退職の理由(離職理由)は「自己都合退職」と「会社都合退職」に分けられますが、両者の違いについて悩むことがあるでしょう。
離職理由は、退職後に受け取れる失業保険や、退職金、転職活動などに影響する重要なポイント。そのため、離職理由を巡って、会社とトラブルに発展することがあります。最悪は、失業保険の給付額で損をしてしまう危険もあるため、自己都合と会社都合の違いをよく理解してください。
「離職理由を変更したい」という人もいますが、自己都合退職と会社都合退職の違い、失業保険で生じるメリットやデメリットを理解しておかないと、希望に沿う結果にはなりません。離職理由は将来のキャリアにも影響するので、変更や異議申立ては慎重に判断すべきです。
今回は、自己都合退職と会社都合退職の違いと、失業保険におけるメリット・デメリットの比較を、労働問題に強い弁護士が解説します。
離職理由には2つの種類がある
離職理由は、自己都合退職と会社都合退職の2種類があります。
どちらに該当するかは、退職する具体的な理由で決まるので、自由に選ぶことはできません。自己都合」「会社都合」は専門的な法律用語なので、一般的な感覚では「自己都合」だと思えても、「会社都合」と認められるケースもあります。
自己都合退職の定義と具体例
自己都合退職とは、労働者の個人的な事情により、自らの意思で退職することです。自己都合退職に該当する具体例は、次の場合があります。
- キャリアアップや待遇改善を目的とした転職
- 業務や社内の人間関係についての不満を解消するための退職
- 引っ越しに伴う転職
- 結婚、妊娠、出産、育児など、ライフイベントのための退職
- 自身の病気やケガの療養、家族の介護のための離職
- 懲戒解雇(労働者に重大な違反行為などがある「重責解雇」)
自己都合退職は、労働者が退職届・退職願を提出することで進めます。退職の意思は口頭でも有効ですが、後でトラブルにならないよう、必ず書面を作成しましょう。
自己都合退職の場合、退職の時期は労動者の自由です。民法のルールによれば、雇用期間の定めのない社員の場合、2週間前までに申し出ることで退職できます(民法627条)。
「退職届の書き方と出し方」「退職は2週間前に申し出るのが原則」の解説
会社都合退職の定義と具体例
会社都合退職とは、会社側の都合や、問題ある法令違反などを理由に退職することを指します。会社都合退職に該当する具体例は、次の場合があります。
- 会社の倒産(破産や会社更生、民事再生など)による退職
- リストラによる解雇を理由とする離職
- 退職勧奨に応じての離職
- 臨時の希望退職制度に応じた退職
- 会社の法令違反を理由とした退職
- 勤務地が移転したことで通勤困難になったことによる転職
会社都合の退職は、労働者には働きたい意思があるのに、やむを得ず職を失ってしまう場面です。突然稼ぎ口を失ったことで、生活が不安定になる労働者の救済のため、失業保険の給付において、会社都合退職の方が、自己都合退職より優遇されます。
会社都合退職として失業保険の優遇を受けられる者を、法律用語で「特定受給資格者」「特定理由離職者」と呼びます。以下では、特定受給資格者、特定理由離職者の定義と、該当する具体的な退職の理由について解説します。
特定受給資格者とは
特定受給資格者とは、会社の倒産や解雇などの理由で、再就職の準備をする余裕のないまま離職を余儀なくされた者のことです。具体的には、以下の離職理由です。
Ⅰ.「倒産等」により離職した者
(1)倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て又は手形取引の停止等)に伴い離職した者
(2)事業所において大量雇用変動の場合(1 か月に 30 人以上の離職を予定)の届出がされたため離職した者及び当該事業主に雇用される被保険者の 3 分の 1 を超える者が離職したため離職した者
(3)事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む。)に伴い離職した者
(4) 事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者
Ⅱ「解雇」等により離職した者
(1) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(2) 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
(3) 賃金(退職手当を除く。)の額の 3分の 1 を超える額が支払い期日までに支払われなかった月が引き続き2 か月以上となったこと、又は離職の直前 6 か月の間に 3 月あったこと等により離職した者
(4) 賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて 85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
