セクハラの加害者となってしまったとき、「セクハラ」という違法な行為をした「責任」を負うのは当然。しかし、「どのような責任を負うのか」は、ケースによって多種多様です。起こしたセクハラの程度、態様、悪質性により、加害者の責任は大きく3つに分けられます。
- 雇用契約上の責任
労働者としての責任 - 民事上の責任(民事責任)
民法違反の責任 - 刑事上の責任(刑事責任)
刑法違反の責任
最近は、セクハラ問題がニュースでも大々的に報道されます。これまでなら「冗談」として放置されてきた飲み会でのセクハラもあるでしょう。しかし、今後はセクハラとして厳しく責任を追及される可能性は高まっています。
今回は、セクハラ加害者が負う「責任」について、上記の3つに分けて、労働問題に強い弁護士が解説します。
セクハラは誰の責任?
セクハラ被害者の立場だと、「誰がこの責任をとってくれるのか」と強い怒りを感じるでしょう。
セクハラの責任は、第一次的にはセクハラ加害者である上司や同僚などが負うのが当然。しかし、セクハラ加害者を雇用する会社(つまり、使用者)もまた、セクハラの責任を追及される対象です。
会社は、労働者に安全配慮義務を負うため、その一内容として「セクハラのない安全な環境で働いてもらう義務」と負っています。あわせて、雇用している労働者がセクハラ加害をしたら、使用者責任(民法715条)を負うことが理由です。
安全配慮義務は、労働者に適切な労働環境を提供し、心身の健康や安全を損なわないよう配慮しなければならないという、会社にとって当然の義務です。セクハラがあると、精神的なストレスが大きく、場合によっては身体を傷つけられるおそれもあります。「セクハラの蔓延している会社」が安全配慮義務を果たしていないのは明らかです。
本解説は、このセクハラの責任のうち、セクハラ加害者の3つの責任について順に説明します。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
セクハラ加害者の民事上の責任
民事上の責任追及の手段は、「民法」という法律に定められています。具体的には、セクハラ加害者は、不法行為(民法709条)の責任を負うことになります。
一般的にいって、民事上の責任は、「金銭的な責任追及」であるのが通常です。いわゆる「(精神的損害に対する)慰謝料」などの損害賠償を請求する方法による責任追及です。セクハラ加害者の民事上の責任について、その請求方法や相場を解説します。
不法行為責任とは?
セクハラ加害者が負う民法上の責任である「不法行為」(民法709条)とは、次の要件を満たす場合に、損害賠償責任を負わせることを内容とするものです。
「不法行為」の責任追及の要件は、次のとおりです。
- 故意又は過失
不法行為とされるには、セクハラ加害者に「故意・過失」がなければなりません。セクハラは「故意」でされるのが通常ですが、加害者に自覚のないときでも「過失」はあるとされるケースが多いでしょう。 - 権利又は法律上保護される利益の侵害(違法行為)
セクハラ行為が、不法行為の「違法性」を有する行為なのは明らかです。 - 損害の発生
セクハラ行為を受けた被害者の損害の有無とその内容を、金額で立証する必要があります。 - 因果関係
セクハラ行為と損害との間に「因果関係」がある必要があります。
以上の4つの要件を満たした場合には、セクハラ被害者の受けた精神的苦痛について、慰謝料を支払わなければならないという法的責任を負うこととなります。
損害の相場は?
