休憩が取れないとき、その証拠を準備しておいた方がよいでしょう。
一定の労働時間を超えた場合、労働者は法律の定める休憩時間を取る権利があります。しかし実際は、「休憩していることになっているが、一度も席を離れられなかった」といった名ばかりの休憩のケース、電話番や来客対応を強いられるブラック企業も存在します。
この場合、「休憩が取れない」と労働者が不満を言っても、それを客観的に証明する証拠がなければ、会社や労働基準監督署、裁判所にも認めてもらえないおそれがあります。
今回は、休憩時間が取れないことを示す証拠の種類と、その集め方のポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 休憩が取れない証拠は、誰にでも分かる客観的なものを集める
- 複数の証拠を組み合わせる(タイムカード、メモ、チャット履歴、証言など)
- 休憩が取れない証拠を入手できたら、残業代を請求することができる
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なぜ休憩が取れない証拠が重要なのか
労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合に45分、8時間を超える場合に1時間の休憩を与えることを使用者に義務付けますが、休憩が取れない職場も少なくありません。

休憩が取れないことを立証すれば、その分の未払い賃金(または残業代)を請求できますが、会社から「休憩は取れていた」と反論されるケースがあります。争いになると、実際に休憩が取れない事実を証明する「証拠」が必要です。
証拠がないと、労働者の不利になる危険があります。
「休憩が取れない」と主張しても、会社が「休憩は与えた」と反論すれば、賃金や残業代を請求する側が証拠を示す必要があります(つまり、労働者側に立証責任があります)。
例えば、昼休み中に業務指示を受けるのが日常でも、始業と終業を示すタイムカードしかないと、形式的に「休憩を取っていた」と認定されるおそれがあります。
会社の用意したタイムカードや勤怠記録だと、休憩時間が未記入だったり、一律に1時間と記録されていたりするものも見受けられます。
弁護士や労働基準監督署への相談、会社との交渉、法的手続き(労働審判・訴訟)など、「客観的な証拠」は様々な場面で用いられます。証拠の存在は、法的手続きを有利に進めるだけでなく、前段階の相談や交渉でも武器になります。
泣き寝入りを避けるため、日頃から証拠を意識して行動してください。
「休憩時間を取れなかった場合」の解説

休憩が取れないことを証明する証拠とは

次に、休憩時間が取れないことを示す証拠に何があるか、解説します。
以下の資料は、休憩時間が取れないことを証明するのに役立ちます。一つで満足せず複数揃えれば説得力も増します。トラブルを避けるためにも、記録を残しながら働くことが大切です。
タイムカードや勤怠記録
タイムカードや勤怠記録は、休憩時間の取得状況を示す証拠になります。
休憩時間が取れない事実を証明するには、正確な記録が必要です。「記録はされているが休めていない」といった実態との乖離を防ぐため、労働者側は次の工夫をしてください。
- 休めていない休憩が記録されていないか確認する。
- 休憩時間の欄に「休憩なし」と記載する。
- 具体的な休憩時間を明記する(例:「実際は12時00分~12時20分しか休めなかった」)。
これらの準備をすれば、「休憩時間が設定より短かった」「全く取れなかった」などの事情を示す有力な証拠として活用できます。休憩時間を個別に入力できる勤怠システムや、手動式のタイムカードなら、その機能を活用して実際の休憩状況を記録しましょう。
PCのログ履歴も証拠となります。休憩中もパソコンを操作していたこと、社内の業務システムにアクセスしたことなどを示し、休憩が取れていないことを裏付けられるからです。
「タイムカードの開示義務」の解説

始業から終業までの行動を記録したメモ
自分で書いた業務メモや日報は、実際の行動を記録した資料となります。
メモを作成する際は、業務開始から終了までの行動を具体的に記録し、休憩時間をどれくらい取れたか(あるいは取れなかったか)、休憩中に何をしていたかを詳細に記録します。休憩が取れない日は特に、「昼休み、緊急の来客対応で席を離れられなかった」「上司の指示で、午後の会議の資料作成に追われた」など、業務内容や状況を記すことがポイントです。
毎日メモしないと、どの日に何分休憩を取ったか思い出せなくなるので、継続的な記録が重要です。時間の記録は「1分単位」で行い、5W1Hを意識して具体的に書くのがよいでしょう。

