職場の空気に微妙な変化を感じたとき、もしかするとそれは、会社を辞めて欲しいというサインの可能性があります。面と向かって言われずとも、「嫌になって辞めてくれないだろうか」という期待が、社長や上司の言動に自然と表われると、辞めて欲しいサインになってしまいます。
職場における扱いが急に悪くなった…
上司とのコミュニケーションが減った
会社を辞めて欲しい人に対し、自然と表われるサインには、一定の特徴があります。直接「辞めて欲しい」と言われたり、解雇されたりする前に気付けば、対策を講じることができます。ケースによっては逆に、嫌な思いをする前に自ら退職を選ぶこともできます。
今回は、会社を辞めて欲しいというサインを見極める方法と、サインを受けた労働者が取るべき具体的な対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
会社を辞めて欲しいサインの見極め方
はじめに、会社を辞めて欲しいサインとはどのようなものか、代表的なサインと、会社の真意の見極め方について解説します。
「辞めて欲しいサイン」には様々な形があります。上司や先輩、同僚など、周囲の人から「会社を辞めて欲しい」と思われると、働きづらいことこの上ないでしょう。漠然と「職場にいづらい」と感じる人は、気付かないうちに周囲からサインを受け取っている可能性があります。
仕事を減らされる
急に仕事を減らされたとき、業務過多や健康への配慮など、明確な理由が示されないなら、会社を辞めて欲しいという意図が背後にある可能性があります。
「会社を辞めて欲しい」と思われていると、社内で必要とされる場面は減っていきます。必然的に仕事は減少し、責任のある仕事から遠のき、担当として残るのは誰でもできる簡易な作業ばかりとなります。仕事が急に減れば、鈍感な社員でも「会社から必要とされていないのでは?」と疑問を持つでしょう。こうした効果を狙い、辞めさせる目的でわかりやすく仕事を減らす会社もあります。
「仕事を与えないパワハラ」の解説
突然に職務を変更される
突然職務が変更されることも、会社を辞めて欲しいサインの可能性があります。特に、重要なプロジェクトを外され、これまでの経験が活かせない業務を担当させられると、将来に不安を覚えるのも当然です。職務内容が変更されたり、役職から降格されたりすることは、会社がその従業員の評価を見直していることの表れです。
多様な経験をさせ、能力の幅を広げるためにジョブローテーションが行われることはありますが、長期の勤続を予定しない契約社員や、中途採用者なのに突然職務が変わるのは不自然です。「将来に期待していない」というサインの表れであるといってよいでしょう。例えば、今まで担当した重要なプロジェクトから外されたり、責任あるポジションを降ろされたりする場合、会社には「役割を減らしたい」「いずれ辞めて欲しい」という意図があることも少なくありません。
「退職勧奨の手口と対処法」の解説
コミュニケーションが減少する
上司や同僚との接触が減ったり、会話が形式的になったりすることも、会社を辞めて欲しいサインの可能性があります。業務についての意見交換や、内容のあるアドバイスがなくなり、急に距離を置かれたり、何気ない雑談が減ったりすると、疎外感を感じるでしょう。
上司や同僚はあくまで仕事上の関係なので、辞めて欲しい社員に積極的に絡みはしません。無視すると違法なパワハラと言われかねないため、わかりやすい拒絶はしなくても、明らかにコミュニケーションは減少していきます。コミュニケーション上のサインは見極めづらいので、次のように段階を追って進む中で、早期に気付く必要があります。
- 話しかけても「忙しい」と言われるようになった
- プライベートな雑談をすることがなくなった
- 出退勤や休憩の時間が他の人と合わない
- 休憩室や喫煙室での接触の機会が減った
- ミーティングに呼ばれなくなった
- 業務に関する重要な情報が与えられなくなった
仕事の関係において、プライベートな会話は必須ではないものの、「これまではもっと和気あいあいとしていた」と思うなら、その行動の変化の裏には理由があるでしょう。
「職場で無視されるのはパワハラ」の解説
評価が急に低くなる
