MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

うつ病は転職で不利になる?転職活動を有利に進める法的ポイント

うつ病は転職で不利になるのではないか、と不安に思う方もいるでしょう。確かに、精神疾患にかかった過去は、転職活動に影響が全くないとはいえません。しかし、適切なポイントを押さえ、支援を活用すれば、うつ病を乗り越えて再就職することは十分に可能です。

法的には、業務に支障のない限り、うつ病の事実を転職活動で伝える必要はなく、発覚することも多いわけではありません。軽度のうつ病を理由とする不採用は、違法の可能性もあります。うつ病を理由に転職をあきらめる必要は全くありません。

とはいえ、一度うつ病になった労働者が、転職活動に成功するには、休職を活用して退職時期を見計らったり、会社の責任を追及して有利な退職条件を勝ち取ったり、前職の退職からして慎重に進める必要があります。再就職先の選定でも、無理のない働き方を理解し、正しい情報提供をし(もしくは不利な事実は公開せずに)、採用後に揉めないよう心がけるべきです。

今回は、うつ病が転職で不利にならないようにするためのポイントを、労働問題に強い弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。

ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

うつ病は転職活動で不利になる?

うつ病だからといって絶対に採用されないわけではないものの、やはり転職活動で不利に働く局面があることは否めません。ただ実際は、そもそも発覚しなかったり、仮にバレても、不利益に扱うのは違法であったりするので、結果的には、うつ病の事実が不利にならないこともあります。

そもそもバレるリスクは低い

うつ病であると発覚すれば不利に働く局面があるとしても、そもそも、過去にかかったうつ病が、転職先にバレるリスクは低いです。

企業には採用の自由が認められ、面接で「うつ病にかかったことがあるか」などと質問される例はないわけではありません。しかし、病歴は、高度なプライバシーに属するため、たとえ採否を決定するために必要だとしても、その理由を明らかにして、合理的な範囲でしか質問することが許されません。そのため、ストレートな形で質問してくる企業は少なく、結果としてうつ病の事実を告げずに入社できるケースが多いです。当然ながら、履歴書に記載する必要もありません。

前職への照会で発覚する例もありますが、この場合も本人の同意が必要であり、前職としても転職妨害となれば不法行為(民法709条)や、名誉毀損罪(刑法230条)といった責任を追及されるおそれがあるので、あなたに不利な事情を言いふらす可能性は低いです。

圧迫面接の違法性」の解説

うつ病を不利益に取り扱うのは違法の可能性がある

うつ病であるからといって不利益に取り扱うのは、違法の可能性があります。

業務遂行が著しく困難な健康状態なら、不採用とする合理的な理由がありますが、過去にうつ病になった事実や、軽度なうつ病を不採用の理由とするのは、違法な差別です。うつ病の事実が採用後に発覚したとして、問題なく業務を行えていたなら、正当な解雇理由ともなりません。

採用にあたって虚偽の事実を伝えると経歴詐称になる可能性がありますが、うつ病であることを言わなかっただけでは詐称とはいえません。症状が、業務に支障を及ぼすものでないなら、積極的に報告すべき義務はないからです。

経歴詐称のリスク」「就職差別の対応策」の解説

うつ病になったときの転職の考え方

次に、うつ病になってしまったときの転職の基本的な考え方を解説します。

うつ病になった原因が現在の仕事にあるなら、今すぐにでも転職したいと思うのは当然です。焦りは十分に理解できますが、重大な決断をする前に、慎重に検討するのがおすすめです。

うつ病になってもすぐ退職すべきではない

うつ病になっても、性急に退職するのはお勧めできません。

退職は、現在の辛い状況から距離を置くのに効果的です。しかし、原因となった仕事、社長や上司から離れるには、退職よりも不利益の少ない手段があります。例えば、職場環境の改善を会社に申し出たり、異動や配置転換を希望したり、休職を活用したりといった方法です。焦って退職してしまえば、それ以降の給料がもらえないのは当然、パワハラや長時間労働など、うつ病となった原因について会社の責任を追及しようにも証拠集めが難しくなります。

したがって、うつ病になってもすぐ離職すべきではなく、退職はいわば最終手段として、在職しながら有利に立ち回る方法がないか、検討してください。

うつ病休職時の適切な対応」の解説

まずは休職して冷静に対処する

うつ病になったとき、退職以外に考えられる対処法の代表例が、休職することです。

休職は、会社を休むことになるので、キャリアに悪影響となったり、無給になってしまったりといったデメリットがあります。しかし、転職せざるを得ないほどに今の職場にストレスを感じるなら、治療中は無理をせず、すぐにも職場を離れ、療養に専念すべきです。まずは休職して、冷静に考えるための時間を確保しましょう。

休職中でも、軽度のうつ病であったり、出社しないことで体調が回復していたりするなら、転職活動をするのも差し支えありません。休職中の転職活動は、うつ病を隠してする「クローズ就活」と、伝えて入社を目指す「オープン就活」があります。どちらが適切かは、自身の症状の重さ、転職先の業務の種類、負担などを考慮して決めるべきです。

