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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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諭旨解雇とは?懲戒解雇や退職との違いと退職金をもらう方法について

諭旨解雇は、重大な不正や規則違反に対して、会社が行う懲戒処分のなかでも重度のものです。懲戒解雇よりは一段階軽い処分ですが、対象となるケースは、懲戒解雇が想定されるほど重大な事例が多く、応じれば退職することとなる非常に深刻な事態です。

懲戒解雇と比べてあまり知られておらず、意味を理解していない方も多いでしょう。しかし、諭旨解雇が悪用されると、権利濫用として違法になる危険があります。

相談者

諭旨解雇と懲戒解雇とはどう違う?

相談者

納得いかない諭旨解雇は争うべき?

諭旨解雇の流れは「懲戒処分として労働者に自主退職するよう勧告し、退職に応じない場合は解雇する」というもの。そのため、諭旨解雇を通知されると、退職するか、退職を拒否して解雇されるかの二択を迫られます。いずれにせよ会社には残れないため、労動者の不利益は非常に大きいです。諭旨解雇を理由に退職金の不支給または減額といった扱いを受けることもあります。

今回は、諭旨解雇について、懲戒解雇や退職との違いや退職金をもらう方法などを、労働問題に強い弁護士が解説します。労動者側でも、諭旨解雇についてよく理解しなければ、いざというときに十分な対応ができず、争うチャンスを失ってしまいます。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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諭旨解雇の意味

諭旨解雇とは、懲戒解雇が想定されるような重大な不正行為や規則違反に対し、会社が自発的な退職を促し、拒否する場合は解雇とする処分です。懲戒処分のなかでも懲戒解雇に次いで重大な処分であり、読み方は「ゆしかいこ」と読みます。

諭旨解雇に応じた社員の辞め方は「退職届を出して退職する」というもので、見た目が自主退職と同じなため混同されやすいです。しかし、諭旨解雇はあくまで「懲戒処分」の1種類、つまり、「制裁」を目的としており、「懲罰」の意味合いを強く有します。

諭旨解雇に似た用語に、諭旨退職、諭旨免職、懲戒解雇がありますが、諭旨解雇を区別して理解することで、自分の受けた処分の意味を正確に認識し、対応する役に立ちます。まずは、諭旨解雇と、他のよく似た辞め方との違いを、わかりやすく解説します。

諭旨解雇と諭旨退職の違い

諭旨退職は、諭旨解雇と同じく、重大な非違行為について会社が自発的な退職を促すことを内容とした懲戒処分。諭旨解雇と諭旨退職の違いは、労動者が退職届の提出を拒否したときのその後の流れにあります。諭旨解雇だと「解雇」となるのに対し、諭旨退職では「自然退職」扱いになります。

ただし、諭旨解雇と諭旨退職の両方を懲戒処分として設ける会社は少なく、いずれかの処分のみとする例が大半です。懲戒処分の内容は、会社が定めることができるので、その定め方によっては厳密な使い分けはされず、ほぼ同じ意味に用いられる場合もあります。

なお、労動者側の対応はいずれも、本解説の通り「処分が違法でないかどうか」を考慮し、退職届を出すか、拒否するかを検討する、というプロセスに違いありません。

諭旨解雇と諭旨免職の違い

諭旨免職は、諭旨解雇と似た、公務員の処分の1つ。諭旨解雇が民間企業の職員に下されるのに対し、諭旨免職は公務員に下される点が違いです。公務員の場合は法律で「免職」という処分が定められるため、諭旨「免職」と呼びます(国家公務員法82条1項地方公務員法29条1項)。同様に、懲戒解雇に相当する処分は「懲戒免職」と呼ばれます。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

諭旨解雇と懲戒解雇は、どちらも重度の懲戒処分ですが、懲戒解雇の方がより重い処分という位置づけです。懲戒解雇は、諭旨解雇とは異なり、労働者に自主退職する機会すら与えず、一方的に辞めさせる流れで進みます。また、懲戒解雇だと退職金が全額または一部不支給となる旨を退職金規程で定めるのが一般的です(懲戒解雇されたからといって必ず退職金の減額、不支給が有効と認められるわけではありません。退職金の請求を認めた裁判例もあるので、あきらめてはいけません)。