過去に良い評価を受けていたにもかかわらず、急に評価が下がった場合も要注意です。経験や能力は蓄積するもので、大きなミスや違反がある場合でなければ、評価が大幅に変わるのは不自然であり、会社を辞めて欲しいサインの可能性があります。
評価が低くなると、ますます責任ある仕事は任されず、低評価を挽回するような成果は出しづらくなります。「どれだけ頑張っても意味がない」という無力感を感じさせ、自主的に退職を選択させるために、意図的に評価を下げてくる悪質な会社もあります。
「不当な人事評価によるパワハラ」の解説
昇進・昇給が見送られる
他の同僚が昇進したり昇給したりする一方で、自分だけが見送られるのもサインの一つです。
昇進や昇給は、会社が期待し、将来性を感じている証です。昇進・昇給を受ける権利があるわけではないものの、社員のモチベーションを上げるために少しずつでも労働条件を上昇させるのが通常です。昇進や昇給がないのは「あなたの将来に期待していない」というメッセージと解釈できます。まして、同僚が昇進・昇給したのに自分だけ見送られた場合、出世コースから外す思惑や、他の有望な社員のためにポストを空けようという意図の表れと見ることもできます。
職場で孤立する
ミーティングに呼ばれず、重要な情報が自分にだけ伝えられないなど、職場で孤立させられることも、会社が辞めて欲しいと考えるサインの可能性があります。上司や同僚も、感情を持つ人間なので、不満が表情や態度に出てしまうことがあります。親切だった上司の態度が急に冷たくなったり、自分にだけ風当たりが強かったりする場合、信頼を失ってしまったサインかもしれません。
また、職場でのいじめやパワハラも、「辞めて欲しい」というメッセージの一つです。ハラスメントは違法であり、許されませんが、見えにくい場所で陰湿に行われるなどして圧力をかけられると、表面化しづらいという問題点があります。
「職場いじめの事例と対処法」の解説
希望しない部署に異動させられる
辞めて欲しい人に、職務の変更や業務の調整にとどまらず、部署の異動を命じる例もあります。希望しない部署への異動は、「辞めて欲しいと思われているのでは」と疑われるケースも少なからずあります。希望しない異動で意欲を削ぎ、退職を促そうとする不当な目的があることもあります。
確かに、業務上の理由や、社員の奮起を促すことを目的とするケースもありますが、通常は、社員の希望を考慮して異動先を決定します。希望しない部署にあえて異動させることは稀であり、会社を辞めて欲しいというメッセージではないか、検討すべき場面です。
「違法な異動命令を拒否する方法」の解説
辞めて欲しい人の特徴
会社や上司が「辞めて欲しい」と感じる従業員にも、共通する特徴があります。
辞めて欲しいというサインなのではないかと疑うとき、自分が以下のいずれかにあてはまっていないかどうか、確認しておきましょう。
成果を出せない
会社は、利益を追求するために存在するので、経営者の目線からすれば、成果を出す人を重宝し、成果を出せない人を低く評価するのは当然です。他の社員からしても、部署や業務への貢献が少なければ自分の負担が重くなるおそれもあり、「必要のない存在」「お荷物」と感じてしまうでしょう。その結果、成果を出せない人ほど、会社を辞めて欲しいと思われてしまいます。
「能力不足を理由とする解雇」の解説
モチベーションが低い
仕事のモチベーションが低い社員も、会社にとって貢献が低いとみなされがちです。多くの社員は、自分と同程度の熱量の人と働きたいと願っています。モチベーションが低くても、与えられた仕事をこなしていればまだしも、努力や改善すら見られないのでは、「成長意欲がない」と評価され、辞めて欲しいと思われても仕方ありません。
「勤務態度を理由とする解雇」の解説
職場の雰囲気を壊す
どれだけ優秀でも、職場の雰囲気を壊す人とは一緒に働きたくないと思うのが当然です。働きやすい環境のために、労働条件だけでなく「誰と一緒に働くか」も重要だからです。以下のような言動で職場の雰囲気を壊してしまうと、辞めて欲しいと思われるおそれがあります。
- 他人に批判的な発言をする
- 同僚の成功を羨み、努力を否定する
- 会議などで他人の話を遮る
- 会社の愚痴や不満を頻繁に指摘する
- 上司に常に反抗的な態度を取る
- 同僚の忠告を無視する
- 仕事の情報を共有せずに抱え込む
- 会社の目標や方針に対するやる気がない
- 他人の意見を小馬鹿にする