多くの会社は、休職は無給としていますが、健康保険の傷病手当金を受給することができます。

うつ病休職中の給料と手当」の解説

転職するか在職を継続するかの判断基準

うつ病にかかったことを機に転職を考える場合、転職するか、在職を継続するかの判断基準を理解して、慎重に検討する必要があります。現在の状況だけでなく、今後のキャリア形成についても長い目で考慮しなければなりません。

転職するか、在職を継続するかの判断基準となる事情は、次の通りです。

  • 休職期間と休職の条件
    休職は、会社の定める制度であり、法律上の制度ではないため、その条件や期間は会社の定めによります(そもそも休職制度のない会社もあります)。在職を継続するせよ、休職制度の利用が前提となるケースも多いため、事前に休職について就業規則を確認しておきましょう。
  • 休職期間満了までに復職できそうか
    休職するならば、期間満了までに復職できるかが重要な考慮要素となります。復職の可能性があるなら在職を続けてもよいでしょうが、職場環境の改善が見込めない、軽易な業務への配置転換といった配慮がないなど、復職が難しいなら、転職した方がよい場合もあります。配慮が足りない会社では、復職後の扱いがひどいと再発の危険もあります。
  • 労災ではないか
    業務に起因するうつ病なら、労災であり、会社の責任です。例えば、長時間労働や違法なパワハラの結果としてうつ病になったケースは、労災の可能性が高いです。責任感がある人ほど、必死に働いても会社に使い倒されうので、早めに転職を検討すべきです。

労災について弁護士に相談すべき理由」「休職中の退職の伝え方」の解説

「転職に不利だから辞めた方がよい」と言われた場合

うつ病になると、「転職に不利だから辞めた方がよい」と言われることがあります。

うつ病で業務遂行が難しくなると、「早く辞めさせたい」という敵意を持つ会社は多いもの。一方で、解雇するには正当な理由が必要なため、争われるリスクを避けたい会社は、次のように伝え、うつ病になったことを理由に、退職勧奨の働きかけをしてきます。

  • うつ病になって退職したとバレると転職に不利だ
  • このまま会社に残って解雇されると経歴に傷がつく
  • うつ病で休職した事実が残ると再就職で不利になる
  • 今なら会社都合の退職にしてあげられる

うつ病で心が弱っていたり、新卒で社会経験が不足していたりすると、このような会社の都合を信じて退職届を書いてしまう人もいます。しかし、これらの理由は誤りで、本解説の通り、必ずしも「うつ病が転職で不利に働く」とは言い切れません。したがって、うつ病を理由とした退職勧奨にも応じてはいけません。

以下では、うつ病を理由に退職勧奨をされたときの対処法を解説します。

退職勧奨には応じない

悪質な会社ほど、うつ病にかかったことを理由に、労働者が自分で辞めるよう仕向けてきます。責任感の強い人ほど後ろめたく感じたり、これまでの恩義から「身を引こう」と決断してしまったりしがちですが、退職勧奨で言われることはいずれも「会社の勝手な都合」に過ぎません。

むしろ、すぐに解雇に踏み切れば不当解雇となり、争えば労働者に有利なケースもあります。つまり、「退職勧奨を拒否すると解雇されてしまうのではないか」「解雇されると、うつ病で転職できないのに辛い」といった不安を感じる必要もなく、解雇されたら争えばよいのです。逆に、自主的に退職してしまうと、後から会社の不当性を指摘して争うのは難しくなってしまいます。

退職勧奨は、あくまで退職を促しているに過ぎず、退職の強要となるなら違法です。

退職強要の対処法」の解説

休職制度を利用させてもらえるよう強く求める

生来まじめな性格の人ほど、パワハラを機会にうつ病となることがよくあります。このとき、会社に責任があるなら、すぐ解雇するのではなく休職が適切です。休職の制度がどのように定められているかは、会社の就業規則で確認できます。勤続年数などの点から休職の条件を満たしているなら、退職をさせる前に休職制度を利用させてもらえるよう、会社に強く求めてください。

休職を拒否されたときの対応」の解説

会社に責任追及して補償を求める

会社の指示で療養に努め、復職を目指しても、会社から退職勧奨を受けてしまうことがあります。こんなとき、復帰して貢献したいと思っていた人は絶望感にさいなまれることでしょう。

やけになって退職してしまう前に、このような事態に陥った責任が会社にあるのではないか、検討してください。長時間労働をはじめ、劣悪な労働環境に理由があるなら、会社の責任を追及し、慰謝料を請求するなどして適切な補償を受けるべきです。

安全配慮義務」の解説

うつ病でも転職活動を有利に進めるために重要なポイント

うつ病は必ずしも転職に不利ではないと解説しましたが、うつ病の転職には特有の注意点があります。転職活動を有利に進めるには、うつ病の求職者が注意すべき点を理解してください。

業務に支障のない症状は伝えない

既往歴は、会社にとって採否や労働条件を決する重要な情報でしょうが、求職者にしてみれば、業務に影響しない病気を申告する必要はありません。労働契約で大切なのは、契約通りに働けるかどうかであり、これを満たす限り、労働契約における約束は果たしたと言うことができます。

