勤務時間中に、どうしても体調が悪くなって仕事を続けられないなら、一旦中断せざるを得ません。しかし、ブラックな会社では、中抜けして病院にいったのがバレると怒られたり、評価を下げられてしまったりすることがあります。
緊急のやむを得ないケースでも、仕事中に病院にいくのは違法なのでしょうか。
長時間労働と残業がひどく、体調を崩してしまった
業務時間外だと、病院がどこも空いてなくてつらい
労働者は、業務時間内は、会社の職務に専念する義務があります。とはいえ、健康を損なって働けなくなってしまっては元も子もありません。緊急性の高いケースほど、仕事が終わるのを待つことはできず、仕事中や昼休みなど、会社を中抜けして病院に行くしかないこともあります。
今回は、会社を抜け出して通院することができるかどうかと、隠れて中抜けし、病院に行っていたのがバレたときの扱いについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
労働者には職務専念義務がある
労働者は、会社に雇用されていると職務専念義務を負っています。職務専念義務とは、勤務時間中は会社の職務に専念せねばならないという義務のことを指します。
この職務専念義務の結果として、勤務時間中に中抜けすることは原則として許されず、バレれば注意をされたり、懲戒処分を下されたりするリスクがあります。
病院への通院は、労働者の個人的な事情であり、業務ではないのは当然です。そのため、通院は職務ではないため、業務時間中にすることはできないのが原則であり、隠れてこっそりと中抜けすると、職務専念義務に違反していることとなります。
「勤務態度を理由とする解雇」の解説
仕事中の病院に行くための中抜けがバレるケース
次に、仕事中、病院に行くための中抜けがバレるケースについて解説します。どのような場合に、病院に行っていることが会社にバレるのかを知っておいてください。
仕事中に病院に行くことが全く許されないとすると、土日しか休みのない会社員にとって通院は非常に困難でしょう。夜間や土日に診察してくれる病院も増えましたが、近所になかったり行きつけでなかったりすれば通えません。通常の勤務時間だけでなく、残業や休日出勤を命じられると、ますます通院は困難になり、体調が悪化してしまいます。
仕事中、病院に通院した例
1つ目が、仕事中に病院に通院した例です。トイレ休憩やタバコ休憩、ちょっと席を外したり、上司の目を盗んだりしたすきに病院に行くようなケースが該当します。
このとき、始業時刻から終業時刻の間は、職務専念義務があるので、義務に違反した行為であるといえます。また、終業時刻後であっても、適法に残業命令が発せられているならば、やはり職務に専念すべき時間です。なお、残業命令が違法なときには拒否してよく、この場合には、命じられた残業時間中に病院に行くことは職務専念義務違反とはなりません。
「違法な残業の断り方」の解説
昼休み中、病院に通院した例
2つ目が、昼休み中に病院に通院した例です。昼休みが、法律上の義務である「休憩」に該当する会社は多いです。というのも、労働基準法34条は、6時間以上働かせるときは45分、8時間以上働かせるときは60分以上の休憩を、労働の途中で与える義務を定めているからです。
昼休みが、法律上の義務である「休憩」として与えられているなら、その時間は、労働者が自由に利用することが保障されています。したがって、昼休み中に帰ってこられるなら、中抜けして病院に通院することも構いません。
「休憩時間が短いことの違法性」「休憩時間を取れなかった場合」の解説
在宅勤務中、病院に通院した例
3つ目が、在宅勤務中に病院に通院したケースです。在宅勤務中で、家で働いていても、勤務時間中は職務に専念しなければならないことに変わりはありません。監視の目が届かないからといって、仕事を放置して通院していることがバレると、不利益を被るおそれがあります。
「持ち帰り残業の違法性と残業代請求」の解説
どうしても仕事中に病院に行かざるをえないときの対応
では、どうしても病院にいかなければならないとき、例えば、体調がとても悪いときや、これ以上仕事を続けていると倒れてしまいそうなときにはどのように対応すべきでしょうか。
どうしても病院に行く必要性の高いケースにおける対処法を解説します。
就業規則のルールに従って通院する
勤務時間が平日の日中であるとき、どうしてもやむを得ない通院についてルールを定めている会社もあります。ルールがある方が、一律に禁止したり、行きづらい雰囲気を作って通院させないよう嫌がらせしたりする会社より配慮があるといえます。そのため、この場合にはルールを確認し、それにしたがった手続きで通院するのがおすすめです。
会社としても、長時間労働を強制するあまり、労働者が健康を害することとなれば、労働力を失うだけでなく、労災や安全配慮義務違反の責任を追及されて労働トラブルに発展するおそれもあります。通院についてのルールのある会社では、就業規則に記載があるのが通例です。
