スマートフォンが普及し、相当な期間が経ちます。
スマホは、電話やメールにとどまらず、ウェブ検索やゲームなどの機能もあります。
利便性の高さから、生活に欠かせないものになりました。
業務にも広く活用され、スマホを貸与する会社もあります。
一方、スマホいじりばかりで仕事に集中しない問題社員もいます。
とはいえ、プライベートの緊急の連絡があるなど、スマホを職場に持ち込む必要性は高いもの。
完全に禁止するのは、むしろ難しいでしょう。
なかには、スマホいじりでゲームやSNSをする社員が増え、問題視されています。
世代間ギャップも大きく、年配の上司からすれば、スマホばかりさわる若い部下は、仕事をまったくしていないようにしか見えないこともあります。
勤務中、トイレでこっそりスマホゲームをしていた公務員が懲戒処分された例もありいます。
今回は、勤務中のスマホいじりと、それによりクビにされたり処分されたりした時の対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 仕事中にスマホを利用する行為は、職務専念義務に違反する可能性がある
- 情報漏えいをともなう悪質なスマホの使用は、懲戒解雇となる危険あり
- 問題ないスマホ使用なのに解雇されたら、不当解雇を主張して争う
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仕事中のスマホいじりが許されない理由
勤務中にスマホをいじっていると、問題社員だと評価されてしまいます。
スマホいじりは、労働者の生産性、業務効率を低下させ、業務への集中力を妨げるからです。
まず、勤務中にスマホを使用するのがなぜ許されないか、法的な理由を解説します。
なお、実際に禁止する理由は、会社により異なるため、疑問を感じたら会社に確認するのがよいでしょう。
職務専念義務に違反する
労働者は、労務の対価として賃金を受け取るという契約、つまり「労働契約」を結んでいます。
そして、労働契約に定められた業務時間内は、会社の業務に集中する義務があります。
この義務を、法律用語で「職務専念義務」といいます。
スマホゲームやSNSに意識を集中すれば、本来の業務が滞ります。
個人はもちろんのこと、チーム全体の稼働力や業務効率の低下を招くこととなります。
そのため、スマホいじりは、職務専念義務に違反し、許されません。
情報漏えいの危険がある
社内には、顧客情報、取引先情報などの企業秘密が多数あります。
また、個人情報も、厳密に管理されなければなりません。
スマホにはカメラ機能、メール機能や、インターネットに接続する機能があります。
そのため、職場内のスマホ利用を自由に許すと、情報漏えいにつながる危険があります。
情報漏えいは、雇用契約や就業規則に定められた守秘義務に明確に反し、許されません。
スマホをどのように使用しているか、外部から判断するのは容易ではありません。
職場で、不用意にスマホいじりしていると、情報漏えいの疑いをかけられるおそれがあります。
労働問題を相談するとき、その選び方にも注意が必要。
労働問題に強い弁護士について、次に解説しています。
会社から仕事中のスマホを禁止された時の対応
勤務時間中にスマホいじりを長時間続ければ、当然、上司や社長に注意されてしまうでしょう。
スマホいじりをやめるように注意された場合、労働者は指示に従いスマホいじりを止める必要があるでしょうか。
会社からスマホの使用を禁止されたときの、労働者側の適切な対応を解説します。
就業規則を確認する
スマホによる情報漏えい、業務効率の低下を防ぐため、勤務時間中のスマホ使用を禁止する会社があります。
このとき、社内に適用されるルールとして、就業規則に記載されることとなります。
そのため、会社から仕事中のスマホは禁止だと注意を受けたら、まずは就業規則を確認しましょう。
あわせて、スマホの使用が、どのような懲戒処分の対象となっているかについても確認してください。
雇用契約書と就業規則の定めが違うとき、次の解説を参考にしてください。
休憩中のスマホは禁止されない
職務専念義務による規制は、あくまでも労働時間内に限られます。
そのため、始業前、終業後や休憩時間は、労働時間ではなく、会社の指示を受けません。
この場合には、ゲームだろうとSNSだろうと、自由にスマホを使用できます。
労働基準法では、休憩時間は自由に利用できることが定められています。
ただし、適法な残業命令を受けているときは、残業時間についても労働時間。
つまり、残業中も、会社の命令に従う必要があり、スマホを禁止されてしまう可能性があります。
休憩時間が短すぎたり、存在しなかったりするのは労働基準法違反の可能性あり。
詳しくは、次の解説をご覧ください。
業務命令に従う必要がある
