秘書として働く女性のなかには、セクハラに悩む労働者が多くいます。
残念なことに、「秘書」という業務の性質上、セクハラが起こりやすい状況にあるからです。社長秘書だと特に、社長と一緒にいる時間が長くなり、セクハラを受けがち。社長のセクハラだと、秘書の立場では断りづらく、泣き寝入りになる例も多いです。
社長秘書でなく、役員秘書などでも、セクハラの加害者は自ずと社内の地位ある人になります。強く拒絶すれば、社内の雰囲気が悪くなったり、働き続けられなかったりするのも心配でしょう。
今回は、秘書が受けがちな違法なセクハラとその対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 秘書側、社長側の理由や労働環境などに起因して、社長秘書はセクハラされやすい
- 秘書も1人の労働者として保護されるから、セクハラを耐える必要はない
- 秘書はセクハラのダメージが大きくなりがちなのを理解し、不快に感じたらすぐ対処する
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秘書が受けやすいセクハラ被害
まず、秘書が受けやすいセクハラ被害とは、具体的にどのようなものか、解説します。
性的な発言、身体的な特徴への言及など、一般にセクハラにあたるなら、慰謝料請求の対象です。このことは、立場が秘書であっても全く変わりません。たとえ褒めるような口調だったり、セクハラの意図がなかったりしても同じです。
業務中に身体を触られる
秘書が被害を受けるセクハラで、最もよくある例が、業務中に身体を触られるケースです。
業務の報告で近付いたら尻や腰に触れるケース、すれ違いざまに胸を触られるケースなど、セクハラの態様やタイミングは様々ですが、「秘書だから」といって身体への接触が正当化されるいわれはありません。秘書はどうしても距離感が近くなるため、「接触」によるセクハラ被害を受けがちです。勇気をもって注意しても、「喜んでいる」と誤解されてエスカレートするケースもあります。
容姿で選ばれる
秘書は、容姿をみて採用されがちですが、このこともセクハラの温床となっています。本来、労働者は、能力や適性で選ぶべきであり、能力を全く見ず、容姿のみで採用すること自体がセクハラ被害でもあります。
容姿のみで判断しただけでなく、そのことを秘書本人に伝えるセクハラもあります。「顔がタイプだから秘書にした」と発言すれば性的意図を感じさせ、セクハラなのは当然です。容姿で秘書を選ぶ社長によるセクハラには、次の例があります。
- 容姿端麗でないと秘書に採用されない
- 「胸の大きい順に採用した」と発言する
- 社長や役員の好みの美人ばかり雇用する
- 社長好みの服装をしなければならない
- 露出の高い制服を強要される
- 社長のタイプのAV女優に似てるといわれる
これらの秘書へのセクハラの根底には、男性優位の発想があります。「売上に貢献しない賑やかし要因だ」「雇ってやっている」といった考えは誤りであり、差別的な発想です。
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性の対象として見られる
そして、容姿で選ばれる秘書ほど、性の対象として見られてしまいます。容姿で選ばれた秘書は、次のようなセクハラ要求を受けがちです。
- 「疲れたから、マッサージをお願いしたい」
- 「寝付きが悪いから、出張では同じベッドで寝てほしい」
- 「○○ちゃんの顔を見ると仕事のやる気が湧く」
- 「秘書なら、社長と旅行にいくのが当たり前」
このようなセクハラ要求は、社長が秘書を性の対象として見ていなければ出てきません。にもかかわらず、秘書の立場を考えるとノーと言えず我慢している人もいます。秘書の業務は、社長を働きやすくすることと考え、セクハラ要求を受け入れてしまう人もいます。
クビにされる危険はもちろん、気まずさから仕事しにくくなるのを恐れる秘書の方もいます。断ると報復されるかもしれないと感じると、怖いのは理解できますが、違法なセクハラは断固として拒否しなければなりません。
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日常生活の世話をさせられる
日常生活の世話をするよう指示命令されるセクハラも、秘書がよく被害に遭います。例えば、次のようなケースには問題があります。
- 私生活で食事の準備するよう命じられる
- 着替えを手伝わされる
- ペットの世話をさせられる
- 社長のトイレにまで付き添わなければならない
- 社長が休みをとらないと、秘書も休めない
秘書になる方の多くは、気配りができるタイプの人です。社長からの命令に、「できることなら」と従う秘書ほど、セクハラの犠牲になります。
しかし、「秘書」というのは、あくまで業務上の役割であって、日常生活への干渉は控えなければなりません。秘書の仕事は、社長に生産性の高い仕事をしてもらうサポートに過ぎません。日常生活の世話は、秘書本来の業務とは無関係です。
「プライベートをさらけ出しているのは社長から信頼されている証だ」といった反論を聞くこともあります。秘書がいうならわかりますが、社長が押し付けることではありません。業務に関係しない指示命令が不快なら、従う必要はありません。秘書はあくまでも労働者であって、恋人や妻、世話役や介護役ではないのです。
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セクハラを受けた秘書の対処法
以下では、秘書がセクハラを受けた場合の有効な対処法を解説します。
セクハラを受けたら、何もせず放置しておくのは危険です。精神的なストレスで、体調不良になってしまいかねません。
当時は大丈夫だと感じても、自分の気持ちに蓋をしてはいけません。秘書は弱い立場で、我慢するほど心に深い傷が残ります。セクハラをやり過ごすのでなく、まず周囲に相談すべきで、自らアクションを取ることが重要です。
