懲戒解雇は、労働者にとって最も厳しい処分であり、企業側にも慎重な対応が求められます。不正や規律違反が明らかでもなお、適切な手続きを遵守する必要があり、突然に懲戒解雇を言い渡すのは違法の可能性があります。
懲戒解雇の手続きの流れに法律上のルールはなく、会社によっても異なります。まずは就業規則を確認し、必要な手続きが講じられたかを検討しましょう。弁明の機会や事情聴取、懲戒委員会(懲罰委員会)といった所定の手順が踏まれていない場合、懲戒解雇のプロセスに違法性があります。悪質な会社では就業規則が存在しなかったり、周知されず確認できなかったりする例もあります。
今回は、懲戒解雇に要する手続きの流れを、労働問題に強い弁護士が解説します。適切な手続きを踏まずにされた解雇は、不当解雇として無効になる可能性が高いです。労働者として適切な対処を知り、正当な権利を守る役に立ててください。
- 懲戒解雇が労働者に与える不利益に配慮し、十分な手続きをしなければ違法
- 弁明の機会を付与して言い分を聞かずにされた懲戒解雇は、無効の可能性が高い
- 懲戒解雇の手続きの流れは、就業規則に定めるため、会社によって異なる
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懲戒解雇において手続きが重視される理由
まず、懲戒解雇において手続きが重視される理由を解説します。
懲戒解雇は、会社の下す最も重大な処分です。労働者の同意ある自主退職(辞職)や合意退職と違い、会社が一方的にする「解雇」。そのなかでも普通解雇と違って制裁(ペナルティ)の性質を持ちます。制裁によって会社を辞める影響は、社内のみに留まらず、転職にも不利に作用します。懲戒解雇のデメリットが大きいため、厳格な手続きを踏むことが求められます。
法令を遵守して適正手続を保障するため
労働契約法16条は、解雇について「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を要求し、これらを欠く場合は違法な不当解雇として無効であると定めています。
懲戒解雇では特に、適正な手続きのなかで「懲戒解雇をする理由があるか」「その理由が懲戒解雇という重度の処分にふさわしいか」の両面のチェックを受けることで不当解雇を防ぐことが大切です。弁明の機会が与えられ、自己防衛や反論をする機会のあることが、労働者の権利保護のために非常に重要です。
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労働者の権利を保護するため
適正な手続きの保障は、労働者の権利保護を目的とします。労働者の利益のために最重要の手続きが、弁明の機会です。懲戒解雇の対象者が、自身の認識を説明し、誤解や誤認を訂正する機会が保障される必要があるからです。手続きが適正にされず突然に解雇を言い渡されれば、必要以上に大きなダメージを受けてしまいます。
懲戒解雇が非常に厳しい処分だからこそ、労働者の言い分をしっかりと聞いて正しい判断を下すよう心がける必要があります。誤った懲戒解雇によって大きな損失を負ってしまった後では取り返しがつきません。
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処分の公正性と透明性を確保するため
手続きの遵守は、懲戒解雇が公正であることを担保し、労使の信頼関係の基礎となります。懲戒解雇は、単にその理由が適切であればよいのではなく、他の従業員と平等な扱いがなされ、納得感をもって進められる必要があるからです。
労働者保護の観点だけでなく、企業にとっても、不当解雇を訴えられるリスクを減らし、紛争を未然に防げるメリットがあります。
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懲戒解雇の手続きの流れ
次に、懲戒解雇の手続きの流れについて解説します。
本解説の手続きは、使用者が責任をもって進めるべきものです。ただ、懲戒解雇を言い渡された当該労働者も、適正な手続きがどのようなものかを知り、自身の処遇が不当かどうかを判断する必要があります。手続きが不足している場合は、不当解雇を疑うようにしてください。
初動の調査が行われる
まず、懲戒解雇の理由となる問題行為が発覚したら、会社が初動の調査を行います。
関係者からの聞き取りや証拠の収集によって、事実関係の確認をするための重要なステップです。人事部やコンプライアンス部門が担当することが多いですが、懲戒解雇が予定される重大な事案では、社長や役員が直接担当したり、弁護士が関与したりするケースもあります。
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問題行為の指摘を受ける
次に、会社から対象者に対して、問題行為の指摘がなされます。
懲戒解雇が決まった場合に、予告後は解雇理由証明書によって理由を伝える必要があります。まだ処分決定前の段階でも、弁明を聞く前提として、どのような行為を問題視しているかを労働者に伝えられる必要があります。会社の指摘に不服なときは、どのような点で企業秩序違反となるのか、といった観点で質問したり、説明を求めたりする必要があります。
弁明の機会が付与される