セクハラが社会問題化し、ニュースでも頻繁にとりあげられ、ケースによっては過労死、過労自殺などの原因ともなるような事案も出てきているため、セクハラの慰謝料は、以前よりも高額化している傾向にあります。
「損害」としては、精神的損害に対する慰謝料が主となります。これに加えて、ケースによっては、セクハラによって退職せざるを得なくなった場合の逸失利益(働き続ければ得られたであろう給料など)も、賠償額に含まれることがあります。
セクハラ被害者が治療を余儀なくされたり、妊娠してしまって堕胎費用がかかったりといった場合は、治療費、診断書作成費などの実費も、セクハラ加害者が支払うべき損害に含まれます。
「セクハラの慰謝料の相場」の解説
セクハラ加害者の刑事上の責任
刑事上の責任追及の手段は、「刑法」という法律に定められています。セクハラがあたりうるのは、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪、名誉棄損罪、侮辱罪など。加害者がした具体的なセクハラ行為の種類に応じて、様々な種類があります。
セクハラ問題について刑事上の責任追及がされるケースは、民事上の責任追及に比べて非常に悪質であったり、継続的に何度も行われていたりといったケースに限られます。
セクハラ問題の被害者となり、生命の危険を感じる場合は、警察などの捜査機関に早めに対処してもらう必要がありますから、被害届を出したり告訴したりといった行動を起こさなければなりません。逆に、悪質なセクハラの加害者と疑われたとき、ただ会社に反論するだけでは、捜査機関(警察・検察)から逮捕され、身柄拘束を受けるおそれがあり、刑事弁護が必要です。身柄を拘束されると、逮捕3日間、勾留が最大20日間、合計で最大23日もの間、拘束されるおそれがあります。
「犯罪となるセクハラ」の解説
不同意性交等罪
セクハラ加害者が、被害者の意思に反して肉体関係(性交渉)を持つといった悪質なケースは、「不同意性交等罪」という、非常に重い犯罪となり、刑事責任を負うこととなります。この罪は、性犯罪の中で最も重い罪です。
- 「不同意性交等罪」にあたると、「5年以上の有期懲役」の法定刑が科されます(刑法177条)
暴力、脅迫して無理やり性行為をしたケースがその典型例ですが、これに限らず、同意がない性交等の行為について広く処罰されます。強いお酒をたくさん飲ませ、よくわからない状態にして無理やり性交渉したといったケースもまた、同様の刑事責任を負います。
不同意性交等罪は、近年何度か改正を重ねています。
従来は「強姦罪」と呼ばれていましたが、男性も被害者となることを示すため、刑法改正(2017年7月13日施行)による名称変更で「強制性交等罪」となり、その後、暴行、脅迫による場合だけでなく、同意のない場合を広く罰するため、刑法改正(2023年7月13日施行)により「不同意性交等罪」と名称を変更されました。
不同意わいせつ罪
不同意性交等罪ほどの重度ではなくても、不同意わいせつ罪の刑事責任を負うことがあります。
- 「不同意わいせつ罪」にあたると、「6ヶ月以上10年以下の懲役」の法定刑が科されます(刑法176条)。
性交にまでは至らずとも、セクハラ被害者の意思に反して性的な行為をしたケースが典型例。例えば、被害者が嫌がっているのに無理やり、腰を触ったり胸を揉んだり、キスしたりする行為は、不同意わいせつ罪にあたります。
これに対し、行為態様が軽度である場合、例えば、服の上から肩を触るといったセクハラ行為である場合には、刑事上の責任を追及されるほどの違法性がないケースもあります。
暴行罪・傷害罪
セクハラ行為を行う際に、暴行、脅迫といった違法行為を利用したり、セクハラ行為の際にケガを負わせてしまった場合には、暴行罪、傷害罪などの刑事責任を負うケースもあります。
同意のないわいせつ行為や性交渉の結果、傷害を負わせたり、死なせてしまったりした場合には、不同意わいせつ等致死傷となり、更に重い刑事責任を負うこととなります。暴行や脅迫は、セクハラだけでなくパワハラにあたることもあります。
「パワハラの相談先」の解説
名誉棄損罪・侮辱罪
セクハラ行為のなかには、具体的な行動をともなうものだけでなく、発言によるセクハラもあります。
いわゆる、「セクハラ発言」のケースです。性的な発言で被害者を傷つけた場合に、名誉棄損罪、侮辱罪などの刑事上の責任が生じます。
発言だけだからといって、そのセクハラ行為が、刑事上の責任にあたらないとは限りません。セクハラ行為によって被害者の人格を否定したり、名誉を棄損したりした場合、刑事責任を負います。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
軽犯罪法違反
セクハラ行為が、ごく軽微だからといって、刑事上の責任を負わないと安心するのは早計でしょう。刑事上の責任の中には、「刑法」に定められたものだけに限らないからです。軽犯罪法や、各都道府県の条例にも、性的な迷惑行為に対する刑事上の責任が定められています。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