(5) 離職の直前 6 か月間のうちに 3 月連続して 45 時間、1 月で 100 時間又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
(6) 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
(7) 期間の定めのある労働契約の更新によリ 3 年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
(8) 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記⑦に該当する者を除く。)
(9) 上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者
(10) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(11)事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き 3 か月以上となったことにより離職した者
(12)事業所の業務が法令に違反したため離職した者
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準(厚生労働省);特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワーク)
特定受給資格者は、倒産や解雇に留まらず、賃金の未払いや過度な長時間残業、悪質ないじめやパワハラといった会社の法令違反によって離職した場合を含む点が重要です。例えば、表向きは自主退職の形を取っていたとしても、賃金を払ってくれないことが真の理由の場合は、会社都合退職として扱われます。
特定理由離職者とは
特定理由離職者は、大きく2つに分かれます。
1つ目は有期雇用契約の更新を希望していたが更新されなかった、いわゆる「雇い止め」をされた者。2つ目は、やむを得ない理由によって自己都合退職をした者です。要は、特定受給資格者のように必ずしも会社側の都合で職を失ったわけではないものの、失業保険による保護が必要だと思われる理由で退職した者を指します。
それぞれの具体的な離職理由は、以下の通りです。
Ⅰ.期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)(上記「特定受給資格者の範囲」のⅡの⑧又は⑨に該当する場合を除く。)
※労働契約上「契約の更新をする場合がある」等、契約更新について明示があるものの、確約ではない場合をいいます。
Ⅱ.以下の正当な理由のある自己都合により離職した者
(1) 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
(2) 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
(3) 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者
(4) 配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
(5) 次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者
(a) 結婚に伴う住所の変更
(b) 育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用又は親族等への保育の依頼
(c) 事業所の通勤困難な地への移転
(d) 自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされたこと
(e) 鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
(f) 事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
(g) 配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避
(6) その他、上記「特定受給資格者の範囲」の2.の(11)に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者等
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準(厚生労働省);特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワーク)
特定理由離職者は、特定受給資格者と同じく、失業給付の条件、受け取れる時期において優遇されますが、失業手当を受け取ることができる「所定給付日数」は自己都合退職者と同じである点に注意が必要です。
ただし、特定理由離職者のうちⅠに該当する者(雇い止めにより離職した者)は、2009年3月31日から2025年3月31日までの間に離職日がある場合、特定受給資格者と同様に給付日数においても優遇されます。