懲戒解雇の手続きの流れのなかで、最も重要なのが、弁明の機会です。弁明の機会は、解雇となる可能性のある事実の指摘を受けて、労働者側が反論し、自身の立場や見解を説明する場です。
事実関係が異なる場合は、誤解や誤認を解く必要がありますし、おおむね正しい場合も、反省や謝罪を述べる機会となることもあります。どの程度の弁明の機会を付与する必要があるかは会社のルールで定められており、就業規則の規定を確認しておく必要があります。
弁明の機会に含まれるのは、例えば次のケースです。
- 労働組合との協議
- 人事部面談による弁明の機会
- 書面提出による弁明の機会
- 聴聞会の開催
- 懲戒委員会(懲罰委員会)の開催
重要なポイントは、労働者の意見を、会社が判断材料として処分結果に反映する必要がある点です。弁明の機会は、形式的に場を設ければよいのではなく、実質的に、労働者の意見を聞いて反映する役割を果たしている必要があります。
弁明の機会の重要性からして、これがない場合は手続きに不備ある懲戒解雇として、無効と判断される可能性が高いです(「懲戒解雇の手続きが適切でない場合の対応方法」で後述)。
懲戒委員会が開催される
懲戒解雇の重要性からして、懲戒委員会(懲罰委員会)などの特別な合議体で、処分の内容やレベルを決めることとする会社もあります。就業規則にこのような定めがある場合、適切な手続きの一環として、必ず開催する必要があります。
懲戒委員会は、社長や役員などの経営陣や、弁護士などの専門家で構成されるのが通例です。社長の一存や感情的な判断によらず、調査結果と弁明内容を審議し、慎重に決定するためのものです。なので、定めがあるのに開催しないのは不適切であり、不当解雇となる可能性が高まります。
解雇予告の除外認定が申請される
懲戒解雇であっても、原則として30日前に解雇予告をするか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条)。
ただし、懲戒解雇の場合、労働基準監督署に「労働者の責めに帰すべき事由」があったことを申請し、除外認定を得ることによって解雇予告手当を支払わずに即日解雇することができます。
「解雇予告手当の請求方法」「解雇予告の除外認定」の解説
離職票が発行される
懲戒解雇でも、他の退職と同じく失業保険を受給できます。そのため、解雇が決定した後は、離職票をもらっておく必要があります。離職票は、労働者が退職の後の生活保障として失業保険を得るために、非常に重要な書類です。
なお、懲戒解雇は、労働者の責任の大きい「重責解雇」として、自己都合退職の扱いとなるのが通例です。この場合、会社都合退職よりは不利な扱いとなり、7日間の待機期間の後、2ヶ月の給付制限期間を経過しなければ失業保険がもらえません。
「離職票のもらい方」「失業保険の手続きの流れと条件」の解説
その他の退職手続きがされる
懲戒解雇に特有の手続きだけでなく、労働者が退職するのに当然に必要な手続きも行われます。例えば次の手続きは、懲戒解雇でも当然に行われます。
- 社会保険(健康保険、年金保険)の資格喪失の手続き
- 最終給与の支払い
- 源泉徴収票の交付
- 住民税の特別徴収の中止
- 年金手帳の返還
- 貸与物の返却、私物の引取りなど
懲戒解雇の場合は感情的な対立が大きく、手続きが円滑に進められないことがあります。なかには「問題行為によって会社の負った損害と相殺する」と主張されて最終給与が払われなかったり、「最後の給料は手渡しとする」と通告されたりする例もあります。
労働者の同意なく、給料から損害賠償金や違約金を相殺することは禁じられています。また、労働基準法23条によって、退職時には、労働者の請求があれば7日以内に未払い給料を支払わなければなりませんから、退職手続きに協力しない会社の不誠実な対応は、労働基準法違反の可能性が高いです。
「給料未払いの相談先」の解説
退職金を受領する
懲戒解雇の場合に退職金を不支給ないし減額とする会社は少なくありません。しかし、懲戒解雇だからといって退職金をあきらめなければならないわけではありません。むしろ、懲戒解雇でも退職金は受領できるケースもあります。
退職金について、たとえ懲戒解雇が有効でも、これまでの勤続の功労を無くすほどの重大な違反行為でなければ、少なくとも退職金の一部は支払うべきとした裁判例も存在します。
懲戒解雇の手続きが適切でない場合は不当解雇の可能性が高い
懲戒解雇において手続きが重要視される結果、適切な手続きを踏んでいない懲戒解雇は、違法な不当解雇である可能性が高いです。
不当解雇になる理由
前述の通り、解雇には、解雇権濫用法理のルールによって「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。弁明の機会をはじめとした手続きは、正当な解雇理由があるかどうかをチェックする機能を果たします。
したがって、適切な事前チェックなく進められた懲戒解雇は、不当解雇の疑いが強くなります。ただでさえ、懲戒解雇という重大な処分には、それにふさわしい重度の企業秩序違反や不正行為がある必要があり、不当解雇になりやすい性質があります。
「不当解雇の裁判の勝率」の解説
適切な手続きを踏まない懲戒解雇が無効とされた裁判例
裁判例でも、懲戒解雇の手続きが適切かどうかが争点になるケースがあります。ここでは、弁明の機会を与えずにされた懲戒解雇が無効と判断された裁判例を紹介します。
