解雇なのに退職届を書くよう指示され、戸惑うケースは少なくありません。
退職届は、自主退職(辞職)の際に労働者の判断で提出するものなので、会社から一方的に解雇と言われたのに退職届を書かせるのは矛盾しています。解雇の場合、労働者の意思表示がなくても退職は成立するため、退職届の提出は不要です。
なぜ退職届を指示されるかというと、書かせた方が会社にメリットがあるからです。逆に、労働者には、解雇なのに退職届を書くと、自己都合退職として失業保険で不利に扱われたり、不当解雇を争えなくなったりするデメリットがあります。流されてつい書いてしまう人もいますが、慎重に判断する必要があります。
今回は、解雇なのに退職届を書けと言われたらどう対処すべきか、解雇なら退職届がいらない理由を踏まえ、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職届を書かせるのは、不当解雇を争われるリスクを避けたい会社の都合
- 不当解雇として争うことを検討するなら、解雇で退職届を書いてはいけない
- 解雇なのに退職届を書いても、強要されたなら不当解雇として争える
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
解雇なら退職届はいらない

解雇なら、退職届は不要であるのが基本となります。
そもそも、解雇と退職届は、いずれも労働契約を終了させる効果がある点は共通しますが、それぞれ異なる法的な性質があり、利用される場面が異なるため、両立しません。
解雇とは会社が一方的に契約を終了させること
解雇とは、会社が一方的に労働契約を終了させることを意味します。
解雇の際は、労働者の同意や承諾は不要であり、会社が解雇の意思表示をすれば、解雇日をもって労働契約が終了します。一方的で、労働者の不利益が大きいからこそ、解雇権濫用法理によって法的に制限されており、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という要件を満たさなければ、不当解雇として違法・無効とされます(労働契約法16条)。
退職届は「自分から辞める場合」に提出するもの
これに対し、退職届は、労働者が自ら辞める場合に提出する書類です。
退職届は、労働者による一方的な退職の意思表示を意味しており、会社に到達して2週間を経過すれば、会社の同意や承諾なく労働契約は終了します(民法627条1項)。このように労働者が一方的に辞めるケースを「自主退職(辞職)」と呼び、解雇とは法的な性質が全く異なります。
なお、退職願は、労使の合意による労働契約の解約(合意退職)を労働者から申し入れる意味合いがあり、退職届とは区別されます。
解雇の場合は退職届がなくても退職は成立する
退職には、自主退職(辞職)、合意退職、解雇の3種類があります。
自主退職が労働者からの一方的な労働契約の解約、合意退職が労使双方の合意による解約を意味するのに対し、解雇は、会社からの一方的な労働契約の解約です。つまり、解雇には、労働者の意思表示が不要であり、したがって、退職届がなくても退職は成立します。

したがって、解雇は、懲戒解雇・普通解雇・整理解雇のいずれでも、退職届は不要であり、会社の解雇通知のみで足ります。
「退職届の書き方と出し方」の解説

解雇なのに退職届を書かせようとする会社側の理由

では、なぜ会社は、解雇なのに退職届を書くように指示するのでしょうか。
それは、たとえ解雇だったとしても、退職届を書かせた方が会社にとってメリットがあるからです。あくまでも会社の利益のためなので、労働者は安易に従うべきではありません。
自己都合退職として処理したい
解雇なのに退職届を書かせる理由の1つ目が、自己都合退職として処理するためです。
失業保険上の離職理由により、会社に不利益が生じる場面はさほど多くないですが、会社都合退職を出すことで支給条件を満たさなくなる助成金を受け取っている場合、支給を打ち切られるおそれがあります。また、会社都合退職は、必ずしも「会社が悪い」という意味ではないものの、そのように誤解した会社が、感情的になって自己都合扱いしようとするケースもあります。
「会社都合にしたくない理由」の解説

不当解雇のトラブルを避けたい
解雇なのに退職届を書かせる理由の2つ目が、不当解雇のトラブルを避けるためです。
前章で、解雇と自主退職(辞職)は性質が異なることを解説しましたが、会社が一方的にする解雇は法的に厳しく制限されており、解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、不当解雇として違法・無効になります(労働契約法16条)。

会社としては、解雇をすれば不当解雇として争われるデメリットを伴います。
これに対して、解雇と言いながら退職届を書かせれば、後から不当解雇として争われても「解雇ではなく自主退職だった」、あるいは「労働者も解雇に納得していた」などと反論して、不当解雇のトラブルを避けることができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

