「残業代を払う」とは言いながら、なかなか支払ってこない会社があります。先延ばしにされると生活に困る労働者もいるでしょうが、残業代の後払いは違法です。
未払いの残業代はいつ支払われるのだろう
残業代がいつ入るのかがわからない……。
残業代の支払いは会社の義務であり、発生した残業代を払わないことは労働基準法違反であり、違法です。結果的には払ってもらえたとしても、正しい支払時期が守られないこともまた、違法な扱いなのは当然です。「いつ残業代を払うか」は会社が自由に決められるわけではなく、労働基準法のルールに従う必要があります。残業代の後払いは違法であり、発生した都度支払うべきです。
今回は、残業代の後払いの違法性について、労働問題に強い弁護士が解説します。後払いを放置すれば残業代の時効を過ぎてしまう危険があるので注意してください。
- 残業代の後払いは労働基準法違反であり、違法となる
- 残業代は、毎月の給料日に払うのが正しい支払時期だが、固定残業代なら先払い
- 違法な残業代の後払いをされたら、刑罰、遅延損害金、付加金でプレッシャーをかける
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
残業代の後払いは違法
結論として、残業代の後払いは違法です。以下に、理由を詳しく解説します。
残業代は「賃金」の性質を有する
残業代は、労働者が通常の労働時間を超えて働いた時間に対して支払われる給与です。労働基準法37条により「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働いた場合の時間外労働、法定休日の労働、深夜労働に対して、残業代が支払われます。
つまり、残業代はいわゆる給料に含まれ、労働基準法11条の定義する「賃金」に該当します。同条は「賃金」とは「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定めており、残業代もまた時間外や休日、深夜の労働の対価であるため「賃金」の性質を有します。
労働基準法11条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
労働基準法(e-Gov法令検索)
賃金支払いの5原則により「賃金」の後払いは許されない
そして、労働基準法における「賃金」には、後払いが許されません。後払いを認めてしまえば、適切な時期に給料をもらうことができず、労働者の生活が困窮するおそれがあるからです。法律は、賃金支払いの5原則が定め、賃金の支払いのルールを設け、労働者を保護しています(労働基準法24条)。
- 通貨払いの原則
賃金は法定通貨で払わなければならず、物納などは許されない。 - 直接払いの原則
賃金は、労働者に直接払わなければならず、代理受領は許されない。 - 全額払いの原則
賃金は決められた全額を払う必要があり、同意のない相殺や中抜きは禁止。 - 毎月1回以上払いの原則
賃金は、毎月1回以上支払う必要がある。年俸制でも月1回以上は支払いが必要。 - 一定期日払いの原則
不定期の支給は労働者を害するため、賃金は一定期日に支払う必要がある。
この原則のうち、毎月1回以上払いの原則と、一定期日払いの原則に従った結果、賃金は適時に支払わなければならず、後払いが禁止されます。残業代もまた「賃金」の性質を有するため、後払いは違法となるわけです。
労働基準法は、労働者を保護するための強い効果があり、労働契約で労働基準法に反する約束をしても無効です。そのため、たとえ労働者が同意の上であっても、次のような支払い方法は違法であり、やはり残業代は毎月の給料と共に払う必要があります。
- 残業代を翌月払いとする
- 残業代の一部を翌月に繰り越しする
- 複数月の残業代をまとめて払う
- 残業代はボーナスに含めて払う
残業代の後払いが違法である結果として、毎月の給料日に残業代が一緒に支払われていなければ、当月の残業代が未払いになっていると考えることができます。そして、労働基準法24条における賃金支払いの5原則に違反した場合、30万円以下の罰金という刑事罰が科されます(労働基準法120条)。
残業代に未払いが生じたら、速やかに請求しましょう。まずは、残業代請求に精通した弁護士のアドバイスをお受けください。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説
残業代はいつ支払われるべきか?正しい支払時期について解説
