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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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業務時間外のメールは許される?違法性や許される時間帯について

定時で仕事が終わっても、終業後にメール対応が発生しては休めません。
ブラック企業では、業務時間外のメールが常態化した会社も多いもの。
「たまに」ならまだしも、毎日、業務時間外にメールが来るのはストレスでしょう。

相談者

メールにより仕事とプライベートの境界が曖昧でつらい

相談者

業務時間外もメールが気になって休まる気がしない……

「業務時間外」は「労働から解放される」のが本来のあり方。
しかし、便利なデジタルツールの発展で、いつでもどこでも仕事できるようになりました。
すると「たとえ時間外でもメール対応くらい当たり前だ」と勘違いする企業もあります。

一方、業種によっては時間外の緊急のメールが不可欠な場面もあります。
この場合も、あくまで「例外」だと理解し、マナーを守って送信すべき。
やむなく行うにせよ、プライベートな時間に過度に踏み入るのは禁物です。

今回は、業務時間外のメールの違法性や対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 業務時間外のメールは、労働者の立場ではストレスであり、違法の可能性あり
  • 業務時間外はメールをチェックする義務すらなく、無視してよいのが原則
  • 自分が、業務時間外にメールを送信せざるを得ないとき、必要性を説明し、慎重に配慮する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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業務時間外のメールは違法?

業務時間外にメールを送られたとき、どう対処すべきでしょうか。
この問題を考える前提として「業務時間外のメールは違法かどうか」、つまり、業務時間外のメールの違法性を理解しておく必要があります。

また、仮に違法でないにせよ、法律は最低限の守るべきルールに過ぎません。

社会生活を円滑に過ごすには、法だけでなくビジネスマナーにも従うべき。
できることなら仕事のメールはなるべく早く返信したいでしょう。

とはいえ、非常識だったり、ましてや違法だったりするメールに対応の必要はありません。
業務時間外に送られたメールが違法なものなら、無視する正当な理由になります。

業務時間外のメールそのものを禁止する法律はない

現在の日本の労働法には、業務時間外のメールを禁止する法律はありません。
なので、業務時間外にメールすること自体、直ちに違法なわけではありません。

これに対し、海外では、業務時間外の連絡そのものを法的に規制する国もあります。
その根拠に「つながらない権利(right to disconnect)」の保障が挙げられます。
「つながらない権利」は、業務時間外にメールや電話などの連絡を拒否できる権利です。

日本でも、ワークライフバランスが叫ばれ「つながらない権利」を求める声は増えていますが、残念ながら現在のところ法制化にまでは至っていません。

厚生労働省の発出する「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、「テレワークにおける人事評価制度」としてテレワークを実施している者に対し、時間外、休日又は所定外深夜(以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。」との注意喚起がされています。

また、同ガイドラインの「長時間労働対策」として「役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。」という点が重要視されています。

長時間労働の相談窓口についても参考にしてください。

業務時間外のメールが違法なケースがある

たとえ法律で明示的に禁じられていなくても違法な場面はあります。
というのも、業務時間外に仕事を命じることは、許されないのが原則だから。
勤務先といえど、私的な時間に過剰な干渉は許されません。

業務時間外に矢継ぎ早にメールが飛んでくると無視しづらいでしょう。
「緊急」「大至急」と書かれれば、気になってつい対応してしまうのも当然。

心は休まらず、メールを気にしていた時間は、働いていたも同然です。
したがって、業務時間外にメールを送る行為は、違法な可能性があります。

典型例は、不法行為(民法709条)にあたり違法とされるケース。
メール送信したのが業務時間外である点はもちろん、その内容がハラスメントだと更に不法行為に当たりやすくなります。

  • 深夜の遅い時間に、業務を指示するメールが大量に送られてきた。
  • 業務時間外に送信されたメールで指示された仕事の期限、ノルマが達成不可能。
  • 部署の社員全員をCCに入れて、侮辱的なメールを送信された。

(参考:メールでのセクハラの対処法

また、次章の通り、業務時間外のメールのチェックや返信が「労働時間」にあたるなら、その時間だけ仕事をしていたのと同じことであり、給料や残業代を請求できます。指揮命令下に置かれていると評価できるなら「労働時間」に該当するので、その時間の対価を支払わないのは労働基準法違反です。

労働時間の定義

労働時間の定義についての解説も参考にしてください。

業務時間外にメールが送られてきたときの対応は?