解雇なのに退職届を書いた場合の労働者側の不利益

会社側に理由がある一方で、解雇なのに退職届を書くと、労働者の不利益は大きいです。
会社から「将来のためにも解雇の履歴を残さない方がいい」「転職で不利になる」などと説得されることがあります。一見労働者の利益かのように装っても、実際は、解雇なのに退職届を書かせるのは会社の都合に過ぎず、鵜呑みにしてはいけません。
失業保険の給付開始が遅れる
解雇なのに退職届を書いてしまうと、失業保険で不利に扱われるおそれがあります。
失業保険の受給は、離職理由が自己都合か会社都合かによって異なり、自己都合退職では待機期間(7日間)の経過後、原則として1ヶ月の給付制限期間があります。これに対し、会社都合退職であれば、待機期間の経過後、すぐに失業保険を受け取ることができます。

解雇は、「重責解雇」とされる例外を除いて、会社都合退職として扱われるのが基本ですが、解雇なのに退職届を書いてしまうと、自己都合扱いされ、不利になるおそれがあります。
「自己都合と会社都合の違い」の解説

不当解雇の主張が困難になる
解雇なのに退職届を出すと、後から不当解雇として争うのが困難になってしまいます。
解雇された労働者が退職届を出した場合、明確に解雇を争う意思を示していた場合でない限り、解雇を承認したものと見られ、もはや解雇の効力を争うことができなくなります。裁判例でも同様の判断をした事案が複数あります(岡野バルブ事件:福岡地小倉支部昭和29年6月19日判決、西日本鉄道事件:福岡地裁昭和25年4月8日判決、大林組事件:東京高裁昭和26年1月29日決定)。
また、自由意思に基づいて退職届を提出したと判断されると、そもそも解雇自体が否定されて合意退職とされるおそれもあります。裁判例にも、この考え方から解雇予告手当の請求を棄却した事例があります(シーエーアイ事件:東京地裁平成12年2月8日判決)。
したがって、解雇理由が事実ではなかったり、解雇に足るほどの重大なものではなかったりといったケースは、不当解雇となる可能性が大いにあるため、将来争うことを少しでも検討しているなら、退職届を出してはなりません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

解雇予告手当を受け取れなくなる
解雇は、30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う義務があります(労働基準法20条)。しかし、解雇なのに退職届を出すと、自主退職扱いとされ、この解雇予告手当を請求できなくなってしまうおそれがあります。この手当は、不当解雇を争う場合だけでなく、解雇を受け入れる場合でも、生活上の支障を解消するために必ず受け取るべきです。
「解雇予告手当の請求方法」の解説

解雇なのに退職届を書けと言われた場合の対処法

では、解雇なのに退職届を書けと言われたら、どのように対応すればよいのでしょうか。
解雇なのに退職届を提出することは、法的には労働者自ら合意の上で契約を終了させたという証拠を与えることを意味します。一度提出すれば、後から「実は解雇だった」と争うことは極めて困難になってしまいます。
したがって、解雇であれば退職届は拒否するのが基本であると理解してください。以下では、具体的な対処法について順番に解説します。
退職届の提出を拒否する
解雇なのに退職届を書くことに違和感を感じたら、その場で応じてはなりません。
退職届の提出は拒否しましょう。すぐに判断が付かないと伝えて持ち帰ることも構いません。持ち帰る理由は「家族に相談したい」「大切なことなのですぐには決められない」といったもので足ります。退職届を提出することも、拒否することも労働者の自由です。
理由を伝えて拒否してもなお、執拗に迫ってくるなら、解雇なのに退職届を書かせるのは会社のためであり、不当解雇なのではないかと疑うべきです。
「会社を辞めさせる手口」の解説

解雇理由を確認する
次に、解雇理由を確認するようにしてください。
労働基準法22条は、労働者が求めた場合は、解雇理由を書面で交付することを会社に義務付けています。この際に交付される書面を「解雇理由証明書」と呼び、非常に重要な証拠となるため、解雇なのに退職届を書かされた場合に限らず、解雇を争う際は必ず求めておきましょう。

不当解雇かどうかを検討する
交付された解雇理由証明書をもとに、不当解雇かどうかを検討しましょう。
もし、解雇理由とされた事情が真実でなかったり、解雇に足るほど重要ではなかったりする場合、不当解雇の疑いがあります。将来争うことを希望するなら、退職届を書いてはいけません。不当解雇をされたら、交渉で撤回を求めたり、解決金による金銭解決を目指したり、交渉が決裂する場合には労働審判や訴訟といった裁判手続きで争ったりすることが可能です。
逆に、解雇が正当なものであり、「退職届を書けば、解雇ではなく自主退職扱いにする」と会社から説明された場合には、退職届を書いてもよい場面もあります。ただ、この場合には、解雇を撤回して合意退職とする旨を、合意書などの書面で証拠化してから進めるべきです。
「不当解雇の証拠」の解説

