給料未払いは深刻な不利益があるので、悪質な場合「罪なのではないか(犯罪なのではないか)」と疑問に思うことでしょう。結論として、給料未払いは罪になるため、罰則による制裁をプレッシャーに、会社に対して支払うよう強く要求することができます。
給料の未払いは犯罪ではないでしょうか?
残業代を払わない社長に罰則を与えたい!
働いた対価が正当に払われないと、生活に支障が生じるため、「給料を早く支払ってほしい」と思うのは当然の願いです。ブラック企業による給与の未払いは犯罪であり、悪質なケースでは逮捕してもらい、刑罰によって制裁を加えることができます。ただ、告訴・告発をする先は、警察ではなく、労働基準監督署となる点に注意してください。
今回は、給料未払いが罪なのか、罰則や警察に相談した際の対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。逮捕、起訴、そして罰則による制裁を下されるとなれば、悪質な企業も、未払いの給料を速やかに支払ってくれると期待できます。
- 給料や残業代の未払い、最低賃金法違反といったケースは刑罰が科される
- 罪となり、逮捕してもらうには、法違反の悪質性を説得的に説明する
- 給料未払いを立件してほしいなら、告訴・告発先は警察ではなく労働基準監督署
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給料の未払いが罪となる場合とは
まず、給料未払いが罪となるケースがどのようなものか、解説します。
給料未払いが生じても、まずは会社と話し合い、その理由の確認から始めます。交渉で解決できないにしても、弁護士に相談して訴訟を起こすなど、民事事件として解決するのが通例です。
しかし、給料の未払いが労動者に与えるダメージは深刻であり、数ある労働問題のなかでも厳しい制裁が下されるべきです。そのため、給料未払いは罪となり、刑罰による制裁を下すべき場合があります。刑罰による制裁があるということは、刑事事件化されれば、逮捕、送検、そして起訴され刑事裁判、といった流れで進めていくことができるのです。
労働基準法違反の罪
労働基準法24条は、賃金の支払いに関するルールについて「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めます。同条の違反については労働基準法120条で30万円以下の罰金という罰則が科されています。
以下の態様による未払いは、労働基準法違反となります。
毎月の給料が全く払われない場合
最も悪質なのが、毎月の給料が払われないケースです。
労働基準法は、給料を毎月定期的に支払うべきことを定めます。このルールが破られると、労動者の最低限の生活すら危ぶまれてしまいます。「健康で文化的な最低限度の生活」は、憲法の保障する重要な人権なので、これを侵害する給料の未払いには罰則があるのです。
「未払い賃金を請求する方法」の解説
給料の一部しか支払わない場合
給料は、決められた金額を、全額支払う必要があります。
一部は払ったとしても、満額の支払いがなければ法違反です。不当に減額して払う場合のほか、ミスの責任や損害賠償といった名目で給料から不当な控除をすることも、犯罪となる給料未払いに含まれます。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
支払い期日を過ぎても賃金が支払われない場合
給料は、支払日ごとに受け取ることができます。経営状況が苦しくても、「来月まで待ってほしい」といった交渉は許されません。労働契約で約束した支払日に遅れるのは違反ですから、いわゆる給料の遅配もまた、労働基準法違反の犯罪となります。
「遅延損害金の利率と計算方法」の解説
雇用契約書に定めた金額より少ない給料しか払わない場合
雇用契約書に定めた金額は、労働契約の内容となり、当事者である労動者の同意のない限り、会社が一方的に変更することは許されないのが原則です。そのため、給料を払っていると会社が考えていても、その金額が契約内容よりも少ない場合には、差額は未払いとなり、労働基準法違反の罪となる可能性があります。
「労働条件の不利益変更」の解説
残業代が払われない場合
残業代もまた、労働の大切な対価であり、生活の重要な糧となります。労働基準法37条は、「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて働いた場合、25%以上の割増賃金(残業代)を支払う義務を使用者に課しており、残業代の未払いについては、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰があります(労働基準法119条)。
「残業代の計算方法」の解説
最低賃金法違反の罪
給料が一応は払われていたとしても、最低賃金を下回っている場合には違法です。
最低賃金法は、賃金の最低限度を定めることによって労働者の生活を守っています。そのため、労働基準法と並ぶ重要な法律であり、その違反について6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰による制裁を定めています。最低賃金法に違反するほどの低い給料では、正当な対価が支払われているとは到底いえません。
「基本給が低いことの違法性」の解説
給料未払いの罰則は?
