法律相談で「残業代の勝率はどれくらいですか?」と聞かれることがあります。
苦労して残業しても残業代が払われないケースで、どうしても勝率が気になるでしょう。
残業代が未払いな分、手持ちの現金には不安があるもの。
いざ残業代請求しても、勝率が低いケースでは、請求にかかるコストや時間が無駄になります。
勝率が低いおそれがあると、「費用倒れ」が気になりあきらめる方も少なくありません。
結論としては、残業代請求の勝率は、高いケースが多いといえます。
残業代は、法律に定められた権利であり、その要件を満たせば請求可能だからです。
ただし、残業代請求の勝率が高いのは、証拠が十分あるなど、事前準備が適切なケースです。
タイムカードや雇用契約書などの証拠からあらかじめ計算すれば、予想外に負ける例はありません。
また、一般には勝率が低そうなケースでも、事前の対策により回収確率を上げられます。
勝率を上げる方法を知らないと、勝てたはずのケースでもブラック企業に反論されることに……。
今回は、残業代請求の勝率の考え方と、勝率を上げる方法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 残業代請求の勝率は一般に高い傾向にあるが、証拠などをもとに事前に予測するのが大切
- 証拠がしっかり準備された残業代請求では、希望額を回収できる可能性が高い
- 残業代請求の勝率が低い場合も、弁護士のサポートのもと事前準備で努力すれば勝率を上げられる
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残業代請求の勝率は高い

まず、残業代請求の勝率についての基本的な考え方を解説します。
一般的にいって、残業代請求は、労働トラブルのなかでも勝率は高いと言ってよいでしょう。
ただし、油断は禁物であり、勝率が高いからこそ、勝ち切るには慎重な対処を要します。
残業代請求の勝率の考え方
残業代請求の経験が豊富な方など、弁護士でもない限りそう多くはないでしょう。
すると、将来への不安から「勝率はどれくらいか」と気になるのはもっともなことです。
しかし、弁護士は、勝率を断言することはありません。
「必ず勝てる」「8割うまくいく」と発言し、安心させようとする弁護士はむしろ正確ではありません。
結果、信じて戦っても、言った通りにはならない可能性もあります。
そのため、残業代の勝率の基本的な考え方として、あくまで目安であり、弁護士に対し、相談の段階で確率論を断言させようとするのは適切ではないと考えたほうがよいでしょう。
なお、依頼者が「勝率」といった曖昧な数字によって弁護士の実力を見誤らないよう、そもそも弁護士倫理的に、弁護士が訴訟の勝率を広告することは禁じられています(弁護士の業務広告に関する規程4条1号)。
仮に具体的な勝率を示せたとしても、それが弁護士の実力を直ちに示すわけではありません。
残業代請求では、勝ち負けの定義も曖昧です。
どのような状態を「勝ち」と定義するかは、事案や依頼者ごとの主観によります。
希望額を全額勝ち取れても、費用や時間がかかりすぎてはかえって非効率です。
費用倒れに終わり、ストレス過多になっては、残業代が回収できても負けに等しいと思う人もいるでしょう。
一般に、残業代請求の勝率は「高い」傾向にある
とはいえ、目安として、将来の方向性を示すことは可能です。
その意味では、残業代請求の勝率は、高いか低いかでいえば「高い」と考えてよいです。
残業代請求は、労働基準法に定められた権利であり、権利を証明する証拠が十分にあれば、請求前にある程度計算し、回収額の目安を付けて予想できるからです。
証拠さえあれば、基本的に労働者が勝てる可能性はかなり高いです。
残業代請求の勝率が高いといえるのは、次の理由があります。
- 客観的に数値化しやすい
人の能力や気持ちとは異なり、労働時間は数値化しやすく、客観視しやすい - 請求認容のために証明すべき事実が少ない
労働条件、労働時間を証明できれば、残業代請求は認められやすい - 会社側の反論が認められづらく、争いになるポイントが絞られる
労働基準法などにおいて残業代請求を妨げるルールのためには会社側の十分な事前準備を要する
同じ労働問題でも、ハラスメントの問題だと、精神的損害や過失など証明すべき事実が多く、因果関係も絡むためより複雑であり、解雇の問題だと、能力不足や協調性不足など、程度や価値観の問題となって争いが激化するケースもあります。
また、残業代請求では、証拠が容易に収集しやすい点も、その勝率の高さに影響しています。
これに対し、ハラスメントや解雇のケースでは、直接証明するには録音など、収集に労力のかかる証拠が必要となります。
こういったケースと比較すると、残業代請求は見通しが立てやすく準備も容易だという特徴があります。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