「失業保険の手続きと条件」の解説
自己都合と会社都合の違い
次に、離職理由が自己都合か会社都合かで、どのような違いが生じるかを解説します。特に、再就職先が決まっておらず、失業状態が長く続く場合ほど、その影響は深刻なものとなります。
失業給付の条件の違い
自己都合と会社都合では、失業給付の条件が違います。
失業給付を受け取る条件は、雇用保険の加入期間(被保険者期間)が法律に決められた月数分あることです。雇用保険の被保険者である期間が一定以上ないと、受給できないわけです。この条件面で、離職理由ごとに次の違いがあります。
【自己都合退職】
- 離職日以前2年間に、通算12ヶ月以上の被保険者期間があること
【会社都合退職】
- 離職日以前1年間に、通算6ヶ月以上の被保険者期間があること
会社都合の方が自己都合と比べ、失業給付の条件が緩和されており、失業保険を受け取りやすくなっています。なお、雇用保険の被保険者期間は、過去に受給していた場合や、被保険者期間に1年を超える空白期間がある場合は、過去の被保険者期間は含まないため、注意が必要です。
「失業保険の加入期間」の解説
失業保険を受け取れる時期の違い
自己都合と会社都合では、失業保険を受け取れる時期が違います。
失業保険は、離職後にハローワーク(公共職業安定所)で求職の申し込み手続きをすることで受給できますが、一定の待期期間が設けられます。
会社都合ですぐに退職せざるを得なかった人は、失業保険による迅速な保護が必要なので、7日間の待期期間の経過後、すぐに失業保険を受給できます(なお、実際の入金は初回の失業認定日後となり、求職の申し込み日から数えて約1ヶ月後です)。
一方、自己都合退職の場合、7日間の待機期間に加えて、2ヶ月の給付制限期間があります(実際の受け取りは求職の申し込み日から最短でも2ヶ月以上後になります)。
※ 2020年9月30日までに離職した場合、給付制限期間は3ヶ月。
※ 2020年10月1日以降に離職日がある場合、給付制限が2ヶ月となるのは5年間のうち2回までとなり、3回目以降の給付制限は3ヶ月。また、重責解雇をされた場合の給付制限は、過去の給付制限の回数に限らず、3ヶ月の給付制限を受ける(令和2年10月1日からの給付制限/雇用保険法33条)。
失業手当の金額の違い
自己都合と会社都合では、受け取ることができる失業手当の最大支給額が異なります。
求職者が失業手当を受け取れる日数を「所定給付日数」といいます。所定給付日数は、労働者の年齢、加入年数、そして離職理由によって変わります。具体的な所定給付日数は、離職理由別に次のように決められています。
【特定受給資格者と特定理由離職者Ⅰ】
被保険者であった期間 | ||||||
1年未満 | 5年未満 | 1年以上10年未満 | 5年以上20年未満 | 10年以上20年以上 | ||
区分 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 270日 |
【自己都合退職者と特定理由離職者Ⅱ】
被保険者であった期間 | ||||||
1年未満 | 5年未満 | 1年以上10年未満 | 5年以上20年未満 | 10年以上20年以上 | ||
区分 | 全年齢 | 90日(※) | 90日 | 120日 | 150日 |
※ 特定理由離職者については、被保険者期間が6ヶ月(離職以前1年間)以上あれば基本手当の受給資格を得ることができます。
※ 1日の失業手当の単価は労働者の離職前の直近6ヶ月に支払われていた賃金(賞与は除く)の合計を180で除した金額の45~80%(下限・上限あり)。つまり、1日あたりの失業手当の額に離職理由は影響しないが、会社都合退職の場合は所定給付日数が多くなるため、最大支給額も多くなる。
※ 一般には年齢が高いほど再就職が困難と考えられており、年齢が高く、加入期間が長い者ほど受け取れる失業手当も多くなる傾向。しかし、自己都合の場合は年齢による給付日数の区別なく、所定給付日数の優遇もないため、会社都合と比べて最大支給額が少なくなる。
「会社都合にしたくない会社側の理由」の解説
退職金の金額の違い
自己都合と会社都合では、退職金の金額が異なることがあります。
退職金は、法律による支払義務はなく、会社の制度や就業規則で決められますが、自己都合による退職は、企業にも人員補充などの負担があり、満額支給されないことが多いです。
退職金は企業内の制度だけでなく、確定拠出年金や中小企業退職共済(中退共)のような社外の制度もあります。確定拠出年金の場合、運用責任は加入者である労動者にあり、離職理由によって減ることはありません。中退共は、懲戒解雇などの場合に減額の可能性があるものの、厚生労働大臣の認定が必要です。
「退職金を請求する方法」の解説
退職・転職のキャリアへの影響の違い
自己都合と会社都合では、退職時や転職におけるキャリアへの影響が異なります。
