「前日の仕事が長引いた。」「遅くまで飲み会だった。」「通勤時間が長い。」などの理由で、勤務中につい居眠りをしてしまうこともあるでしょう。
自分の居眠りではなくても、使われていない会議室を覗いたらテーブルの上で寝ている人がいた、という体験をした方がいらっしゃるかも知れません。
睡眠は生理現象の1つであり、絶対に寝ない、というのは難しいことかも知れません。しかし、職場で勤務中に居眠りをしてしまうことには、労働者の皆さんの人事評価にかかわる大きなリスクがあります。
他の労働者が居眠りしているのを見ると、「同じ給料をもらっているのに!」と不公平感を感じることもあるでしょう。
今回は、勤務中の居眠りと労働者の受ける処分について、労働問題に強い弁護士が詳しく解説します。
目次
1. 勤務中の居眠りはキケン!?
勤務時間中に居眠りをした場合、その時間に本来すべき業務を行っていないため、「約束した労働を行っていなかった」ものと扱われます。居眠りの時間が長く、業務に支障がある場合には欠勤扱いされても仕方ありません。
また、勤務中の居眠りは、遅刻や無断欠勤と同様に、勤務態度の不良としてマイナスの人事評価に換算されます。賞与(ボーナス)が減ったり、昇給、昇格など人事に大きな影響が出たり、最悪のケースでは注意指導、懲戒処分などの対象となります。
会社としても、ある労働者だけが居眠りをして仕事をサボっていたということが広まれば、他の従業員のモチベーション、士気の低下につながりかねませんから、厳しい処分で応じることでしょう。
労働者として会社と雇用契約を結んでいる場合、信義則上、約束された時間の間は、会社の業務に専念する義務が生まれます。
これが、労働者の「職務専念義務」というものです。そして、就業時間中に居眠りをすることが、この「職務専念義務」に違反していることは、明らかです。
2. 居眠りによる処分のリスク
それでは、会社から厳しい制裁(ペナルティ)を受けるおそれのある「居眠り」ですが、具体的にはどのような処分が予定されるのでしょうか。
労働者がつい業務時間中に居眠りをしてしまったケースにおける、会社から労働者に対して行われる可能性のある処分(人事処分・懲戒処分)について、弁護士が解説します。
2.1. 欠勤控除
労働者の賃金は雇用契約によって定めてられており、特別な規定なしに減給することは許されません。賃金を減らすということは労働者にとって非常に大きなダメージのため、原則として労働者の同意が必要だからです。
しかし、賃金は、日々の労務の対価として支払われるものです。そのため、働いていない分の賃金は発生せず、会社は特別な規定がなくても、その分の賃金を減給できます。
このことを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。
勤務中の居眠りの時間があまりにも長い場合には、欠勤扱いになり、その分の賃金が月給から控除されてしまうおそれがあります。
2.2. 懲戒処分
勤務中の居眠りは、冒頭に解説しましたように、勤務態度の不良として評価されます。
したがって、再三の注意にもかかわらず、居眠りが重なるような場合には、戒告や減給などの懲戒処分が下される可能性もあります。
ただし、居眠りは、故意にするものではなく健康管理等の不注意によってしてしまうものであり、意図的な遅刻や無断欠勤などのケースに比べれば、多少は軽い処分になることが多いと考えるべきです。
2.3. 普通解雇
もっとも、長時間の居眠りが常態化し、まるで仕事にならないような場合には、「職務を遂行する能力が欠如している」と判断され、普通解雇されてしまうこともあり得ます。
いずれにせよ、勤務中の居眠りには上記のようなリスクがあるため、休憩時間に仮眠を取るなどの工夫をして、なるべく居眠りをしないように注意するべきです。
能力不足や勤務態度などが原因で居眠りをしているわけではなく、体調、病気といった理由による居眠りである場合には、「解雇」ではなく、「病気休職」によって対応してもらう必要があります。
居眠りについて会社から注意を受けたけれども、自覚が全くなかった、という労働者の方は、一度医者に診断してもらった上で、「休職」を求める、という対応が適切です。
3. 居眠りに対する不当な処分への対処法
業務時間中の居眠りが、継続的に続くような場合には、会社において、人事処分、懲戒処分の対象となってしまうというデメリットがあることをご理解いただけましたでしょうか。
しかしながら、人事処分や懲戒処分は、これに相当する労働者の問題行為があってはじめて行うことができるものです。
「実際には居眠りをしていない。」とか、「会社の仕事が忙しすぎて、ついうとうとしてしまったが、常に居眠りしていたわけではない。」など、その程度によっては、会社の懲戒処分などが「不当処分」であるとして争うべきケースも少なくありません。
3.1. 労働審判で争う方法
居眠りを理由に不利益な処分をされてしまっても、それが事実無根であったり、過大な処分である場合には、「不当処分であり無効。」と主張して、処分の効果を争うことができます。
具体的には、労働審判を起こして、賃金の支払いや地位の回復を請求することになります。
争いが長引く場合には裁判に発展することもあるため、処分を受けた後の早い段階から、労働問題に強い弁護士に相談して対策を練ることをオススメします。
3.2. 居眠りの落ち度は?
