セクハラやパワハラなど、企業内のハラスメントに対する認識は、年々高まっています。ただ、なかには言いがかりや過剰反応といえる被害の訴えもあります。
「さすがにハラスメントにならないだろう」と思っても、加害者といわれてしまうことも。「年賀状がハラスメントだ」という訴えも、その1つです。自分では常識の範囲内と思っても、ハラスメントといわれないよう注意が必要です。
年配の方ほど「社会人なら年賀状を出すのは当然だ」と考える方も多いでしょう。しかし、最近の世代では、年賀状を出さない人も増えています。社内のマナーとして自分の常識を押し付けると、不幸なハラスメント加害者を生む原因になります。
今回は、年賀状にまつわるハラスメントの問題と、注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
ハラスメントとは
年賀状がハラスメントになるかを知るため、まずはハラスメントがどんなものか解説します。
ハラスメントは、職場における嫌がらせのことを指します。代表的なものに、セクハラ、パワハラがありますが、これに限りません。
セクハラとは、性的な言動による嫌がらせ、パワハラは、優越的な地位を利用した嫌がらせ。嫌がらせに使う手段が違うだけで、いずれもハラスメントに変わりはなく、違法です。
ハラスメントにあたる言動が行き過ぎると、不法行為(民法709条)にあたります。そのため、相手に与えた精神的苦痛について、慰謝料を請求されてしまいます。
違法かどうかの判断は、「相手が同意しているかどうか」が重要です。その言動の内容、悪質さ、頻度や回数などからして、不快だと思わせる行為であれば、違法といわれてしまいます。ハラスメント被害をはじめ、労働トラブルは弁護士に相談するのが適切です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
年賀状がハラスメントになるケースとは
次に、年賀状があたるハラスメントの種類に応じて、具体例を紹介します。
年賀状を出すこと自体は、法的な問題はありません。しかし、問題ない年賀状も、一歩間違えると、ハラスメントになるおそれがあります。
違法なハラスメントだと、被害者から慰謝料請求されるリスクがあります。場合によっては会社が責任を負わされることもあります。年賀状をめぐる些細なトラブルで、信頼を失ったり、評価が下がって出世に響いたりする危険もあるのです。
年賀状を出す行為は、ごく何気なく行う人も多いでしょう。しかし、セクハラ、パワハラなどハラスメント問題に発展すれば、失った信頼を回復するのは容易ではありません。
年賀状がセクハラになる場合
年賀状がセクハラになる場合には、次の例があります。
- 女性社員の住所を調べあげ、年賀状を送る
- 年賀状に「今年はもっと仲良くしたい」と親密すぎるコメントを書く
- 年賀状でデートの誘いをする
- 年賀状に、親密すぎるコメントを書く
- 年賀状で、性的な不快感を与える
- 年賀状で「キレイだね」と容姿を褒める
セクハラは、性的な言動により相手に不快感を与えることと説明しました。そのなかには、労働条件の不利益などと引き換えに性的言動を強要する「対価型」と、性的な言動により職場環境を悪化させる「環境型」とがあります。
年賀状は、家庭や家族に関わることなので、職場の人に送っても、プライベートな部分もあります。未婚の人で、自分が結婚していないのを気にしていて、「他人の幸せな家族の写った年賀状はもらいたくない」「不快だ」という考えの人もいます。
「セクハラの相談窓口」「セクハラの慰謝料の相場」の解説
年賀状がパワハラになる場合
パワハラとは、職場における優越的な地位を利用した嫌がらせだと解説しました。職場内の立場や、人間関係を利用して不快感を与えれば、パワハラになります。
年賀状がパワハラに当たる場合には、次の例があります。
- 年賀状を送り、返信を強要する
- 年賀状を送らなかった部下をしかる
- 年賀状にお礼をいわないと「常識はずれだ」と人格否定する
- 年賀状を送らなかったことを理由に社員の評価を下げる
- 年賀状に、今年の目標など過剰な期待を書いてプレッシャーを与える
年賀状を送り合うのが常識かどうかは価値観の問題なので一概には言えませんが、少なくとも業務とは無関係です。そのため、年賀状を送らなかったのはあくまでプラベートな理由であり、能力評価に影響させるのは不適切です。上司・部下だけでなく、先輩・後輩や同僚間でも、逆らえないなら年賀状はパワハラになりえます。
年賀状を出すために住所を聞くのもハラスメント?