必ずしも、履歴書に退職の理由を詳しく書く必要はないものの、採用面接で聞かれることもあります。自己都合なら「一身上の都合」、会社都合なら「会社都合」と伝えましょう。その理由によって、採用担当者に与える印象も違い、会社都合は特に、倒産や法令違反といった会社側の責任なら影響はないものの、解雇である場合、その理由や経緯が深堀りされます。
リスクを軽減するには、「会社倒産のため」「会社の業績不振のため」といった具体的な理由を添えておく、解雇の場合には、具体的な解雇理由と反論を記載するといった工夫が必要です。
「懲戒解雇が転職で不利にならない対策」の解説
自己都合か会社都合かを判断する手順
会社都合、自己都合のいずれになるかの違いは大きいため、離職理由が判断される手順について知っておくことが重要です。
離職理由が自己都合、会社都合のいずれとなるかは、会社も労働者も、自由に選べるわけではありません。しかし、会社が第一次的に判断するため、誤った考えや認識違いがあると、不本意な離職理由にされてしまうトラブルが起こります。
失業保険における離職理由の判断
失業保険における離職理由の判断は、次の手順で進みます。
会社が離職証明書を記載する
会社は、離職証明書を提出することで、ハローワークに離職票を申請します。
離職証明書には離職理由が複数書かれ、該当する項目に会社がチェックを付けます。つまり、失業保険における離職理由の最初の判断は、会社が行うもので、離職票は、会社がチェックした離職理由の内容で発行されるのが原則です。
労動者がサインする
離職証明書の「離職者本人の判断」という欄では、労働者が、会社の記入した離職理由に異議があるかどうか意思表示し、署名をします。離職理由に異議があるときは会社に確認し、安易にサインしてはいけません。
ハローワークが審査する
以上の経緯で、会社を経由して、離職票が交付されます。失業保険における離職理由の判断は、ハローワークが労働者の持参した離職票をもとに審査して決定します。
会社が勝手に手続きを進め、あるべき離職理由とは異なる離職票が発行されたときは、ハローワークに異議を申し立て、離職理由を訂正するよう働きかけることができます。この際、離職理由を確認できる資料の提出(解雇通知書、賃金台帳、出勤簿など)を求められるため、事前の準備が肝要です。
「退職を会社都合にしてもらうには」の解説
退職金支給における退職理由の判断
退職金支給における理由の判断は、会社が決定します。退職金に関する判断は、あくまで会社の定めるもので、失業保険の自己都合・会社都合とは、必ず一致するわけではありません。
会社都合として満額の退職金が支給されるべきなのに、自己都合として減額されてしまったときは、会社に異議を述べても変わらないなら法的な手段で争うしかありません。労働審判や訴訟といった裁判手続きで、減額された退職金との差額を請求しましょう。退職金についてトラブルがある場合は、労働法に精通した弁護士に相談し、アドバイスを求めるのが有効です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
自己都合と会社都合のメリット・デメリットの比較
次に、自己都合退職と会社都合退職のメリットとデメリットを比較します。
自己都合退職のメリットとデメリット
まず、自己都合退職のメリットとデメリットを解説します。
メリット①:一身上の都合と伝えられる
1つ目のメリットは、離職理由を一身上の都合と伝えられることです。
「一身上の都合」は、私的な事情に広く用いられるので、会社都合に比べ、退職の理由を細かく確認されづらいです。転職回数が多い場合や、在籍期間が極端に短い場合でもなければ、内容を深く問われることはなく、転職に影響しないと考えてよいでしょう。
メリット②:ポジティブな転職だと評価される
2つ目のメリットは、ポジティブな転職だと評価されることです。
辞めるしかなかったのではなく、自ら望んだ転職だと評価され、意欲ある社員として肯定的に受け止められます。新しいスキルや専門性の獲得、キャリアアップといった志望動機を伝えれば、自己都合退職のメリットを更に強調できます。
「うつ病は転職で不利?」の解説
メリット③:再就職しやすい
3つ目のメリットは、再就職しやすいことです。
書類選考や面接でプラスに評価されるだけでなく、失業保険の給付制限で少なくとも2ヶ月は無収入となることも、転職活動を早める原因となります。結果的に、仕事のブランクも短くなれば、再就職に有利です。
メリット④:有利な時期に退職できる
4つ目のメリットは、自分の有利な時期に退職できることです。
退職するタイミングを自由に決められるので、自己都合なら自分の意思でコントロールできます。例えば、ボーナス支給日前の退職を避ける、有給休暇を消化しきったタイミングで退職するといったことが可能です。
「ボーナス前の退職と賞与」の解説
デメリット①:失業手当がすぐにはもらえない
1つ目のデメリットは、失業手当がすぐにもらえないことです。
自己都合だと、給付制限によって実際に手当が振り込まれるまで2〜3ヶ月以上かかり、その間は無収入となります。給付制限期間中もバイトはできますが、長期にわたる労働契約、週20時間以上働く場合、「就職した」とみなされ失業手当を受け取れなくなります。
