飲みニケーションといえば古くさいですが、人間関係のために飲み会をしている職場はまだ多いもの。仕事の後に酒を飲み、上司と部下、同僚間の交流を深めようという文化は根強いです。
確かに、飲み会によって社員の意思疎通がスムーズになる面は否定できません。言いたいことが言えて、業務効率が上がるメリットもあります。しかし、飲み会ではよくセクハラが起こります。
仕事が終わったのに飲み会に付き合うのは苦痛だ
飲みの席で上司がからんでくるのはセクハラでは
酒に酔った男性社員による飲み会での性的言動で、嫌な思いをした女性も多いでしょう。このように飲み会では、どうしてもセクハラが起こりやすい状況があります。
今回は、飲み会のセクハラでよくある事例と、その解決策を解説します。業務時間外に開かれた飲み会も、職場の上司が主催であるなど、仕事に関係すれば、会社の責任を追及できます。
- 飲み会は、酒を飲んでテンションが高くなるなど、セクハラが起こりやすい状況
- 飲み会でのセクハラの事例は、軽度なものから重度で悪質なものまで様々ある
- 会社が参加を義務付ける飲み会でなくても、会社の責任を問える
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飲み会でのセクハラの問題点
飲み会でセクハラが起こりがちなのには、飲み会特有の理由があります。そして、飲み会セクハラの多くが泣き寝入りになっているのは、次のような問題点があるからです。
職場の飲み会では、残念ながら多くのセクハラが起こっています。飲み会においてセクハラ被害にあった女性から、悲痛な法律相談を受けることも珍しくありません。
酔ったノリでセクハラされる
飲み会では、当然お酒を飲む人が多く、みんな酔払っています。酔うと、その場のノリや空気感で、いつもより許される規範意識が下がってしまう人も多いもの。酒好きな男性社員の多い職場だと、アルコールによって作られた雰囲気やノリが、セクハラを助長してしまいます。
酔ったからといってセクハラが許されるわけはないのは当然ですが、女性側でも、飲み会でセクハラ被害に遭っているのに、その場のノリに負けて強く拒絶できない方もいます。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
職場の人間関係を壊したくない
冒頭の通り、飲み会は、職場の人間関係を円滑にするために開かれるのが建前です。会社がよかれと思って開いた飲み会だと、つい空気を読んでしまうことも。職場の人間関係を壊さないために、セクハラされても笑って受け流し、実は辛い思いを抱えている女性は多くいます。
飲み会でセクハラされても、職場の人間関係を壊したくなく、不快な思いを伝えられないという人は珍しくありません。
「勘違いセクハラ」の解説
どこに相談してよいかわからない
社内の飲み会だと、どこに相談してよいかわからずに泣き寝入りになっているケースもあります。飲み会でのセクハラの加害者が社長だと特に、会社には相談しづらいでしょう。
また、セクハラの起こる飲み会のなかには、業務かどうかの区別が微妙な会もあります。職場のサークルや、飲み会後の二次会などでセクハラされた場合、会社に少しでも関係するならば社内の相談窓口に連絡してよいのだと理解してください。たとえ会社主催の飲み会でなくても、セクハラ被害を受けたなら会社の責任を問える可能性が高いです。
「セクハラの相談窓口」の解説
飲み会でのセクハラは違法
飲み会でされてもオフィスでされても、セクハラが違法なことに変わりはありません。職場での言動と同じく、性的な嫌がらせであればセクハラであり、違法です。当然ながら、「セクハラかどうか」の基準も共通しています。
酒の勢いや、社内の空気を悪くしたくない一心で笑っていても、心から楽しいわけではありません。男性社員には笑い話でも、辛い思いで我慢する女性社員は珍しくないものです。他の社員が笑っていても、被害者がつらい思いをするなら、セクハラといってよいでしょう。
違法なセクハラは、不法行為(民法709条)であり、セクハラ加害者に対して慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することができます。
また、会社は労働者を、健康的で安全な職場環境で働かせる義務(安全配慮義務)があり、その一環としてセクハラを防止する必要があります。たとえ飲み会で起こるものでも、会社が防止できたのに対策を怠ったなら、安全配慮義務違反もしくは不法行為の使用者責任(民法715条)を理由として、会社に対しても損害賠償を請求することができます。
「安全配慮義務」「セクハラの慰謝料の相場」の解説
飲み会でのセクハラによくある事例
社内の飲み会における行為がセクハラにあたると理解いただけたでしょう。そこで次に、飲み会でのセクハラに負けないよう、よくある飲み会のセクハラの事例について具体例でまとめます。
