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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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退職時の貸与品の返却について、時期・方法など、正しい対応を解説

働いていると、会社から色々なものを借ります。仕事に必要な用具や備品は、会社が用意するのが基本だからです。パソコンや電話、コピー機や文具など、オフィス内の物品を使用できるのはもちろん、他にも社員証やオフィスの鍵など、貸与品は多岐に渡ります。

これらはあくまで会社からの借り物であり、退職時には返す必要があります。退職時の貸与品の返還ではまず、「何を返すべきか」を正しく理解しましょう。また「いつ、どのように返すか」、返却の時期や方法にも慎重な検討を要します。退職時の貸与品の返却を誤ると、労働者にとってリスクとなります。返却すべきものを返さないと、会社に損害賠償請求される危険があるからです。

今回は、退職時の貸与品の返却について労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 貸与品の所有権は会社にあるため、指示・命令に従って返却する必要がある
  • 退職時に返却すべき貸与品は、会社から支給された物品の全てが基本
  • 貸与品や備品の返却を怠ると、損害賠償請求などの責任追及を受けるおそれがある

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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退職時に貸与品は返却する必要がある

退職時、会社から貸与された物品はしっかり返却しなければなりません。その理由は、法的には次の2点から説明できます。

  • 所有権に基づく返還請求権
    貸与品は、仕事のために貸し与えられただけで、依然として所有権は会社に残っています。どれほど長く使用していても会社の所有物に変わりなく、退職時には所有権者である会社に返す必要があります。
  • 労働契約に基づく返還請求権
    労働契約の内容としても、就業規則などには貸与品の返還義務が定められます。したがって、会社には労働契約に基づいて返還を請求する権利があり、労働者はその業務命令に従わなければなりません。

会社の貸与品と私物を混同している労働者もいます。特に多いのが、会社貸与のPCやスマホを私用で使っていたり、プライベートな写真や動画などのデータを保存していたりして、退職時にトラブルとなる例です。

しかし、円満に仕事をしているうちは見過ごされても、退職時の貸与物の返却で、問題が顕在化します。貸与されたPCやスマホに保存されたデータは、消去して返却することになり、解雇などで急遽会社を辞めざるを得ないときは特に、大きな対立が生じます。在職中も、会社の所有物の中身はいつチェックされても文句は言えません。

突然に取り上げられても困らないよう、返却を要する貸与品は、仕事にしか使わないよう心掛けてください。

円満退社の場合に貸与品を返却すべきは当然。それだけでなく、退職勧奨や解雇など、労働者の意思に反して退職させられるケースでも同じです。不当解雇や退職強要など、退職そのものが違法だとしても返却しなくてよい理由にはならず、どのような事情で辞めるにしても貸与品を返却すべきことに変わりはありません。

退職したらやることの順番」の解説

退職時に返却すべき貸与品とは

次に、退職時に返却すべき貸与品にどのようなものがあるかを解説します。

在職中は、数多くの物品を支給されていることでしょう。いざ退職というタイミングで、どの備品を返却する必要があるのか、分かりづらいことがあります。また、業種や職種、社員の地位によって、貸与される物が変わることもあります。

「何を返すべきか」、円満退社なら会社に確認することができます。しかし、退職勧奨や解雇で辞めるケースでは、必ずしも良好な関係は築けません。自身の判断で対応し、返却を怠る危険を避けるために、労働者側でも知識を得ておきましょう。

健康保険証

会社から交付された健康保険証は、返却を要します。退職日をもって健康保険の資格は喪失され、手元にある保険証は無効となるからです。退職後に保険証をそのまま使用し続けることはできず、誤って受診すると不正使用となってしまいます。

健康保険証は、退職日までは使用できるため、退職後速やかに郵送するのが通常です。本人分だけでなく家族分も忘れず返しましょう。返却先は、人事部、総務部など、会社によって異なるので確認しておいてください。

名刺

返却を忘れがちなのが、名刺です。名刺には自分の名前が書かれていますが、貸与物であることに変わりなく、返却の必要があります。返却しなくても退社後は使用できず、誰かに渡してしまうと悪用される危険もあります。

取引先や顧客から受け取った名刺の所有権も会社に帰属し、退職時には返却が必要です。「自分が頂いたもの」「獲得した名刺は営業努力の結晶」などと誤解する方もいます。しかし、退職後に名刺を返さないだけでなく、会社の人脈を活用しようとしたり、前職の顧客に営業をかけたりしたことによってトラブルに発展するケースは少なくありません。

