タイムカードの改ざんは、労働時間を正当に評価せず、本来払うべき賃金を免れようとする重大な違法行為です。タイムカードは、残業代請求の最重要の証拠なので、改ざんがあると労働時間が不正に操作され、正しい残業代を計算できません。
いつの間にか残業時間が減らされていた
勤怠の記録が勝手に修正されてしまった
タイムカードを違法に修正し、残業時間を減らすことで残業代を払わない手口は、ブラック企業ではよく起こります。タイムカードや勤怠の記載が、実際の残業時間より短いときなど、労働時間が不正に操作されている可能性があるなら、改ざんを疑って対応しなければなりません。
どれほど残業しようとも、タイムカードの記録を改ざんされると、せっかくの努力も無に帰してしまいます。不正な改ざんに対抗するため、労動者側でも証拠を集めておくべきです。
今回は、タイムカードの改ざんが違法である理由と対処する方法、特に、勤怠を改ざんした会社を告発する方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- タイムカードの改ざんは違法であり、民事、刑事のいずれの責任もある
- タイムカードの改ざんは罪。私文書偽造罪のほか、残業代未払いにも刑罰がある
- 不正に残業時間を減らされたら、残業代請求と共に、労働基準監督署に告発する
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タイムカードの改ざんとは
タイムカードの改ざんとは、実際の出勤・退勤時間や労働時間を、タイムカードの書き換えによって会社が不正に変更する行為です。タイムカードは、労働時間の証拠のなかでも特に重要であり、不正に操作されると、本来受け取るべき賃金や残業代が減少してしまいます。
タイムカードを改ざんされた結果、実際より労働時間を短く記録されれば、適正な残業代を払ってもらえない不利益を被ります。残業代未払いを争おうにも、証拠価値の高いタイムカードが改ざんされ、実態を示していないと、労動者に有利な証拠が手に入らなくなる危険があります。
タイムカード改ざんの具体例
タイムカードの改ざんにはいくつかのパターンが存在します。わかりやすいように、具体例を紹介していきます。なお、タイムカードに関する不正は、会社が組織ぐるみで行う場合もあれば、問題ある上司の一存で進められる場合もあります。
出勤時間・退勤時間を変更される
実際の出勤時刻よりも遅い時間にタイムカードを改ざんしたり、実際の退勤時刻より早く帰ったかのように修正したりすることで、労働時間を短縮する行為です。このような改ざんがされると、労働時間が短く見られ、残業代の支払いが減少してしまいます。
残業時間がカットされる
残業したのに終業時刻で押したり、定時に自動打刻したりすることで、タイムカード上は残業がないかのように改ざんする方法もあります。残業代を払いたくない会社が行う不正であり、正しい残業時間が反映されない結果、残業代の未払いが生じてしまいます。
取得していない休憩時間を書き加える
実際は取っていない休憩時間が、タイムカードには記録されているケースもあります。多忙で満足に休憩できなかったにもかかわらず、毎日1時間の休憩を取っていたかのようにタイムカードを改ざんされると、その分の賃金が減少してしまいます。
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会社がタイムカードの改ざんを行う理由
不正であるのが明らかなのに、会社がタイムカードの改ざんを行うことには理由があります。その背景には、残業代をはじめとした人件費を削減し、コストカットにより利益を確保しようという悪質な意図があります。
労働基準法37条は、決められた労働時間を超えて働いた場合に、割増賃金(残業代)を支払うよう企業に義務付けています。しかし、残業代は企業にとって大きなコストなので、支払いを回避すべくタイムカードを改ざんし、残業時間が実際よりも短かったかのように偽装するのです。タイムカードの証拠価値は非常に高いため、その記録上、残業がなかったかのように記載されると、残業代請求の難易度はかなり上がってしまいます。
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タイムカードの改ざんは違法
タイムカードの改ざんは、労働法に違反する行為であるのはもちろんのこと、発覚した場合、会社に対して厳しい罰則が科される可能性があります。タイムカードを改ざんされると、受け取れる残業代が不当に減らされ、労動者の不利益が大きいため、厳しい制裁があるのです。
労働安全衛生法における労働時間の管理義務違反
