労働問題弁護士ガイドとは?

労働問題の責任を、取締役など役員に追及できますか?

不当解雇、未払い残業代、ハラスメントなどの労働問題に巻き込まれたら、会社に責任があります。
労働審判や裁判で、会社に責任追及し、被害回復を図ります。

しかし、会社が非協力的だったり、誠実な対応をしなかったりすると、スピーディな解決は困難。
責任を回避しようとするブラック企業のなかには、会社をつぶして逃げようとする例もあります。
このとき、「会社の負う労働問題の責任を、取締役に追及できないか」が問題となります。

会社が「組織」として誠実に対応しないなら、経営する「個人」に責任追及するしかありません。
セクハラ、パワハラなどのハラスメントの責任では、特に、問題ある言動をした取締役「個人」への責任追及こそがふさわしいケースも多いものです。

今回は、労働問題の責任を、取締役に追及できるかどうか、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 労働問題の責任は会社が負うのが原則だが、取締役に責任追及できるケースあり
  • 特に、取締役自身がパワハラの加害者のとき、直接の不法行為責任を追及できる
  • 取締役に管理責任があるなら、違法行為を予防しなかった責任も追及できる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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労働問題の責任は「会社」が負うのが原則

労働問題の被害者となったとき、その責任を第一次的に負うのは「会社」。
「会社が責任を負う」とは、つまり、雇用契約の当事者である法人に請求できるということ。

会社は、労働者を健康で安全に働かせる義務、すなわち安全配慮義務を負います。
労働問題のなくならない職場環境は安全とはいえませんから、会社は、社内で起こるトラブルについて、安全配慮義務違反の責任を負い、損害賠償請求される立場にあるからです。

このとき、代表的な労働問題について、会社への責任追及は、次のようにされます。

そして、それぞれの責任追及では、労働審判、裁判といった解決方法を活用します。

労働問題の責任には、通常、民事責任刑事責任があります。

民事責任とは、民法その他の法律で定められる私的な関係における責任であり、基本的には、「契約」と「金銭」によってトラブルを解消することができます。

一方で、刑事責任は、刑法で定められる公的な関係における責任。
その責任を果たすため、刑罰という厳しい手段が使われます。

労働法の分野でも、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法といった、最低限の労働者保護を定める法律のなかには、刑罰のついた違法行為が定められています。

労働問題の解決方法は、次の解説をご覧ください。

労働問題の責任を「取締役」に追及できるケース

取締役は、役員の一種。
会社法で、役員とは、取締役、会計参与、監査役を指すと定義されます(会社法329条)。

社長や専務、常務などが取締役として登記されるのが通例です。

取締役は、経営について会社から委託を受け、その限度で責任を負います。
取締役は「個人」であり、「法人」としての会社とは法人格が異なります。
なので取締役は、会社に違法な労働問題があっても、その責任をそのまま全部負うわけではありません。

しかし、取締役は、労働者からすれば「経営者側」であり、労働問題の責任を負うことがあります。
経営における取締役の判断の結果、労働トラブルが生じたとき、労働者としては、その責任を取締役個人の請求することができるケースがあります。

責任をとって取締役が解任される場合

会社とは「株主」のもので、「取締役」は経営について委託を受ける立場にすぎません。
そのため、経営に問題があるとき、解任されることがあります。

労働問題を起こしたり、起きたトラブルを放置したりすることは、取締役として問題ある行為。
そのため、取締役の負う責任の一端として、この責任をとって解任されてしまう場合があります。

両罰規定により刑事責任を負う場合

労働基準法、労働安全衛生法や最低賃金法など、最低限の労働条件を定める法律は、刑罰が定められます。
これは、最低限の労働条件は、労働者保護のために必ず守らねばならないから。
その違反は絶対あってはあらず、刑罰で抑止すべきだからです。

この刑罰の対象は「会社」だけでなく「取締役」も含まれると解釈されます。
例えば、労働基準法の刑罰の対象は「使用者」ですが、これは取締役も含む定義とされます。

労働基準法10条

この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

労働基準法(e-Gov法令検索)

取締役を対象にしなければ、労働者保護に欠けるおそれがあります。。
労働基準法違反のある会社において、経営層である取締役こそが法違反を是正できる立場。
刑罰によって法違反を是正するとき、対象とするにはうってつけといえます。

