うつ病やケガで働けなくなり、休職を余儀なくされることがあります。体調が回復すれば職場に復帰できますが、休職から復職するときこそ、十分な準備が欠かせません。復職にあたって、職場への不安を抱く人も多く、労働問題が発生しやすいタイミングだからです。
円滑な復帰のためには、休職から復職までの流れを理解し、予想されるトラブルを未然に防ぐことが大切です。無事に復職できても気を抜かず、定期的に体調を確認しつつ、軽めの業務から徐々に慣らしていくようにしてください。うつ病などの精神疾患は再発しやすく、細心の注意を要します。万が一、復帰後の職場環境に違法な点があるなら、迷わず会社に改善を要求すべきです。
今回は、休職から職場復帰までの具体的な流れと、復職時・復職後に注意すべきポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
休職と復職とは
まず、「休職」と「復職」の意味について解説します。
休職とは、業務外のケガや病気を理由に、一定の期間仕事を休むための制度であり、会社側の理由で仕事が休みになる「休業」や、本来の労働日の労働義務が免除される「休暇」とは異なります。休職は、就業規則や労働契約に定める条件に従って利用できる制度で、休職する権利が法律上保障されるわけではありません。休職制度の有無や、条件・期間は会社ごとに取り決めが異なりますが、休職中も雇用関係は維持される代わりに、無給とされる例が多いです。
復職とは、休職から職場に復帰することを指します。休職者がスムーズに復帰できるよう、復職時の手続きやサポート体制を会社が整備し、健康面に配慮する必要があります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
休職から復職して職場復帰するまでの流れ
次に、休職から復職に至る一般的な流れについて解説します。
休職期間が満了しても復職できない場合、退職となってしまうため、退職を避けてスムーズに職場復帰するためには、復職までの手順をしっかり把握しなければなりません。ブラック企業では、辞めさせたい労働者の復職を妨害し、退職を強いるケースも見られるため、このような不当な扱いに対抗するためにも正しい知識が必要となります。
就業規則の休職規定を確認する
休職制度は会社ごとに異なるので、就業規則などで、休職の条件や期間、必要な手続き、給与の有無を確認しましょう。例えば「勤務年数2年以上の社員に、半年間の休職を命じることができる」というように、一定の勤続を条件とすることが多いです。
一定期間の欠勤を経て休職となり、休職期間の満了までに職場復帰できれば「復職」、回復が見込めない場合は「自然退職」となるのが通常です(休職期間を延長することができるケースもあります)。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
医師の診断書を取得する
休職を申請する際、会社に「休職が必要である」と判断してもらうため、医師の診断書を提出する必要があります。通常は主治医の診断書で足りますが、詳しい症状を把握するため、産業医の診察や主治医との面談を指示されることもあります。
「会社に診断書を出せと言われたら」の解説
会社に休職の申請を行う
次に、休職申請を行います。会社が診断書を確認して「休職が相当である」と判断すると、休職命令が発令されます。
休職は、会社の命令に基づくもので、(条件を満たしても)労動者に休職する権利があるわけではありません。休職の可否の最終判断は会社に委ねられ、申請が拒否されることもあります。ただし、休職を経ずに解雇するのは不当解雇となる可能性があります。休職が認められず辞めさせられたときは、不当解雇として争うことを検討しましょう。
「休職を拒否されたときの対応」の解説
傷病手当金の申請を行う
休職中は、傷病手当金を申請しましょう。傷病手当金は、病気やケガで4日以上休職する際に、生活費をサポートするため健康保険から支給される給付金で、標準報酬日額の3分の2が、最長1年6ヶ月にわたり支給されます。
なお、休職に至った原因が職場の問題にあるときは、労災申請をして、認定を受けられば労災保険から手厚い給付を受け取ることができます。
