円満に辞めたいと考え、退職代行の利用を検討する人は増えています。
ただ、急増する退職代行には様々なサービスがあります。
選択肢が多いのは嬉しいものの、結局どのサービスを選べばよいか迷うでしょう。
このとき、弁護士による退職代行と、その他の(弁護士の担当しない)退職代行(いわゆる退職代行業者)とでは、サービス内容が異なり、その分だけかかる費用にも差があることが多いです。
どちらを選ぶべきかは、慎重に検討せねばなりません。
一方、弁護士に相談するのには不安もあるでしょう。

弁護士による退職代行は費用が高いのでは?

自分のケースは弁護士に依頼するほど大事?
弁護士のサービスは、確かな交渉力と、裁判も担当できる強みがあります。
会社と交渉を要するなら弁護士に依頼すべきですが、弁護士費用などネックも存在します。
今回は、退職代行を弁護士に相談すべき場面と、気になる費用などを、労働問題に強い弁護士が解説します。
【退職とは】
【退職時の注意点】
【退職できないとき】
【退職金について】
★ 退職代行の労働問題まとめ
弁護士による退職代行の特徴

退職代行は、運営主体によって大きく3つに分かれます。
すなわち、弁護士、労働組合、一般企業のそれぞれによる退職代行サービスです。
なかでも特に、弁護士によるものとそうでないものに大きな差があります。
今回は、弁護士による退職代行にフォーカスして解説していきます。
なお、サイトに「弁護士」と記載があれど、弁護士が直接対応しないサービスもあります。
例えば「弁護士監修」「弁護士の指導を受けている」といった宣伝広告です。
このようなサービスは、運営元が弁護士でないものもあり区別すべきです。
というのも、弁護士が直接担当しなければ、弁護士による退職代行のメリットは享受できないからです。
そもそも退職代行は弁護士に相談しなければならないのか
退職代行は、退職の意思を代わりに伝えてもらうサービスです。
元は、労働問題を扱う弁護士の業務の一環として行われていました。
その後、ブラック企業による労働者の権利侵害が増加。
「辞めたくても辞められない」という人が増えました。
転職者が増加する一方、ブラック企業の執拗な引き留めが問題視されるようになりました。
これら社会問題を解決するため生まれたサービスが「退職代行」です。
そのため、弁護士以外の退職代行は、これまで弁護士が担当していた幅広い退職時のトラブル解決の一部を切り出し、安価な費用で対応するものが多くあります(他方で、次章の通り、対応できない部分もあるため注意を要します)。
弁護士による退職代行と、他のサービスの違い
前章で解説した経緯から、弁護士の退職代行と他のサービスには大きな違いがあります。
サービスは多様ですが、その内容を事前に確認せねばなりません。
サービス内容 | 弁護士 | 労働組合 | 企業 |
---|---|---|---|
退職の意思を伝える | |||
退職届を代わりに提出する | |||
弁護士名義の内容証明で退職届を出す | |||
窓口となり直接連絡させない | 交渉は不可 | ||
退職日の調整 | 意思表示のみ | ||
離職票の請求 | 意思表示のみ | ||
有給消化を伝える | 意思表示のみ | ||
退職金の請求 | 意思表示のみ | ||
未払い給料、残業代の請求 | 意思表示のみ | ||
ハラスメント慰謝料の請求 | 意思表示のみ | ||
辞められないとき強く交渉する | |||
会社からの損害賠償請求の訴訟対応 |
弁護士と他サービスの明確な違いは、法的な交渉に発展しても対応してくれるかどうか、です。
というのも、弁護士以外が法的な紛争を代理するのは、弁護士法72条の禁止する「非弁行為」に該当するからです。
更にいえば、裁判まで対応できるのが弁護士の強みです。
企業側が適切な対応をしないときに、裁判も含めた強いプレッシャーをかけて交渉できる点が、弁護士による退職代行の最大の強さがあります。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。

退職代行にかかる弁護士費用はいくら?