そして、会社に罰金刑を科す場合、取締役に対しても罰金刑を科せると定められています。
これを、法律用語で「両罰規定」といいます。

労働基準法121条1項

この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をした代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。

労働基準法(e-Gov法令検索)

使用者責任を負う場合

不法行為(民法709条)にあたるとき、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。
例えば、パワハラやセクハラなどのハラスメントのケース。
精神的苦痛を与えたときには、慰謝料を払う責任が生じます。

そして、取締役が、使用者にあたるならば、事業の執行について与えた損害は、賠償請求できます。
使用者責任(民法715条)がその根拠となります。

役員の第三者責任を負う場合

役員は、会社の行為によって第三者に損害を与えたとき、その責任を負うことがあります。

会社法には「役員の第三者責任」についての定めがあります。
具体的には、会社法429条1項により、役員が、その職務を行うについて「悪意又は重大な過失」があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。

会社に、労働問題の責任追及をするとき、任せる弁護士の選び方には注意を要します。

経営判断の原則とは

労働問題の責任は、会社に請求するのが原則であり、例外的に取締役にも請求可能と説明しました。

ただし、取締役に、責任追及できるケースは、限定的に考えられています。
というのも、取締役といえど、人間であり、ミスはつきものだから。

取締役は、経営上の判断について、会社に対し、善管注意義務を負っています。
しかし、経営上の専門的な判断については、その責任は制限されており、判断によって結果的に会社が損害を被ったとしても、その決定及び決定の内容に著しく不合理な点がなければ、賠償義務を負わないものとされています。

なお、形式は役員でも、実態が社員なら「名ばかり役員」
責任がないだけでなく、労働者としての権利を行使できるケースもあります。

取締役が民事責任を負うケース

次に、労働問題の責任のうち、「契約」と「お金」で解決すべきが、民事責任。
労使関係で生じる民事責任は、民法、会社法、労働法などに定めがあります。

民事責任は、主に金銭賠償でつぐなわれます。
そのため、責任追及の方法は、損害賠償請求となるのが通常です。

未払い残業代の民事責任を負う

残業代を支払う責任は、会社にあるのであって、取締役にはありません。
そのため、未払い残業代があっても、請求されるのは取締役ではありません。

しかし、ブラック企業のなかには、労働基準法に基づく残業代の支払いすら拒否する会社もあります。
「取締役には請求されない」という原則を悪用し、会社の財産を社長個人に移して、残業代の支払いを逃れようとするケースもあります。

裁判例では、払い残業代請求をして勝訴した労働者が、これを払わなかった取締役に、会社法429条1項の「役員の第三者責任」を請求したケースがあります(福岡地裁平成26年8月8日判決)。

この裁判例では、労働者が具体的な立証をできなかったことが理由で取締役の責任は認められませんでしたが、残業代の未払いについて、役員の第三者責任が認められる可能性を残した形となっています。

残業代請求するときは、正しい計算方法を知っておいてください。

セクハラ、パワハラの民事責任を負うケース

取締役が、セクハラ、パワハラの直接の加害者となったら、不法行為(民法709条)の責任を負うのは当然。

加えて、社内のハラスメントを放置し、予防しなかった責任も、取締役にあることが珍しくありません。
このように、自分が行ったのではないセクハラ、パワハラについて、取締役が負う監督責任について、法律上の根拠は、次の3つがあります。

  • 使用者責任(民法715条)
  • 安全配慮義務違反の責任
  • 役員の第三者責任(会社法429条1項)

いずれも、社内の安全について、取締役が管理し、是正できる立場にあることが必要です。
精神的ストレスから大きな精神的損害を受けたとして、多額の慰謝料を認めた裁判例もあるため、注意を要します。

業務による被害は「労災」ですが、あわせて慰謝料請求も可能。
詳しくは、次の解説をご覧ください。

不当解雇の民事責任を負うケース

労働契約は、労働者と会社の間の契約です。
そのため、解雇するかどうかを決めるのは「会社」であり、「取締役」の権限ではありません。
しかし、実際は、取締役が決定しているケースがあり、その責任を負う場合があります。

解雇権濫用法理とは
解雇権濫用法理とは

とはいえ、争って「不当解雇」と判断されても、取締役は労働契約の当事者ではありませんから、地位確認は認められず、「不当解雇は無効であり、雇い入れるべき」という責任はありません。
そのため、取締役の責任は、解雇の慰謝料という形でとることになります。