残業代請求の勝率が特に高いケース

類型的に高い勝率が期待できる残業代請求のなかでも、特に勝率が高いケースがあります。
これらのケースにあてはまるなら、必ず争うべきといえるでしょう。
証拠が十分にあるケース
まず、必要な証拠がほとんど揃っているのに残業代が未払いのケースは、勝率が高いと言ってよいです。
十分な証拠が準備できれば、会社がどう反論してきても、交渉を決裂させて裁判で争えるからです。
会社の反論が不合理なら、譲歩したりあきらめたりする必要はありません。
残業代が出ないことに疑問を持ったら、速やかに証拠収集を開始しましょう。
なお、証拠が十分でないとしても、弁護士に依頼し、できるだけ回収額を増額することができます。
弁護士は、タイムカードなど典型的な証拠以外にも、残業代の証拠となる資料の集め方、開示のさせ方を熟知しており、勝率を上げるのに寄与できるからです。
残業の証拠となる資料は、次に解説します。
残業代を払わない理由が不合理なケース
残業代が払われないことに疑問があるなら、まずその理由を会社に問いただしてください。
理由によっては、勝率が低くなる可能性もあり、事前に知っておく方が良いでしょう。
そして、合理的な理由が聞けなければ、残業代請求の勝率は特に高いケースです。
残業代を払わない理由が不合理な場合、不明な場合では、会社側の準備は十分でなく、残業代請求に勝てる可能性が相当高いといえるからです。
全く理由が示されず、ただ一定時間を超える残業がカットされた場合も、勝率の高いケースと言えます。
端数処理についても原則として認められません。
残業代は1分単位の請求を原則とすることは、次に解説します。
固定残業代が無効となるケース
会社から、固定残業代が払われていることなど、既に払われている金銭に残業代が含まれているという反論をされた場合には、残業代請求の勝率の高いケースに該当するといってよいでしょう。
というのも、この反論が認められるのは例外的なケースに限られるから。
裁判例でも、残業代部分と通常の労働に対する賃金部分が明確に区別できる場合でない限り、残業代を払う義務があると判断する傾向にあります(小里機材事件:最高裁昭和63年7月14日判決、高知県観光事件:最高裁平成6年6月13日判決など)。
会社が、常日頃から労務管理を徹底しているのでない限り、固定残業代は無効となる可能性が高く、労働者側の残業代請求の勝率が高いケースです。
固定残業代の違法性は、次の解説をご覧ください。
名ばかり管理職のケース
管理職扱いされたことを理由に残業代をもらえないケースも、残業代請求の勝率が高いケースです。
管理監督者(労働基準法41条2号)に該当して残業代の支払い義務を免れるのは、相当の権限や裁量を有し、経営者と同等の地位にあるといえる場合などの限定的ケースのみだからです。
このような要件に該当しないのに払われない残業代は、請求して勝ち取れる確率は高いです。
管理職と管理監督者の違い、名ばかり管理職についての解説もご参照ください。
残業代請求の勝率が低いケースでもあきらめない

残念ながら、残業代請求のなかには勝率の低いケースがあります。
勝率の低いケースで無理をすれば、請求した金額の回収に失敗してしまうこともあります。
残業代請求に失敗すると、弁護士費用分の金銭を回収できず、大切な時間も失います。
残業代請求は、短いスパンで決着がつくケースもありますが、交渉が決裂し、トラブルが激化、訴訟に発展すれば1年以上の時間がかかることもあります。
前述の残業代請求の勝率が高い理由を知れば、その裏返しとして、勝率の低いケースを理解できます。
例えば次の場合、勝率が低いケースのおそれがあります。
- 証拠がまったくない
- 残業をする必要がないのに早出したり会社に残っていたりした
- 労働者側の準備が十分でない
- 労働者側が法的主張に従わず、自分勝手な論理に終始している
- 会社側が、残業代をなくすための十分な労務管理を徹底している
- 残業代の時効(3年)が経過している
しかし、残業代請求の勝率が、一見低くてもすぐにあきらめべきではありません。
次章の通り、適切な対応を取れば、勝率を上げる方法もあるからです。
労働者は持ち帰り残業だと思っていても、労働時間とプライベートの時間が混在していると、労働時間の該当性に争いが生じるケースもあります。
労働からの解放が保障されていると労働時間に該当せず、残業代は請求できなくなります。
労働時間の定義は、次に詳しく解説します。