なお、諭旨解雇と懲戒解雇はいずれも、「懲戒処分」の一種であり、かつ、「解雇」の一種でもあります。詳しく理解するため、他の懲戒処分、他の解雇と比較した位置付けも説明しておきます。

懲戒処分の種類と諭旨解雇の扱い

懲戒処分には、諭旨解雇の他に、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇といった処分があり、処分の重さや内容については軽い順に次のようにまとめられます。

  • 戒告
    労動者の問題行動を注意し、反省を促す懲戒処分。一般には、反省文や始末書などの書面の提出までは求めない。
  • 譴責
    労動者の問題行動を注意し、反省を促す点は戒告と同じだが、始末書の提出を伴う。
  • 減給
    本来支給されるべき給料を減額する懲戒処分。
  • 出勤停止
    一定期間、出勤を禁止、その間の給料を不支給とする懲戒処分。
  • 降格
    職能資格や役職、職位などを引き下げる懲戒処分。
  • 諭旨解雇・諭旨退職
    労動者に自発的な退職を勧告し、応じない場合に解雇または退職扱いとする。
  • 懲戒解雇
    懲罰的に雇用関係を一方的に解消する懲戒処分。

したがって、諭旨解雇は、懲戒解雇に次いで2番目に重い懲戒処分です。雇用関係の解消を伴う懲戒処分は、懲戒解雇と諭旨解雇・諭旨退職のみであり、その不利益も甚大です。

懲戒処分の種類と違法性」の解説

解雇の種類と諭旨解雇の扱い

解雇には、諭旨解雇の他に、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があり、いずれも会社による一方的な労働契約の解約ですが、解雇をする理由がそれぞれ異なります。

  • 普通解雇
    労動者の能力不足や勤怠不良、業務命令違反などによって信頼関係が破壊されたことを理由とする解雇。
  • 整理解雇
    会社の経営状況が悪化した際に人員整理の一環として行われる解雇。
  • 諭旨解雇
    懲戒処分として、労動者に自発的な退職を勧告し、応じない場合には解雇する。
  • 懲戒解雇
    懲戒処分として行われる解雇。

普通解雇や整理解雇は懲罰の意味合いを持たないのに対し、諭旨解雇と懲戒解雇は懲戒処分として行われる点に大きな違いがあります。

解雇の意味と法的ルール」の解説

なぜ諭旨解雇になるのか?諭旨解雇の具体例とは

諭旨解雇は、雇用関係の解消を前提とした処分であり、懲戒処分のなかでも非常に重い処分です。そのため、労動者に大きな問題があり、責任が重い場合に限って下すことができます。

諭旨解雇になるケースの具体例には、次のものがあります。

  • 会社の売上金や経費、備品などの横領、窃盗
  • 強制わいせつ、不同意性交に該当するほどの重いセクハラ
  • 暴行、脅迫、強要などを伴う重いパワハラ
  • 長期間に渡って繰り返されたハラスメント行為
  • 重度の経歴詐称
  • 企業秘密の意図的な漏洩
  • 私生活上の非行でも殺人、強盗や飲酒運転などの重大犯罪

このように諭旨解雇が認められるには、重大な不正行為や規則違反が認定される必要があります。また、本来は「問題行為」という故意の「行為」を基本としていますが、能力不足や勤怠不良、協調性の欠如といった信頼関係を損なう労動者の「性質」についても、あまりにも行き過ぎた程度であって、普通解雇では制裁的な意味合いが弱すぎる場合にも用いられます。

ただし、月に数回程度の遅刻や無断欠勤、不注意で会社の備品を壊すといった過失による行為、軽微な規則違反などでは、諭旨解雇とすることはできません。次章に解説の通り、正当な理由のない限り、諭旨解雇は違法であり、不当解雇として争うことができます。また、就業規則にない事由で諭旨解雇することは許されません。

不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

正当な理由のない諭旨解雇は違法な不当解雇となる

諭旨解雇もまた「解雇」の一種なので、解雇権濫用法理の法規制が適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は、違法な不当解雇として無効となります(労働契約法16条)。