ただし、居眠りをしたことが事実である場合、裁判所でも、当然ながら労働者側にある程度の落ち度があるものと判断される可能性が高いでしょう。
そうすると、居眠りの時間や回数に照らして処分が行き過ぎかどうか、という「程度」、「相当性」に照らして適正な処分であったかどうかを争うという戦い方になります。
4. 居眠りに対する処分が違法となるケース
ここまで、勤務中の居眠りに対する不利益な処分と、処分への対処法について解説してきました。繰り返しになりますが、居眠りをしてしまった事実がある場合、不利益な処分も避けられません。
これに対して、労働審判で、居眠りに対する処分が違法となり、労働者に有利な解決が可能なケースもあります。
4.1. 処分規定が存在しない場合
まず、労働条件を不利に変更する、解雇する、などの不利益処分をする場合には、予め就労規則などに処分の根拠規定と処分理由を定めておく必要があります。
居眠りが処分対象に当たるような処分理由や根拠規定が定められていない場合には、その処分は違法であり、効力がありません。
したがって、「処分が無効である。」という主張が認められ、労働審判で勝つことができます。
就業規則や雇用契約書に、明示的に「居眠りをしたら懲戒処分」と規定されていなくても、いわゆる「一般条項」を適用して処分の根拠とするケースもあります。
例えば、「その他、会社の従業員として適性を欠く行為をしたとき」といった記載の中に、「居眠り」が含まれる、という場合です。
4.2. 懲戒権濫用法理
解雇その他の懲戒処分(解雇も含みます。)は、生計の維持に関わる重大な不利益を労働者にもたらす可能性があり、会社側の懲戒権は厳しい条件で制限されています。
このことを「懲戒権濫用法理」といい、労働契約法で、次のとおり規定されています。
労働契約法15条使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
労働契約法16条解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
「懲戒権濫用法理」をクリアし、会社が居眠りに対して行った懲戒処分が有効であるとされるためには、具体的には、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 処分に合理的な理由があること
懲戒理由に該当する事実があるかどうかを判断します。 - 処分することが社会通念に照らし相当であること
「被処分者の行為が本当に処分に値するほど酷いものか」「同様のケースの処分状況と均衡が取れているか」「労働者の勤続年数や生活状況、転職可能性はどのようになっているか」などの観点から、その処分をすることが一般的見て適切かどうかを判断します。
したがって、これらの条件を欠く場合には、懲戒処分は適切ではなく、会社の「権利濫用」として、労働審判において、違法、無効であると判断してもらえることとなります。
4.3. 会社側に落ち度があるケース
「居眠りをした」という事実は「①処分に合理的な理由があること」の条件を満たす要素になります。つまり、労働者が労働審判に勝つためには、「②処分することが社会通念に照らし相当であること」という条件を満たさないことを主張、立証しなければなりません。
「居眠りの落ち度が会社側にある」のであれば、労働審判において処分が認められない可能性が高いといえます。
会社は、労働者が健康かつ安全に労働できるよう配慮すべき義務(労働契約法5条)を負っています。そのため、以下のような場合には、労働者の健康管理に会社側の不注意があり、
「居眠りの落ち度が会社側にある」と評価される可能性が高まります。
- 肉体労働に代表されるようなきつい過重労働を強いられた結果居眠りをしてしまった。
- 連日、長時間の残業を強いられた結果居眠りをしてしまった。
- あり得ないほど早い早朝出勤を強いられた結果居眠りをしてしまった。
- 会社都合で休憩時間を短縮された結果居眠りをしてしまった。
5. まとめ
今回は、勤務中の居眠りと、労働者の受ける処分について、弁護士が解説しました。
職場によっては仮眠室を設けていたり、ちょっとの居眠りを黙認してくれたりする場合もないわけではありません。
しかし、会社が、業務の多忙さや、労働者の健康に対して、特別の配慮をしてくれただけに過ぎず、通常は勤務態度の不良として処分されてしまいます。
軽い気持ちで居眠りをしているつもりでも、後から昇給や昇進に響く、ということがあるかも知れません。睡眠時間を調整するなどして、なるべく勤務中に居眠りをしないように心掛けることが大切です。
居眠りを理由とした不当処分、嫌がらせやパワハラにお困りの労働者の方は、労働問題に強い弁護士に、お気軽に法律相談ください。