労働安全衛生法は、次の通り、企業が社員の労働時間を正確に把握することを義務付けます。この義務は、必ずしもタイムカードによるのでなくても、客観的な方法で記録すれば足りますが、準備したタイムカードすら改ざんする会社では、その他の方法など用意されず、労働時間を把握する義務に違反している可能性が高いです。
労働安全衛生法66条の8の3
事業者は第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働安全衛生規則52条の7の3
1. 法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2. 事業者は前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
この労働時間を把握する義務は、次章の残業代の支払いの前提となります。タイムカードや勤怠システムの記録は、労働者がどれくらい働いたかを証明する重要な証拠であり、記録が正確でないと、正しい残業代を受け取ることができないからです。
労働基準法における残業代の未払い
タイムカードを改ざんされた結果として、労働時間が把握されないと、労働基準法の定める残業代が未払いとなってしまう可能性が高いです。労働基準法37条では、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超える労働に対し、25%以上の割増賃金(残業代)を支払う必要があると定めます。
労働基準法109条は、企業が労働関係に関する重要な書類を5年間保存しておく義務を定めており、その対象には、タイムカードその他の勤怠の記録を含むものと考えられています。なお、これらの責任は残業代を請求することで追及できますが、残業代請求の時効が3年のため、速やかに請求しておかなければなりません。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説
タイムカードの改ざんは刑法違反の犯罪行為
タイムカードの改ざんが発覚した場合、その違法性が強度な場合には、刑法違反となる可能性があります。つまり、タイムカードの改ざんは、犯罪になる場合があるのです。タイムカード改ざんによる不正が該当する犯罪には、次のものがあります。
労働基準法違反
労働基準法違反には刑事罰があり、残業代の未払いについては、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の刑事罰に処せられます(労働基準法119条)。
私文書偽造罪
残業時間を減らすためにタイムカードを改ざんする行為は、私文書偽造罪に該当します。
同罪は、行政機関の作成する公的文書以外の「私文書」を偽造することで成立する罪であり、他人の印章・署名で私文書を偽造したときは「5年以下の懲役」、印章・署名のない私文書の偽造なら「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」の刑に処せられます(刑法159条)。
電磁的記録不正作出罪
紙のタイムカードではなく、勤怠記録がクラウド上でデータ管理されているときには、勤怠データの改ざんについては電磁的記録不正作出罪に該当し、「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑に処せられます(刑法161条の2)。
公訴時効に注意する
刑事責任の追及には、期間の制限(公訴時効)があります。各犯罪の公訴時効は、刑罰の重さによって次のように決められています。公訴時効までに告訴しなければ、罪として逮捕してもらったり捜査を開始してもらったりすることができません。
罪名 | 公訴時効 | 最高刑 |
---|---|---|
私文書偽造罪(刑法159条) | 5年 | 5年以下の懲役 |
電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2) | 5年 | 5年以下の懲役 |
「残業代未払いによる逮捕」の解説
タイムカードを改ざんされたときに対抗する方法
次に、タイムカードの改ざんを発見したとき行うべきことを、ステップで解説します。
タイムカードを改ざんされたとき真っ先に行うべきは、確実な証拠の確保です。証拠がなければどのような主張をしても問題解決が困難になり、改ざんをした会社に得をさせてしまいます。
タイムカードの開示請求をする
まず、タイムカードの改ざんが疑わしいとき、できるだけタイムカードの原本をチェックしましょう。たとえ改ざんされていても、タイムカードを確認することには意味があります。原本を押さえれば、上書きや訂正といった改ざんの痕跡を見つけ出し、不正を暴けることがあるからです。