前職の顧客と取引することの違法性」の解説

社員証、社章など

社員としての身分を証明できる貸与品は、全て返却しなければなりません。名刺以外にも、社員証、社章などの返却を要します。首から下げるストラップやホルダーなど、付随する備品も借りている場合は、忘れずに返しておきましょう。

通勤定期券

通勤定期券も、返却すべき貸与品の1つです。現物支給の場合は定期券そのものを返却します。通勤手当をもらって自身で定期券を購入するケースでは、払い戻しの手続きをして得られたた金銭を返却するのが通常です。就業規則にルールが定められていることが多いので確認してください。

退職時の交通費の返金」の解説

パソコン、タブレット、スマホ、社用携帯など

パソコン、タブレットやスマホ、社用携帯など、業務に利用していた端末も返却すべき貸与品です。精密機械なので、郵送で送る場合には取扱いに十分注意しましょう。他の貸与品に比べて高額で、かつ、機密情報が保存されていることも多いので、返却しないと会社に大きな損失を与えます。

端末自体の価値だけでなく、保存されたデータも大切で、動作不良や破損があると修理費用を請求されるおそれがあります。充電用のコードなどの付属品も失くさないよう注意してください。

オフィスの鍵、セキュリティカード

オフィスの鍵やセキュリティカードも、安全や防犯の観点から必ず返却すべき貸与品です。退職して社員でなくなった後は、許可なく会社の建物や敷地に立ち入ることはできません。オフィスの鍵やセキュリティカードを失くして返却できないとき、その物品の費用だけでなく、鍵などの交換費用の弁償を求められるケースもあります。

制服、作業着など

制服や作業着も返却しなければなりません。長く使ったもので再使用できないとしても、要求があれば返却しましょう(他人への流用は予定されず、廃棄を指示する企業もあります)。

「返却前にクリーニングするのが礼儀だ」と言われることがありますが、善意で私物を借りた場合とは異なり、会社の貸与品を退職時に返却するにあたってはクリーニングは義務ではありません。自主的なクリーニングの費用は労働者負担となってしまいますが、会社に指示された場合は少なくとも実費は請求しましょう。

マニュアルや書式など

マニュアルや書式なども返却すべきです。ノウハウを盗むために、返却をしない方もいますが、トラブルの元です。これらは会社が蓄積してきた情報資産であり、返却しないと、意図せず会社に損害を与えてしまうこともあります。退職後に、社外で利用することは会社の利益を侵害しており、入社時や退社時に交わした誓約書に違反するおそれもあります。

誓約書を守らなかった場合の影響」の解説

業務に要する書類やデータなど

業務に関する書類やデータも、企業秘密として高い価値があり、返却の対象となります。

非公表の製造方法など、悪用の危険のある資料もあります。個人情報が多く記載されている書類もあります。たとえ作成者が自分だとしても、貸与品として返却しなければならない点に注意してください。バックアップを取ったり自分のパソコンやUSBに転送したりするのも、後の調査で発覚すると大きな問題となるおそれがあります。

返却すべきものかどうか判断に迷うとき、労働問題に精通した弁護士に相談してアドバイスをもらうのが有益です。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

退職時に貸与品を返却する方法

次に、退職時に貸与品を返却する方法について解説します。

退職時に貸与品を返却するにあたっては、正しい方法で行う必要があります。誤った方法で返却して会社に損害を与えると、責任追及されるおそれがあります。

退職前に対面で返却する

まだ退職前なら、対面で返却するのが最もスムーズです。業務引継ぎなどで顔を合わせる機会があるならその際に貸与物を返却してしまいましょう。

対面での返却は、直接手渡しとなるため手間が少なく、感謝や配慮を伝えることで円満退職に繋げやすいメリットがあります。一方で、何を返却したか(返却していないか)を記録に残しづらい面があり、後から「返してもらっていない」と言いがかりを付けられて揉める危険があります。

このデメリットを回避するには、対面での返却前に返却物をリスト化し、受領証に会社のサインや押印をもらうといった工夫が必要です。また、円満退社でない場合や、既に最終出社日を過ぎてしまっているケースでは、対面にこだわらず他の方法を検討してください。

