失業保険を「会社都合」でもらった方が、「退職後すぐに失業手当がもらえる」「より多くの失業手当がもらえる」というメリットはよく知られています。
「会社都合」とは、会社の一方的な都合によって雇用契約を解消する、いわゆる「解雇」が典型的ですが、何も解雇だけに限定されているわけではありません。つまり、解雇以外の理由による退職だったとしても、労働者の保護が必要な場合には「会社都合」として有利に失業保険をもらうことができます。
今回はそのような労働者の保護が必要となる場合のうち、「給料を大幅に減額されたことを理由として退職した」というケースについて、「会社都合」による失業保険を受給するための要件を解説します。
休業を大幅に減額されたとき、その減額幅がもはや退職するしかない程度に大きなものであれば、会社の都合によって退職されたのと同じことを意味しているといえますこのような場合、減給によって収入も大きく減少していますから、労働者の生活もとても苦しくなります。
「雇用保険・失業保険」の法律知識まとめ
「会社都合」と認められる給与減額
解雇でなくとも、著しく給与を減額されたのであれば、労働者としては会社の行為を理由として離職を余儀なくされたといわざるをえません。会社がたとえ退職を迫ったのではないとしても、給与を大幅に減額されてしまえば、辞めて他の仕事を探さなければ生活していくことができません。
しかし、どのような給料の減額に対しても「会社都合」と評価するのでは、少額の賃金減額であってもこれをすべて会社の責任と考えることとなり、妥当ではありません。
「会社都合」と評価されるのは、「給料を減らされたので会社を辞めるほかに道がなかった」といえるほど、つまり、もはや退職を決断せざるを得ないほど理不尽に給料を下げられた場合を想定しています。
厚生労働省では、「会社都合」と評価される給与の減額幅について、具体的基準を、次の通り定めています。
- 賃金の3分の1を超える額が支払い期日までに支払われなかった月が2か月以上続いた、または、退職前半年の間に3か月以上あった。
- 残業手当を除いた賃金が、それまでの85%になった。
したがって、労働者の生活に影響するような、かなりの割合の給与減額、遅配のみが「会社都合」と評価される事実となりますから、注意が必要です。
ココがポイント
上記の2つの要件のうち、①の要件について「退職前半年の間に3か月以上あった。」という要件について解説します。
この要件がない状態だと、例えば、ある月に賃金の3分の1を超える額の支払いがされなかったとしても、その次の月は給与が3分の2以上支払われ、またその次の月に賃金の3分の1を超える額の未払いがあったという場合、このような給与遅配をどれだけ繰り返しても、それを理由に退職した労働者を会社都合として救済することができないこととなってしまいます。
しかし、このような少しずつ給与の一部しか支払わないような運用が、労働者の生活に大きなダメージを与えることは明らかです。
①の要件があることによって、「連続して」未払いが続かなくても、つまり、「払ったり払わなかったり」という状況であっても「会社都合退職」と判断される可能性が拡大されました。
なお、会社都合と自己都合とで、失業保険にどのような違いがあるかは、次の解説もごらんください。
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自己都合?会社都合?退職理由の違いと「特定受給資格者」「特定理由退職者」
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賃金減額が予想できなかったケースである必要がある
賃金が大幅に減額、遅配されたことを理由として退職した場合には、退職理由を「会社都合」と評価して、失業保険の面で厚遇を受けることができると解説しました。
これは、例えば、「ブラック企業が労働者を辞めさせるために、わざと賃金を15%を超えてカットした」とか、「会社の資金繰りが悪化し、給料の支払われない月が続いた」という場合に、労働者を保護するための要件です。
そのため、給料が下がったという理由については、「低下の事実が予見しえなかった場合に限る」こととされています。
つまり、予見できずに突然大幅に賃金が下がった、という場合には労働者を保護する必要性が高い一方で、以前からずっと会社の業績が悪く、いつか給与が下げられると思っていた、という場合には、この賃金減額を理由に退職したとしても「会社都合」にはなりません。
ブラック企業からの退職を考えている方で、会社都合と判断してもらえるかどうかが不安な方は、退職をする前に、専門家に相談しておくことがお勧めです。
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以上の通り、解雇で退職した場合だけでなく、賃金の未払いが続いた場合であっても、これを理由として退職したのであれば会社都合として、失業手当の面で優遇うを受けることが可能です。
会社都合と判断してもらうためには、ハローワークにしっかりと説明できるだけの証拠を準備しておく必要がありますから、給料が遅配となっていたことについて、証拠資料として給与明細などをきちんと保管しておきましょう。
ブラック企業からの退職でお悩みの方は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
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