速やかに、会社にタイムカードの開示を請求してください。改ざんをして後ろめたい会社ほど、タイムカードを隠して見せようとせず、破棄、隠匿しようとします。労働時間を証明する責任は労動者側にあるため、タイムカードを入手するためには証拠保全の手続きを利用する手もあります。改ざんが不安視される悪質な企業ほど、偽造や改ざんの時間的余裕を与えてはなりません。
「タイムカードを開示請求する方法」の解説
タイムカードを改ざんされた証拠を確保する
次に、タイムカードを改ざんされた証拠を確保してください。残業代を違法に免れようとして不正に手を出す会社ほど、改ざんはこっそりと行いますから、明るみに出すには証拠が必要です。
タイムカードの改ざんを証明するために重要なことは、労動者が自身で、タイムカード以外の証拠を集めることです。真実の労働時間を、労働者の手元でしっかり記録しておけば、タイムカードがそれよりも明らかに少ないとき、会社側が違法に改ざんしたと証明することができます。例えば、次のような証拠を集めておいてください。
- 出勤簿
- 業務日報、月報、日誌
- パソコンのログイン、ログアウトの履歴
- パソコンのメール送受信履歴
- LINEやチャットの会話履歴
- 交通系ICカードの利用履歴
- GPS(位置情報)の移動履歴
- 家族に送った帰宅メール、LINE
- 出勤・退勤時刻について手書きのメモ
- 日記、スケジュール帳、カレンダー
証拠価値が高いタイムカードの矛盾をつくには、上記の資料は、できるだけ複数集め、互いに補強し合うようにしてください。
タイムカード改ざんが月末などにまとめて行われるなら、それに備え、毎日タイムカードの写しを取っておくのも有効です。労動者がコピーしておいたタイムカードと、争いになってから提出された資料に違いがあるなら、会社がその間に改ざんしたといえるからです。
「残業の証拠」の解説
会社に改ざんを指摘する
ここまでの証拠収集は、会社に知られないよう、秘密裏に行ってください。証拠を集めていることが知られると、不正が更に巧妙になって改ざんの証拠を掴みづらくなってしまいます。改ざん前後のデータを比較し、不正が明らかになって初めて、会社に指摘するようにします。
改ざんの指摘は、まずは直属の上司に相談し、勤怠記録に不正があると伝えてます。ただ、会社ぐるみで不正に加担している場合、社内で相談しても解決しなかったり、かえって報復やパワハラの犠牲になったりする危険があります。一人では解決が困難なとき、弁護士をはじめとした社外の窓口にご相談ください。詳しくは「勤怠を改ざんした会社を告発する方法」で解説します。
「サービス残業の相談窓口」の解説
未払い残業代を請求する
最後に、改ざんによって未払いとなった残業代を請求するのも有効な対策となります。タイムカードを改ざんする会社には、残業代を払いたくないという動機が隠れていることが多く、改ざんを明らかにされ、実際の労働時間に沿った残業代を請求されれば、不正を台無しにできます。
本来、残業時間は、会社が把握すべきものですが、タイムカードを改ざんする会社では、労動者もまた証拠を集める努力をする必要があります。また、満足に証拠が集まらなかったとしても、手元にある証拠で可能な範囲で残業代を概算して請求するようにしましょう。会社が、義務を怠ったがために労働時間の把握が困難となっているケースでは、裁判所もある程度労動者を保護し、救済してくれる可能性があるからです。
むしろ、正しいタイムカードが存在しないことは、会社が労動者の主張に対して反論するための材料を失っていることを意味し、会社の不利に働きます。
「残業代の計算方法」の解説
勤怠を改ざんした会社を告発する方法
次に、タイムカードの改ざんについて告発する方法を解説します。
タイムカードの改ざんは、犯罪行為となる重大な問題ですから、外部機関に通報し、告発して、制裁を下してもらえるよう働きかけることもできます。勤怠を改ざんした会社を告発するときは、労働基準監督署に連絡をするようにしてください。
労働基準監督署に告発する
労働基準監督署(労基署)は、労働者の権利を守るために労働基準法を遵守しているかどうか、企業を監督する役割を有する機関です。タイムカードの改ざんについて刑事責任を追及しようとするなら、労働基準監督署に告発する手が有効です。
労働基準監督署には、刑罰の付いた労働法について、警察と同様に逮捕・送検する権限を有しています。不正をした会社が、改ざんを隠そうとしても、労基署が動けば、直接出向いて調査したり、立ち入り調査(臨検)、書面提出の命令といった権限を駆使し、積極的に調べてくれます。
