取締役や役員によるパワハラが発覚した場合、企業として見過ごすことはできません。
経営を担う重要な役職である取締役や役員は、その地位が高い分、従業員に対する強い影響力を持ち、パワハラの被害は深刻化します。社内のハラスメント問題にとどまらず、企業としてのコンプライアンス体制を疑問視され、対外的な信頼を損なうおそれもあります。
では、パワハラが発覚した取締役を解任できるでしょうか。会社法上、株主総会でいつでも解任は可能ですが(会社法339条1項)、正当な理由がない場合、残存任期の報酬相当額などについて損害賠償責任を負うおそれがあります(同条2項)。
今回は、取締役によるパワハラを理由とする解任の可否と正当な理由の有無について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 取締役や役員によるパワハラは、企業に極めて重大なリスクをもたらす
- 会社法上、取締役の解任は可能だが、正当な理由がないと損害賠償リスクあり
- パワハラと不適切な対応を理由に解任の正当性が認められた事例がある
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パワハラをした取締役の責任は?

はじめに、取締役によるパワハラの責任について解説します。
取締役によるパワハラは、会社組織にとって非常に大きなリスクとなります。逆に、被害者である労働者にとっては、パワハラを行った取締役や役員の責任はもちろん、企業の責任も追及できることを意味します。
企業として、問題ある人を取締役に選任しないようにするとともに、選任後も監督し、健全な労働環境と労働者の安全を守れるよう、対策を講じなければなりません。
取締役のパワハラの法的責任は重い
パワハラ(パワーハラスメント)は、職場における優越的な立場を利用し、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、精神的または身体的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為を指します。パワハラには「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「プライバシーの侵害」という6類型があり、労働施策総合推進法32条の2で定義されます。
取締役は、会社から経営を委託される重要な役職です。労働法で保護される「労働者」ではなく、弱い立場ではありません。むしろ、会社と対等な立場で経営を担うために、大きな権限と、それに伴う責任を有しています。

会社法上、取締役や役員は、その職務の遂行について善管注意義務や忠実義務を負います。
取締役の職務は経営全般にわたり、社員の管理や監督も含まれ、人事評価を左右できるなど大きな影響力を行使できます。このような強い立場の取締役がパワハラの加害者となった場合、被害が深刻化することは明らかです。被害者となった労働者にとって、単なる社員である上司のパワハラよりも、取締役からのパワハラの方が苦痛もさらに大きくなります。
取締役のパワハラは企業にとってのリスクとなる
平社員でもアルバイトでも、パワハラの違法性に変わりはありませんが、取締役の行動は特に大きな影響力を有する分、違法性も強いと考えられます。
取締役や役員によるパワハラは、単なる個人間のトラブルではなく、会社全体を巻き込んだ大きな問題に発展することもあります。例えば、次のような影響が懸念されます。
- パワハラをする取締役が経営していたとして企業の評判が下がる。
- 問題のある人物を役員に選任したとして株主の責任が問われる。
- 企業の信用が低下し、顧客や取引先が離れてしまう。
取締役のパワハラが原因で、労働者や株主から、会社が損害賠償責任を問われるおそれもあります。取締役や役員によるパワハラの問題は、法的なリスクが生じるだけでなく、企業のブランド価値や社会的信用にも、深刻な打撃を与える危険があるのです。
「パワハラの相談先」の解説

パワハラをした取締役を解任できる?

次に、パワハラをした取締役を解任できるかどうかについて解説します。
会社は、労働者の健康を守り、安全な環境で働かせる義務(安全配慮義務)を負い、社内で起こるトラブルを防止する必要があります。取締役がパワハラやセクハラなどのハラスメントをしていることが発覚すれば、注意や処分をして労働者を守らなければならず、放置されている場合には同義務違反として会社の責任を追及することができます。
パワハラをした取締役に対する処分の最たる例が「取締役の解任」です。
取締役を解任する手続き
取締役の解任は、株主総会の決議でいつでも可能です(会社法339条1項)。
解任の決議には株主の過半数の賛成が必要です。「株式」は会社の所有権を意味し、会社は株主のものです。取締役は経営を任された立場に過ぎず、たとえ社長でも株式を持たなければ「雇われ社長」に過ぎません。そのため、過半数の株式を有する株主は、理由を問わず取締役を解任できます。

ただし、「正当な理由」なく任期中に解任された場合、取締役は会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求できます(会社法339条2項)。任期中の解任の場合、「解任によって生じた損害」には残存任期の役員報酬が含まれます。
会社法339条(解任)
1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
会社法(e−Gov法令検索)
パワハラ問題を起こしたことによる解任は、突然の出来事なので、任期中に起こるのが通常です。そのため、パワハラを理由として取締役を解任する場合に、それが解任の「正当な理由」に該当するかどうかが非常に重要です。
「パワハラの証拠」の解説