うつ病で、約束した仕事ができないとか、遅刻や早退を繰り返すしかない状態だったりするなら、病気のことを事前に伝えないのは問題です。しかし、業務に支障のない症状は、転職活動で伝える必要はありません。通院を要する状況だとしても、業務時間外であったり、有給休暇を取得して行ったりといった対応が可能なら、業務への支障はないといえます。

なお、転職先に伝えないと決めた場合も、転職エージェントには伝えておくと、適した企業を勧めてもらえるメリットがあります(信頼できるエージェントかどうかで判断すべきです)。

採用の自由の内容と例外」の解説

無理のない雇用形態・労働時間制を相談して決める

無理のない雇用形態・労働時間制を相談して決めることも重要です。雇用されるにしても、様々な雇用形態、労働時間制があるからです。典型的な「フルタイムの正社員」となるのは辛いとしても、非正規雇用をはじめ、無理のない働き方を選ぶことができます。例えば次の選択肢があります。

  • 非正規雇用となる
    派遣社員なら、転職先に不安を感じたら派遣先を変えられる柔軟性があります。期間の定のある契約社員なら、辞めたいのに退職を言い出しづらいといったトラブルを避けられます。アルバイトなら、正社員よりも労働時間を短くすることができます。
  • ストレスの少ない職種にする
    人との接触の多い営業職がストレスなら、事務作業を中心とする職種に応募する方法が有効です。
  • フレックスタイム制の対象としてもらう
    フレックスなら、始業時刻、終業時刻を自由に決めることができ、長時間労働によるストレスを抑えてライフスタイルに合わせて仕事を進められます。
  • リモートワークにしてもらう
    対面でのコミュニケーションに不安がある場合は、リモートワークで働くことを提案するのがよいでしょう。
  • 残業を免除してもらう
    長時間労働があると、転職後の再発につながりやすいので、残業を免除してもらう、残業なしの労働契約を締結するといった方法が有効です。

働き方に関する選択は、主治医と相談するなどして、独断で決めるのは避けるべきです。良くなってきたからと過信して油断し、転職先でうつ病が再発してしまうのは本末転倒です。

長時間労働の相談窓口」の解説

ポジティブな要素を伝える

抑うつ状態になると、転職活動でも気が沈んでしまいがちです。うつ病のことを明かすにせよ隠すにせよ、採用面接における伝え方は、ポジティブな要素を強調するのが大切です。

転職活動を行う際、うつ病を抱えていることを不安材料とするのではなく、むしろポジティブな観点で伝えるのが適切です。採用担当者としても、応募者の健康を気にするのは「それが仕事にどう影響するか」という点を重視しているからです。そのため、うつ病に適切に対処し、乗り越えた経験を伝え、自分の強みとしてアピールすることも可能です。自身の健康状態を理解し、対策を講じている姿勢は、誠実さや責任感を示すことにも繋がります。

転職活動における振る舞い方は、法的観点だけでなく、コミュニケーションの問題でもあります。弁護士に相談するだけでなく、ハローワークや転職エージェントの活用も重要です。

うつ病で休職して退職するのはずるい?」の解説

うつ病を伝える場合は配慮を求める

うつ病にかかってしまっても、自ら積極的に症状を開示する、オープンな転職活動の仕方もあります。この場合、症状を伝えるなら、職場で一定の配慮をしてもらえるように求めることがポイントです。必要以上にネガティブな印象を与えないためには、在職中と同じく診断書を提出する方法によるのが適切です。

担当できる業務とできない業務、時間外労働の可否、異動や転勤に応じられるか、といった点について、求める配慮を正確に伝え、労使の期待が乖離しないよう調整しましょう。

具体的なサポートを求めるのはおこがましいと感じる人もいるでしょうが、できない約束をすると、後から職場でトラブルとなったり、解雇されたりする危険があります。きちんと伝える決断をしたなら、採用されないリスクはあるとしても要求は正しく伝達すべきです。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、うつ病は転職で不利になるか、有利に転職するためのポイントを解説しました。

うつ病が転職の障壁となるケースは少なく、適切な対策を講じておけば、自信をもって転職活動を進めることができます。健康を優先しながら、適切な再就職先を見つけるには、いきなり退職を選ぶのでなく、まずは休職して時間を稼ぎ、「転職」と「在職の継続」という2つの選択肢を慎重に吟味するのが大切です。早く退職するよう強要されたとしても、従う必要はなく、退職を拒否し、休職制度を利用させてもらえるよう強く求めてください。

うつ病にかかった後のことを決めるのは自分自身ですが、健康状態について医師の診断を受けたり、法的な扱いを弁護士に相談したりといった専門家のアドバイスが役立ちます。

劣悪な職場環境、会社の違法行為が原因ならば、その責任を追及し、法的に解決すべき場合もあります。転職活動における不利益を最小限に抑えるために、前職と争い、責任を明らかにしておくことが役立つからです。

目次(クリックで移動)