日本人の約4割が、花粉症にかかっているといわれています。それほどに、花粉症は日本に蔓延していますが、会社の対策が十分でないこともあります。鼻がむずむずしたり目がかゆかったりすると、仕事の集中力も削がれてしまいます。
マスクや薬など個人の対策はあるものの、一日の大半を過ごす職場の対策が不十分だと辛いでしょう。職場で、花粉症対策が徹底されていないのは、労働者にとって死活問題。業務効率が落ち、低評価を受けてはたまりません。
花粉症を理由に、在宅勤務にしてもらえるのでしょうか。どのような理由を伝えたらよいのでしょうか。あまりにひどいとき、花粉症を理由に休職にしてもらうこともできるのでしょうか。
今回は、職場の花粉症対策など、法的な観点から、労働問題に強い弁護士が解説します。
職場の花粉症対策は、会社の義務
例年、春も暖かくなると、花粉の飛散がはじまります。「花粉症は個人の問題」として、対策もしない無神経な会社もあります。しかし、個人の対策には限界があり、どれほど気をつけても花粉症にならない保障はありません。
花粉症そのものの発症はともかく、「職場の花粉症対策」は会社の問題。つまり、労働問題の一種だといえるのです。
不十分だと、仕事に集中できず、業務効率、生産性が落ちてしまいます。会社は、労働者を健康で、安全な環境で働かせる義務(安全配慮義務)があります。花粉症も、体調が業務に影響してしまうシーンなので、会社はできるだけ影響を抑えねばなりません。
職場における花粉症対策は、次のものがあります。
- 会社に入る前に、上着についた花粉をはらう
- 職場の窓やドアを閉めきり、花粉を入れない
- 空調フィルターを洗浄する
- 加湿器、空気清浄機を常備する
- 天気予報の花粉情報を社内で共有する
- ほこりを定期的に清掃する
花粉症対策を、職場で円滑に進めるには、花粉症でない労働者の理解を得るのが重要なポイントです。花粉症でない人に、その辛さは理解できません。無神経な行為が、花粉症の同僚をさかなでし、トラブルに発展してしまうこともあります。
「花粉症など我慢しろ」「根性がないのでは」「やる気があれば吹き飛ばせるはず」などといった理解のない発言は、パワハラになってしまう可能性もあります。
「パワハラにあたる言葉一覧」「パワハラの相談先」の解説
会社が花粉症対策をしないときの対応
花粉症の労働者も快適に働ける職場づくりが大切だと理解いただけたでしょう。そのためには、会社全体の協力が必要。ブラック企業では、適切な対策がとられるとは期待できません。
「花粉症程度で大げさだ」という非難を食らうかもしれませんが、花粉症のひどい方にとって、対策がされていないと大きな健康被害を受けてしまいます。そこで、花粉症対策に協力しない会社で、どのように対応すべきか解説します。
個人の健康管理を怠らない
まず、個人でできる対策、健康管理は怠らないようにしましょう。会社に安全配慮義務がある一方で、労働者にも、自身の健康を管理する義務があるからです(自己保健義務)。花粉症対策は、職場でももちろんですが、私生活でも徹底するようにしてください。「職場の不十分な対策が原因だ」といえなければ、会社の責任を追及しきれません。
「労働者の自己保健義務」の解説
業務への支障を訴える
花粉症になっていない方にとって、そのつらさはどれほど訴えても理解されません。花粉症を、労働問題の一つとして解決したいなら、法的な主張が大切になります。
会社が、職場の対策をおろそかにするのは、デメリットを実感できていないからでしょう。「業務効率が落ちる」「仕事に集中できない」など、業務と関連して訴えれば、会社の理解が進みます。つまり、単なる「体調のつらさ」ではなく、業務への支障を訴え、職場環境の改善を求めてください。会社も、利益が下がるとなれば、手間や費用をかけてでも対策する動機になるでしょう。
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安全配慮義務違反の責任を追及する
あまりにもひどい症状なのに、会社に配慮がないとき、安全配慮義務違反の責任を追及します。具体的には、会社に対して慰謝料の請求をする方法です。あわせて、会社のせいで悪化したのであれば、労災申請や、治療費などの請求も検討することができます。症状や体調によっては、働けなくなった分の逸失利益も請求できます。
「労災の慰謝料の相場」の解説
花粉症を理由に在宅勤務にしてもらえる?
会社が対応してくれる場合は、在宅勤務やリモートワークにしてもらうという対策もあります。自宅で働けば、あなたが徹底して花粉症対策をした場所で働くことができます。職場には、花粉症でない労働者もいるため、対策がなおざりになりがちです。
テレワーク、在宅ワークなど、オフィス以外で働く方法は、近年急速に普及しています。これら多様な働き方は、未払い残業代や長時間労働対策となりますが、花粉症対策としても有効です。
ただし、「どこで働くか」を決めるのは、会社のルールによります。そのため、在宅勤務の制度が整備されているかどうか、まずは就業規則を確認しましょう。現在はそのような制度がなくても、花粉症による業務への支障を訴え、交渉してみてください。
なお、在宅で仕事をするとき、よく起こる労働問題が2つあります。それが、リモートハラスメントの問題と、持ち帰り残業の問題です。
会社が十分に制度整備せず、理解が不十分なのに進めると、労働問題は山積みです。
「リモートハラスメント」「持ち帰り残業の違法性」の解説
花粉症を理由に休職できる?
最後に、花粉症についての最後の手段として「休職」を利用する方法が検討されます。
休職は、私傷病、つまり、プライベートのケガや病気で、会社を一定期間休む制度です。就業規則に定められた要件を満たすとき、会社の認める期間だけ休めます。すぐ解雇するのではなく、まずは休ませるという意味で、解雇の猶予を意味するとされています。
花粉症もまた、会社の業務によってかかるわけではないから、私傷病の一種。労働契約で約束したほどの労務が提供できないなら、休まざるをえず、休職は有効です。
ただし、本解説のように、会社の対策不足で悪化したなら労災と主張できる場合があります。
会社に行けないほどにひどい花粉症のとき、不利な扱いを受けないため、弁護士に相談ください。
「休職を拒否されたときの対応」の解説
まとめ
今回は、職場の花粉症対策が会社の義務であることについて解説しました。安全配慮義務の一環として、労働者の健康に配慮しなければならないからです。
花粉症に配慮がないことは、会社として問題で、労働者はその責任を追及すべきです。花粉症を発症している労働者にとって、対策が不十分な職場だとつらくて働けないでしょう。シーズンが始まるまでには、正しい会社の義務を理解してもらいましょう。
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