仕事を与えないという会社の行為は、違法なパワハラの可能性があります。今回は「会社内で仕事がもらえない」という悩みについて、適切な対処法を解説します。
仕事を任せてもらえなくても、雇われていれば出社は必要となります。すると、行うべき仕事がないにもかかわらず会社に行かければなりません。雑用係にされたり、解雇されないためにも誰もやりたがらない仕事を自ら率先してしなければならなかったりなど、辛い現実が待っています。
仕事を与えないのは「過小な要求」という立派なパワハラ行為です。暴力や暴言といった具体的な言動を伴わなくても違法であり、慰謝料を請求することができます。会社と争うにあたって、「仕事が多すぎてつらい」「労働時間が長すぎる」といった証拠は集めやすい一方、逆に「仕事を与えてもらえない」という証拠の集め方には工夫を要します。
誠実に勤務し、貢献してきたのに、理由なく仕事をとりあげたり、ふさわしい仕事を与えなかったりするのは嫌がらせであり、パワハラですから、我慢の必要はありません。
- 仕事を与えないのは、理由によっては、違法なパワハラの可能性あり
- 仕事を与えないことの証拠をとるには、書面で回答を求めるなどの工夫が必要
- 退職や解雇といった深刻な事態に追い込まれる前に、弁護士から警告を送る
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仕事を与えないというパワハラの例
まず、「仕事を与えない」というパワハラの問題には、どのような場合があるでしょう。
仕事をもらえない理由は、ケースによって様々です。問題をイメージしやすくするため、労働者から実際に寄せられた「仕事を与えてもらえない」という悩みや相談の例を挙げます。
会社にいながら仕事を与えられない状態は、「社内失業」「社内ニート」「窓際族」などとも呼ばれます。一定の能力を示し、ふさわしい業務があると約束して雇用契約を結んだ場合には、予定していた仕事を与えないのは契約違反となります。
ワンマンなブラック企業ほど、社長の気持ち次第で評価が決まってしまうもの。一度「無能」のレッテルを貼られると、もう仕事はもらえません。社長の機嫌を害する発言をして以降、全く仕事が与えられなくなったという話もよく聞きます。新人社員が入社すると、あなたよりも新人の方が安く働くため、途中から仕事を与えられなくなる人もいます。
仕事を与えてもらえなくなった当事者の辛い気持ちは、他人には理解されづらいです。周囲から「働かなくても給料がもらえるのは幸せだ」といった批判を受ける人もいます。「仕事が少ないなら早く帰宅すればよい」といった気楽なアドバイスは、実際に仕事をもらえていない側からすれば、非常に辛く心に刺さるでしょう。
実際に仕事のない立場になり、出社しても何もやることがないと、相当苦しいものです。仕事が全くないと一日がとても長く感じ、ますます苦痛が増していきます。
「パワハラの相談先」の解説
仕事を与えないことはパワハラにあたる
結論から申し上げると、仕事を与えない行為はパワハラにあたり、違法です。次に、パワハラがどのようなものかを説明し、なぜ、仕事を与えないとパワハラになるのか、わかりやすく解説します。
仕事を与えないのはどのようなパワハラか
パワハラは、職場の優越的な地位を利用して、業務の適正な範囲を超えてする嫌がらせのことですが、典型的なパワハラである暴言・暴力といった事例以外にも、様々な言動が含まれます。この点について次の通り、厚生労働省は「パワハラの6類型」をまとめています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
「パワハラ」というと「怒鳴られた」「いじめられた」といった積極的な加害行為をイメージしますが、「上司がわざと仕事を与えない」という消極的な加害行為もまた「パワハラ」です。
上記の類型でいえば、仕事を与えないのは「人間関係からの切り離し」「過小な要求」のいずれかのパワハラ類型にあてはまる可能性のある行為です。健康で、十分なスキルがあるのに見合った仕事を与えず、コピーを取らせたり、お茶出しや掃除といった雑務をさせたり、簡単な仕事しかさせてもらえなかったりするなら、そのような仕事は能力に対して「過小」であることは明らかですから、「過小な要求」のパワハラになります。
他の社員が忙しく仕事をし、場合によっては残業を余儀なくされるなか、あなただけ仕事がもらえず、定時にすぐ帰らされるのでは、人間関係を良好に築けないでしょう。あなたの帰宅後に陰口を叩かれるなどして職場の空気が悪化すれば、「人間関係の切り離し」というパワハラになります。
「パワハラがなくならない理由」の解説