- 自己中心的な言動でチームの和を乱す
- 無用なプライベートな話題を持ち出す
- 責任を他人に押し付けようとする
- ミスを認めず、言い訳を繰り返す
- チームの成果を自分だけで横取りする
もちろん、セクハラやパワハラといった違法なハラスメントや、差別発言など、法違反であることが明らかな態度は、更に敵視されてしまいます。
「職場のモラハラの特徴と対処法」の解説
協調性がなくチームワークに問題がある
多くの仕事は、チームで進める必要があり、一定の協調性が求められます。そのため、どれだけ実力があっても、チームワークに難があれば、社員として不適格と判断されかねません。
協調性がないと、会社の評価が下がるだけでなく、一緒に働く上司や同僚の和を乱し、周囲にストレスを与え、組織全体のパフォーマンスに影響します。報告・連絡・相談といった基本的なコミュニケーションができていなかったり、自己主張が強すぎて職場に馴染めなかったりすると、辞めて欲しいと思われる原因となってしまいます。
「協調性欠如を理由とする解雇」の解説
ミスを繰り返し、改善が見られない
仕事でのミスは誰しもありますが、同じミスを頻繁に繰り返し、改善が見られないと信頼を失ってしまいます。何度も指導しても直らない場合、「注意しても無駄だ」とあきれられ、将来に期待を持たれず、早く辞めて欲しいと思われてしまいます。
また、周囲の社員もミスのフォローが続くと、業務効率が下がり、残業が増える原因にもなります。トラブルを引き起こす社員がいると、他の社員が努力しても全体の成果に悪影響を及ぼし、結果的に「辞めて欲しい」と思われる原因となるでしょう。
「みんなの前でミスを指摘されたらパワハラ?」の解説
ネガティブな態度で職場に悪影響
常にネガティブな態度を示し、職場の雰囲気を悪くする社員も、辞めて欲しいと思われがちです。
ネガティブな発言や態度は、周囲の士気を下げ、全体の生産性を損なう原因となってしまうからです。不平不満を言うだけで仕事に真摯に取り組まない人とは、一緒に働きたいとは思わないでしょう。愚痴や悪口ばかりだと、周囲からの反感を買ってしまいます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
職場で辞めて欲しいサインを感じたときの対処法
次に、職場で辞めて欲しいサインを感じたとき、どう対処すべきかについて解説します。
周囲が「辞めて欲しい」と感じているとしても、すぐに辞める必要はありません。あくまでも周囲の人の意見や気持ちに過ぎず、労働者の地位は、法的には会社との労働契約で守られています。正式に「解雇」と言われない限り、辞める必要はないのです。
ただし、辞めて欲しいサインを無視していると、いずれは退職勧奨や解雇によって、本当に辞めざるを得なくなりますから、対処は不可欠です。
自己反省の機会と捉える
辞めて欲しいサインを受け取ったら、冷静に自己分析をしましょう。
まだ辞めたくはない場合は、なぜ「辞めて欲しい」と思われているのか、その原因を知り、改善を図る必要があります。社内の立ち回りや業務に取り組む姿勢に問題がなかったか振り返り、「辞めて欲しい人」と感じさせる要素があるか、自己分析で明確化してください。しっかりと分析し、周囲の不満を解消すれば、「辞めて欲しい」という評価を覆すことができます。
会社とのコミュニケーションを増やす努力をする
辞めて欲しいサインの真意を知るには、上司や同僚からフィードバックを受けるのが近道です。
直接指摘されず、「サイン」でしか気付けない状態は、明らかなコミュニケーション不足と言わざるを得ないので、意識的に対話を増やしてください。これにより、悪い評価の原因を理解し、自分の認識との違いを修正する機会を得ることができます。また、自分の能力や適性について積極的に発信することで適材適所に再配置してもらい、職場での居場所が見つけられることもあります。
異動の希望を出す
「辞めて欲しい」という評価を覆すのは容易ではありません。自己分析で原因がわかっても、努力だけでは解決ができない、改善に時間がかかるといったケースもあります。他人の見方や考えもすぐには変わらないので、思い切って他部署への異動を打診するのも一つです。