パワハラが取締役を解任する「正当な理由」となる条件
前章の通り、取締役の解任は理由を問わず可能であるものの、「正当な理由」がなければ不当解任となり、会社は損害賠償を請求されてしまいます。労働者としても、会社が賠償責任を恐れて解任しないと、取締役からのパワハラを受け続けてしまいかねません。
「正当な理由」とは、会社がその役員に職務執行を委ねることができないと判断してもやむを得ない客観的な事情がある場合を指し、具体的には以下のケースが挙げられます。
- 心身の故障
- 職務遂行上の法令・定款違反
- 職務への著しい不適任や能力の著しい欠如
このうちパワハラは、「職務遂行上の法令違反」または「職務への著しい不適任」として、解任の正当な理由に該当する可能性があります。以下では、具体例を踏まえ、どのような場合に正当な理由が認められるかを解説します。
従業員に重大な被害を生じさせた場合
取締役解任の正当な理由と認められるには、影響が重大であることが必要です。
パワハラ事例の場合、被害者となった従業員に与える影響の大きさが重視されます。労働者の精神的・身体的な苦痛が重大であるほど、解任が正当であると認められやすくなるため、労働者としては解任を求めるために、被害を説得的に訴えることが有効です。
感情的にならず、証拠に基づいて冷静に伝えることを心掛けてください。
会社の信用を失墜させた場合
パワハラ行為が企業にも重大な影響を及ぼすことを考えると、会社の信用を失墜させるといった影響もまた、パワハラによる解任を正当化する事情の一つです。例えば、重要な顧客を失った、メディアで企業名が報道されたなど、経営全体に大きな支障を生じさせたパワハラは、解任の正当な理由と認められます。
社内の規律を著しく乱した場合
取締役や役員は、社内でも上位の立場にあり、社員の模範となるべき存在です。
それにもかかわらずパワハラ行為をすれば、社内の規律が乱れることは当然で、他の社員の暴力や暴言、粗雑な行為を助長するおそれがあります。取締役のパワハラは、被害者だけでなく、他の従業員の士気やモチベーションを低下させ、離職を促すなどの影響もあるため、原因を作った取締役を解任する正当な理由として認められることがあります。
上位の立場にある取締役(特に、代表取締役社長など)であるほど、その言動についての影響は深刻であると考えられます。
解任トラブルを避けるための辞任勧告
解任は最終手段であり、まずは話し合いによる解決を目指すべきです。
取締役を解任し、正当な理由がないと判断されると損害賠償請求を受けるリスクがあります。そのため、強制的に解任する前に自主的な辞任を促す「辞任勧告」が実務ではよく行われます。
本人が自主的に辞任すれば、不当解任となるリスクを回避できます。パワハラ問題を起こした責任を感じて、辞任を申し出る取締役も少なくありません。任期満了が近ければ、無理に解任せず、任期満了を待って再任しない(更新しない)という方法も検討すべきです。
「辞任勧告への対応」の解説

使用人兼務役員を解任する場合の注意点
いわゆる「使用人兼務役員」の場合、解任について注意が必要となります。
使用人兼務役員は、取締役としての地位と従業員としての地位をあわせ持っているため、取締役を解任したとしても、従業員としての地位が残存してしまいます。そのため、会社を完全に辞めてもらうには、役員解任に加え、解雇の手続きを行う必要があります。
ただし、労働者として解雇するのは、解雇権濫用法理による厳しい規制があり、役員解任のように自由に行えるわけではありません。解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ無効となります(労働契約法16条)。そのため、パワハラの証拠を十分に固めて慎重に進めなければなりません。
「使用人兼務役員」の解説

取締役のパワハラを解任の正当な理由と認めた裁判例

裁判例でも、取締役によるパワハラを解任の正当な理由と認めた事例があります。
大阪地裁令和2年1月24日判決(加賀金属事件)は、常務取締役からのパワハラを主張した従業員が退職届を提出し、それに同調した他社員も辞職の意向を示したことがきっかけで、会社の代表者との関係が悪化し、常務取締役を解任された事案です。
裁判所は、以下の点を指摘し、解任の正当な理由があると認めました。
- 部下との信頼関係の構築が不十分であったこと。
- パワハラの申告を受けた際に、自らの態度を省みることなく、即座に会社と裁判で争うと主張したこと。
これらの言動から、取締役に期待された職責を果たせると信頼することは困難であると評価されました。パワハラの事実そのものだけでなく、事後対応が取締役としての適格性を欠くものであったことも考慮され、解任の正当性が認められたケースです。
取締役のパワハラによる民事責任と刑事責任