どのような行為がセクハラに当たるかを理解することで、いざセクハラを受けたときに直ちに気づき、拒否し、不快に思うことを伝えるようにしてください。
お酒を無理やり飲まされる
飲みたくもないお酒を飲むことを強要されるのは違法なハラスメントです。性的な意図があるときにはセクハラですが、なくてもパワハラであり、違法には違いありません(性的な意図があるならセクハラ、ないならアルハラです)
- 「俺の酒が飲めないやつには今後仕事は回さない」
- 「乾杯は全員ビールで当然」
- 「お酒減ってないよ?」
- 「上司の酒を飲むのは部下の義務」
このように発言される事例が、ハラスメントに該当するのは当然です。酔っ払って抵抗できなくなると、キスされたりタクシーでホテルに連れ込まれたりと、更に重度のセクハラに繋がります。
お酌させられる
社内の飲み会で、お酒をついで回るよう指示されるのもセクハラです。女性社員にだけ接待を強要されるいわれはありません。
- 「お酌は女の仕事だ」
- 「社長に手酌で酒を飲ませるのはけしからん」
- 「若い女についでもらう酒はうまい」
- 酒をつぐのが女性の役割になっている
- お酌をしにいくと、毎回、手をさわられる
常にお酒をつぐのが女性の役目だとすれば、セクハラといってよいでしょう。「女は男をもてなすべき」という偏見のあらわれであり、ジェンダーハラスメントともいえます。
「ジェンダーハラスメント」の解説
過度なボディタッチ
飲み会の場でも、胸や尻をさわるなどのボディタッチは当然セクハラです。酔っ払ってノリで触った、酔っていて記憶がない、といった加害者も多いですが、全く言い訳になりません。
勢いで肩や腰に手を回すのには性的意図があり、セクハラにあたります。酒を言い訳にしようが、職場でしたらセクハラになる行為は、飲み会でもやはりセクハラになります。飲み会だからという理由で、セクハラが緩やかに許されるわけではありません。
下ネタをいう
飲み会で、下ネタで盛り上がるのも、男性社員だけの場ならよいでしょう。飲み会は毎回、下ネタの嵐だという会社もあります。しかし、女性社員もいる飲み会は、話題にも配慮しなければセクハラになります。軽い下ネタだからと甘くみないことです。
- 下ネタで笑いをとる
- 卑わいなことばを女性社員に投げかけ、その反応を楽しむ
- 卑わいなセリフをあえて言わせる
- 服を脱いで裸になり、下半身を露出する
- 男性しか喜ばない卑わいな宴会芸
下ネタの許容度は、人によって違います。少なくとも、男性が思っているほど女性は寛容ではなく、嫌な思いをしていることが多いです。
いやらしい目でからだを見る
酔うと、つい性欲が増してしまう男性は多いかもしれませんが、職場関係では自重してください。飲み会で、女性社員をいやらしい目で見ると、セクハラになるおそれがあります。
- 酔っ払った勢いで髪の毛のにおいをかぐ
- 女性社員がトイレに行くのについていってしまう
- 女性社員の靴を盗む
- 飲み会の後にキャバクラへ誘う
直接的なセクハラでなくても、性的なイメージを少しでも感じれば、不快に思う人もいるでしょう。
密室に連れ込もうとする
飲み会から、更に密室に連れ込まれると、より悪質なセクハラの危険がいっきにあがります。二次会、三次会と発展していくにつれて、無理やり押し倒されて性交渉された、レイプ被害にあった、といったリスクも上がってしまいます。
- 飲み会中に、トイレの個室に一緒に入って抱きついた
- 飲み会が終わった後、二次会でバーに誘った
- 飲み会が終わった後、一緒にタクシーに乗せてホテルに向かった
- 女性社員の家まで、帰り道に一緒についていった
密室に連れ込もうとするのはそのスタート地点で、飲み会でのセクハラ事例でもかなり悪質な部類に入ります。
デュエットを強要する
飲み会が終わり、二次会でカラオケにいくと、更にセクハラが加速することも多いです。いまだによく不快だといわれるのが、デュエットの強要です。デュエットの強要とともにボディタッチがある例は、よりたちが悪いです。
- 社長が女性社員にデュエットを強要する
- デュエットするときに肩を組んだり尻を触ったりする
- デュエットするとき、一緒にマイクをにぎる
たとえボディタッチなしでも、デュエットの強要そのものがセクハラな可能性の高い行為です。
性体験を話題にする
過去の性体験を話題にするのも、飲み会でよくあるセクハラの例です。男性が集まると、性体験が話題になりがちですが、女性社員のいる場ですべき話ではありません。
- 初体験のときの話をする
- 風俗にいった話をする
- 過去に遊んでいたという武勇伝を語る
このような話題は、飲み会でよくあるセクハラの典型といえるでしょう。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