次に、残業代がいつ支払われるのか、正しい支払時期について解説します。
残業代の後払いは違法であると解説しました。しかし、給料は労働の後に支給されるので、固定残業代やみなし残業といった例外を除き、「先払い」されることもないのが基本です。なかなか払ってもらえないと不安になるでしょうが、正しい対応を知っておきましょう。
毎月の給料日に払うのが原則
雇用契約書や就業規則には、給料の締日と支払日が定められているはずです。そして、特別な理由のない限り、残業代についても毎月の給料日に支払うのが原則です。前章で説明した通り、残業代もまた「賃金」(労働基準法11条)であり、毎月1回以上、定期的に払う必要があるからです。
ただ、労働契約によって金額の決まっている基本給や手当とは異なり、残業代は、実際の残業時間数が決まらないと算出できません。そのため、毎月の基本給の支払いを「当月末の給料日」と定める会社でも、残業代に限って「翌月末の給料日」とするなど、基本給と残業代の支払いタイミングをずらすことは違法ではありません。なお、いずれにせよ、毎月の残業代が、労働基準法に従って正しく計算される必要があります。
「残業代の計算方法」の解説
給料日が土日祝日などのときの例外
給料の支払日が土日祝日、年末年始などとかぶるとき、前倒しするか、後倒しして翌営業日に支払うかについて法律のルールがなく、いずれでも構いません。つまり、給料の支払日が営業日でないときは、翌営業日への後倒しが許されます。ただし、この場合も毎月1回以上払いの原則を守るため、翌営業日が翌月になってしまうときは前倒しする必要があります。
「給料未払いの相談先」の解説
就業規則と雇用契約書を確認する
具体的に、残業代がいつ支払われるのかについては、勤務先における給料の締め日と支払日を確認してください。「賃金の締切り及び支払の時期」は、就業規則の絶対的必要記載事項であり、必ず就業規則に記載される必要があります(労働基準法89条2号)。
就業規則は、10人以上の社員を使用する事業場では、労働基準監督署への届出義務があります。また、事業場に備え置くなどして労働者に周知しなければなりません。したがって、就業規則を確認できないならば違法です。なお、10人に満たない小規模な会社でも、給料の締め日と支払日は、労働条件通知書や雇用契約書を確認して知ることができます。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
固定残業代なら先払いされる
例外的に、固定残業代やみなし残業を定める会社では、残業代の一部が先払いされます。固定残業代やみなし残業は、あらかじめ残業代に充当すべき一定額を前払いする制度だからです。
ただこのときも、固定残業代を上回る時間の残業があったら、差額の残業代を支払う必要があります。また、通常の賃金と残業代とが区別できないとき、固定残業代やみなし残業の制度そのものが無効となります。残業代の後払いは違法であるため、先払いした固定残業代やみなし残業との差額が生じ、清算が必要な場合には、その清算は毎月行わなければなりません。
「固定残業代の計算方法」「みなし残業」の解説
退職後の残業代請求では7日以内に支払う必要がある
ここまで、残業代の正しい支払時期を説明しましたが、誠実に払ってくれる会社ばかりではありません。特に、退職時は労働トラブルが起こりやすく、残業代が退職するまで払われずに放置され、退職時になって初めて問題点が明らかになるケースも少なくありません。
また、退職時のタイミングで未払いがあると、労働者に嫌がらせをするために「手渡しでないと最後の給料は払わない」などとプレッシャーをかけてくるケースもあります。このような事態を避けるために、退職後の賃金の支払時期については、法律上の特別なルールが定められており、退職者から請求があったら7日以内に支払う義務があります(労働基準法23条1項)。
労働基準法23条1項(抜粋)
1. 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
そして、この場合にも「賃金」のなかには残業代も当然に含まれますから、在職中の残業代もまた、労働者が請求することによって退職から7日以内に支払ってもらうことができます。残業代を後払いとされているうちに退職してしまうときは、退職後速やかに請求すべきです。