給料未払いが罪になるということは、罰則の定められた犯罪であるということです。その罰則は、前章の通り、次のようにまとめることができます。
幅のある定めとなっているものを「法定刑」と呼び、このなかで、未払いの続く期間、額や悪質性などを考慮して、最終的には刑事裁判で量刑が決められます。悪質な給料の未払いでは、会社に罰金が科されるだけでなく、経営者個人の刑事責任が問われ、罰則が科されることがあります。
給料未払いをはじめとした、犯罪となるような労働基準法違反を犯す企業を監督し、是正するのが、労働基準監督署(労基署)の役割です。そのため、労基署は、企業の助言指導、是正勧告をするほか、立ち入り調査などによって犯罪行為を発見したときには、警察と同様に、逮捕、送検するという強い権限を有しています。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
給料未払いを警察に相談しても対応してもらえないのが原則
給料未払いは、原則として警察が対応する問題ではありません。そのため、警察に相談しても、対応してもらえないのが通常です。
その理由は、未払い賃金の問題は、民事事件だからです。労動者と企業の契約違反についてのトラブルは、民事事件であり、警察が管轄する刑事事件とは区別されます。まずは労使間で話し合って解決すべき問題であり、交渉で決着しないにしても、未払い賃金請求の訴訟で争うのが適切です。
本解説の通り、給料未払いをはじめとした労働法違反の一部は、刑事罰による制裁を定めていますが、労働分野の専門的な機関である労働基準監督署が管轄します。労基署に所属する労働基準監督官は、労働基準法、最低賃金法違反といった罪について、司法警察官の職務を行います。このような法律に限り、警察と同等の権限を有し、逮捕や送検ができるのです(労働基準法102条)。
なお、労働分野におけるトラブルでも、次のケースでは、警察が介入することがあります。
以上の例から分かる通り、通常の給料未払いについては、警察が動くことはなく、次章の通り、労働基準監督署と弁護士に相談するのが効果的です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
給料未払いを刑事事件化(逮捕・起訴)するには?
次に、給料未払いについて刑事事件化させる方法について解説します。
給料を払おうとしない社長を逮捕させ、刑事罰を科してもらいたいと考えるなら、労働基準監督署と弁護士に相談する方法が有効です。
労働基準監督署に告訴・告発する
犯罪行為について、被害者が捜査機関に処罰を求めることを「告訴」といいます(被害者以外がする場合は「告発」)。給料未払いの犠牲になった労動者は、告訴をすることができ、相談先としては、労働法違反について警察と同等の権限を有する労働基準監督署が最適です(具体的には、勤務先の所在地を管轄する労基署)。
労働基準監督署は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法に代表される、刑罰のついた労働法の違反がないかどうか、企業を監督するための行政機関です。告訴があると、立入検査(臨検)や助言指導、是正勧告といった権限を駆使して、悪質な法違反を発見したときには、逮捕、送検して刑罰を科す流れとなる場合があります。
なお、告訴したことが不利益に扱われることはありません。また、労働基準監督署の調査権限は、法律で強く保護されていて、立入検査や資料提出を拒否したり妨害したりすることも、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰の対象とされています。
「労働基準監督署への通報」の解説
弁護士に告訴のサポートを依頼する
労働基準監督署がなかなか動いてくれないときは、弁護士に告訴を依頼するのも有効です。弁護士名義で告訴状を作成したり、労働基準監督署に同行してもらったりすることで、告訴を受理してもらいやすいよう働きかけることができるからです。
給料の未払いは、労働基準監督署においても軽く見られ、残念ながら、逮捕や罰則まで科されないケースもあります。しかし、違法であることに違いはなく、深刻さをしっかりと伝え、速やかに対処する必要があることを強く訴えかけるべきです。
また、弁護士に相談すれば、刑事事件として動いてもらえない場合でも、民事事件として、未払いの給料や残業代を請求するサポートも受けられます。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説
罪となり逮捕してもらいやすくするためのポイント
次に、罪となり逮捕してもらいやすくするために知りたいポイントを解説します。
給料に未払いがあっても、全ての案件で、すぐ逮捕して、刑罰を科してもらえるわけではありません。むしろ、「労働法違反があるのに、労働基準監督署が動いてくれない」といった相談も、弁護士のもとには多く寄せられています。