また、「懲戒処分」の一種でもあるので、労働契約法15条の法規制についても適用を受け、同様に、労働者の行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性といった要件を満たさない場合には、不当処分として、やはり無効です。

なお、本来なら速やかに懲戒解雇とすべき局面でも、労動者の名誉を守り、ダメージが大きくなりすぎないよう配慮し、あえて温情で諭旨解雇を選択することもあります。

この場合に、「諭旨解雇の処分を下すこと」と、「退職勧奨をして、勧奨を拒否した場合には懲戒解雇とすること」は、見た目上は全く同じ道筋をたどりますが、前者が(自主退職に応じたとしてもなお)懲戒処分そのものであるのに対して、後者は、退職勧奨に応じれば「処分」されたことにはならず、完全なる自主退職と扱われます。この点で、諭旨解雇は、退職勧奨とも、似て非なるものなので、区別を要します。

また、諭旨解雇が近々に予想されるとき、同じ辞めるのでも、処分前に依願退職することで、懲戒処分が下されることを避ける手もあります。

正当な解雇理由の例と判断方法」の解説

諭旨解雇になるときの手続きの流れ

諭旨解雇の手続きの流れは、以下の通りです。

諭旨解雇は他の処分とは異なり、一方的に通知されるものではありながら、プロセスのなかで「退職届を出すか、拒否するか」という労動者の行動が介在しています。そのため、会社が、適正な進め方をすべきなのは当然ですが、労動者もまた手続きの流れを把握し、万が一に諭旨解雇になった場合も冷静に対応しなければなりません。

ヒアリングと調査

初めに、会社は、労働者の問題行動についてヒアリングと調査を行います。対象者本人や、職場の上司、同僚といった関係者から事情を聞き取り、証拠を集める過程です。十分な証拠なく、事実関係も曖昧なまま諭旨解雇にすれば、後に解雇の有効性を争われ、無効となるおそれがあるからです。

弁明の機会の付与

調査の結果として処分に進む場合は、労働者に弁明の機会が与えられます。自身の行為について説明し、釈明する重要な機会であり、公正な処分を下すのに欠かせません。諭旨解雇の重大性からして、弁明の機会を付与せずにした処分は、無効となる可能性があります。

ヒアリングの際に事実誤認が発覚した場合は、自身の認識を積極的に伝え、この段階で訂正を求めておきましょう。放置すると、誤った事実に基づいて諭旨解雇をされる危険があります。諭旨解雇が決定した後では、話し合いで撤回させるのは難しく、労働審判や訴訟などの裁判手続きを要する可能性があり、手間と労力が余計にかかってしまいます。

自身の責任を認める場合は、問題行動に至った経緯や背景事情を丁寧に説明して、真摯に反省を示したり、会社に被害弁償を申し出たりすることで、少しでも処分を軽くする努力ができます。

弁明の機会から解雇までの手順」の解説

懲罰委員会による解雇理由の検討

以上で収集した事実と証拠をもとに、会社が解雇理由を検討します。諭旨解雇ほどの重要な処分は、就業規則などに基づいて懲罰委員会を開催し、その適切さを判断するのが通例です。

諭旨解雇を含む懲戒処分は、就業規則の相対的必要記載事項であり、就業規則に懲戒の種別と事由を定めなければ行えません。そのため、諭旨解雇について就業規則に規定があり、その事由に該当することは必須となります。また、前述の通り、諭旨解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権の濫用により無効です(労働契約法16条

懲罰委員会は、調査や弁明の内容によって認定した問題行動を理由に諭旨解雇できるかどうか、慎重に判断すべきです。労動者側でも、会社の検討が甘く、不当な諭旨解雇の処分を下された場合は、積極的に争わなければなりません。

会社から呼び出され諭旨解雇を通知される

会社が諭旨解雇を決定したら、労働者を呼び出し、諭旨解雇を通知します。

諭旨解雇を通知された労働者は、その処分内容に従い「退職届を提出するかどうか」という選択を求められます。会社から、諭旨解雇の意味と処分理由を説明されるので、よく聞いてしっかり理解し、慎重に検討する必要があります。