退職代行を弁護士に任せるにあたり、気になるのが弁護士費用でしょう。
弁護士は解決力が強い一方で、費用が高い点がデメリットです。
しかし、弁護士費用は、理由なく高いわけでは決してありません。
退職代行の弁護士費用の考え方を知り、相場に合った適切なサービスを選ぶようにしてください。
退職代行の弁護士費用の相場
退職代行の弁護士費用を、一律の相場で示すのは難しいです。
というのも「退職代行」と一言でいってもサービスの範囲が異なるからです。
退職の意思を伝えるのみで終了する退職代行サービスと、その後の交渉なども一貫して任せる退職代行サービスとでは、費用が大きく異なることもあります。
参考程度に、おおよその退職代行の弁護士費用をご紹介します。
サービス内容 | 弁護士費用 | 弁護士以外の退職代行 |
---|---|---|
退職の意思を伝えるのみ | 2万円〜3万円 | 1万円〜3万円 |
退職に関する交渉を含む (退職日、有給消化、損害賠償請求への対応など) | 3万円〜8万円 | 2万円〜6万円 |
退職時の金銭交渉も含む (残業代請求、退職金請求など) | 5万円〜10万円 | 対応不可 |
退職代行を選ぶにあたり、かかる費用は大切な要素の1つ。
ですが、相場のみで判断しすぎないことが大切です。
「安さ」に釣られ、本来目指すべき退職の形から遠ざかる結果は避けねばなりません。
- 自分の目指す目標はなにか
- 目標を達成するためのサービス内容、運営主体は、どのようなものか
(特に、弁護士による退職代行を依頼すべきか、その他の退職代行でもよいか) - 提供するサービス内容に見合った費用か
といった手順で検討すれば、誤った選択を避けることができます。
労働問題の弁護士費用は、次の解説をご覧ください。

弁護士による退職代行の料金体系
だいたいの相場感を理解したところで次に、弁護士による退職代行の料金体系を解説します。
弁護士費用は、最初に支払う着手金と、解決時に支払う報酬金、その他の実費によって定められているケースが多いですが、退職代行の分野では、固定の手数料制としているサービスがほとんどです。
また、退職が成功しなければ返金を保証し、いわゆる「成功報酬制」としている例もあります。
最後に、郵便切手代金などの実費は、依頼者負担とするのが一般的です。
なお、退職代行を依頼する前に相談する場合には、相談料がかかることがあります。
通常は、30分5,000円〜1時間1万円程度が相場ですが、無料相談としている法律事務所もあります。
労働問題を弁護士に無料相談する方法は、次に解説しています。

退職代行を弁護士に依頼するメリット

次に、弁護士による退職代行のメリットを解説します。
まず、退職代行は、会社と直接やり取りせず辞められる、というメリットがあります。
精神的な負担を軽減し、時間の削減にもつながるでしょう。
この点は、弁護士が担当しない退職代行でもあてはまります。
一方で、弁護士に任せる退職代行にしかない特別なメリットをご理解ください。
交渉が激化しても任せられる
弁護士に退職代行を任せるメリットの1つ目は、交渉を一括して任せられることです。
弁護士でなくても、会社とのやり取りの窓口にはなってくれます。
しかし、激化した交渉は、弁護士にしか代理してもらえません。
むしろ、弁護士以外が法的なトラブルを代理するのは弁護士法72条違反です。
特に、給料や残業代、退職金など、金銭請求をすれば、交渉が大きくなるのは必至です。
このような金銭請求こそ、労使の立場に大きな乖離があるからです。
残業代請求に強い弁護士への無料相談について、次に解説します。
強い交渉力がある
弁護士による退職代行のメリット2つ目は、交渉力があり、安心して任せられることです。
弁護士以外の退職代行では、会社が難色を示したときの柔軟な対応ができません。
交渉の際も、訴訟など法的な手続きに進むことをプレッシャーとして用いることができるために、弁護士による退職代行には、他にはない強い交渉力があるのです。
万が一のトラブルにも対応してもらえる
退職代行を使わざるを得ない企業とは、労働問題を抱えた会社といえるでしょう。
そのため、退職代行を使ってもなお円満に進まない場面もあります。
退職代行を機にトラブルに発展しても、弁護士による退職代行なら、継続して任せておけます。
万が一、会社から訴訟を起こされるなどしても、裁判対応も同じ弁護士が行ってくれます。
こうした弁護士の強みは、労働者の本気度を示し、事前の紛争抑止にも役立ちます。
労働者が裁判で勝つ方法についても参考にしてください。