東京地裁平成27年1月23日判決は、企業秩序違反行為に対して下された懲戒解雇について、事前に弁明の機会を与える必要があり、その機会を経ない場合は社会的相当性を欠き、懲戒権の濫用になると判断しました。
「懲戒処分は、企業秩序違反行為に対して認められる制裁罰であって、その手続きは適正に行われることを要する」「ことに懲戒解雇は、懲戒処分のうちもっとも過酷な処分であるから、その処分を行うにあたっては特段の支障がない限り、事前に弁明の機会を与えることが必要である」「かかる支障もないのに、事前の弁明の機会を経ないまま懲戒解雇を行うことは社会的相当性を欠き、懲戒権の濫用となる」
東京地裁平成27年1月23日判決
本裁判例では、弁明の機会を非常に重視し、これを欠いたことを理由にして懲戒解雇を無効であると判断したわけです。
「解雇を撤回させる方法」「不当解雇の解決金の相場」の解説
懲戒解雇の手続きが適切でない場合の対応方法
最後に、懲戒解雇に必要な手続きが踏まれていない場合の対応を解説します。
必要な手続きを履践していない懲戒解雇は、不当解雇になる可能性が高いため、解雇されてしまった労働者は自身の権利を守るために争う必要があります。
労働者からも積極的に弁明を伝える
懲戒解雇の手続きを適切に行わない会社では、弁明の機会がなく、労働者の意見を反映する機会を奪われるおそれがあります。このとき、黙って流れに身を任せるのでなく、労働者から積極的に弁明を伝える努力をすべきです。
口頭で伝えるのは限界があるので、弁明書を作成し、会社に送付するのがおすすめの方法です。できるだけ懲戒解雇が決まる前に行うようにしましょう。無視や放置の危険があるときは、内容証明で送付し、弁明を伝えたことを証拠化しておいてください。
懲戒解雇の理由を確認する
懲戒解雇の理由は、解雇前に適切な手続きが踏まれたならその際に伝えられるはずです。理由を知らなければ弁明や反論ができないからです。しかし、適切な手続きが踏まれないなら、解雇後速やかに解雇理由を確認する必要があります。
懲戒解雇の理由については、該当する就業規則の条文だけでなく、それに当てはまる具体的な事実や、労働者の問題点の指摘まで知る必要があります。反論できる程度に理由が聞けない場合は、具体化するよう質問を続けてください。労働基準法22条で、解雇予告を通知された後は、労働者の要求によって会社は解雇理由を書面で示す義務を負います。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
不当解雇の証拠を収集する
解雇理由に反論するには証拠が重要です。解雇理由に事実誤認があるときは、そのことを示す会社とのやり取り(メールやチャット、電話の録音など)を集めましょう。
解雇の証拠は様々なものがありますが、懲戒解雇の理由となった事情には労働者の非があるケースもあるでしょう。この場合もあきらめず「懲戒解雇にふさわしい理由かどうか」について弁護士のアドバイスを求めてください。
「不当解雇の証拠」の解説
弁護士に相談する
不当解雇を争う際には、労働問題に精通した弁護士に相談し、具体的なアドバイスを受けてください。懲戒解雇は特に重大であり、対応は慎重に進める必要があります。
その他に、労働組合や労働局もまた、不当解雇の相談窓口となります。ただ、各相談先は性質が異なり一長一短あります。主体的に交渉するサポートを求めるなら労働組合に、費用をかけずに小さな疑問を解消したいなら労働局への相談もよいでしょう。なお、労働基準監督署は、刑事罰の付いた労働法について監督する機関であり、不当解雇の問題には迅速な対応してくれないおそれがあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
不当解雇を裁判で争う
最後に、必要な手続きが踏まれていないことをきっかけとして、懲戒解雇が不当であると考え、不服を申し立てても、交渉が決裂する場合は話し合いでは解決できません。その場合は、労働審判や訴訟などの裁判手続で解決を図る必要があります。
「裁判で勝つ方法」の解説
まとめ
今回は、懲戒解雇の手続きについて解説しました。まずは企業側が、慎重かつ適切に手続きを進めるよう心がける必要がありますが、従業員側でも、どのような流れで手順が進むのかを理解し、不適切な点がないかどうか、吟味すべきです。
懲戒解雇の手続きの流れは、初動調査から始まり、弁明の機会の付与、追加調査、懲戒委員会(懲罰委員会)の開催や処分内容の決定、そして懲戒処分の通告へと進みます。このプロセスを納得感をもって進めるには、公正性と透明性が必要となります。懲戒解雇の重要性からして、社長や経営陣の一存で感情的に進めるのは不適切です。
必要な手続きを踏まない懲戒解雇は、プロセスに違法があるだけでなく、その内容もまた適切でなく、不当解雇の疑いが強いものです。正しい手続きが踏まれていないと気付いたら、早めに弁護士に相談ください。
- 懲戒解雇が労働者に与える不利益に配慮し、十分な手続きをしなければ違法
- 弁明の機会を付与して言い分を聞かずにされた懲戒解雇は、無効の可能性が高い
- 懲戒解雇の手続きの流れは、就業規則に定めるため、会社によって異なる
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