諭旨解雇の通知は、懲戒処分通知書などの書面で行われますが、口頭で済まそうとする問題ある会社に対しては、必ず書面で通知するよう求めてください。諭旨解雇は「解雇」の一種なので、予告ないし通知の以降、労動者が求める場合に会社は解雇理由を書面(解雇理由証明書など)で明示すべき義務を負います労働基準法22条)。また、解雇予告の規制(労働基準法20条)に従う必要があるので、30日以上前に諭旨解雇の予告をするか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を請求できます。

正式に諭旨解雇を言い渡されれば、頭が真っ白になってしまうかもしれませんが、その後の紛争の検討のためにも重要ですので、落ち着いて対応するのが大切です。

解雇予告手当の請求方法」の解説

退職届を書くかどうかの選択をする

労働者として、退職届を書くべきかどうか、という点は、非常に悩ましい選択です。

諭旨解雇という処分を下された以上、退職届を書かなければ懲戒解雇となる流れが見えています。退職届を提出すれば、退職金の支給や会社都合による失業保険の給付といった、労動者にとって懲戒解雇に比べればましな扱いを交渉によって勝ち取れる余地があります。

一方で、諭旨解雇に納得いかず「たとえ懲戒解雇になってもその有効性を争いたい」と考えるなら、退職届を書いてはいけません。退職届、退職合意書など、あらゆる退職を前提とした書面にサインをすれば、その後はもはや合意退職したものと扱われ、諭旨解雇の有効性を争うのは難しくなってしまいます(諭旨解雇にも同意をしたものと評価されます)。

退職届を提出するメリット、デメリットや将来のライフプランを見据え、後悔のない決断をすべきです。この考慮には一定の期限を設けられることが多く、時間は限られています(※ 具体的な判断過程について「退職を拒否するかどうかの判断基準」で後述)。なお、将来の解雇というプレッシャーをもとにした辛い決断となりますが、「どうせ辞めるのだから」と自暴自棄になるのは止めましょう。また、「書かされた」「強要された」という場合は、それ自体が違法となる可能性が高いです。

退職合意書の強要の違法性」の解説

退職届を書く場合は合意退職となる

諭旨解雇となり、働きかけに応じて退職届を提出すると、合意退職として処理されます。この場合、退職日についても労使の間でしっかり話し合っておきましょう。労動者としては、退職前の有給消化ができる退職日とするのが理想です。

退職届を提出せずに解雇される場合に比べて、退職金を支給される可能性が高く、また、失業保険についても会社都合にするよう交渉できる可能性があるため、懲戒解雇されて自己都合退職扱いとなるよりも有利な給付を受けることができます。

退職届の書き方と出し方」の解説

自主的な退職を拒否すると懲戒解雇になる

手続きの最終段階として、諭旨解雇になって、自主退職を拒否すれば、その後に待っているのは解雇です。この場合の解雇は、最も重い懲戒解雇と同じ扱いとなるのが通例です。

懲戒解雇となると、退職金が減額され、または全額不支給とされるケースが多いです。また、企業が「労働者の責に帰すべき事由」による解雇として労働基準監督署長から除外認定を受けた場合は、即日解雇されても解雇予告手当すらもらえません(労働基準法20条1項但書)。更に、懲戒解雇の記録が残ることは将来の転職活動においてもマイナスです。

この場合、懲戒解雇であり、かつ、即日解雇とされる場合には、解雇日としては、諭旨退職による自発的な退職を拒否した当日とされるケースが多いです。

諭旨解雇に納得できない場合は、早めに労働問題が得意な弁護士に相談し、処分の有効性を争う準備を行うことが大切です。

懲戒解雇されたらすぐ弁護士に相談すべき理由」の解説

諭旨解雇による労働者への経済的な影響は?