退職届を書く前に弁護士に相談する
自分のケースで、退職届を書くべきか迷うときは、弁護士に相談してください。
一旦退職届を出してしまうと、撤回は相当難しいため、弁護士への相談は退職届を書く前に行うようにしてください。労働問題に精通した弁護士なら、個別の事情に応じて、解雇なのに退職届を書くことが、労働者にどのようなメリット・デメリットがあるか説明することができ、退職届を書くかどうかの判断の参考にすることができます。
退職届を書いた後でも不当解雇を争える
退職届を書いてしまったとしても、不当解雇の争いをあきらめてはいけません。
一旦提出した退職届の撤回は困難ですが、錯誤(民法95条)、詐欺、強迫(民法96条)を理由に退職の意思表示を取り消すことができる場合があります。
例えば、会社が解雇であることを曖昧にして退職届を出させた場合には「錯誤」、騙す行為があった場合には「詐欺」、脅す行為があった場合には「強迫」を理由に、退職の意思表示の瑕疵を指摘し、法的に取り消すことが可能です。
もし、社長や上司などの圧力が強く、その場で退職届を拒否するのが難しいというケースに備え、必ず録音をとり、やり取りを証拠化するようにしましょう。
「退職届の撤回」の解説

解雇でも退職届を書くべき例外的なケース
以上の通り、解雇であれば退職届は拒否するのが原則です。
しかし、例外的に、解雇でも退職届を書くべき(あるいは、書いた方が労働者にとって有利になる)ケースがあります。それは、労働者に非があることが明らかであり、懲戒解雇が有効となる可能性が非常に高いと考えられる場合です。
懲戒解雇という重い処分を受けると、将来の転職活動の支障となったり、就業規則や退職金規程によって退職金が不支給・減額となったりといった不利益があります。また、失業保険についても「重責解雇」となる結果、3ヶ月の給付制限が課されます。
この場合、会社と交渉して退職届を提出し、自己都合退職の扱いにしてもらった方が経歴に傷が付かず、規程通りの退職金を受け取れるメリットがあります。
「懲戒解雇のデメリット」の解説

解雇なのに退職届を書かされる場合のよくある質問
最後に、解雇なのに退職届を書けと言われるケースのよくある質問を解説します。
解雇なのに退職届を書く義務はある?
解雇の場合には、退職届を書く義務はありません。
退職届は、労働者が自分の意思で会社を辞める場合に提出する書類である一方、解雇は会社が一方的に労働契約を終了させる手続きだからです。そのため、解雇であれば、退職届の提出がなくても退職は成立します。
解雇なのに退職届を出させようとするのは、自己都合退職として処理したいという理由が裏にあることが多いため、不当解雇でないかを確認することが重要です。
退職届の提出を拒否するとどうなる?
解雇なのであれば、退職届の提出を拒否しても問題ありません。
前述の通り、解雇は会社の意思表示によって労働契約が終了し、労働者の同意は不要です。そのため、退職届の提出を拒否したとしても、解雇によって会社を辞めることとなります。この場合、失業保険は、「重責解雇」となる例外的なケースを除き、会社都合退職として受給することが可能です。
【まとめ】解雇なのに退職届を書かされたら

今回は、解雇なのに退職届を書くように指示された際の対処法を解説しました。
解雇の場合は、退職届は不要です。解雇は会社からの一方的な意思表示による労働契約の解約であり、労働者からの退職の意思表示を意味する退職届とは本来矛盾するからです。むしろ、解雇なのに退職届を書いてしまうと、自己都合退職として失業保険で不利に扱われたり、将来、不当解雇として争えなくなったりといった不利益が生じてしまいます。
会社の説明を鵜呑みにせず、「解雇なら、退職届は書かない」という姿勢で拒否するのが適切であり、かつ、解雇についても納得がいかないなら、不当解雇として争うべきです。
解雇のリスクを軽減したい会社は、言葉巧みに誘ったり脅したりして退職届を書かせようとします。不安に感じたら、退職届を書いてしまう前に、弁護士に相談してください。
- 退職届を書かせるのは、不当解雇を争われるリスクを避けたい会社の都合
- 不当解雇として争うことを検討するなら、解雇で退職届を書いてはいけない
- 解雇なのに退職届を書いても、強要されたなら不当解雇として争える
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/