「労災の条件と手続き」の解説
定期的に健康状態と復職の見通しを報告する
休職中も、健康状態や回復の見通し、復職の目安などを会社に定期的に報告する必要があります。休職中でも、会社には社員の健康状態を把握する義務があるからです。治療状況をしっかり伝えることは、スムーズな復職に役立ちます。報告を受けた会社側も、健康状態に応じた復帰の支援や業務の調整をしやすくなるからです。
なお、休職中の会社からの連絡が過剰なときは、違法となる可能性があります。休職者への接し方が適切かどうか、慎重に検討してください。
「会社の人が家に来るのはパワハラ?」の解説
主治医から「復職可能」の診断書を得る
休職期間の満了が近づき、復職を希望する場合、主治医と相談しましょう。自身の判断だけで行動せず、必ず医師の見解をもとに今後の進退を決めてください。
復職時にも診断書が求められるのが一般的です。主治医の診断書は、症状や治療経過だけでなく、「復職可能」である理由が説得的に記載されることが望ましいです。ただ、復職の可否は会社の判断であり、医学的な意見は参考に過ぎません。そのため「復職可能」の診断書があっても、必ず会社が復職を認めるとは限りません。
悪質な会社では、復帰可能な程度に回復しているにもかかわらず復職を拒絶されたり、「居場所がない」「任せる仕事がない」などと言って辞めさせたりする例もありますが、いずれも不当な扱いであり、会社と戦うべきケースです。
「復職させてもらえないときの対策」の解説
会社に復職の意思を伝える
復職の意思を会社に伝えるには、「復職願」「復職届」といった書面の提出手続きを要する例が多いです。受理されると「復帰できるかどうか」を会社が判断します。
復職可能と判断されるには、休職前に従事した業務を支障なく遂行できる程度に回復していることが原則です。ただし、裁判例は、現実的に配置可能な、軽易な作業ができるなら、復職させるべきであると判断する傾向にあります(エールフランス事件:東京地裁昭和59年1月27日など)。この判断では、労動者の能力や経験、地位、企業規模や業種、配置や異動の実情などが考慮されます。
復職を望むなら、単に意思を示すだけでなく、自ら積極的に、どのような方法ならスムーズに復帰できるのかを示し、会社に配慮を求めることが大切です。特にうつ病は完治が難しく、再発する危険性も高いため、「復職できる程度に回復しているかどうか」の判断が労使で異なるおそれがあります。
復職面談を実施する
復職の可否判断のため、会社と面談が実施されます。
まず、人事労務の担当者との面談が行われ、休職中の状況や復職時の条件などについて質問をされます。次に、産業医との面談を求められることもあります。主治医は一般に「日常生活が可能かどうか」を判断しますが、業務内容を考慮して「労働が可能かどうか」については産業医の意見が必要と考えられるからです。うつ病や適応障害では特に、「日常生活は問題ないが業務遂行は困難」というケースもあります。
会社から、産業医や指定医を受診するよう指示されるのは、業務命令であり、かつ、復職の希望を叶えるためにも、従うのがよいでしょう。
面談は時間通り参加し、急なキャンセルや遅刻は避けましょう。遅刻や欠席は、体調管理の不足であるとみなされるおそれがあり、復職を不安視されかねません。企業によっては、始業時刻に面談を設定し、勤怠を守れるかどうかを判断する例もあります。
復職後の勤務条件とサポート体制を確認する
職場に復帰する際は、復職後の勤務条件やサポート体制を必ず確認しましょう。
長いブランクがあると、休職後、いきなり元の職場に戻るのは難しいこともあります。無理をすればかえって休みがちになってしまうなど、再発リスクも考慮すると、当面の間は配慮が必要となります。
復職前に確認すべき項目は、例えば以下のものです。
- 担当する職務の内容と業務量
- 始業・終業時刻、残業の有無
- 部署異動や転勤の可能性
うつ病などの精神疾患からの復職時は、給与が減額されてトラブルになるケースもありますが、同意のない減給は違法となる可能性があります。復職することができた場合、業務遂行が可能な程度に労働能力は回復しているとみなされるので、休職前の給与額は維持されるべきです(なお、時短勤務やリハビリ勤務の場合は、労働時間の変更などに伴う減給は適法となる可能性があります)。