諭旨解雇処分は、労働者に様々な経済的影響を及ぼします。

諭旨解雇だと、退職金を不支給または減額とされることがあり、経済的に大きな打撃となります。雇用保険の面でも、諭旨解雇が自己都合退職として扱われ、会社都合退職に比べて失業保険の条件が不利になることがあります。諭旨解雇をきっかけに会社と対立すると、未払いである最終給与や残業代が払われるか心配する人もいます。

そこで、諭旨解雇の経済的な影響と、その対処法について解説します。

諭旨解雇されると退職金は不支給や減額になる?

諭旨解雇の場合、退職金が不支給または減額とされるケースがあります。

退職金の扱いは、就業規則や退職金規程で決められており、多くは「懲戒解雇の事由のあるときは、退職金を不支給ないし減額することができる」と定めています。退職金の額は、退職後の生活の安定に直結するので、諭旨解雇に応じるか、それとも争うかを決める大きな要素です。

ポイントは、多くの退職金規程が「懲戒解雇となったとき」ではなく「懲戒解雇の事由のあるとき」に不支給、減額と定める点にあります。本解説の通り、諭旨解雇は、懲戒解雇を相当とするケースにおいても温情的に下されることが多く、この場合にたとえ処分が諭旨解雇でも「懲戒解雇の事由のあるとき」に当たるとして、退職金を減らされる危険があります。

ただし、退職金の扱いは諭旨解雇の有効性とは別問題で、たとえ諭旨解雇が適法かつ有効に行われてもなお、退職金は支給すべきと判断されるケースもあります。また、諭旨解雇に応じるにあたり「退職届を出すので、せめて退職金は満額支給してほしい」と主張し、会社と交渉の末、退職の条件として退職金の全額支給を約束させる方策も有効です。

懲戒解雇でも退職金不支給が違法となるケース」の解説

諭旨解雇による失業保険は自己都合?会社都合?

諭旨解雇に応じて退職届を提出する場合には、失業保険について、自己都合退職として扱われるのが通常です。

失業保険は、自己都合か会社都合かによって支給の時期と日数が異なります。会社都合なら7日の待機期間の経過後すぐ受給できますが、自己都合退職だと更に2ヶ月の給付制限期間を待たないと受給できません。また、会社都合では最長330日まで失業手当(基本手当)が支給されますが、自己都合では最長でも150日までと支給日数も短いです。

諭旨解雇の場合、退職に応じずに解雇となった場合にも、懲戒解雇として結局は自己都合扱いされてしまう可能性が高く、これだと、退職に応じても、拒否して争っても、雇用保険の面での扱いは変わりません。そのため、使用者側が退職に応じてほしいと考えるなら、諭旨解雇の通知に対し「退職届を出すので、せめて失業保険は会社都合にしてほしい」と交渉するのも有効です。退職金の場合と同じく、自主退職する条件として会社都合扱いを約束させることも期待できます。

なお、離職理由は、離職票の記載を見ることで確認できます。納得のいかない離職理由を書かれた場合は、ハローワークに異議申し立てすることもできます。

自己都合と会社都合の違い」の解説

諭旨解雇でも給料と残業代は請求できる

諭旨解雇された場合でも、未払いの給料や残業代は請求できます。このことは、退職に応じる場合でも、拒否して争う場合でも変わりません。会社には労働者が勤務した分の給料や残業代を適切に支払う法的義務があり、諭旨解雇を理由に支払いを免れることはできないからです。

会社が支払わない場合は、民事訴訟や労働審判といった裁判手続により、支払わせることもできます。労働基準監督署(労基署)や労働組合、弁護士に相談して、速やかに対処法を検討してください。給料の争いは、生活に関わる切迫した問題なので、早めの問い合わせが肝要です。

残業代請求を無視された場合の対応」の解説

諭旨解雇は将来の転職に悪影響を及ぼすのか

諭旨解雇は、将来の転職活動や再就職においてマイナスとなる可能性があります。

諭旨解雇の理由が重大なほど、転職先には悪い印象を与えます。諭旨解雇は、不適切な行為や重大なミスをしたというイメージを持たれるからです。採用担当者は、雇用リスクを判断するため、求職者のバックグラウンドを調査し、その一環として前職の退職理由を尋ねてきます。前職の退職理由は、資質や適性を判断する重要な事情なので、嘘をついて隠せば、経歴詐称として新たな解雇理由となってしまう危険があります。