円満退職でなく、不当解雇や退職強要で辞めざるを得ないケースでは、未払い残業代も自身で請求するのは辛いでしょう。弁護士に退職代行を依頼したり、残業代請求の窓口を任せたりすることで、有利な解決が期待できます。
「退職したらやることの順番」の解説
残業代を後払いすると言われた時の対処法
最後に、残業代を後払いすると言われたときの対処法について解説します。残業代の後払いの方法が違法だとしても、会社が嫌がらせに違法行為をしてくるケースがあります。
未払い残業代を請求する
まず、未払いの残業代は速やかに請求しましょう。残業代の後払いは違法ですから、給料日を過ぎても残業代が入っていなければ、未払いになっていると考えてよいです。
話し合いをしようとしても会社が誠意をもって応じてくれないときは、内容証明で未払い残業代の請求をします。弁護士名義で内容証明を遅れば、書面の内容と送付日などを証明してくれると共に、会社の違法性を説得的に指摘し、大きなプレッシャーを与えることができます。
「残業代の請求書の書き方」の解説
労働審判や訴訟を利用する
話し合いでは解決しないとき、労働審判や訴訟といった法的手続きを利用して、裁判で争います。弁護士から連絡してもなお「残業代は後払いだ」と反論してくるなら、もはや「後払い」ではなく「払う気がない」と考えて動いたほうがよいでしょう。残業代の時効は3年ですから、交渉が決裂したら、一刻の猶予も許しません。
裁判所で権利を実現するには、あらかじめ残業の証拠についても準備しておいてください。
「労働審判による残業代の請求」の解説
労働基準監督署に通報する
残業代が後払いされ、適切な時期にもらえないのは非常に深刻な問題であり、労働基準法においても刑事罰の対象となっています。前述の通り、労働基準法24条における賃金支払いの5原則に違反した場合には、30万円以下の罰金という罰則があります(労働基準法120条)。
労働基準監督署に通報し、調査をしてもらい、助言指導や是正勧告といった方法によって働きかけをしてもらえれば、強い圧力をかけ、残業代の支払いを促進できます。
「労働基準監督署への通報」の解説
遅延損害金、付加金を請求する
残業代の後払いが黙認されないよう、支払いが遅れた場合には制裁があります。具体的には、支払いの遅れた残業代に付される遅延損害金と付加金は、「残業代を支払わずに遅れ、後払いになってしまうと損をする」という意味合いがあり、会社に対するプレッシャーとして機能します。
遅延損害金は、期限に遅れた金銭支払いに対するペナルティであり、在職中の未払いに対する遅延損害金の利率は3%です(なお、2020年4月1日施行の民法改正により、2020年3月31日までの未払いについては商事法定利息6%、2020年4月1日以降は民事法定利息3%が適用されます)。また、退職後の未払いについては更に重く、14.6%の利率が適用されます(賃金支払確保法6条1項)。
また、会社の未払いが悪質なときは、裁判所の命令によって付加金の支払いが命じられます。付加金は未払い残業代と同額を上限とするため、最大で2倍の支払額を命じることができます。
後払いするほど遅延損害金は膨らみ、かつ、その後払いが悪質と評価されるほどに付加金を命じられる可能性が上がることは、「残業代を後払いしよう」と甘く考えるブラック企業に大きなリスクを与えることができます。
まとめ
今回は、残業代の後払いについて、その違法性と対処法を解説しました。
正しい支払時期が守られないと「いつ残業代が支払われるのだろうか」と不安になるでしょう。最悪のケースは「退職したのにまだ残業代が払われない」と悩む方もいます。そもそも、残業代の後払いは違法であり、会社の自由に先延ばしできるわけではありません。違法な後払いにされてしまったら、それはすなわち残業代に未払いであり、速やかに請求して会社と戦う必要があります。
機を逸すれば交渉では払ってもらい辛くなり、放置しすぎると時効にかかって請求権が消滅してしまいます。退職のタイミングで労働問題を清算するためにも、支払ってもらえていない残業代は速やかに請求するようにしてください。
残業代の法律知識を正確に理解し、損せず請求したい方は、弁護士に相談するのが賢明です。
- 残業代の後払いは労働基準法違反であり、違法となる
- 残業代は、毎月の給料日に払うのが正しい支払時期だが、固定残業代なら先払い
- 違法な残業代の後払いをされたら、刑罰、遅延損害金、付加金でプレッシャーをかける
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】