢献は期待できません。その分だけ、今後も貢献し続ける社員よりボーナスを減額されたとして、直ちに不当とは言い切れません。実際、「支給日以降、一定期間の在籍予定がない場合は減額する」と就業規則に定める例もあります。賞与は、法律上の支払義務があるわけではないので、支給する金額もまた、会社の裁量が広く認められています。
ただし、賞与の額があまりに少なく、同等の社員との間で格差が大きすぎる場合には、裁量の逸脱があり、違法となります。退職予定者と、それ以外の人のボーナスの格差が著しいと、公序良俗違反(民法90条)で違法となることもあります。
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退職とボーナスをめぐるトラブルを防ぐための対策
次に、退職とボーナスをめぐるトラブルを防ぐための対策について解説します。万が一、トラブルに見舞われても、感情的にならず、冷静な対処が大切です。
ボーナスに関する規定をチェックする
ボーナスに関する会社のルールは、就業規則や賃金規程に定められています。支給日在籍要件を採用する企業は多いものの、必ずしもそうとは限りません。自社の規程類を確認し、真のリスクを把握する必要があります。
少なくとも、以下の3点をチェックしましょう。
- ボーナス支給にかかる算定対象期間
- ボーナスの支給日
- 支給日在籍要件の有無
例えば、厚生労働省のモデル就業規則には、次の条項があります。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
退職届の提出時期は慎重に検討する
支給日在籍要件があるとき、退職を伝えるタイミングは見極めが重要です。退職時期が遅くなっても支障ないなら、ボーナス支給後に退職する方が損が少ないです。また、支給日前に退職を知らせることも避けるべきです。
一方で、ボーナスの支給よりも早期退職を優先すべきケースもあります。仕事のストレスで心身が限界ならば、早期の療養が必要です。既に転職先が決まっているなら、支給日だけでなく、入社日も考慮しなければなりません。
転職先との交渉が可能なら、「ボーナスを受け取ってから転職したい」と伝え、入社日を相談するのも手です。
「うつ病で退職する前にすべき対処法」の解説
予定していたボーナスがもらえなければ弁護士に相談する
会社が意図的にボーナスを振り込まないなら、社外の窓口に相談すべきです。
このとき、主な相談先には弁護士と労働基準監督署があります。ただ、使用者の裁量に任されたボーナスは、単なる恩恵的な給付であり、賃金ではありません。すると、労働基準監督署が指導、是正勧告などの働きかけをしてくれないことがあります。
弁護士ならば、必ずしも支払が義務付けられていないボーナスであっても、減額したり不支給としたりすることが不当だと判断される場合には、労働審判や訴訟などの手続きによって請求することができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
退職とボーナスについてのよくある質問
最後に、退職とボーナスについてのよくある質問に回答します。
ボーナスをもらって辞めるなら何月がおすすめ?
ボーナスをもらって辞めたいなら戦略的に動く必要があり、支給日在籍要件があるときは、支給日後に退職日を調整する必要があります。また、円満退社したいなら、支給日の「直後」に退職するのも「もらい逃げ」という悪い印象があるため避けるべきです。
とはいえ、支給日から間を開けて退職しようとすると、次のボーナス支給日が迫ってきます。結論としては、支給日から1ヶ月後程度で退職を申し出て、有給消化後に辞めるのがおすすめです。夏季賞与の支給日が6月下旬なら8月頃、冬季賞与の支給日が12月上旬なら1月頃が、トラブルになりづらい退職日の目安となります。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
「退職するならボーナスを返せ」と言われたら?
無事にボーナスをもらえても、その後に退職の意思表示をしたことで、「辞めるならボーナスを返せ」と言われるトラブルもあります。
しかし、賞与の返還を要求されても、返す義務はありません。退職を理由にボーナスを返還させるのは、労働者の退職の自由を奪うことを意味するため、許されません。あらかじめ就業規則などに返還すべき旨の規定があっても、労働基準法16条の定める「賠償予定の禁止」に違反し、条項そのものが無効となる可能性が高いです。
しつこく返還を迫られても屈せず、止まない場合は弁護士に相談ください。万が一返還してしまった場合には、再度ボーナスを請求して訴えるべきです。
「退職を伝えるのが早すぎる」の解説
支給日在籍要件を新たに就業規則で定めることはできる?
退職者への嫌がらせとして、支給日在籍要件を「新たに」設けられることがあります。現状定められていないのに労働者に不利な規定を新設するのは、労働条件の不利益変更です。就業規則の不利益な変更が許されるかは、その変更に合理性があるかで判断します(労働契約法10条)。
労働契約法10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
労働契約法(e-Gov法令検索)
この点で、あなたが退職の予定を示したことをきっかけに支給日在籍要件が新設されたのであれば、嫌がらせ、いじめになるようなやり方であり、許されません。また、要件の新設で不利益を被る労働者への補償が一切なく、事前の説明もないようなときも、そのような不利益変更は許されない可能性が高いといってよいでしょう。
「労働条件の不利益変更」の解説
まとめ
ボーナスは、労働者の挙げた利益から払われます。対象期間にしっかり働き、貢献したならもらえても当然、と思うでしょう。しかし、多くの会社は「支給日在籍要件」を設け、支給日に在籍しない人にボーナスを払いません。
逆にいえば、支給日に在籍していれば、有給休暇の消化中であっても、賞与をもらう権利があります。とはいえ、退職予定であると伝えると、ボーナスを不当に減らす会社もあります。
「ボーナスをもらうまで退職の意思を伝えない」のが良い対応となるでしょう。ボーナス前の退職で損をしないよう、対応は慎重に進めなければなりません。退職時期を調整できる方は、ボーナスの支給時期との関係で決めるのも良い手です。
ボーナスの不支給や減額に不当性が疑われるなら、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 支給日在籍要件があると、ボーナス前に退職すると賞与はもらえない
- 労働者の意に反する退職の場合には、退職後でもボーナスをもらえる可能性がある
- 退職予定者に対するボーナスの減額幅が著しいときには違法となる可能性がある
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ボーナスカットの違法性は、次の解説をご覧ください。
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