退職後に郵送で返却する

対面、手渡しで返却できないケースでは、郵送で返却することも可能です。郵送による返却に向いているのは、例えば次の場面です。

  • 解雇や退職強要など、円満退社でない場合
  • 体調不良で出社できない場合
  • 休職してそのまま退職する場合
  • ハラスメントを受け、対面するのが難しい場合
  • 返却忘れに後から気付いた場合

退職から日が経たないよう、速やかに郵送しましょう。郵送の返却では、簡単でよいので「添え状」を付けておくと揉めづらくなります。以下の添え状の例を参考にしてください。

【会社住所】
【会社名・担当者名】

【あなたの住所・氏名など】

拝啓 この度、貴社における勤務を無事に終了したことを報告申し上げます。また、退職に際し、貸与いただいていた以下の物品を、郵送にて返却いたします。

  • 社用携帯
  • オフィスの鍵とセキュリティカード
  • 制服(2着)

いずれの物品も、貸与時の状態にできるだけ近付けるよう努めましたが、万が一、不足や不具合がありましたらご連絡いただければ幸いです。

長い間お世話になり、心より感謝いたします。今後も貴社のご発展を心よりお祈り申し上げます。

敬具

郵便事故やミスを避け、確実に到着させるには、普通郵便ではなく書留やレターパックなどの配送を追跡できる手段を活用してください。退職日までの返却が難しいと事前にわかっているなら、郵送で返却することを事前に会社に伝えましょう。

弁護士や退職代行を通じて返却する

労働問題が生じた場合や、うつ病休職中に退職する場合など、会社への連絡に支障のあるケースでは、弁護士や退職代行を依頼して貸与物を代わりに返却してもらう手もあります。

ただ、直接の返却ではないときは特に慎重な配慮を要します。信頼できる弁護士に依頼し、貸与品のリストを作成して具体的に指示するなど、漏れなく返還するための努力は欠かせません。弁護士を通す分だけ期間も長くかかるので、遅れないよう早めの行動が必要です。弁護士を依頼するケースは、労使の対立が激化しがちであり、貸与物の返却といえど甘く見ず、注意して対応してください。

弁護士による退職代行」の解説

貸与品を返却しないことによるリスク

次に、貸与品を返却しないことによる労働者のリスクを解説します。

貸与品や備品は企業にとって重要なもの。返却されないと、労働者の思うより不利益は大きいです。返してもらえないことの被害が大きい場合、会社も黙っておらず、責任追及する可能性があります。たとえ会社に不満で辞めざるを得ないにせよ、「貸与品を返却せずに嫌がらせをしよう」という仕返しにはリスクがあります。

返還請求される

貸与品の所有権は会社にあるので、任意に返さないと返還請求を受けてしまいます。返還請求の訴訟をされれば会社の主張が認められてしまうでしょう。貸与品の価値が高かったり、社内で継続して使用する必要があったりすると、訴訟をされる危険は十分あります。

会社を訴えるリスク」の解説

損害賠償請求される

貸与品を返却しなかったことで会社に損失が生じた場合、損害賠償請求されるリスクがあります。例えば、未返却の社用携帯を落として企業秘密が漏洩した場合、重要な書類を悪用されて被害が拡大した場合などは、損害が高額になるおそれがあります。

また、紛失や破損して返却できない場合に、弁償を求められる可能性もあります。会社の備品が高価なものだと、弁償額も高額になるおそれがあります。

なお、損害賠償額や弁償額が妥当なものかどうか、高すぎないか、といった点はよく検討してください。また、貸与品を返却しないことを理由に給料を減給したり、最終給料から天引きしたりするのは労働基準法24条の定める賃金全額払いの原則に違反します。

会社から損害賠償請求されたときの対応」の解説

身元保証人に請求される

貸与品を返却しないことによる損害賠償は、労働関係から生じた債務であり、身元保証人に請求される危険もあります。身元保証人は、労働関係から生じた債務について本人と連帯して責任を負う立場だからです。入社時に身元保証書を記入した場合には、迷惑をかけることになります。

仕事をバックレるリスク」の解説

解雇される

本解説は「退職時の貸与物の返却」についてですが、まだ退職日より前だと、返却に応じないことで解雇されるリスクもあります。

退職日までは労働者の地位があり、理論上、解雇は可能です。これに対抗しようと先に退職の意思を示しても、会社の承諾がないと労働契約の終了はその2週間後です(民法627条1項)。返却する必要性を認識しながら、悪用するために再三の求めに応じず返却しないなど、悪質なケースでは懲戒解雇となるおそれもあります。