デメリット②:失業保険の額が少なくなる
2つ目のデメリットは、受給できる失業保険の総額が少なくなることです。
会社都合退職なら、加入期間に応じて90〜330日の間で所定給付日数が決まりますが、自己都合だと優遇はなく、加入期間に応じて90〜150日の間で所定給付日数が決まるため、会社都合と比べて受け取れる額が少なくなります。
デメリット③:退職金が減少する
3つ目のデメリットは、退職金が減少することです。
自己都合退職は「会社の将来を担って働いてくれる」と期待した社員がいなくなることで、会社側がダメージを受けるため、退職金が減額されるのが一般的です。また、在籍期間が短いと、そもそも退職金の対象とならないケースもあります(退職金のルールは会社の規則によるので、詳細は就業規則や退職金規程を確認してください)。
「退職金の法的性質」の解説
デメリット④:退職理由が曖昧だとネガティブに評価される
4つ目のデメリットは、退職理由が曖昧だと採用選考でネガティブな評価を受けることです。
「一身上の都合」と伝えたとして、怪しむ会社はその内容を質問してきます。いざ理由を聞かれたときに明確に答えられないと「言えない理由があるのだろう」と疑いを持たれてしまいます。仮に「給与が安かったから」といったネガティブな理由で辞めたときも、「努力や実績を給与に反映してくれる会社で働きたいから」といったように前向きな理由に言い換える工夫が求められます。
「退職届の書き方と出し方」の解説
会社都合退職のメリットとデメリット
次に、会社都合退職のメリットとデメリットを解説します。
メリット①:失業保険の待機期間が短い
1つ目のメリットは、失業保険の待期期間が短く、支給開始が早いことです。
会社都合退職でも、7日間の待期期間を待つ必要はありますが、その後の給付制限はなく速やかに支給され、退職後の生活が安定しやすくなります。
メリット②:失業保険の額が多い
2つ目のメリットは、受け取れる失業保険の総額が多くなることです。
会社都合退職だと、労働者の年齢、雇用保険への加入年数などによって90〜330日までの間で給付日数が長く設定されています。所定給付日数が多ければ、転職活動が長引いても、無収入期間を長くカバーでき、離職後にも長期的な安心を確保できます。
メリット③:退職金が増額される
3つ目のメリットは、退職金が増額される点です。
整理解雇や希望退職の募集、退職勧奨に応じた退職は、そのきっかけが会社側にあるため、自主的な退職よりも退職金が上乗せされるのが一般的です。辞めたくない時期に辞めさせられるなら、有給の買取りや、退職金額の増額ができないか、交渉しましょう。
メリット④:有利な退職条件を交渉できる場合がある
4つ目のメリットは、有利な退職条件を交渉できる場合があることです。
退職金の増額以外にも、在籍期間を延長して就労を免除してもらう方法(ガーデンリーブ)や、未消化になる年次有給休暇の買い取り、再就職支援(アウトプレースメント)を交渉し、退職の不利益を軽減するよう働きかけてください。
「有給休暇の買い取り」の解説
デメリット①:転職時にネガティブな印象を与える
1つ目のデメリットは、転職活動でネガティブな印象を与えることです。
会社都合による退職は、面接官にとって確認したいことが多く、具体的な理由を深く問われる可能性が高いです。解雇の場合、言い訳すればするほど、能力不足や勤務態度、問題行為などが疑われる点は否めません。
「解雇の意味と法的ルール」の解説
デメリット②:再就職しづらいことがある
2つ目のデメリットは、再就職しづらい可能性があることです。
会社都合という離職理由にネガティブな印象を持たれることも理由のひとつであり、書類選考で不利にならないために離職理由に具体的な理由を添えるなどの工夫が求められます。失業保険が優遇され、生活保障が充実しているという安心感から、再就職への危機感が薄れてしまうことも要因となっています。
デメリット③:退職時期を自身でコントロールできない
3つ目のデメリットは、退職時期を自身でコントロールできない点です。
会社都合退職は、退職のきっかけや主導権は会社にあるため、労働者の想定しない時期に離職しなければならないケースが多いです。賞与の支給や有給消化などといった業務上のタイミングで損したり、家庭の事情からどうしても避けたい時期に退職が被ってしまったりといった不利益を被るおそれがあります。
「退職を伝えるのが早すぎるのは問題?」の解説
デメリット④:労働トラブルが生じやすい
4つ目のデメリットは、労働トラブルが生じやすい点です。
会社都合退職は、退職勧奨や解雇といった、労使紛争の火種となりやすい状態にあることが多いです。また、本来会社都合として扱うべきなのに、自己都合として扱い、労動者に失業保険の受給額や時期の点で不当な処遇としてしまうトラブルもあります。
そもそも退職勧奨や解雇自体が有効かどうかなど、退職に至る過程に納得がいかない場合は、弁護士に相談して解決の方法を探るのが有益です。
「労働問題の種類と解決策」の解説
離職理由を変更することはできる?
