理不尽な異動命令・転勤命令をうけたとき、あなたが「会社での仕事より自分の人生を優先したい」と考えるなら、もはや退職しかありません。
ブラック企業ほど、異動命令・転勤命令に違反する労働者をそのまま会社に残しておくことはありません。このような反抗を許しておいては、「会社の命令にしたがわなくても辞めさせられることはない」という気持ちを他の社員も抱いてしまうからです。
会社の異動命令・転勤命令が適法なものであればともかく、「やめさせたい」という不当な動機にもとづくものであったり、嫌がらせ目的であったり、育児・介護などのやむを得ない理由があるのに不利益の大きさに配慮しないものであったりする場合、違法な命令であるケースも少なくありません。
会社を退職して「失業保険」をもらうとき、このような理不尽な異動命令・転勤命令によって退職した場合には、「会社都合退職」として有利な取り扱いを受けることができます。
そこで今回は、理不尽な異動・転勤を理由として、会社を退職せざるを得ないとき、失業保険について有利な取り扱いを受けるための方法について、弁護士が解説します。
「雇用保険・失業保険」の法律知識まとめ
目次
「会社都合」の退職と判断される異動命令・転勤命令
失業保険をもらって退職をしようと考えたとき、「自己都合か会社都合か」によって、大きな違いがあります。主な違いは、支給額の上限、給付制限期間(3か月)の有無といった点です。
会社都合と自己都合の違いについては、次の解説もごらんください。
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自己都合?会社都合?退職理由の違いと「特定受給資格者」「特定理由退職者」
「退職理由は自己都合か?会社都合か?」といわれる問題です。「自己都合」「会社都合」という言葉のイメージに振り回させることなく、あなたの退職理由に従って、あなたがどれだけの受給金額を、いつから支払ってもらえるのか、しっかり理解する必要があります。失業給付は失業中の生活を支える「命綱」です。
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「異動命令・転勤命令が明らかに違法である」といえるケースでは、その命令を受けた後の退職は、「会社都合退職」と判断されることとなります。
例えば「退職を勧奨され、その一貫として理不尽な異動命令を受けた」というケースの場合には、「会社都合退職」と判断されることが明らかです。「会社を辞めないなら、遠方の支店にとばす」という不当な命令が、残念ながら少なくありません。
形式的には「退職勧奨」という任意の退職をうながす形をとっていたとしても、実際には退職を強要していたり、退職しない場合には到底したがうことのできない異動命令・転勤命令をあわせておこなう、といったケースでは、違法性が明らかだからです。
会社が労働者を退職させる目的で、あえて窓際に追いやるような異動命令・転勤命令の場合、この後にした退職は「会社都合」の退職となります。
注意ポイント
異動命令・転勤命令をされた後で退職を決意するケースは、「自己都合か会社都合か」の判断が特に困難なケースの一つです。
というのも、「異動命令・転勤命令が違法であるかどうか」については、会社側の動機と労働者側の不利益の程度を総合的に考慮して、そのバランスによって決定することになるため、「異動命令・転勤命令が明らかに違法である」とはいいづらいケースが多く、破断が困難だからです。
退職強要でなくても「会社都合」となる異動命令・転勤命令のケース
「やめさせる」ことを目的におこなわれる異動命令・転勤命令が違法であり、この後におこなわれた退職が「会社都合」とあることを解説しました。
とはいえ、異動命令・転勤命令のすべてが社員を退職させたいという意図のもとにおこなわれるわけではありません。また、会社も「やめさせたい」という意図を隠しておこなうことが多いですから、違法不当な命令であることを立証するのは、それほど容易なことではありません。
実際に行われる異動命令・転勤命令は、「退職強要にはあたらないものの、会社の配慮が足らず、処遇がひどい」というものが多く、その結果として退職を決断せざるをえなかったという例が多くあります。
このような場合でも「会社都合」と評価されて失業保険をできるだけ多くもらうための方法について、弁護士が解説します。