残念ながら諭旨解雇されてしまったとき、転職への悪影響を少しでも軽減するため、次の対策を講じておきましょう。

  • 積極的に開示する必要はない
    諭旨解雇されたことを履歴書の賞罰欄に記載する必要はなく、面接でも質問されなければ積極的に開示する必要まではありません。
  • 正直に説明する
    面接で退職理由を質問されたら正直に説明することが重要です。隠したり嘘をついたりして怪しまれると、マイナス評価が強くなります。諭旨解雇は、懲戒解雇ほど重度ではなく、前職の社内で悪い評価を受けたからといって、改善の努力をしていれば、今後も問題が継続するケースばかりではありません。
  • ポジティブな転職理由を伝える
    結果的に諭旨解雇が1つのきっかけとなっていたとしても、次のステップに進むためのポジティブな転職理由もあわせて説明するのが効果的です。新しい挑戦や自己成長の機会を探していることなどをアピールすることで、諭旨解雇による悪いイメージを払拭できます。
  • 能力と経験をアピールする
    過去に問題行為や失敗があったとしても、それを活かして次に繋げる能力と経験が十分に備わっているとアピールすることで、諭旨解雇による悪影響を挽回できます。

諭旨解雇が、将来の転職に悪影響なのは間違いないものの、適切な対策を講じることでその影響は軽減できます。正直で、誠実な対応をすることが、新しい職場での信頼関係の構築に繋がるので、諭旨解雇になったとしても自棄にならず丁寧に対応してください。

リファレンスチェックの違法性」の解説

諭旨解雇された労動者の適切な対応方法と、諭旨解雇の争い方

次に、諭旨解雇を受けた場合の、労動者における適切な対応方法について解説します。諭旨解雇を告げられても焦らず、納得のいかない場合は会社と争えるよう、各手順を確認してください。

諭旨解雇を知らせる懲戒処分通知書を精査する

まず、会社からの懲戒処分通知書を精査し、諭旨解雇の理由に間違いがないかを確認します。

通知書には、処分の対象となる事実や就業規則の根拠条文が明記されているため、諭旨解雇の正当性について労動者側でも検討できます。記載内容に誤りがあるなら指摘し、諭旨解雇の撤回を求めていくのが重要です。通知書の記載が曖昧だったり不明確だったりして、諭旨解雇を争うのに十分でない場合は、質問をしたり、詳細な理由を開示させたりする必要があります。

諭旨解雇を争うかどうかを検討する段階で、早めに労働問題に詳しい弁護士に相談すべきです。解雇の撤回金銭解決を求めて徹底的に争うか、それとも穏便に済ませるか、といった初動から迷う場合は、まずは軽い無料相談をしておくのも有効です。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

退職を拒否するかどうかの判断基準

次に、諭旨解雇を受けて、退職に応じるのか、それとも拒否するのか、という判断を行います。この点の選択によって、諭旨解雇後のプロセスが大きく異なるため、最重要の分岐点です。

諭旨解雇を受けた労動者が知るべき判断基準は、次の4つです。

  • 正確な事実関係に基づいているか
    事実誤認に基づく諭旨解雇は無効なので、諭旨解雇の通知書に記載された事実に誤りがあるならば、そのような誤った働きかけに応じて退職する必要はありません。
  • 就業規則の諭旨解雇事由に当たるか
    諭旨解雇は、就業規則に定められた事由に該当しなければ行えないため、諭旨解雇事由に当たらないと考えられる場合には、退職を拒否して争うべきです。
  • 必要な社内手続が実施されたか
    弁明の機会の付与や懲罰委員会の開催といった社内手続きが事前にとられていない場合も、諭旨解雇が無効となる可能性があります。就業規則に明記された手続きすら実施されていないなら、退職を拒否して争うべきです。
  • 諭旨解雇事由に対して処分が重すぎないか
    形式的には就業規則の諭旨解雇事由があるにせよ、その手段として諭旨解雇が重すぎるなら権利濫用として無効です。処分内容と理由のバランスが取れているかを検討することも、退職に応じるか、拒否するかの重要な判断ポイントとなります。