裁判例では、「不当解雇」と評価される解雇をした会社の社長(代表取締役)に、雇用されていれば得られたであろう給料(逸失利益)分の損害賠償を認めた例があります(東京地方裁判所平成27年2月27日判決)。

不当解雇の琴線解決について、次の解説をご覧ください。

取締役が刑事責任を負うケース

次に、取締役が刑事責任を負うケースについて解説します。

労働問題における責任で、最も重いのが「刑事責任」。
労働基準法、労働安全衛生法といった、労働者の最低限度の労働条件を定める法律では、その違反が厳しく処罰されており、重大な違反については概ね、刑罰が定められています。

長時間労働、未払い残業代や、これによる過労死のトラブルでは、取締役が逮捕、送検され、刑罰を科されるケースが、ニュースでもよく報道されます。

未払い残業代の刑事責任を負うケース

残業代は、長時間労働によって心身の健康を損なわないよう、刑罰によって抑止されます。
そのため、単なる民事上の残業代請求だけでなく、刑罰による制裁があります。
違法な残業が続くと、うつ病や適応障害、ひいては過労死などの危険があるからです。

そして、労働基準法の定める残業代未払いの刑罰は、会社だけでなく取締役も対象としています。
残業代のトラブルで、取締役に科される可能性のある刑罰は、次のとおりです。

【6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金】

  • 法定労働時間を守らなかった(同法32条)
  • 休憩を法律どおり与えなかった(同法34条)
  • 法定休日を与えなかった(同法35条)
  • 残業代を法律どおり払わなかった(同法37条)

【30万円以下の罰金】

  • 変形労働時間制の労使協定を届出ていない(同法32条の2第2項、32条の4第4項、32条の5第3項)
  • 事業場外労働のみなし労働時間制の労使協定を届出ていない(同法38条の2第3項)
  • 専門業務型裁量労働制の労使協定を届出ていない(同法38条の3第2項)

労働時間にまつわる労働問題は、それだけ危険が大きいもの。
そのため、刑罰の対象となる例が多くあります。

これ以外にも、年少者の違法労働、妊産婦の違法労働などは、刑罰が定められています。

残業代や給料の未払いという犯罪について、次に解説しています。

セクハラ、パワハラの刑事責任を負うケース

セクハラ、パワハラをはじめとしたハラスメントは、強度だと、刑罰の対象となります。
直接の加害者は、そのハラスメントの態様により、暴行罪、脅迫罪、強制性交等罪(旧強姦罪)、強制わいせつ罪などの犯罪に該当し、その責任を追及されます。

そのため、取締役が、ハラスメントの加害者となったとき、刑事責任を当然に負います。

刑事責任は、被害者である労働者自身が追及することはできません。
労働法違反で刑罰を負わせるには、労働基準監督署に告訴し、逮捕、送検させるプロセスが必要。

労働基準監督署に動いてもらうには、次の解説を参考にしてください。

不当解雇の刑事責任は負わない

「不当解雇」はよく起こる労働トラブルですが、基本は民事責任で、刑事責任は負わないのが原則。
刑事責任が追及できないのは、取締役の責任でも同じです。

一方的に解雇されたとき、解雇権濫用法理のルールにより、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でないときは、不当解雇として違法、無効です(労働契約法16条)。
このような民事責任は、労働基準監督署ではなく、弁護士に相談すべきです。

不当解雇を争うとき、次の解説をご覧ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

労働者側で、労働問題の犠牲にあったとき、取締役は、経営層として「会社側」に位置します。
解雇や残業代など、重大な労働問題の責任を会社が負ってくれないなら、取締役への責任追及を検討しましょう。

会社は「組織」なので、責任の所在が曖昧になりがちです。
不当な責任回避を許せば、労働者がますます傷つくこととなりかねません。

労働問題について、取締役に追及できるのは、民事責任、刑事責任の2つがあります。
また、取締役自身がハラスメント加害者のとき、個人責任を追及できるのは当然です。
会社が責任を否定しても、あきらめるのはまだ早いでしょう。

この解説のポイント
  • 労働問題の責任は会社が負うのが原則だが、取締役に責任追及できるケースあり
  • 特に、取締役自身がパワハラの加害者のとき、直接の不法行為責任を追及できる
  • 取締役に管理責任があるなら、違法行為を予防しなかった責任も追及できる

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