「メモは残業時間の証拠になる?」の解説

休憩中の業務指示の記録
休憩時間中に業務指示を受けたことを示せれば、休憩が取れないことの証拠となります。具体的には、業務指示に関する次の記録を保存しましょう。
- メールの履歴
- チャットの履歴(SlackやLINE、メッセンジャーなど)
- 休憩中に業務指示をする発言の録音
社内チャットやメールは送受信日時が明確に残り、内容もテキストで保存されるので、客観的な証拠として非常に役立ちます。
例えば、昼休憩の時間帯に、上司から「至急資料を作成してください」とメールやチャットが届いた場合、休憩を取れない明確な証拠となります。「今すぐ会議室に来て!」といった口頭の業務命令も、録音があれば休憩を侵害した証拠となります。
頻繁な業務指示があるなら、メールやチャットの履歴をスクリーンショットで定期的に保存し、日々の記録を継続的に集めておきましょう。
「業務命令は拒否できる?」の解説

シフト表や電話当番表
休憩時間中に業務をさせるため、シフトや当番表を作っている会社もあります。
電話当番、窓口担当、現場責任者といった業務について、シフトや当番表が存在するなら、業務指示があって休憩が取れないことを説明する強力な証拠となります。例えば、「12時から13時が昼休憩である」と定める会社で、その時間帯に電話当番となっていて席を離れられないことを当番表で示せれば、休憩時間が取れないのは明らかです。
シフトや当番表は、毎月や毎週更新するケースもあるので、削除される前に写真を撮るなどして証拠を残しましょう。かかってくる電話の量や対応時間によっても、自由に休憩できたかどうかが異なるので、電話や顧客に対応した具体的な日付とその実態も記録しておきます。
「休憩30分は短い?」の解説

休憩が取れないほど過密なスケジュール
分刻みの業務スケジュールなど、過密な状況だと休憩も取れないでしょう。
例えば、カレンダーや業務管理ツールで、休憩時間帯も含めて予定がぎっしり入っている場合、休憩が取れないことの証拠となります。上司から「顧客対応」「緊急会議」といった業務スケジュールを勝手に入れられる職場もあります。
シフト表に休憩時間の記載がなく、終日びっしりと業務が詰まっているケースも、休憩が与えられていないことを示す証拠として有効です。これらの書類はいずれも会社側が作成するものなので、信用性も高く評価されます。
あまりに忙しすぎる職場では、休憩の問題だけでなく、長時間労働が常態化し、体調やメンタルの不調など、健康被害が生じる危険もあるので注意してください。
「長時間労働の問題」の解説

GPSや位置情報の記録
外回り営業など、社外で活動する職種でも休憩は必要です。
この場合、GPSや位置情報が記録されたデータが証拠となります。これらの記録により、休憩時間中に移動したり、客先を訪問していたりといった状況を証明できます。会社支給のスマートフォンや社用車搭載のGPS機能があるなら、休憩時間に業務をしていた履歴がないかを確認し、証拠として保存しましょう。移動に利用した交通系ICカードの利用履歴なども同様に、休憩中に業務を行った証拠として利用できます。
これらの記録は、日報やメモでは伝えにくい「実際の行動」を客観的に示せるので、休憩時間が取れないことを証明する上で、強力な証拠となります。
なお、オフィス外で活動する職種の中には、事業場外みなし労働時間制などの特殊な仕組みが適用される人もいて、残業代の計算方法が異なる場合があるので注意が必要です。
「みなし残業」の解説