プライベートをしつこく聞く
プライベートと職場は明確に分けなければなりません。飲みの席で、酒が入っても、職場の社員同士ならば踏み込んではならない領域があります。
- 過去の彼氏のことを根堀葉掘り聞く
- 夫との性生活について質問する
- 飲み会が終わった後、誰と過ごすのかをしつこく聞く
公私の境をあいまいにし、一線を超えれば、セクハラといわれてもしかたありません。
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説
会社主催の飲み会でなくても、会社の責任を問える
飲み会でのセクハラの被害にあってしまったとき、会社の責任を問えないか、と考えることでしょう。というのも、飲み会でのセクハラは、加害者には悪気がないこともあります。会社から厳しく注意しなければ、いつまで経っても、飲み会にいくたびセクハラを受け続けるおそれあり。
また、残念ながら会社ぐるみで飲み会セクハラを容認する雰囲気を出してしまう企業もあります。このようなときも、会社の責任を追及しなければ、飲み会でのセクハラは終わりません。
会社が参加を義務付けた飲み会なら、業務の一環であり、そこで起きた出来事は会社にも責任があります。参加義務がある業務の一環の飲み会なら、健全なものであることを会社が監督し、徹底しなければなりません。また、「指揮命令下にある」といえるなら、飲み会は労働時間であり、残業代も請求できます。
一方で、会社の義務付けた飲み会ではなく、社員が自由に開いている飲み会もあります。このときは、ケースバイケースの検討が必要ですが、少なくとも、社長や役員など、上位の役職者が主催しているのであれば、会社として監督する義務があり、会社の責任を問える場合もあると考えられます。
会社の責任を問う根拠は、不法行為の使用者責任(民法715条)、安全配慮義務違反の2つ。事業の執行について社員がした不法行為は、会社に使用者責任を問い、損害賠償を請求できます。また、会社が、社員を安全な環境で働かせる義務に違反していたときにも、会社に損害賠償請求できます。
会社の責任が問えるか微妙なセクハラでも、少なくとも飲み会で社員からセクハラされたと会社に報告し、注意や処分を求めるようにしましょう。
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
飲み会でのセクハラ被害の注意点
最後に、飲み会でセクハラを受けてしまったのではないかと疑問に思うとき、被害者側で注意したいポイントについて解説しておきます。
飲み会に誘うのもセクハラになる
飲み会で起こりがちなセクハラを紹介しましたが、そもそも飲み会自体がセクハラにあたるケースもあります。
酒を飲むのが好きな人もいますが、当然ながら酒が嫌いな人、苦手な人もいます。強制参加の飲み会は、セクハラだけでなくパワハラになることもあり、違法なハラスメントとなる危険のとても高い行為です。みんなでの飲み会の後、しつこく二次会に誘うのも、被害者がいきたくないならセクハラです。二人きりの飲み会はセクハラのリスクが非常に高く、誘うこと自体がセクハラになることもあります。男性側が既婚者だと、不倫の片棒をかつがされかねないため、違法性が特に強いです。
強制参加ならば「労働時間」に該当し、その時間の対価が支払われていない場合には、残業代が未払いとなっている可能性もあります。
「労働時間の定義」の解説
社内で相談しづらい飲み会セクハラは、弁護士に相談する
飲み会でのセクハラの犠牲になったとき、まずは社内のセクハラ相談窓口や上司に相談することを検討するのではないでしょうか。
しかし、相談窓口がなかったり、社長や上司がセクハラの加害者だったりすると、社内での解決は困難です。会社内ではセクハラ問題を解決しきれないときは、弁護士にご相談ください。弁護士は、法律の専門家であり、セクハラ問題を多く扱っているならば、男性弁護士でも女性弁護士でも、飲み会におけるセクハラ被害だからといって軽く見ることはありません。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
まとめ
今回は、飲み会でよく起こるセクハラについて、事例を交えて解説しました。
「飲みの席なんだから、冗談ではないか」というのは通じません。「セクハラかもしれない」と不快な思いをした女性はもちろん、セクハラしてしまいかねない男性社員の自制のためにも、ぜひ、飲み会で起こりやすいセクハラについて理解してください。
出席義務のある会社の飲み会はもちろん、自由参加でも、性的な嫌がらせがセクハラなのに変わりありません。セクハラトラブルに遭ってしまったら、ぜひ一度弁護士に相談ください。
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