残業代請求の勝率を上げる方法

最後に、残業代請求の勝率を上げる方法について解説します。
残業代請求の勝率が、一般的には高いとはいえ、油断してはなりません。
また、勝率は、どれだけ事前に対策をしたかにより、低くも高くもなります。
勝率を事前に予想しておく
残業代請求の勝率が低いケースでは、無理に請求を継続し、固執すれば、費用倒れに終わったり、大切な時間を無駄にしてしまったりするおそれがあります。
したがって、勝率が低いのであれば、初めから無理に請求しないほうが合理的だといえそうです。
このとき、証拠の有無、残業代が払われない理由、会社の反論などを調べれば、残業代請求の勝率を事前に、ある程度予想しておくことができます。
弁護士に相談すれば、どれくらいの残業代を獲得できそうか、概算してもらうことができます。
何人かの弁護士にセカンドオピニオンをもらい、それでもなお負ける可能性が高そうなら、請求を回避できます。
逆に、事前の予想により高い勝率が見込まれるのに、会社が合理的な理由なく残業代を払わないなら、話し合いで解決する必要はなく、交渉を決裂させ、労働審判、訴訟に移行して徹底して争うほうが早く解決できます。
残業代の計算方法は、次に詳しく解説します。

弁護士に相談して勝率を上げる方法
弁護士に依頼するのも、残業代請求の勝率を上げるのに有効です。
残業代請求の経験が豊富で、得意分野としている弁護士に相談し、アドバイスを求めましょう。
ただし、残業代請求に強いかどうかは、「勝率」で選ぶべきではありません。
残業代請求の実績、注力分野などを、ホームページや相談時のやりとりなどで見極めるべきです。
単純に、弁護士ごとに残業代請求の勝率が異なるとは限りません。
どれほど腕のいい弁護士でも、証拠が全くないケースでは負けることもあります。
弁護士選びで重要なのは、勝率や、相談時の希望的観測に惑わされることなく経験や実績に着目し、あなたの残業代請求の事案についてどのような解決方針で進めてくれて、少しでも勝率を上げてくれそうかを見抜くことにあります。
残業代請求の勝率は弁護士費用に影響します。
勝率の高いケースほど、着手金無料・成功報酬制など、有利な費用体系を提案してもらえます。
証拠が不十分であるなど勝率が低いと、交渉が長引き、その分費用がかさむおそれがあります。
勝率を上げるための証拠の集め方
残業代請求では、証拠の存在が何よりも重要です。
残業代請求の勝率を上げるため、一番の有効策は証拠を十分に収集することです。
証拠が多ければ多いほど、主張は強固なものになります。
残業代請求では、残業時間、労働条件、支払われた賃金額といった事実を証明する必要があります。
最も役立つ証拠はタイムカードですが、これに限りません。
そのため、証拠が少なかったとしても、請求を断念すべきではありません。
会社の元にあるタイムカードの開示請求をすることも可能です。
タイムカードの原本がなくても、コピーやスマホ撮影したもの、業務日報やその他の勤怠記録、業務で送信したメール、PCのログ履歴、自らの作成したメモなどによっても労働時間を証明できます。
証拠が全くなくても、労働時間の把握は会社の義務なので、直ちに残業時間が認められないわけではありません。
証拠のない原因が、会社が労務管理を怠っていたことや理由なしに資料の開示を拒否していたことにある場合、労働時間を推計して残業代を算出することも可能であり、裁判例でも、会社の責任である労務管理の懈怠を、労働者の不利益に扱うべきではないとの理由から、提出された証拠から概括的に残業時間を推認したものがあります(ゴムノイナキ事件:大阪高裁17年12月1日判決など)。
また、会社が資料開示を拒否した事案で、容易に提出できるはずの資料を提出しないと、公平の観点から、合理的な推計方法によって労働時間を算定すべきとした裁判例もあります(スタジオツインク事件:東京地裁平成23年10月25日判決)。
残業の証拠となる資料にどんなものがあるか、次に詳しく解説します。

まとめ

今回は、残業代請求という労働トラブルにおける「勝率」の考え方を解説しました。
残業代請求の勝率は、一般には高い傾向にあります。
また、仮に勝率の低いケースに当たるとしても、事前の対策によって改善できます。
残業代請求の勝率を少しでも上げるには、タイムカードを初めとした資料を集め、残業代請求を多く取り扱う弁護士に依頼するといった方法が有効であり、これにより、請求を認められる可能性を高められます。
証拠の収集は、常日頃から進めておかなければなりません。
退職前にタイムカードをコピーするなど、必要な証拠を集めるのが、勝率を上げる近道。
勝率の高いケースなら、いざ弁護士に依頼するにしても、費用を安く済ませられる可能性があります。
労働者本人が、残業代が認められると思い込んでいても、法的には認められないケースもあります。
残業代請求のトラブルで費用倒れとしないために、請求前に弁護士に精査してもらうのがよいでしょう。
- 残業代請求の勝率は一般に高い傾向にあるが、証拠などをもとに事前に予測するのが大切
- 証拠がしっかり準備された残業代請求では、希望額を回収できる可能性が高い
- 残業代請求の勝率が低い場合も、弁護士のサポートのもと事前準備で努力すれば勝率を上げられる
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