- 社長もしくは責任者の許可を得れば、業務時間中に通院してよいルール
- 緊急で、やむをえない場合には、業務時間中に通院してよいルール
- 業務時間中に通院した場合には、診断書の提出を義務付けるルール
就業規則に上記のような定めがある場合、合理的なルールなら、それにしたがって通院しましょう。なお、形式的にルールがあっても実態として守られておらず、通院が事実上できない場合や、同僚との差別的な扱いをされているケースは、違法なパワハラの疑いがあります。
「職場いじめの事例と対処法」の解説
有給休暇を取得する
労働者の権利として休める方法に、有給休暇があります。どうしても病院に通院できないと困るときは、有給休暇をとってしまう手もあります。有給休暇なら、理由を問わず休むことができるため、通院目的でも休めるのは当然、その理由を会社に聞かれることもありません。
ただし、有給休暇は、1日単位でしか取得できず、事前申請が原則です。そのため、1日の途中で体調が悪くなったときは、(半日単位の有給休暇制度を導入する会社でない限り)有給休暇を活用することはできません。
また、有給休暇は労働者の「権利」ですから、病院に通院するだけの理由で使うのはもったいないと感じる方もいるでしょう。特に、業務が原因で体調を崩してしまったとき、それは労災(業務災害)であって会社に責任があるので、労働者の権利である有給休暇を手放してまで通院する必要はなく、むしろ会社が配慮すべきです。
「有給休暇の強制取得の違法性」の解説
早退の許可を得る
ここまで進めてもなお、どうしても病院に行きたくても行けないときは、早退の許可を得る方法があります。あなたの体調が、病院にいって当然なほど悪いとき、社長や上司も許可してくれる可能性があります。次の点について具体的に説明し、「なぜ病院に行く必要があるのか」を理解してもらえるよう粘り強く交渉してください。
- 具体的な症状、病状
- 本日の体調の変化
- 通院の日時の予定
- 通院にかかる時間
- 通院中、業務に支障のない対応方法、引き継ぎ
通院のルールがないときや、そもそも就業規則のない会社でも、全く通院できないのは問題です。通院を必要とする病気、体調不良の原因が業務にあるなら、それは労災であり、会社としては最大限配慮すべきです。また、必ずしも労災でないにしても、会社は労働者に対して安全配慮義務を負うので、健康的に働けるよう、必要な通院ができるよう配慮する必要があります。
なお、ワンオペで「自分が抜けたら業務が止まってしまう」といったケースは、中抜けして通院する余裕のない人員配置には問題があり、ブラック企業の可能性があります。仕事を頑張るのは当然ですが、人員にある程度の余力をもって運営することも、会社の安全配慮義務の一内容だからです。
「人手不足なのに雇わない理由と解決策」の解説
会社は安全配慮義務を負い、労働者には健康保持義務がある
会社には、労働者を健康で安全にはたらかせる義務(安全配慮義務)があります。しかし、労働者の健康を維持するのは、会社のみの責任ではありません。当然ながら、労働者自身も、健康な状態で働けるよう、自分の健康状態を管理する義務(自己保健義務)を負います。
本解説のように、就業時間中に中抜けして通院できるならそれに越したことはありませんが、中抜けが難しい場合には、労働者もできるだけ病院に行けるよう努力しなければなりません。就業時間後の通院が十分に可能なのに、病院に行かず、医師の診察を受けず、治療をしないときには、これによって健康を損なうのは労働者にも責任があります。
「自己保健義務」の解説
まとめ
今回は、仕事中に、病院へ通院したい方に向けた解説でした。
労働法の原則からすれば、職務専念義務によって業務時間中は仕事に専念する必要があり、プライベートな行為である通院は許されません。少なくとも、勤務時間中に中抜けして病院に行けば、その間は仕事をしていないことになってしまいます。
しかし、体調不良で仕事を続けることができないといったやむを得ない事態に直面したとき、仕事を休んだり、通院を優先したりするのも仕方ないこともあります。業務が多忙で、緊急時の通院すら許されない事態は、会社に安全配慮義務違反がある疑いもあります。その体調不良は忙しすぎることや長時間労働が原因で、むしろ労災(業務災害)として療養すべき可能性もあります。
このようなケースは、単なる「仕事中に病院へ中抜けする」という問題に留まらず、長時間労働に起因する労災や、安全配慮義務違反の責任追及といった深刻な労働問題が潜んでいます。
【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
【過労死】
【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】