防犯カメラ映像
防犯カメラの映像も、休憩時間中に業務を行った証拠となります。
例えば、休憩時間中もデスクでパソコン作業を続けている様子や、電話対応をしている様子などが映っていれば、休憩が取れないことを直接示せます。映像なら、状況を視覚的に示すことができ、他の証拠にも増して非常に強力です。
ただし、会社が所有する防犯カメラの映像は容易には開示されず、入手が困難な場合があります。多くの防犯カメラは一定期間でデータが上書きされてしまうので、「休憩中に仕事をしている様子が映っているのでは」と思うなら、弁護士を通じて開示を求めたり、裁判所における証拠保全手続きを行ったりといった対応を速やかに進めるのがお勧めです。
「パワハラの録音」の解説

目撃者の証言
休憩が取れない事実を証明するのに、上司や同僚の証言も有効な証拠となります。
同じ職場で働く同僚や、過去に同じような状況で退職した元社員の証言は、休憩が取れない職場環境であったことを裏付ける証拠として重宝します。例えば、「あの人はいつも休憩時間中も働いていた」「休憩中に上司から頻繁に指示される職場だ」といった証言です。既に退職した人なら、しがらみなく協力を得やすいので、正直な証言をしてくれるでしょう。
ただし、証人の属性(関係性)や証言内容によって信用性が低くなるおそれもあるので、書証などの物証と組み合わせることは欠かせません。
「パワハラを第三者が訴えることは可能?」の解説

休憩が取れない証拠の信用性を高めるポイント

休憩が取れないことの証拠は、会社との交渉や法的な手続きにおいて非常に重要です。
しかし、休憩時間が取れない事実を証明するハードルは、相当高いと考えるべきです。休憩が取れないという「ないことの証明」が求められるからです。「ないことの証明」は「悪魔の証明」とも呼ばれ、証拠を見つけるのが難しいとされています。
以下では、実際に証拠の効果を最大化するためのポイントを解説します。
毎日継続して記録する
休憩が取れない状況を継続して記録することが、証拠の信用性を高める上で欠かせません。
スポットの記録ではなく「日々の積み重ね」が重要で、一時的な記録しかないと「たまたまその日忙しくて休憩が取れないだけでは」と疑われかねません。一貫して毎日、数週間や数ヶ月にわたって継続的な記録があれば、「常態的に休憩が取れていない」という証拠になります。
継続した記録は、虚偽ではないという説得力を持ちます。思い出した時にまとめて記録するのではなく、毎日こまめに記録し続けることが重要です。人の記憶は時間が経つと曖昧になるので、後でまとめて付けたメモだと、信用性が弱くなってしまいます。
日々の記録の手間を減らすため、スマホのメモアプリやスプレッドシートなどでテンプレートを作っておき、年月日と時間、業務内容などを定型的に記録してください。
「パワハラのメモの作り方」の解説

第三者にも分かる客観的な証拠を重視する
休憩が取れない証拠は、第三者にも分かる客観的なものである必要があります。
「休憩した気がしない」「ずっと忙しい」といった主観的な表現だと、単なる不平不満と受け取られるおそれがあります。一方、タイムカードや勤怠データ、チャットの時間記録など、外部からも理解できる記録なら、その裏にある労働者の辛さも理解してもらえます。
自身が作成した日記やメモだけでなく、会社が作成する勤怠記録やスケジュール、シフト表など、労働者が改ざんすることが困難な資料は、証拠として非常に有効です。
「裁判で勝つ方法」の解説

改ざんや消去のリスクに注意する
集めた証拠は、改ざんや消去のリスクに注意して保管しましょう。
タイムカードや勤怠記録などは会社が管理するので、悪質なケースだと改ざんのリスクがあります。会社のPCやスマートフォンに保存されたログやデータは、予告なく消去されます。
そのため、労働者は、証拠を保全する努力をすべきです。例えば、定期的にスクリーンショットを撮ったり、印刷して保管したり、自分の端末やUSBにコピーして保管するといった方法です。作成日や保存日時が分かる形で残すのが望ましいです。
「タイムカードの改ざんは違法」の解説