最後に、自己都合と会社都合の違いを理解した上で、その間の変更について解説します。実態はどうであれ、会社の利益や労動者の事情で、自己都合・会社都合の扱いを意図的に変更するケースがありますが、損しないよう慎重に判断してください。
自己都合退職から会社都合退職に変更する方法
離職票を自己都合でチェックされて不服なとき、ハローワークに異議を申し立て、会社都合退職に変更してもらえるケースがあります。例えば、理不尽な退職勧奨で、同意せざるを得ない状況に追い込まれたのに、自己都合で処理されたといった法律相談の例は跡を絶ちません。
会社都合であったことを証明する証拠を、労動者が準備する必要があります。具体的には、解雇予告通知書や退職勧奨についての書類などが証拠となります。退職後は自力で収集が困難であり、会社の協力も得づらいことを考えると、在職中から早めに準備すべきです。
会社から自己都合で退職してほしいと言われた場合の対応
会社都合の退職なのに、会社から自己都合退職への変更を打診される例もあります。
会社が「自己都合」を好むのは、助成金の申請に影響があるからです。助成金の支給要件は一定期間に「会社都合退職者を出していないこと」が条件となっているものがあり、申請予定もしくは申請中の助成金がもらえなくなるのをおそれて自己都合にしようとするのです。
しかし、労働者にとって実態に反した「自己都合」では、失業保険の優遇を受けられないため、断るべきです。会社都合の退職なのに退職届を求められたときも、自己都合退職した証拠を作ってしまうことを意味し、提出に応じてはなりません。
「解雇なのに退職届を書かされたら」の解説
解雇された場合の離職理由について
解雇された場合の離職理由は、通常は会社都合です。ただし、解雇をめぐる離職理由には、様々な検討事項があり、考えるべきことが多くあります。
能力不足など、労動者にとって不本意な解雇理由の場合、転職で触れられないようにするため、自己都合退職にしようと考える人もいます。会社と合意して退職できればよいですが、解雇されたことを隠すために離職理由を偽ると、経歴詐称となるおそれがあります。
また、労働者自身に違反行為や重大な問題行動があったときは重責解雇となり、自己都合退職扱いです。重責解雇は、退職のきっかけや原因が労働者側にあると判断されるためです。ただし、懲戒解雇などの厳しい制裁は、法律による制約があり、そもそも無効である可能性も高いため、弁護士に相談して、客観的なアドバイスを得ておくべきです。
「解雇されたらやること」「重責解雇」の解説
まとめ
今回は、自己都合と会社都合の違いについて、失業保険におけるメリット、デメリットを中心に解説しました。離職理由は、退職後の生活を左右します。失業保険を損せず受け取るには、自己都合・会社都合、それぞれの内容と、メリット、デメリットを理解するのが重要です。
特に、自己都合退職は、退職の理由が労働者側にあるため、退職金の減額や、失業保険における給付制限、所定給付日数が会社都合よりも少ないといったデメリットがあります。一方で、自己都合の方がポジティブな転職と見られて再就職しやすいといったメリットもあります。要は、自己都合も会社都合も、一長一短で、どちらが正解というわけではなく、状況に応じた検討を要します。
このように重要な意味を持つ離職理由をめぐっては、労使のトラブルが起こるケースも多いです。例えば、退職勧奨として会社都合にしてもらえるはずが自己都合退職を強いられる場合、解雇の有効性に疑いがある場合といったケースでは、大きな紛争に発展します。
自己都合、会社都合の扱いに納得のいかないときは、ぜひ弁護士に相談してください。
【失業保険の基本】
【離職理由について】
【失業保険をもらう手続き】
【失業保険に関する責任】