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入社当初の約束とことなるケース
会社は、労働者を雇用するときには、入社時に労働条件を示さなければなりません。このとき、「働く場所」は重要な労働条件ですから、必ず示さなければなりません。
入社当初に、異動・転勤を予定していないとか、その可能性を労働者にまったく示さなかったケースで、のちになって異動・転勤を命じることは、入社当初の約束に反することとなります。
そのため、入社当初の労働条件と異なることとなる異動命令・転勤命令を受けての退職は、「会社都合」と判断されて失業保険で有利な扱いを受けることができます。
パワハラをともなうケース
異動命令・転勤命令がかならずしも違法とはいいきれなくても、これとともにセクハラ、パワハラなどのハラスメントをともなう場合、会社都合の退職とされます。
異動命令・転勤命令が、「人材の有効活用」という正当な目的に仮装しながら、実際には異動先、転勤先でこれまでの長年の経験、知識をまったく生かすことができず、居心地が悪いとき、「ハラスメントでないかどうか」をよく検討するようにしてください。
ハラスメントは、暴力や脅迫など、身体的行為によるパワハラが典型ですが、「過小な仕事しかあたえない」「職場の人間関係からはずしていじめる」といった行為もパワハラにあたります。
減給をともなうケース
会社都合の退職となる異動命令・転勤命令の3つ目の例は、減給をともなうケースです。
異動や転勤とともに、まかされる仕事が変わったり、異動先・転勤先に同じ役職がなくて降格をされたりなど、単に働く場所が変わるだけでなく仕事の内容も大きく変わり、これにともなって給料を下げられてしまうケースがあります。
この点、失業保険について、85%以下の賃金に下げられたことを理由とする退職は、異動・転勤とは無関係に、会社都合とおなじ扱いを受けることができます。
異動・転勤による退職が「会社都合」と判断される要件
異動命令・転勤命令は、その会社側の理由を明らかに知ることが難しく、その後の退職が「会社都合退職」となるかどうか、判断が難しいケースがあります。
厚生労働省では、このような判断の微妙なケースのために、「会社都合退職」となる退職理由として、次のような判断基準がもうけられています。
つまり、異動・転勤そのものが明らかに違法な場合だけでなく、異動・転勤にともなう不利益を緩和するような配慮が足りない場合にも、「会社都合退職」と判断されるということです。
したがって、異動命令・転勤命令の違法性については、労働審判や訴訟で慰謝料請求などをおこなっても判断が微妙であるというケースであっても、その後の退職は「会社都合」と判断してもらうことができ、失業保険をすぐにもらうことで、生活を支えることができるのです。
また、厚生労働省では、さらに次の3つの基準を示して、異動命令によって離職を余儀なくされたケースに備えています。
- 10年以上ひとつの職種に就いていたのに、十分な教育訓練もないまま配転させられた。
- 特定の職種に就くことで採用されたのに、別の職種に配転させられ、残業手当を除いた賃金が下がった。
- 配転命令が権利濫用となる。
したがって、介護の必要な家族をもつ労働者を遠隔地に異動させるなど、労働者の不利益が大きすぎるケース、仕事がない部署に追いやり、毎日無意味なレポートを作成して罵倒を繰り返したケースなど、異動命令自体がそもそも違法となるようなケースでは、退職しても問題なく「会社都合」の退職と評価され、失業手当の受給の面で厚遇されることとなります。
「労働問題」は、弁護士にお任せください!
今回は、会社から理不尽な異動・転勤を命じられて、退職せざるを得なくなったとき、失業保険をできるだけ多くもらう方法について、弁護士が解説しました。
今回解説したとおり、異動命令・転勤命令自体が違法、無効となるケースがあることはもちろん、労働審判や訴訟で争ってもかならずしも違法、無効とならないケースですら、会社の配慮が不足している場合には、失業保険について「会社都合退職」の扱いをうけることができる可能性があります。
したがうことのできない異動命令・転勤命令を受けてしまい、会社から退職することを検討している方は、ぜひ一度、労働問題に強い弁護士に法律相談ください。
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