以上を踏まえ、退職に応じるのと拒否するのと、どちらが得かを的確に判断するには、専門的な法律知識と実務経験なくしては難しいです。将来のライフプランにも関わる重要な判断なので、弁護士に相談しながら慎重に決めることをお勧めします。

退職勧奨の拒否」の解説

諭旨解雇を「不当解雇」だと主張して争う

諭旨解雇の処分となると、たとえ退職を拒否しても、何もしなければ懲戒解雇されてしまいます。そこで、自主的に退職しなかった場合には、諭旨解雇ないしその後にされる懲戒解雇について、「不当解雇」であると主張して会社と争うことが必要です。

争い方には、内容証明を送るなどして会社と任意に交渉する方法と、裁判手続を利用する方法があります。

労動者自身で交渉することもできますが、弁護士に依頼し、弁護士名で内容証明を送る方が効果が高いです。交渉が決裂する場合に、利用すべき裁判手続きには労働審判と訴訟がありますが、それぞれの特徴を踏まえ、どちらの方法がよいか状況に応じてご判断ください。

裁判で勝利し、諭旨解雇の無効が認められると、解雇扱いとなっていた期間の給料(バックペイ)を受け取れます。有利な流れで和解ができれば、諭旨解雇を撤回してもらい、合意退職として、代わりに不当解雇の解決金をもらうといった金銭解決も目指せます。裁判手続きを有利に進めるには、労働問題の得意な弁護士に依頼すべきです。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

諭旨解雇を無効と判断した裁判例

諭旨解雇は非常に重い懲戒処分であるため、裁判となった場合に処分が無効となることは珍しくありません。諭旨解雇が無効と判断された裁判例を紹介しますので、不当な諭旨解雇について会社と争う際の参考にしてください。

東京地方裁判所平成27年12月15日判決

鉄道会社の従業員が、勤務先の電車(職務外)で痴漢したことを理由に行われた諭旨解雇を、無効であると判断した裁判例。

痴漢の悪質性が比較的低かったこと、過去に処分歴がなく勤務態度も問題なかったことなどから、諭旨解雇は重すぎると判断した。マスコミ報道がなく社会に周知されず、企業秩序への影響も大きくなかった点、弁明の機会が付与されなかった点も無効と判断される理由となった。

東京地方裁判所令和2年2月19日判決

自身の要求を通すために、職場でカッターナイフを持ち出し、手首を切る素振りをみせたことなどを理由に行った諭旨解雇について、無効であるとした裁判例。

本件では、他害の意図はなく、結果として自傷も他害も発生しておらず、過去に懲戒処分歴がなかったことなどを理由に、裁判所は、諭旨解雇は重すぎると判断した。

以上の裁判例に見られるように、行為の悪質性や、発生した結果の重大性が低い場合、過去に処分歴がない場合には、諭旨解雇は重すぎると判断される傾向にあります。また、弁明の機会がないなどといった社内手続きの不備についても無効という結論に繋がりやすいです。

これら裁判例で示された、無効判断の基礎となった理由に1つでもあてはまるなら、弁護士に相談して諭旨解雇の有効性を争うことを検討しましょう。

労動者が裁判で勝つ方法」の解説

まとめ 

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、諭旨解雇を受けた場合の対処方法について解説しました。

諭旨解雇は、懲戒解雇に次いで重い懲戒処分であり、有効になるのは従業員側の責任が重いケースに限られます。数回の遅刻や欠勤といった軽微な規則違反、会社の恣意的な好き嫌いを理由に、いきなり諭旨退職とするのは認められません。

会社に事実誤認がある場合や、諭旨解雇が重すぎる場合、違法な処分の可能性があります。会社と争うならば、安易に退職届を提出することはやめ、裁判手続きで不当解雇として訴えることをご検討ください。諭旨解雇に伴って退職金を不支給、減額とすることもまた、これまでの功労や責任とのバランスがとれていない場合は違法と判断される可能性があります。

諭旨解雇に納得のいかない場合、一人で悩みを抱え込まずに早めに弁護士にご相談ください。

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