仕事がもらえない問題から派生する労働問題
仕事がもらえないというパワハラの問題は、それだけにとどまらず、別の労働問題をも引き起こします。仕事を与えられないことについてあなたには責任がなく、むしろ仕事を与えない会社に責任があるのは当然です。そうであるのに、問題のある会社は、仕事がもらえないことを労働者個人の問題であるかのようにすりかえます。
本来「仕事を与える」責任が会社にあり、「仕事をもらう」責任が労働者にあるわけはないのですが、不適切な問題のすり替えによって、次のような深刻な批判を浴びることとなります。
- 仕事を与えられないのに、上司から「サボっている」といわれる
- 能力を発揮できる仕事が与えられていないのに、低評価にされる
- 仕事が与えられないことで、他社員より給料、残業代、賞与が低い
- 仕事が与えられずに会社にいたら「給料泥棒」といわれ職場いじめの対象になった
- 仕事を与えられずぼーっとしてたら「やる気があるのか」と怒鳴られた
- 仕事が与えられないのに、仕事をしないといわれてリストラ対象になった
最も悪質なのは、仕事を与えないことはすなわち、「会社をやめてくれ」という退職強要のあらわれであって、居辛くなって会社を辞めざるを得なくなってしまう事例です。
「不当な人事評価によるパワハラ」の解説
仕事を与えないのは違法なパワハラだと判断した裁判例
仕事をもらえないことの違法性は、とても難しい問題です。というのも、なぜ仕事をもらえないかと会社に聞けば、「あなたが仕事をできないからだ」「むしろ仕事があるのにしていないあなたが悪い」などといわれ、不安にかられることもあるからです。そして、突然いっきに仕事がなくなることは少なく、仕事がもらえない問題は徐々に進行し、気付いたときには手元に残された仕事は簡単なものばかりといったケースがほとんどです。
そこで、仕事を与えられないときに違法なパワハラかどうかを判断するには、裁判例の基準を知るのが役立ちます。
仕事を与えないパワハラを違法した有名な裁判例であるJR東日本(本荘保線区)事件(最高裁平成8年2月23日判決)では、就業規則の書き写しを命じた教育訓練を違法、不当とし、慰謝料請求を認めました。
また、東京高裁平成5年11月12日判決では、女性教員を学級担任の仕事から外し、職員室内や別の部屋で隔離したり、自宅研修を命じたりした点について「女性教員を嫌悪し、その態度を改めさせるか学校に留まることを断念させる意図のもとで行われた嫌がらせ」と判断し、違法だと評価しました。
「裁判で勝つ方法」の解説
仕事を与えないパワハラを受けたときの対応
次に、仕事を与えないパワハラを受けたらどのように対応すべきか、仕事を与えないパワハラへの対処法について解説します。仕事をもらえずに暇な毎日が続くと、誰しも不安になるでしょう。
自分には価値がないのではないか
会社に不要な人材なのではないか
このような疑問を抱いた結果、自主的な退職に追い込まれてしまう人もいます。なかには、業績悪化という会社の都合が背景にあるのに、辞めさせたい人を自主退職させる手段として「仕事を与えない」というパワハラを利用する悪質な会社もあります。
仕事をもらえない理由の改善に努める
まず、仕事を与えてもらえない原因がどこにあるかを考えましょう。能力に見あった仕事軽減、多忙さに伴う割り振りのし直し、病気や妊娠への配慮といった理由が明白ならパワハラではありません。また、「好かれていない」といった気に食わない理由だとしても、今後も会社に残り続けたいなら、改善できる部分は努力してみてもよいでしょう。
しかし、仕事をもらえない原因が、労働者側の問題ではないことが明らかになれば、努力して改善するのも困難です。自分の努力では変えられない理由によって仕事が与えられていないなら、パワハラの悪質性は非常に強いといえます。
「職場のモラハラの特徴」の解説
仕事を与えないパワハラの証拠を集める
仕事を与えないというパワハラについて、会社に説得的に説明したり、最悪のケースでは労働審判や訴訟といった裁判手続きで争ったりするとき、あなたの受けたパワハラ被害を理解してもらうには証拠を集める必要があります。しかし、積極的に攻撃されるパワハラに比べて、「仕事を与えてもらえない」という消極的な行為を証明する証拠は、取得しづらい性質があります。
仕事を与えないパワハラの証拠を、的確に集めるには、次の手順で進めてください。
まず、どのような仕事を与えられたかを列挙し、メモを作成します。メモは時系列にまとめ、いつ、どのような仕事を指示されたか記録します。仕事を与えられていないことは証拠に残りませんが、逆に、与えられた仕事は記録できます。その内容が過小だと評価できるなら、パワハラの証拠として活用できます。