複数の証拠を組み合わせて用意する
単一の証拠では不十分なとき、複数の証拠を組み合わせて用意すべきです。
例えば、タイムカードに休憩の記載がないだけでは「本当にその間に労働していたか」が証明できません。毎日記録したメモとタイムカードの記録を突き合わせることで、それぞれの正確性が裏付けられ、より強力な証拠となります。
直接的に証明する証拠がない場合、間接証拠で証明するしかなく、「◯◯の証拠があるから十分」ということはありません。「どんな証拠があればよいですか?」と相談時に質問されますが、正解は「あればあるだけ良い」なので、できる限り多くの証拠を集める努力をしてください。
なお、各証拠に矛盾や不整合がないかどうかは、事前に確認しておくべきです。
「残業代請求の証拠」の解説

不適切な収集方法は控える
最後に、証拠を集める際、不適切な収集方法は控えるよう注意してください。
例えば、会社PCに他人のアカウントでログインしたり(不正アクセス禁止法違反)、営業秘密を無断で持ち出したり(不正競争防止法違反)するケースは違法です。無断録音や撮影は、プライバシー権の侵害に該当するおそれもあります。一方で、自分が参加している会話は、無断で録音しても、民事訴訟では証拠能力を有する(証拠として利用できる)とされます。
違法な証拠の収集は許されないものの、「休憩が取れない」といった権利侵害の場面では、できる限りの努力はすべきで、許されるかどうかの境界線の判断に迷うでしょう。
証拠の収集方法に不安がある方は、トラブルを避けるため、労働問題に精通した弁護士に事前相談することをお勧めします。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

休憩が取れない証拠を集めたら残業代を請求する

最後に、休憩時間が取れない証拠が集まったら、残業代の請求を検討しましょう。
休憩時間が適切に与えられない状況は、労働基準法に違反し、違法となります。
労働基準法34条は、労働時間に応じて休憩を与える義務を使用者に課しています(1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上)。
休憩時間は、業務から完全に解放され、自由利用できるのが前提です。
休憩中なのに電話番を命じられたり、急な会議に出席を求められたり、資料作成や顧客対応などの業務を指示されたりした場合、形式的に「休憩」でも、実質的には休めていません。休憩が十分でないと、心身の健康を害する危険もあります。
休憩時間が取れない状況が常態化している場合、会社が「休憩時間」と設定している時間が、実は「労働時間」と見なされる可能性があります。労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれた時間のことで、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超える場合には残業代(時間外割増賃金)を請求することができます。
社長や上司にかけあっても変わらない場合も、残業代を請求すれば休憩を取れるようになる可能性があります。会社も「残業代が生じるなら、休憩させた方がましだ」と考えることが多いからです。
残業代は、自分でも請求できますが、会社が不誠実な場合は弁護士のサポートを受けて交渉したり、労働審判や訴訟で請求することも視野に入れるべきです。
「残業代の計算方法」「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説


まとめ

今回は、休憩が取れない場合の証拠の集め方について解説しました。
休憩時間が確保されない状況は、労働基準法に違反するだけでなく、労働者の健康に深刻な影響を及ぼすおそれもある深刻な問題です。
休憩が取れない実態を示すには、タイムカードや勤怠監理の記録、業務日誌やメモ、メールやチャットの履歴など、様々な資料を収集することが重要です。1つの証拠だけでは「休憩が取れない」という裏付けが十分でなくても、複数組み合わせることで説得力を高められます。
休憩のない労働が常態化した場合、未払い残業代が生じる可能性も高いです。
集めた証拠をもとに弁護士に相談して、残業代の請求を検討してください。会社が誠実に対応しないなら、労働審判や訴訟といった法的手続きも視野に入れる必要があります。
- 休憩が取れない証拠は、誰にでも分かる客観的なものを集める
- 複数の証拠を組み合わせる(タイムカード、メモ、チャット履歴、証言など)
- 休憩が取れない証拠を入手できたら、残業代を請求することができる
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