よくある復帰支援のサポートには、次の例があります。
- リワークプログラムが適用される
- 復職後しばらくは、本来の業務より軽い作業を行う
- 一定期間は残業を命じることが制限される
- 復職の直前1週間、自宅から会社までテスト通勤をさせる
- 復職からしばらくは午前勤務とする
復職できたからといってすぐに無理をさせ、悪化させたり再発させたりしてしまったときは、会社に安全配慮義務の違反があると考えられます。
「安全配慮義務」の解説
復職後も定期的に体調を確認する
復職できても気を抜かず、医師のアドバイスに従って健康には気を使いましょう。職場復帰後は、環境の変化が大きく、疾病が再発してしまうリスクがあるからです。
健康の維持が求められるのは、労動者に課された「自己保健義務」の一環でもあります。労動者が、自身の健康への配慮を怠ったことで、再度の休職をせざるを得なくなった場合、休職を繰り返していると、最終的には休職の条件を満たさず、退職を余儀なくされるおそれがあります。
なお、再休職の条件については「同じ傷病による休職は2回までとする」「休職期間は通算して3年までとする」といった制限を定める例もあります。
「労動者の自己保健義務」「休職を繰り返すとクビになる?」の解説
休職から円滑に復職するための注意点
休職から復職する流れを理解したところで、スムーズに復帰するために注意すべきポイントについて解説します。
うつ病で休職しても、円滑に復職できれば社会復帰を早められます。しかし、復職のタイミングには多くの関係者の思惑が絡み合い、難しい判断となります。会社(社長)や上司に加え、主治医や産業医、弁護士などの専門家が関与するので、うまく調整しなければ、思わぬ不利益を被ります。
休職期間中は治療に専念する
円滑に復職するために、休職中は治療に専念してください。労働者には「早期に復職できるよう療養に専念する義務」があると考えられ、この義務を怠っていることが発覚すると、会社に責められ、復職の支障となってしまいます。
気分転換やリフレッシュが回復の役に立つこともあるので、旅行や趣味の活動が一切禁じられるわけではありません。しかし、休養の一環として外出するにしても、SNSに投稿したり、同僚に話して職場の話題になってしまったりするのは自粛すべきです。このようなことは、休職から復帰したときに周囲の反感を買ったり、迷惑に思われたり、冷たい態度を取られたりする原因にもなります。
「うつ病で休職して退職するのはずるい?」の解説
体調に配慮した業務内容の調整を依頼する
休職明けにもかかわらず、いきなり従前の業務に戻るのは難しい場合が多いでしょう。このとき、休職明けの体調に配慮した業務にしてもらえるよう、会社に調整を依頼しましょう。具体的には、以下の配慮を求めることが考えられます。
リワークプログラムの利用
復職支援のため、リハビリ勤務やリワークプログラムを制度化する企業があります。リワークプログラムでは、しばらくは軽作業や定型業務を担当したり、残業を制限したりすることで段階的に職場復帰を進めます。この方法は、復職後の配慮という点だけでなく、復職の可否判断において、業務能力の回復を慎重に見極める手段としても有効です。
部署異動や業務量の調整
部署の異動や業務量の調整といった配慮を要することもあります。業務内容が契約で限定されているとしても、従前の業務に直ちに戻すのではなく、配置可能な軽易な作業を担当させるべき場合もあります。例えば、ストレスのかかる接客業務を他の社員に代わってもらうなど、周囲の理解を得ることも大切です。
時短勤務やリモートワークの活用
時短勤務やリモートワークの活用も、ワークライフバランスを維持し、休職から復帰後の負担を減らす役に立ちます。なお、時短勤務でも業務量が多すぎると自宅に持ち帰って作業する羽目になり、意味がありません。リモートワークは公私の境が曖昧になりがちなので、違法な運用となりやすいリスクを考慮して活用するのが大切です。
「長時間労働の問題点と対策」の解説
復帰後の精神疾患の再発を避ける