就業規則でスマホが全面禁止となっていなくても、業務命令で禁止を命じられることがあります。
個別のシーンに応じて、スマホ禁止の業務命令が適法にされるなら、従う必要があります。
会社には、労働者に円滑に働いてもらうための業務命令権が与えられています。
また、他の労働者の職場環境を悪化させないため、安全配慮義務を果たさなければなりません。
こんな正当な目的のあるケースなら、企業秩序を乱す悪質なスマホいじりは、厳格に禁止されて当然です。
仕事中のスマホいじりを理由に懲戒処分されるか
スマホいじりに対する会社の禁止命令には、従う必要のあるケース、ないケースのいずれもあります。
ただ、いずれにせよ、命令に従わないと、懲戒処分など不利益な処分を下されるおそれがあります。
スマホ禁止の命令に従わなかったことで懲戒処分となったとき、労働者の対応について解説します。
懲戒処分の種類
社内で下される一般的な懲戒処分の種類には、次のような例があります。
各労働者の行為が、懲戒理由にあてはまるかどうかによって、適切な量刑は異なります。
より重大な行為に対しては、厳しい処分が可能となります。
そのため、スマホいじりに対し、どんな制裁が下されるのかは、その行為の悪質性や回数、継続性、反省の程度、注意を受けて改善されたかどうかといった事情によって変わります。
懲戒処分の種類と対処法は、次に解説します。
情報漏えいは懲戒解雇?
情報漏えいによる守秘義務違反を理由とした懲戒処分は比較的重くなります。
したがって、スマホいじりの結果、会社の重要な情報を漏えいしてしまったケースでは、懲戒解雇を含めた重い処分も覚悟せざるえをえません。
情報の量や機密性、実害の有無、損害の大きさによっても、適正な処分は変わります。
顧客情報の流出による会社の信用の低下、企業秘密の流出による大きな財産的損失など、損害が大きいケースも多いです。
懲戒解雇が認められるケースも、他の義務違反より多い傾向にあります。
懲戒解雇は、労働者の不利益が大きい分だけ、不当解雇にもなりやすいもの。
争うときは、次の解説をご覧ください。
職務専念義務違反は戒告対象
逆に、勤務時間中のスマホいじりで業務が停滞するなど、単なる職務専念義務違反の場合には、戒告や減給など、比較的軽い懲戒処分が適正です。
実損が大きくはなく、遅刻や無断欠勤と同じく、勤務態度の不良として評価される場合がほとんどだからです。
ただし、スマホいじりの時間が長すぎて完全に業務がストップしてしまう場合や、再三の注意にもかかわらずスマホいじりをやめない場合には、著しい勤務態度の不良として出勤停止や解雇などの重い懲戒処分の対象になる可能性もゼロではありません。
遅刻や居眠りなど、勤務態度を理由とした処分は、次に解説します。
仕事中のスマホでクビにされた時の対応
職場でスマホいじりを続けた結果、懲戒処分、人事処分などの不利益な処分を食らう危険があります。
会社から受ける処分のなかで、最も重いのが、解雇されてしまうケース。
スマホいじりをしてクビになってしまったとき、どう対応すべきかについて解説します。
不当解雇の撤回を求める
勤務中のスマホいじりでクビになってしまったとき、不当解雇の可能性があります。
解雇は、解雇権濫用法理のルールにより、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性がなければ「不当解雇」として違法、無効になるからです(労働契約法16条)。
例えば、次のケースは、不当解雇の可能性があります。
- ごく短時間のスマホ使用を理由に解雇された
- やむをえない理由があるスマホ使用を理由に解雇された
- スマホを取り出しただけで情報漏えいの疑いをかけられた
解雇までいかず懲戒処分にとどまるときも、その処分の重さが違反に釣り合っていないなら不当処分です。
総登用時間のスマホいじりで業務に支障があったり、情報漏えいに加担したりすれば言い逃れはできませんが、そうでないなら、不当解雇だとして徹底的に争うべきです。
不当解雇の争い方は、撤回を求める方法、金銭解決を求める方法があります。
争い方について、詳しくは次の解説も参考にしてください。
労働審判で争う
不当解雇の効力は、労働審判で争うのが最適です。
具体的には、解雇が無効であると確認し、復職を求めることができます。
このとき、解雇により未払いとなっていた給料(いわゆる「バックペイ」)が請求できるほか、悪質性の高いケースでは慰謝料も請求できます。
労働問題の解決方法には、労働審判、訴訟などがあります。
詳しくは、次の解説をご覧ください。
訴訟で争う
交渉や労働審判では解決できないとき、訴訟で争う方法もあります。
また、労働審判に納得のいかないとき、2週間以内に異議申し立てすれば、自動的に訴訟へ移行します。
有利な証拠を集めておく
労働審判、裁判で有利な結果を得るためには、証拠が必要です。