業務時間外に来たメールも、一度目に入れば確認せざるを得ません。
ブラックな会社は、次のような扱いで更にプレッシャーを強めます。

  • 返信がないのに何度も督促のメールをする
  • 業務時間外のメールに対応しないと電話で催促が来る
    (参考:休みの日に仕事の電話がきた時の対応
  • 「要返信」「緊急」「本日中」などと件名に付記する
  • 業務時間外のメールに対応しないのを理由に評価を下げる
  • 社用のメールを、私用のパソコンやスマホで受信するよう強要する

このように会社から強いプレッシャーをかけられたら、適切な対応を理解しましょう。
すべてのメールをチェックし返信していては、業務時間外もずっと仕事が続くのと同じこと。
息をつく間もなくなってしまいます。

業務時間外のメールは無視してよいのが原則

業務時間外のメールは違法の可能性があると解説しました。
違法な業務命令に従う必要はないため、違法なメールならば無視してよいです。

また、そもそも業務時間外は、メールを確認する義務もありません。
対応を要するメールがまぎれている可能性があるとて、見る必要すらありません。
したがって、業務時間外のメールは無視してよいのが原則です。

メールを無視したことを不利益に扱うのは不当であり、懲戒処分や解雇などは無効です。

業務時間外に、メールをチェックすることが義務付けられたなら、その時間は労働時間となり、給料や残業代などの対価が発生して当然です。

メール対応した時間は残業代請求できる

業務時間外のメールへの対応を余儀なくされたら、そのチェックや返信、用件への対応に要した時間は「労働時間」に含まれ、その対価として給料や残業代を請求できます。

具体的には、その時間を含めて「1日8時間、1週40時間」を超えて働いた場合は、通常の給料を1.25倍した時間外の残業代が生じると共に、夜遅くの対応であって深夜残業になる場合は、通常の給料を1.5倍割増した残業代を請求できます。

ただ、残業代請求するためには、働いた証拠が必要となります。
そのため、業務時間外のメールへ対応するときは、証拠を残しながら進めなければなりません。
例えば、次の証拠を収集しておきましょう。

  • メールの送受信記録
  • 業務時間外のメールに、社用のパソコンやスマホから対応するなら、そのログの記録
  • 私用の機器から対応する場合、ログの記録とともに、プライベートのWeb閲覧履歴

不十分な証拠だと対応に要した時間を立証するのが難しいこともあります。
例えば、東京地裁平成27年11月17日判決では、自宅のパソコンのWeb閲覧履歴やメールの送受信記録を証拠として提出しましたが、残念ながら、これだけでは連続した時間の就労は認められないと判断されました。

残業代請求に強い弁護士への相談は、次の解説をご覧ください。

業務時間外のメールを無視して不利益な扱いを受けたときの対応

業務時間外のメールは無視してよいのが原則なので、無視した責任は問われません。
したがって、働く必要のない時間なのに、「その時間中にメールのチェックを怠った」という理由でされる処分は不当なのは明らかです。

懲戒処分であれば不当処分ですし、まして解雇されるなら不当解雇として違法となります。
この場合、処分の撤回を求めて交渉し、交渉が決裂するなら労働審判や訴訟で争えます。

不当解雇されたらすぐ弁護士に相談すべき理由は、次に解説します。

業務時間外に取引先からメールが来るときの対応

業務時間外のメールは、社内の人からだけとは限りません。
なかには、取引先からメールを送られ、対応せざるを得ない方もいます。
社内のメールなら無視できても、大切な顧客のメールだと対応に迷うでしょう。
無視したり、返信が遅くなったりしてクレームにつながる危険もあります。

取引先や顧客など、社外からの業務時間外のメールが頻繁なとき、自分だけで判断するのではなく、まずは上司に報告し、指示を仰ぐのが適切な対応です。

営業時間外の対応など、会社として手厚い対応を約束しているケースもあります。
管理監督者など、残業代の発生しない社員が緊急対応をすることとしている会社もあります。
また、そのような手厚い顧客対応のために、シフト制や交代制としていつでもメールに対応できる体制を整えるといった企業努力をする例もあります。

そして、社長や上司など、会社からメールに対応するよう言われたなら、業務命令に基づく労働であり、「労働時間」に含まれ給料や残業代が払われるのは当然です。

労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。

業務上のメールを送ってよい時間帯は?いつまでなら許される?

次に、業務上のメールを送ってよい時間帯について解説します。
いつまで送ってよいのか、いつから送ってはいけないのかは、会社により異なります。

会社の定める所定労働時間と、労働基準法の法定労働時間をまずはご確認ください。

業務時間外と休日のメールは控える

まず、業務時間外と、休日はメールを控えるべきです。
業務時間外とは、会社の所定労働時間(始業時刻から終業時刻までの間)以外の時間です。

全員が同じ所定労働時間で働いている場合はわかりやすいです。
しかし、シフト制や交代制で勤務していると、自分と異なる時間帯で働いている人もいます。
メールを送る前に、その人が業務時間外や休日でないか、よく確認すべきです。

特に、役職が上がるほど、業務時間外や休日でも仕事のことを考えてしまう人がいます。
しかし、ワークライフバランスに関する価値観は人それぞれで、「休日はしっかり休みたい」と考える人にも配慮しなければなりません。