復職できても、再び症状が悪化するケースもあります。うつ病や適応障害などの精神疾患は完治が難しく、症状も目に見えないため、外からは再発がわかりません。しかし、厚生労働省の統計によれば、メンタル不調で休職した社員の約半数が、復職後5年以内に再発して休職しています。
再び悪化したときどのように処遇するかも、就業規則に定められます。同一の傷病によって再度求職する場合、休職期間を通算する扱いとすることが多いです。このとき、再発を重ね、休職と復職を繰り返すと、退職させられやすくなってしまいます。
「うつ病で解雇されたら違法?」の解説
休職後に復職する人の対応と会社のフォローアップ
最後に、休職から復職した人が、その後にすべき適切な対応と、会社のフォローアップについて解説します。再発を防ぐために、できる限りの対策を講じるようにしてください。
無理せず段階的に業務に慣れる
「復職可能」は「完治した」という意味ではなく、「業務が遂行できる程度に回復した」というに過ぎません。軽作業ばかりで物足りないかもしれませんが、早く復帰したいからといって焦りは禁物です。すぐに体力が戻らないこともあるので、段階的に業務に慣れていくべきです。会社も、無理して再休職を招くより、ゆっくり時間をかけて復帰させ、安定して働けることを優先するはずです。
体調やメンタルの不調が生じたら早期に対応する
復職後に不調を感じたら、必要に応じて欠勤するか、有給休暇を取得しましょう。職場復帰してすぐ休むのは気が引けるでしょうが、無理は禁物です。再度の休職が必要なら、その条件や残期間を確認して再申請しましょう。傷病手当金も、通算で1年6ヶ月まで受給できます。周囲の目を気にして無理をすると、健康が損なわれ、働き続けるのが難しくなってしまいます。
また、復帰後の配慮が不十分なせいで体調が悪化した場合には、労災として認定を得られる可能性があります。労災認定されれば、労災保険の補償を受けることができるほか、会社の安全配慮義務違反の責任を追及し、慰謝料その他の損害賠償を請求できる可能性があります。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説
職場環境に問題がある場合は改善を提案する
復帰後の職場環境に問題がある場合には、我慢せず、会社に改善を提案しましょう。再発の予防だけでなく、類似のトラブルがほかの社員に発生するのを防ぐためにも重要です。
もっとも、労働者が問題提起をしても、会社が改善に前向きでないケースもあります。社内の相談窓口では適切な対応をしてもらえないときは、労働組合に交渉を依頼したり、労働基準監督署や弁護士といった社外の相談窓口に連絡したりすることも有効です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、うつ病などの精神疾患やケガにより長期の休職をせざるを得なくなった方に向けて、休職や復職の際に注意すべきポイントを解説しました。
休職後の復職は、体調の回復だけでなく、職場への再適応や業務量の調整といった様々な課題があります。復職のタイミングは労働トラブルが生じやすい時期であり、会社と密なコミュニケーションをとることで復帰後のトラブルを予防することが重要です。精神疾患の場合、症状が外から見えにくく、労使間の意見が対立しやすいため、復職時のトラブルの元となりがちです。
復職にあたっては、軽い業務やストレスの少ない作業を希望するなど、自身の体調に配慮しながら業務に臨むことが大切です。しかし、会社側の対応に問題があると、復職が認められず退職させられてしまったり、健康への配慮が不十分なまま復帰を強いられたりする危険があり、最悪の場合は再度の休職を余儀なくされることもあります。
休職や復職に際し、会社とのトラブルが予想されるときは、問題が深刻化する前に弁護士に相談することをお勧めします。
【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
【過労死】
【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】
★ メンタルヘルスの問題まとめ
【メンタルヘルスの問題】
【うつ病休職について】