退職代行を弁護士に依頼するデメリット

退職代行を弁護士に依頼するデメリットは、費用がかかることです。
一般企業に依頼する退職代行よりも、弁護士に任せる方が高額なことが多いです。
そして「必ず成功する」保証のあるサービスではなく、退職代行が失敗する例もあります。
退職代行は、比較的安価だと、手頃に利用してしまいがちです。
しかし、弁護士に依頼してもなお、デメリットは存在するので注意しなければなりません。
弁護士による退職代行は、1件ごとオーダーメイドで細やかに対応することが多いため、費用もそれなりの金額になることがあります。
また、交渉が激化したり、労働審判や裁判に発展したりすれば、通常の労働問題と同じく、「ただ退職するだけ」といった軽い気持ちには見合わない費用がかかる危険があります。
なお、未払いの給料や残業代、退職金を獲得することで、費用の負担を軽減できます。
費用対効果が高いケースならば、退職代行を弁護士に依頼するデメリットは大幅に減らせるでしょう。
会社を退職したらやることについても参考にしてください。

退職代行を相談する弁護士の選び方は?

最後に、弁護士に退職代行を任せるべき場合、どんな弁護士が適切なのかを解説します。
弁護士のなかにも、様々な得意分野があります。
退職代行を任せるにふさわしい、労働問題の得意な弁護士を選ばなければなりません。
丁寧に相談を聞いてくれる
自分にふさわしい専門家を選ぶには、すぐ依頼するのでなく、まずは相談が大切です。
相談で、弁護士の能力や知識、相性をチェックする必要があるからです。
そのため、丁寧に相談を聞いてくれる弁護士でないと退職代行は任せられません。
退職代行を成功させるには、労働者ごとの事情を汲み取るのが重要となります。
「退職の意思を伝えるだけ」の定型作業に、さほどの価値はありません。
相談ですら雑さの見える弁護士では、退職代行がスタートしても不満がたまるでしょう。
弁護士費用や今後の手続きの流れなども、納得いくまで説明してもらいましょう。
法律相談の流れについては、次に詳しく解説しています。

労働問題の知識、経験が豊富
弁護士ならば、退職代行だけでなく、法律問題全般を扱えます。
そのなかでも、退職代行をうまく進めるには、労働問題に精通している必要があります。
退職の代行だけでなく、派生する労働問題も解決するのに、知識、経験が豊富かをチェックしましょう。
退職代行の件数だけでなく、労働問題の解決実績が豊富にあるか、知識を積極的に発信しているか、といった点に注意しながら、最終的には、相談時の説明がわかりやすいか、実際に聞く必要があります。
人柄や雰囲気が良い
退職代行は、会社との直接のやり取りが減る代わりに、サービスの運営元との連絡が増えます。
相性の合わない弁護士に任せると、逆にストレスとなるでしょう。
弁護士に依頼すべき退職代行だと、その後の交渉は長期化する可能性もあります。
退職という一大イベントで良い解決を目指すには、相性の合うパートナーが必要。
話しやすさや明るさ、物腰の柔らかさなど、実績だけでは判断できない要素もあります。
また、弁護士はいわばあなたの分身であり、あなたが違和感を抱く場合、交渉相手である会社担当者とのコミュニケーションもうまくいかないおそれがあります。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。

まとめ

今回は、弁護士による退職代行のポイントを解説しました。
辞め方の1つの選択肢として、支持を得はじめた「退職代行」。
一般企業だけでなく、弁護士や労働組合など、様々な団体がサービス提供します。
しかし、それぞれ一長一短あり、自身の状況に合わせて選ばねば損しかねません。
「ただ退職意思を伝えるだけでよい」というなら、弁護士への依頼は過剰でしょう。
しかし、多くのケースで、ブラック企業は退職の意思表示にまともに対応してくれません。
このとき、交渉が激化するなら、弁護士によるプレッシャーがうまく機能します。
「弁護士費用が高い高い」というのは間違いで、実際は依頼ごとに柔軟な解決策を提案できます。
また、弁護士が交渉し、未払いの給料や残業代請求に成功すれば、弁護士費用に充当できます。
ぜひ、労働問題に強く、親身に話を聞いてくれる弁護士に相談してみてください。
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