拒否の意思を明確にする
穏便に事を収めようとも、セクハラ社長との関係は、再構築が難しいもの。秘書が嫌がっていても社長が勘違いし、うまくあしらえないケースは多々あります。
やんわりと拒否するだけでは、セクハラが終了するとは限りません。秘書に、執拗に性的言動を繰り返す「偉い人」は多いものです。それほどまでに、社長と秘書の上下関係には、大きな差があります。
泣き寝入りは絶対にしてはいけません。自分がセクハラをしているという自覚のない人も多いため、強く「やめてください」と伝えるのが大切です。たとえ社長の行為であっても、セクハラならはっきりと拒否し、違法だと認識させる必要があります。
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セクハラの証拠を残す
拒否の意思を明確にしても、セクハラがやまないケースもあるでしょう。この場合、証拠もないままセクハラ被害を訴えても、周囲の協力が得られません。社長秘書だと、他の社員も触れづらいことがあります。
第三者の目からも明確な証拠は、退職にせよ訴えるにせよ、有利な条件を得る助けになります。ですので、セクハラの証拠を残すのが重要な対処法となります。具体的には、秘書の立場で、社長からされたこと、言われたことを記録してください。
セクハラによって受けた精神的苦痛は、病院の診断書をとって証拠化しましょう。どれほどあなたがセクハラだと主張しようと、証拠がなければ裁判で認めてもらうことは難しい場合があります。証拠こそ、裁判における切り札ですから、十分な証拠収集が必要です。
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弁護士に相談する
社長秘書で、セクハラの加害者が社長だと、社内での解決は難しいでしょう。加害者が社長なだけに、目撃していた社員も保身に走り、協力を得られないからです。
このとき、社外での解決を図るのがよいでしょう。弁護士が内容証明で指摘すれば、訴訟手続に進む可能性もあるので、会社の真摯な対応を望めます。訴訟などで社長によるセクハラが公になれば、会社自体の信用問題に発展することもあります。企業の信用が低下するリスクが高ければ、非協力的な社員も対応してくれる可能性が上がります。
社長がオーナーの会社でなければ(雇われ社長なら)、責任をとって社長を解任させられる例もあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
秘書の受けるセクハラに特有の注意点
最後に、秘書の受けるセクハラに特有の注意点を解説します。
社長は他の役員とは異なり、会社のトップ。その社長につく秘書のセクハラには、複雑な労働問題が潜んでいます。
トップには逆らえない
社長のセクハラは、社内での解決が困難です。社長は通常の社員とは異なる業務スケジュールで、秘書もそれに合わせます。そのため、社長が秘書にセクハラしても、周囲は気付きづらいです。
秘書が被害を訴えていても、社員は自己保身に走りがちで、直属の上司も、相手が社長だと文句がいえません。こうして、社長のセクハラ行為に注意できる人もいない事態が生じます。また、相談できる人がいないため、味方もいない、団結して行動することができない場合も。最悪は、「秘書が悪い」「誘った女が悪い」といったイメージが社内で広まってしまいます。
社長に間違いを認めさせるのは難しい
たとえセクハラを明確に拒否しても、たった一人の指摘では無視されるおそれあり。「これくらい普通だ」と勘違いされ、あなたがおかしいとされる可能性もあります。
他の社員からも指摘してもらい、自分から間違いを認めさせるのが重要です。しかし、社長は会社のトップであり、他の社員からの指摘を受けません。ブラックな会社ほど、社長のわがままは通ってしまいます。結果として、「秘書へのセクハラではない」という間違いを、社長に認めさせることはできません。
「ワンマン社長の対策」の解説
秘書からの異動は難しい
セクハラ被害を受けても会社で働くケースで、異動を希望するという対処法があります。しかし、社長秘書で採用された場合には、異動が困難なことがあります。
というのも、秘書の業務は、サポートがメインで、社長の指揮命令で働いています。このように業務内容が限定されているため、他の職種への異動は難しいでしょう。仮に異動できても、他の社員からは「元社長秘書」として腫れ物扱いされかねません。
「違法な異動を拒否する方法」の解説
まとめ
今回は、秘書の受けやすいセクハラ被害と対処法について解説しました。
秘書のセクハラ被害は、通常のセクハラと共通の点もありますが、より難しい問題とお考えください。業務時間内だけでなく、時間外にも、セクハラ被害が及ぶ場合が多くあります。
秘書のセクハラ被害は、社長や役員といった上位者との関係で生じます。ハラスメントは地位の上下を利用しますが、秘書が被害者となるのはその最たる例です。セクハラ発言をされる、身体を触られるといった軽度のセクハラでも、日常的に繰り返されれば大きな苦痛になります。
しかも、セクハラに遭遇する機会の多い秘書は、常に緊張を強いられます。悪化して体調を崩したり、業務だけでなく生活にも支障が出たりする前に、弁護士にご相談ください。
- 秘書側、社長側の理由や労働環境などに起因して、社長秘書はセクハラされやすい
- 秘書も1人の労働者として保護されるから、セクハラを耐える必要はない
- 秘書はセクハラのダメージが大きくなりがちなのを理解し、不快に感じたらすぐ対処する
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【セクハラの基本】
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