年賀状を送るには、まず住所を知る必要があります。しかし、住所は、高度な個人情報で、「知られたくない」という人もいるでしょう。年賀状を送るために住所を聞く行為もまた、ハラスメント問題の引き金となるおそれがあります。
年賀状を出したいからと、理由を明らかにした上で住所を聞くことには問題はありません。年賀状は、社会人のあいさつマナーとして、浸透しているからです。これは、年賀状を出すこと自体には問題がないことでもわかります。
しかし、拒否されたら、それ以上住所を聞こうとするのはやめましょう。年賀状を送りたいという意味であっても、住所を言うよう強制するのはハラスメントです。
同じく、上司の権限で会社の住所録を調べたり、パソコンにアクセスして調べたりするのも不適切です。
住所を教えるよう強く迫るケースでは、単に「年賀状を出したい」という以上の意図を疑われてもしかたありません。つまり、嫌がらせしてやろうというならパワハラですし、「恋愛関係になりたいから、きっかけに年賀状を送りたい」など、性的な意図があって住所を聞いていたならセクハラといわれてもしかたありません。ストーカー行為など、犯罪に発展するケースもあります。
現在は、ネットやSNSが普及し、新年の挨拶もメールやLINEに置き換わりつつあります。若い世代は、紙の年賀状のやりとりに抵抗のある人もいます。
住所を知られることには、私生活を脅かされるリスクもはらんでいますから、センシティブな問題です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
職場の年賀状がハラスメントにならないための注意点
最後に、職場での年賀状が、ハラスメントにならないために、注意すべきポイントを解説します。
年賀状を送ったり、住所を聞いたりすることが、セクハラ、パワハラに発展しないよう注意が必要です。日本では一般的な慣習だったはずの年賀状も、ハラスメントの理由となるのです。
年賀状を強制しない
まず、年賀状を強制してはいけません。年賀状は、業務とは無関係なため、業務命令して命じるのも不適切です。ハラスメントとは、不快に思わせてしまうこと。そのため、とにかく無理強いしないことが、ハラスメントを避けるには大切です。
相手に「嫌だ」と思われてしまえば、ハラスメントの危険があります。年賀状について一度でも難色を示されたなら、それ以上深追いして強制しないようにしてください。これは、「年賀状を出す」のはもちろん、「年賀状を返す」のも同じことです。
年賀状の文面で、不適切な表現は避ける
強制的に返事させたり、挨拶させたりするのはハラスメントですが、年賀状を出すのは問題ではありません。ただ、年賀状の文面には、くれぐれも注意が必要です。
不適切な表現や文面だと、セクハラ、パワハラなどのハラスメントにつながります。年賀状の文面が、過剰な期待などのプレッシャーになればパワハラ。性的な誘いであればセクハラにあたるおそれがあります。社長や上司からの年賀状だと、それだけでもストレスを感じさせます。命令口調で書かれれば、「逆らったらまずいのでは」という印象を与え、パワハラになりかねません。
「パワハラにあたる言葉一覧」「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
プライベートに立ち入らない
年賀状は、業務には関係ないのが原則です。今年の目標やモチベーション管理に使われる例もありますが、内容の大半はプライベートに関することでしょう。しかし、職場の人の私事に、過度に干渉する行為は、ハラスメントになります。パワハラの一種であるのは当然、性的な意図があればセクハラにもなります。
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説
個人情報の扱いに注意する
年賀状を出すために知った住所の扱いにも注意が必要です。
仲良い関係を築けたと思っていても、相手は嫌々だったケースもあります。また、あなたには住所を知られてもよい、年賀状を送ってもよいと考えていても、職場内の嫌いな人にはどうしても住所を知られたくないというケースもあります。
このようなとき、個人情報の扱いには注意を要します。仮に、住所を誰かに知られたことをきっかけに、ストーカーなど犯罪被害にあってしまったら、ハラスメント問題を超えたもっと大きな問題となってしまいます。住所などの個人情報は、不用意に漏らさないよう気を付けましょう。
「労働問題の種類と解決策」の解説
まとめ
今回は、年賀状にまつわるハラスメント問題と、その注意点について解説しました。
年配の世代ほど、年賀状は馴染み深く、いわば常識といえるでしょう。しかし、上司や管理職の世代と、最近の若い世代とでは、常識が共有できていません。年賀状文化が廃れて、社内で年賀状を出し合うのはもはや当たり前とはいえません。
むしろ、年賀状のタイミングでプライバシー侵害が起こってしまえば、ハラスメントといわれます。無意識にハラスメント加害者とならないためにも、相手の気持ちに配慮した対応が不可欠です。
【パワハラの基本】
【パワハラの証拠】
【様々な種類のパワハラ】
- ブラック上司のパワハラ
- 資格ハラスメント
- 時短ハラスメント
- パタハラ
- 仕事を与えないパワハラ
- 仕事を押し付けられる
- ソーハラ
- 逆パワハラ
- 離席回数の制限
- 大学内のアカハラ
- 職場いじめ
- 職場での無視
- ケアハラ
【ケース別パワハラの対応】
【パワハラの相談】
【加害者側の対応】