ただし、正当な解雇理由のない場合、不当解雇として争えます。例えば、貸与物の重要性がさほど高くなかったり、返すのを忘れていたりといった場合、解雇は厳しすぎるといえるでしょう。

不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

個人的な信用を損なう

貸与品の返却を怠ることで、あなたの個人的な信用が失われるリスクもあります。「借りたものを返す」というのは、法的な理由はもとより、社会人としてのマナーでもあります。貸与品を返さなければ「借りたものを返さない人だ」という悪いレッテルを貼られるでしょう。転職先や業界内で噂になれば、キャリアに悪影響を及ぼすおそれがあります。

リファレンスチェックの違法性」の解説

横領や窃盗で刑事告訴される

会社から貸与された物品を返却しない場合、それが意図的だと、横領や窃盗といった犯罪行為に該当するおそれがあります。企業として見過ごせない場合、警察・検察に刑事告訴するなどして処罰を求めれば、労働者にとっては刑罰を科されるリスクがあります。

貸与された物をそのまま持ち去ることは、「業務上自己の占有する他人の物を横領」する行為となり、業務上横領罪(刑法253条)として10年以下の懲役に処せられます。

横領冤罪への対応」の解説

機密情報の漏洩や不正利用の責任を追及される

機密情報の返却をしない責任は更に重大です。そして、返却しなかったことで機密情報が漏洩し、不正利用されてしまった場合、企業の被害は計り知れません。重要なデータを保存したPCやスマホ、USBメモリなどの扱いには特に注意を要します。

機密情報は、企業経営の根幹に関わる重要なものであり、その価値が社外で通用するものについては悪用の危険があります。機密情報と並んで、企業が管理する個人情報もまた重要性が高く、漏れてしまえば大きな損害を被ります。

退職後の競業避止義務」の解説

貸与品を紛失してしまったときの対応

最後に、貸与品を紛失してしまった場合の対応を解説します。

どれほど大切に扱えど、貸与品を紛失したり破損たりすることはあります。貸与品の紛失についてのルールは就業規則に定められることが多いので、確認しておきましょう。

STEP

迅速に会社に報告して対応を相談する

貸与品の紛失に気付いたら、すぐ会社に報告してください。

報告が遅れると対策が後手に回り、損害が拡大します。隠し事をせず正直に報告することは、信頼関係を保つのにも重要です。すぐ気付けば、鍵の変更、重要なデータへの社外からのアクセスをブロック、PCやスマホをリモートロックするなどの対策を講じられます。

STEP

報告書を作成して会社の指示を仰ぐ

次に、会社の指示に従い、紛失の経緯や直後の対応について報告書を作成します。

紛失した日時や最後に確認した場所といった情報を伝え、判断を待ちます。自身の勝手な判断で動くのは控えましょう。

STEP

警察に届出をする

重要性の高い物品を紛失した場合は、警察にも紛失届を出しておきましょう。盗難の可能性がある場合は盗難届を出し、警察と連携するのが重要です。

貸与品を紛失した際にも、解雇をはじめとした重大な処分を避けるため、不安があるときは無料相談を活用して弁護士のアドバイスを聞くのが賢明です。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、退職時の貸与品の返却について、その時期や方法など正しい対応を解説しました。

貸与品は、仕事を進めるにあたって不可欠のものです。長年使用していると自分の物かのように錯覚してしまいますが、会社の所有物に変わりはなく、退職時に返却しなければなりません。

労働者にとって、貸与品を返却しないと法的な責任を追及されるリスクがあります。特に、貸与品を返却しなかったことが原因となって機密情報が漏洩すると、会社の損害は予想外に大きくなってしまうこともあります。多額の損害賠償請求をされないよう、適切な対処を理解し、退職日まで気を抜かず、責任をもって対応してください。

退職時の手続きに不安があったり、退職の前後で会社とトラブルになってしまったりするケースでは、弁護士に相談し、退職代行などのサポートを受けるのがお勧めです。

この解説のポイント
  • 貸与品の所有権は会社にあるため、指示・命令に従って返却する必要がある
  • 退職時に返却すべき貸与品は、会社から支給された物品の全てが基本
  • 貸与品や備品の返却を怠ると、損害賠償請求などの責任追及を受けるおそれがある

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