労働法違反の悪質さを主張する
罪となり逮捕されるのは、法違反が悪質なケースに限られます。
形式的には、給料のごく一部の未払いでも労働基準法違反には違いありませんが、違法性が軽微だと、労働基準監督署は動いてくれないおそれがあります。助言指導や是正勧告によって違法状態が解消されれば、罰則によるそれ以上の制裁は下されずに終了することも少なくありません。したがって、逮捕、送検して刑事事件化してもらうには、次のような悪質さを強く主張すべきです。
- 助言指導の後も全く改善されていない
- 経営者に反省の態度がない
- 他の社員も同様の問題に悩まされている
- 再監督でも同じ法違反が発見された
- 重大な法違反が長年にわたって続いている
労基署に、問題を理解してもらい、説得的に説明するには、証拠を準備し、時系列でまとめたメモを用意するなど、事前の準備を怠らないでください。
「労働基準監督署が動かないときの対処法」「残業の証拠」の解説
複数人の同僚と告訴する
自分以外にも、同じ労働問題で苦しむ人がいるなら、一緒に告訴するのがお勧めです。給料の未払いが全社的に生じているなら、悩んでいるのはあなただけではありません。複数人で告訴すれば、困っているのが一人ではないと伝え、問題の深刻さを理解してもらえるでしょう。足し合わせれば、給料や残業代の未払い額(被害額)も相当高額だと考えられます。
事前相談を活用する
労働者の心身にかかわるような緊急性の高いケースでは、すぐに告訴が受理される例もあります。しかし、残業代や給料の未払いは、深刻なものの緊急性はさほど高くありません。
そのため、すぐに告訴するのではなく、まずは労働基準監督署に事前相談しておきましょう。会社の違法性を継続的に伝え、相談し続けることで、違法を是正しがたいこと、将来も続くであろうことを労働基準監督署に理解させ、罪として逮捕してもらいやすくなるからです。
「給料未払いの相談先」の解説
犯罪となる給料未払いについてのよくある質問
最後に、犯罪となるような悪質な給料未払いについて、よくある質問に回答します。
社長や役員の刑事責任を追及できる?
給料未払いの刑事責任は、会社だけでなく、社長や役員に追及することができます。残業代未払いなどは、代表者や役員の逮捕がメディアでよく報道されます。
会社が負う罰則は、罰金に過ぎず、あまりに悪質な違反に対しては制裁として不十分となってしまうおそれがあります。このとき、社長や役員も逮捕、送検し、懲役刑などの重い制裁を科す必要があります。
給料未払いの刑事責任はいつまで追及できる?
労働基準法違反の罪は非親告罪であり、告訴の期限はありません。
ただし、告訴によって、逮捕されたり刑罰を科されたりするのには、「公訴時効」という期限があります。公訴時効は、最高刑によって定められ、給料未払いに関する労働基準法違反の罪の場合、3年が期限です(刑事訴訟法250条2項6号)。
なお、残業代請求を民事事件として行う場合、その時効もまた3年です。
「残業代請求の時効」の解説
給料未払いのまま社長が逃亡したら?
給料を払わない社長が逃亡した場合、大至急逮捕してもらう必要があります。罪を犯した上に逃げたとすれば、身柄拘束の要件を満たすと考えられるからです。速やかに労働基準監督署に告訴し、逮捕してもらえるよう働きかけましょう。
なお、社長が逮捕されたとしても、給料は会社との間の労働契約に基づいて払われるものであり、社長個人が支払うものではありません。
「社長が失踪して音信不通のとき」の解説
まとめ
今回は、給料未払いが罪になるのか、罰則はあるか、逮捕してもらえるのかといった、給料未払いの刑事的な側面について解説しました。民事事件として給料を請求しても支払われない場合、刑事事件化してもらうのが最終手段となります。
給料未払いは、労働基準法違反であり、刑事罰が定められているため、会社の刑事責任を問うことができます。ただし、一般的な刑事事件とは違い、警察ではなく労働基準監督署(労基署)が管轄します。労基署に申告し、逮捕、送検されれば、罰則を科される可能性が高まるので、未払いを繰り返す企業に対して強いプレッシャーを与えることができます。
給料未払いが刑事事件となるのは、悪質なケースに限られます。逮捕などの身柄拘束、罰則による制裁は、強力な分、相当悪質なケースにしか行うことができません。
刑罰を科すには、弁護士に依頼し、告訴をする手が有効です。労働法に詳しい弁護士なら、法違反の悪質さを説得的に説明し、逮捕、起訴などのプロセスに進みやすくすることができます。
- 給料や残業代の未払い、最低賃金法違反といったケースは刑罰が科される
- 罪となり、逮捕してもらうには、法違反の悪質性を説得的に説明する
- 給料未払いを立件してほしいなら、告訴・告発先は警察ではなく労働基準監督署
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