「労働基準監督署への通報」「労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説
弁護士に相談する
労働基準監督署だけでは問題が解決しない場合、労働法に詳しい弁護士に相談することが重要です。労基署は行政機関であり、違反を是正するよう指導してくれても、労動者の味方となって未払いの残業代を全て回収してくれるとは限りません。弁護士なら、労動者の代理人となって会社と交渉したり、訴訟で訴えるサポートをしたりすることができます。
弁護士を通じて内容証明を送付し、改ざんされた労働時間の訂正を求める方法が有効です。弁護士が介入することで、会社もあからさまにバレるような改ざんは行わず、真剣に対応することが期待できます。また、弁護士なら、労働審判や訴訟などの裁判手続きを活用することもできます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
タイムカードの改ざん防止の方法
最後に、タイムカードの改ざんを防止するために講じるべき対策について解説します。
労働者側の対策
本来は、企業が適正な労働時間管理の体制を整えておくことが重要ではありますが、労動者側でも自己防衛のために、改ざんリスクを事前に減らす策を知っておきましょう。
- 自己管理を徹底する
タイムカードが改ざんされても反論できるよう、毎日の出勤・退勤時刻、休憩時間、残業時間を、自身で記録してください。残業代アプリを利用したり、残業のメモやスケジュール帳に逐一記録したりといった方法があります。 - デジタルデータを活用する
自身で準備できる証拠のなかでも、デジタルデータにする工夫をすれば、客観的な記録として証拠価値を高められます。業務上のメールやチャットの送信時間を記録したり、パソコンのログ、入退室カードの記録を取得したりといった方法です。 - 残業していることを会社にアピールする
残業をしていても、それを会社に知らせなければ正当な評価を受けられません。日報や業務報告書に、残業したことを記載して上司に提出し、自分が貢献を会社にアピールしましょう。間違っても隠れてステルス残業しないでください。
「タイムカードを勝手に押されるのは違法」の解説
企業側の対策
企業にとっても、勤怠管理の透明性を確保し、改ざんを防ぐことは重要です。従業員から改ざんを疑われると、士気やモチベーションが低下してしまいます。
労動者がタイムカードを勝手に修正するなどして改ざんした場合、間違った記載によって労働時間を長めに申告し、残業代を受け取ることは、詐欺罪(刑法246条)に該当する危険があります。
- 信頼できる勤怠管理システムを導入する
紙のタイムカードは改ざんが容易ですが、クラウドに記録される勤怠管理システム、ICカードやGPSと連動したシステムを導入すれば、改ざん困難で、労動者の信頼を得られます。 - 管理職に法令遵守の教育をする
経営者が法令を守ろうとしても、ある上司がタイムカードを改ざんしてしまえば、結局は会社の責任となります。そのため、管理監督を行う立場の人に、労働法の教育、研修を施し、タイムカードの改ざんが違法であると伝えることも会社の責務です。 - 労働者とコミュニケーションを密に取る
定期的なミーティングやアンケート調査を実施し、職場環境についての不満を洗い出し、問題点を早期に改善する姿勢が大切です。
「労働問題の種類と解決策」の解説
まとめ
今回は、タイムカードの改ざんという企業側の違法行為への対抗策を解説しました。
タイムカードの改ざんは、残業代を請求するという労働者の正当な権利を侵害する重大な違法行為です。労働者は、自身の労働時間が正しく把握し、記録されることで、適切な対価を支払ってもらう権利を有します。この権利を侵害するタイムカードの改ざんを発見したら、会社に強く訂正を求めましょう。それでも改善しない悪質な会社に対しては、労働基準監督署に告発し、あわせて、弁護士に相談して残業代請求をするといった対抗策を取る必要があります。
これらの対応のなかで、既にタイムカードが改ざんされてしまっていると、正しい勤怠の記録が入手できないことがあり、会社の不正を暴くには、労動者の手元にも証拠が必要です。「タイムカードが改ざんされているのではないか」と不安を感じるなら、速やかに証拠を集めておかなければならず、早期の段階で弁護士のアドバイスを聞くのが賢明です。
- タイムカードの改ざんは違法であり、民事、刑事のいずれの責任もある
- タイムカードの改ざんは罪。私文書偽造罪のほか、残業代未払いにも刑罰がある
- 不正に残業時間を減らされたら、残業代請求と共に、労働基準監督署に告発する
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