なお、労働基準法の定める法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」とされています。

これより所定労働時間が短い場合、所定労働時間を超えた時間が残業となるため、所定労働時間以降はメールをしない方がよいでしょう。

対応を強要しない

業務時間外と休日のメールは控えたほうがよいと解説しました。
これに対し、業務時間内にするメールは、特に禁止される時間帯はありません。
基本的には、いつ送ってもよいと考えて問題ありません。

電話でなくメールならば、受け手の時間を強制的に奪うことはありません。
しかし、人には多忙な時間もありますから、メールへの対応を強要しないよう注意しましょう。
急ぐ理由のある用件でない限り、期限をつけて対応を求めるなどのプレッシャーを与えるべきではありません。

また、社内のコミュニケーション手段として、チャットや電話など、メール以外の手段も併用されているときには、ケースに応じて最適な連絡手段を選択する必要があります。

会社の負う安全配慮義務と損害賠償についても参考にしてください。

業務時間外にどうしてもメール送らねばならないときのマナーと例文

最後に、業務時間外にメールを送信するときのマナーと例文を解説します。

緊急対応を要する場面など、業務時間外にメールを送らざるを得ないこともあります。
このとき、送信する時間帯だけでなく、その内容や文面に気を配るのがポイント。
時間外のメールが許されるのは例外的なため、厳重な注意を要します。

押さえておくべきメールのマナー

ビジネスで送るメールとして、文面に失礼がないのは当然のこと。
それ以外にも「業務時間外に送る場合」特有の、守るべきマナーがあります。
日頃から親しい同僚でも、時間外にメールを送るときには慎重になるべき。
まして、部下に送るメールではパワハラにならぬよう注意しましょう。

特に、次の点に注意してメールを作成、送付してください。

  • 業務時間外に送信することについて謝罪する
    例:「業務時間外のご連絡失礼いたします」「夜分遅くに失礼いたします」
  • メールの件名のみで「用件」「緊急性」がわかるようにする
  • 本文は用件のみを、簡潔に短文で書く
  • 緊急を要する、やむを得ない理由を記載する
  • 相手に求めるアクションを簡潔に記載する
    (緊急でアクションする必要は部分を区別して書く)
  • 文尾に再度、謝罪を述べる

一言、お詫びのフレーズを添えるだけでも印象がだいぶ異なります。

部下から上司に業務時間外のメールを送るときの例文

部下から上司に、業務時間外のメールを送るときの例文は、次の通りです。

件名

【至急】△△に関する企画書について、XXXの事項のご確認

本文

〇〇様

お世話になっております。
◯◯部の✕✕でございます。

業務時間外のご連絡になり、大変申し訳ございません。
本日、議題となっておりました△△に関する企画書が完成いたしました。
喫緊の問題であると判断し、遅い時間ではありますが、ご連絡を差し上げた次第でございます。

企画書は以下に添付しましたので、明日11時までに添削していただきたく存じます。
どうかよろしくお願い致します。

上司からのメールがハラスメントだと感じるとき、直接のメールによるやり取りのみでは外部から見えづらく、問題が隠ぺいされてしまうおそれがあります。
パワハラの録音をとるなど、パワハラの証拠の収集に努めなければなりません。

パワハラの相談窓口についての解説も参考にしてください。

上司から部下に業務時間外のメールを送るときの例文

上司から部下に、業務時間外のメールを送るときの例文は、次の通りです。

件名

【要確認】明日の企画会議の時間変更について

本件

◯◯さん

業務時間外に失礼します。
✕✕です。

明日の企画会議の開始時刻を13時に変更します。
急遽、取引先との打合せが決定したためです。
就寝間近で大変申し訳ありませんが、関係部署の担当者に、開始時刻変更の連絡をお願いします。

あわせてスケジュールの調整もしてください。
各担当者にメールする際には、私もccにいれるようにしてください。
ご対応よろしくお願いします。

上司から部下への連絡は、その上下関係からしてプレッシャーが強くなりやすく、ましてや業務時間外のメールの場合は特に、パワハラと言われないよう細心の注意を要します。

パワハラと言われた時の対応についても参考にしてください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、業務時間外のメールの扱いについて解説しました。

業務時間外のメールの送受信を明確に禁止する法律はありません。
しかし、そもそも業務時間外には労働させられないのが原則。
この点で、労働法の基本的な原則に反する行為なのは明らかです。

時間外に社長や上司からメールを受け取れば、受信した人のプライベートは奪われます。

送られた労働者として、メールを無視して構わないケースが多いでしょう。
また、対応に要した時間については給料や残業代を請求できます。
どうしても業務時間外にメールをやりとりする必要性のあるときも慎重な配慮を要します。
間違っても、パワハラと言われてしまわないよう注意してください。

違法な対応をされたと感じたら、ぜひ弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 業務時間外のメールは、労働者の立場ではストレスとなり、違法の可能性がある
  • 業務時間外はメールをチェックする義務すらなく、無視してよいのが原則
  • 自分が、業務時間外にメールを送信せざるを得ないとき、必要性を説明し、慎重に配慮する

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