異動すれば、新たな環境で再スタートできます。自身のスキルや実績、興味に合っていて、良好な関係が築けそうな部署があるなら、自ら積極的に異動を希望するのもよいでしょう。自分に合った部署で新たな役割を担えば、キャリアアップにつながる可能性もあります。ただし、異動の命令はあくまで会社の判断なので、必ず希望が通るとは限りません。会社の決定に疑問がある場合は、その理由を正式に書面で求めておきましょう。
「部署異動で給料が下がるのは違法?」の解説
転職や退職を考える
「辞めて欲しい」と思われている職場で働くストレスは大きく、無理を続けるとメンタル不調に陥る危険もあります。給料が低く、成長の機会もないままだと、将来のキャリア形成にも悪影響でしょう。そのため、辞めて欲しいサインを感じて、これ以上の活躍が望めないなら、転職や退職を視野に入れて動くべきケースもあります。
今の職場に強いこだわりがないなら、会社があなたの将来に期待しないのに、無理して居続ける必要はありません。ただし、転職や退職にはリスクもあり、理想の転職先がすぐ見つかるとは限りません。デメリットを軽減するには、失業保険の知識を理解し、労働問題に精通した弁護士に相談しながら退職を進めるのがお勧めです。
「会社の辞め方」「失業保険の手続きと条件」の解説
最終手段として転職すべきか、残るべきか
会社を辞めて欲しいというサインを受け取ると、その会社に長居することは難しい場合もあります。ただ、最終的に、転職すべきか、それとも残るべきか、判断に迷うのではないでしょうか。
問題を解消しないまま残り続けると、退職勧奨され、拒否すると解雇されるリスクがあります。解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会的通念上の相当性」が必要で、正当な理由がなければ違法ですが(労働契約法16条)、それでもなお、「辞めて欲しい」と思われながら働いていても将来の活躍は見込めません。たとえ能力が不足していなくても、評価されない職場ではモチベーションが上がらず、いずれは解雇に合理性が生まれる危険もあります。
このような法的リスクを考えると、以下のポイントを考慮して、転職を真剣に検討すべき場面も少なくありません。
【転職すべき場合の考慮要素】
- 異動希望が受け入れられない
- 周囲の評価が低く、信頼回復が難しい
- 昇給や昇進の可能性がほとんどない
- 努力では解決できない環境要因がある
- 会社や業務内容に将来性がない
- 上司から偏見や敵意の目で見られている
- スキルアップや成長の機会が少ない
【残るべき場合の考慮要素】
- 自身の努力で改善可能な原因がある
- 異動の希望が通って環境を変えられる
- 昇給や昇進の見込みがある
- 自身の今後に役立つスキルが得られる
- 長期的には会社が成長している
- 転職しても同じ問題が起こり得る
- 待遇が業界平均と比べて非常に良い
転職にはリスクもありますが、解雇を待つのと違って経歴に傷はつかず、退職金も減額されないメリットもあります。少なくともモチベーションが上がらないなら、もはや「辞め時」といってよいでしょう。転職を決意したら、離職理由については会社都合退職としてもらえるよう交渉することで、失業保険を有利に受給することができます。
「退職勧奨で辞めるのは会社都合」「退職を会社都合にしてもらうには」の解説
まとめ
今回は、会社を辞めて欲しいというサインについて解説しました。
会社からの「辞めて欲しいサイン」は、必ずしも明確に示されるケースばかりではありません。しかし、降格や評価の低下、コミュニケーションの減少といった暗黙のサインに早めに気付き、適切な対応を取ることが重要です。
サインを感じたとき、まずは冷静に自己分析をしましょう。まだ辞めたくないなら、上司や同僚と密にコミュニケーションを取り、低評価を覆せるように改善の努力をしてください。このとき、「辞めて欲しい」と思われる人の特徴を理解し、自分がそこに含まれないようにしなければなりません。ただ、改善が難しい場合や要求が高すぎる場合、もはやその会社に残りたくないなら、自分のキャリアを優先して転職を検討するのも一つの手です。
早期にサインに気付いて対応するには、第三者である弁護士から、専門的なアドバイスを聞くことが役立ちます。労働問題で悩むときは、ぜひ早めに弁護士に相談してください。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】