セクハラ加害者の雇用契約上の責任
セクハラ加害者は、会社内でも、その雇用契約上の責任を負います。「雇用契約上の責任」は、セクハラという違法行為に対し、社内で、処分を受ける責任のことを指します。
セクハラ加害者が負うべき雇用契約上の責任は、法律には書かれていません。民法、刑法はもちろん、労働基準法などの労働法にも定まったルールはありません。この責任は、労使で決められたルールに従うのであり、具体的には、雇用契約書や就業規則に定められます。
「雇用契約上の責任」は、労働者が会社の秩序を乱したことに対する責任。その追及は、「懲戒処分」によって行われるのが基本です。懲戒処分の理由や、処分内容は、就業規則に定められており、程度に応じていくつかの種類があります。
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
懲戒解雇
会社がセクハラ加害者に下す「雇用契約上の責任」のうち、最も重いものが「懲戒解雇」です。
懲戒解雇は、雇用関係において「死刑」にも例えられるもの。現在の仕事を解雇されて辞めなければならないだけでなく、経歴にも大きなキズをつけ、再就職、転職すら困難にしてしまう、とても重い責任です。不同意性交等罪、不同意わいせつ罪などといった重度の刑事責任を負うような、犯罪行為となるセクハラをしてしまった加害者に対しては、雇用契約上の責任についても、懲戒解雇という重い処分が適切です。
「セクハラを理由とする懲戒解雇」の解説
諭旨解雇・諭旨退職
懲戒解雇ほど重度の責任はないものの、「会社を退職することを前提とした懲戒処分」という点で、諭旨解雇、諭旨退職も、非常に重い責任追及となる懲戒処分です。
一般に、諭旨解雇、諭旨退職といわれる懲戒処分の方法は、
- 退職をうながして、
- 応じるときには合意退職扱いとし、
- 応じないときには解雇、もしくは退職扱いとする
という処分ですが、細かいルールは、会社の就業規則の定め方によります。懲戒解雇による責任追及と比べれば、退職に応じれば経歴にキズがつきません。また、退職金が支給されるなど、労働者に対して一定の配慮がある点が違いとなります。
「諭旨解雇」の解説
出勤停止・停職
出勤停止による責任追及は、就業規則に定めた一定の期間だけ、労働者を会社に来させない懲戒処分。「停職」と呼ばれることもあります。
セクハラ行為が、会社を辞めさせるほど重度の違法性を有する行為でなかったとしても、大きな責任を与えたいといった場合に、会社が責任追及手段として利用するのが、出勤停止です。なお、これ以外に、懲戒処分ではなく、その準備として出勤を禁止するという扱いもあります。
減給
「減給」による雇用契約上の責任追及は、金銭的な制限があります。つまり、懲戒処分による減給の上限は、次のように定められています(労働基準法91条)。
- 1回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない
- 総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない
そのため、金銭的にダメージを与えるというよりは、「懲戒処分による責任追及をされた」というレッテルを貼り、注意喚起するという意味に重点が置かれます。退職を前提とした懲戒解雇、諭旨解雇などとするほどではないものの、相当に重度の責任追及が必要なセクハラ行為には、「減給」を行う会社が多くあります。
「減給の違法性」の解説
戒告・譴責
懲戒処分による責任追及のなかで、軽度のものが戒告・譴責です。始末書を提出するなどして注意の意味を示す懲戒処分です。
いずれも会社からセクハラ加害者への処分であると共に、「注意指導」という意味合いがあります。つまり、譴責、戒告は、会社に残すことを前提に改善を求めるための処分なのです。そのため、この責任では、加害者は雇用され続けることとなります。
「セクハラの始末書」の解説
まとめ
今回は、日に日に社会問題視されるセクハラ問題について、「責任」の観点から解説しました。
セクハラ加害者の「責任」とは、「民事上の責任」、「刑事上の責任」、「雇用契約上の責任」の3つ。責任追及の方法と、その種類、性質による違いをしっかり理解すれば、万が一にもセクハラの被害者となったときも、セクハラ問題の解決を有利に進めることができます。
セクハラ被害にあって責任追及を検討している方、セクハラをしてしまい重い責任を避けたい方、いずれの立場でも、弁護士のアドバイスが有益です。
【セクハラの基本】
【セクハラ被害者の相談】
【セクハラ加害者の相談】
- セクハラ加害者の注意点
- セクハラ冤罪を疑われたら
- 同意があってもセクハラ?
- セクハラ加害者の責任
- セクハラの始末書の書き方
- セクハラの謝罪文の書き方
- 加害者の自宅待機命令
- 身に覚えのないセクハラ
- セクハラ加害者の退職勧奨
- セクハラで不当解雇されたら
- セクハラで懲戒解雇されたら
- セクハラの示談
【さまざまなセクハラのケース】