「パワハラのメモの作り方」の解説
会社との認識違いを防ぐために、仕事を与えてもらえていないことを会社に指摘してください。現場の上司の嫌がらせで仕事がもらえないだけであれば、会社に指摘し、上司に注意をしてもらうことによってまともな仕事がもらえるようになることもあります。
それでもなお仕事を与えてもらえない状況が改善されないなら、その理由を会社に質問するようにしましょう。会社への質問は書面で行い、回答も書面で示すよう要求して、証拠に残す努力をしてください。不誠実な対応をされそうなときは、弁護士に依頼して、内容証明で送付してもらう方法がお勧めです。
書面による回答を得られたら、仕事を与えない会社側の理由について、正当なものかどうか検討します。正当な理由がないのに全く仕事を与えてもらえないなら、パワハラだと強く主張できるからです。会社が無視し、回答せず放置するときも、労働者側から質問した証拠は残るため、会社の対応が不誠実であることを証拠に残しておけます。
パワハラによってうつ病や適応障害といった精神疾患にかかってしまったら、その精神的ダメージの大きさを証明するために、医師の診断書を証拠として確保してください。
「パワハラの証拠」の解説
仕事を与えないことの違法性を指摘する
仕事を与えないのパワハラだとしても、更に深刻な問題に派生する前なら、話し合いで解決できることもあります。そのため、すぐに労働審判や訴訟といった裁判手続きで争うのではなく、まずは社内で解決できる可能性がないかどうか、模索しておきましょう。
まずは適切な部署にかけあってみることから始めてください。「上司に気に入られず、仕事を与えてもらえない」という例は、更に上の上司や社長に掛け合うことで違法性を認識させ、改善をしてもらえる可能性があります。
しかし、会社ぐるみで仕事を与えず干されたり、社長に嫌われたのが原因であったりといった、社内で解決できない労働トラブルなら、弁護士に相談して法的な解決を検討してください。
「パワハラにあたる言葉一覧」の解説
仕事を与えないパワハラの相談先は弁護士が適切
仕事を与えないパワハラに悩む方が、相談するときの相談先は、弁護士が適切です。
パワハラの相談先には、弁護士以外に、労働基準監督署(労基署)、労働局などの行政機関があります。しかし、仕事を与えない、仕事がもらえないといったトラブルは決して小さな問題ではないものの、パワハラのなかでは、暴力や暴言などに比べてどうしても軽く見られてしまいます。
労基署や労働局などは公的な機関であり、会社が労働基準法違反をしないよう監督し、是正を促すのが本来の役割です。そのため、重大性、緊急性の高い問題から着手していくため、仕事を与えないパワハラの問題について、効果的な対策を実行してくれないおそれがあります。
これに対して弁護士は、依頼者の味方として、その利益を最大化するのが役割です。そのため、問題の性質を問わず、労働問題ならばどのようなものでもすぐに対応することができます。仕事を与えてもらえないパワハラの問題なら、まずは、弁護士名義でパワハラを止めるよう警告書を送付してプレッシャーをかけるのが最善の対応です。早めに弁護士に相談しておけば、証拠収集の仕方についても、あなたのケースに合わあせて事前にアドバイスを受けることができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
仕事を与えないのは、パワハラの一種であり、我慢する必要はありません。
「これは私がやらなければならない仕事なのだろうか」と疑問に思うほどの重要度の低い仕事しか与えてもらえていない人は、これまでもっと良い仕事をして、成果をあげてきたなら、やはりパワハラ被害を受けてしまっている可能性があります。暴力や暴言といった積極的な攻撃でなくて、逆に「仕事を与えない」という消極的な行為も、パワハラに該当する可能性が大いにあります。
働きたいのに、仕事を与えてもらえないのは辛いことでしょう。ストレス過多となり、自主的に退職せざるを得ない心境に追い込まれてしまう前に、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士名義で会社に警告書を送ることによって、パワハラをストップさせるのが効果的です。
- 仕事を与えないのは、理由によっては、違法なパワハラの可能性あり
- 仕事を与えないことの証拠をとるには、書面で回答を求めるなどの工夫が必要
- 退職や解雇といった深刻な事態に追い込まれる前に、弁護士から警告を送る
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