具体的には、問題あるスマホいじりや情報漏えいしていないことを、証明しなければなりません。
「スマホゲームで遊んでいて仕事していなかった」という会社の主張を争うには、その間仕事をしていたことを裏付ける証拠が必要。
例えば、メールやチャットの履歴、PCのログ履歴など、労働時間を証明するための証拠が役立ちます。
「不当解雇の証拠」の解説
仕事中のスマホいじりがやむを得ないケースもある
ここまで、勤務中のスマホいじりが許されず、解雇、懲戒処分の対象になりうると解説しました。
しかし、いくら勤務中でも、スマホを触るのがやむをえないケースもあります。
次の例では、仕事中であってもスマホを触るのはしかたないでしょう。
- 家族に帰宅時間のメールをする
- 親が入院したという連絡を受けた
- 親が危篤で、連絡を待っている
- 子どもが生まれそうで、連絡を待っている
- 子どもが病気、ケガで搬送された
こんなとき、一切スマホの使用が許されないのは、むしろ不当です。
スマホいじりがやむをえない場合の対応について、最後に解説します。
やむをえないスマホの使用は許される
常識的に考えて、家族の危篤時に電話やメールをさせない、というのはおかしいこと。
むしろ、こんな厳しいスマホ禁止は違法であり、ブラック企業といってよいでしょう。
やむをえない理由があるなら、職場でのスマホの使用は許されるべきです。
労働者として会社に雇用されるなら、職場でかなり長時間過ごすのが普通です。
そのため、職場であれど、必要最低限の私生活上の行為は禁止されません。
業務に支障のないスマホの使用は許される
では、私生活上の行為を一定程度してもよいとしても、行ってよいスマホいじりと、禁止されるスマホいじりとの境界は、どのように区別されるのかを知っておく必要があります。
結論として、「業務に支障があるかどうか」によって判断するのが適切です。
グレイワールドワイド事件(東京地裁平成15年9月22日判決)は、勤務中に私用メールを送った社員の懲戒解雇について、次のように判断しています。
労働者といえども、個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則に特段の定めがない限り、職業遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で、使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信したとしても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。
グレイワールドワイド事件(東京地裁平成15年9月22日判決)
この裁判例によれば、業務に支障がなく、常識的に考えて許される程度の私用メールであり、会社に対して経済的な負担を書かけない範囲ならば、勤務中であっても許されることとなります。
会社が許可したスマホの使用は許される
「業務に支障がなく、常識からして許される程度かどうか」という観点からして、家族の入院、危篤時の連絡、災害時の連絡など、やむをえない理由で短時間スマホを使用するのが許されるのは明らかです。
しかし、スマホの使用目的を、外部から判断するのは容易ではありません。
自分としては許されるスマホ使用だと思っても、低評価のもととなってしまう危険があります。
そのため、「問題あるスマホいじりだ」と思われないため、事前に許可をとるのがお勧めです。
やむをえず勤務中にスマホを使用すべき事情があると分かっていれば、あらかじめ上司に理由を話し、スマホ使用の許可をとっておくべきです。
労働問題について判断に迷うとき、まずは弁護士の無料相談が活用できます。
まとめ
今回は、勤務中のスマホいじりの適法性について解説しました。
あわせて、スマホ禁止と、その違反によるクビなど、不当な処分を受けたときの対応も説明しました。
情報技術の進化により、SNSやスマホゲームなど、多様なコンテンツが生まれました。
スマホに触れてきた若い世代ほど、仕事中のスマホいじりに抵抗を感じない傾向にあります。
しかし、勤務中、仕事と関係ない行為は、職務専念義務違反。
スマホをいじってばかりで仕事をしていないと、懲戒処分になってもしかたありません。
スマホが厳しく禁止され、不当な処分を受けた可能性のある方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 仕事中にスマホを利用する行為は、職務専念義務に違反する可能性がある
- 情報漏えいをともなう悪質なスマホの使用は、懲戒解雇となる危険あり
- 問題ないスマホ使用なのに解雇されたら、不当解雇を主張して争う
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