取締役がパワハラを行った場合、被害者となった労働者は、その役員に対して民事上、刑事上の責任を追及することができます。取締役という責任あるポジションの人が加害者となったことで、通常よりも大きな被害を受けた分、責任追及はしっかりと行わなければなりません。
取締役のパワハラの民事責任
労働問題の責任のうち、当事者間で金銭によって解決されるのが「民事責任」です。
労使関係で生じる民事責任は、民法、労働法、会社法などに定めがあり、その責任追及の方法は、損害賠償請求によって行われます。
不法行為責任(709条)
パワハラの直接の加害者である取締役は、不法行為(民法709条)の責任を負います。
取締役は、社内の問題行為について管理・監督し、是正する立場にあります。そのため、直接の加害者となった場合だけでなく、注意や指導を怠り、パワハラを適切に防止しなかった場合に、任務懈怠の責任を負う可能性があります。
被害者は精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求することができ、取締役個人が損害賠償責任を負うことになります。
「労災の慰謝料の相場」の解説

使用者責任(民法715条)
取締役のパワハラが業務の一環として行われた場合、会社も使用者としての責任を負います(民法715条)。会社は、取締役の行為を監督し、パワハラを予防すべきだからです。被害者となった労働者に対し、会社と取締役は連帯して責任を負うこととなります。
また、代表取締役社長の場合、部下が業務上行ったパワハラについて、使用者としての責任を負う可能性があります。
安全配慮義務違反(労働契約法5条)
会社は、従業員の働く環境の安全を確保する義務を負うところ、取締役は、経営層としてその義務を履行する立場にあります。そのため、取締役のパワハラにより就労環境を悪化し、心身の健康を損なった場合、安全配慮義務違反の責任を問うことができます。
「安全配慮義務」の解説

役員の第三者責任(会社法429条)
役員が、職務上、第三者に損害を与えたとき、その責任を負うことがあります。
会社法429条は役員の第三者責任を定め、具体的には、役員がその職務を行うについて「悪意又は重大な過失」があったとき、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。
なお、取締役は、経営判断について善管注意義務を負いますが、経営判断についての責任は制限されており、結果的に会社が損害を被ったとしても、判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがなく、判断に著しい不合理がなければ、賠償責任を負わないと考えられています(経営判断の原則)。
一方で、パワハラをすることは経営判断として適切ではなく、このような考えによっても責任を免れることはできません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

取締役のパワハラの刑事責任
取締役がパワハラを行った場合、その行為が刑法に抵触すれば、以下のような罪に問われる可能性があります。
- 暴行罪
殴る、蹴るといった身体的な攻撃によるパワハラは暴行罪となり、2年以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります(刑法208条)。 - 脅迫罪
取締役としての権限を悪用し、「解雇するぞ」や「会社にいられなくしてやる」などと脅すことは、脅迫罪に該当します。脅迫罪の罰則は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です(刑法222条)。 - 名誉毀損罪
従業員を誹謗中傷し、社会的な評価を低下させる行為は、名誉毀損罪として3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(刑法230条)。 - 侮辱罪
「バカ」「無能」などの人格否定の発言は、侮辱罪が成立し、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられます(刑法231条)。 - 強要罪
過度な業務を無理やり押し付けたり、退職を強要したりといった行為は強要罪に該当し、3年以下の懲役による罰則が科されます(刑法223条)。
労働基準法違反にも刑事罰が規定されており、その対象は「使用者」であり、取締役もこれに含まれるとされています。長時間労働、未払い残業代、これによる過労死のトラブルなどで、取締役が逮捕・送検されるニュースもよく報道されています。取締役は、会社の経営において労働基準法違反を防ぐ立場にあるため、違反を防止することが可能です。実際に、取締役には、経営を通じて労働基準法違反が起こらないようにする責任があります。
取締役に刑事責任を追及するには、労働基準法違反であれば労働基準監督署、刑法違反であれば警察に通報して、処罰を求めてください。
「労働基準監督署への通報」の解説

【まとめ】パワハラをした取締役の解任

今回は、取締役や役員がパワハラをしたときの責任について解説しました。
取締役や役員によるパワハラは、企業にとって重大なリスクとなります。責任と権限が大きいために、その行為が会社全体に及ぼす影響も大きくなり、パワハラのように企業秩序を乱す規律違反を起こしてしまうと、通常の社員にも増して問題になります。
影響が甚大なので、違法なパワハラをした事実は、取締役を解任する正当な理由として認められる可能性があります。ただし、会社法上の手続きを踏む必要があり、万が一正当な理由が認められない場合は不当解任となり、会社が取締役から損害賠償請求を受けるリスクもあります。
被害を受けた労働者の立場でも、取締役からパワハラをされると、その精神的負担は非常に大きく、責任追及をしようと考えることも多いでしょう。この際、加害者となった取締役だけでなく、会社に対しても慰謝料その他の損害賠償を請求できます。
- 取締役や役員によるパワハラは、企業に極めて重大なリスクをもたらす
- 会社法上、取締役の解任は可能だが、正当な理由がないと損害賠償リスクあり
- パワハラと不適切な対応を理由に解任の正当性が認められた事例がある
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