退職をスムーズに、円満に進めようと考えて、かなり早めに伝えたにもかかわらず、社長の怒りを買ってしまい、「減給」されてしまうことがあります。
早めに退職を伝えてしまったからこそ、まだ退職まで期間を残しており、業務の引継ぎなども命令されているのに、給料を減らされてしまってはたまったものではありません。
そもそも、もうすぐ退職が迫っているからといって、一方的に給与を「減給」する会社の行為は、違法ではないのでしょうか。労働問題に強い弁護士が解説します。
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長年勤めてきた会社を、訳あって退職することを決意しました。
会社には、新卒からお世話になっていたので、少しでも会社に迷惑をかけまいと、退職予定の半年前に、社長に退職の意向であることをお伝えしました。
すると、社長からは突然、「いきなり退職を決めて会社に迷惑をかけたのだから当然だ。」、「頑張っている他の社員と比べると貢献が低い。」と言われ、さも当然であるかのように給料を引かれました。
私はこれまで、会社のためを思って必死に働いてきたのに、退職をするからといって突然給料を下げられることには納得がいきません。違法行為ではないのでしょうか。
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ワンマン社長、ブラック企業による一方的な減給は違法です。
給与の金額は、労働条件ですから、労使の話し合いで決められるべき内容です。
業務上のミスや懲戒処分など、給与を「減給」される理由がないのであれば、会社が労働者の賃金を一方的に引き下げることは許されません。専門用語で「労働条件の不利益変更」といいます。
一方的な減給ができないことは、もうすぐ退職が迫っている労働者であっても同じことです。
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長年勤めてきた会社を、訳あって退職することを決意しました。
目次
1. 減給は拒否できる!
労働条件は、労働者(社員)と会社(使用者)との間の合意で決まるものです。
そのため、合意なく、会社が一方的に、労働条件を労働者に不利益に変更することは、原則として違法です。
このことは、「減給」については尚更です。というのも、「給料」は、労働者の生活を支える、最も重要な労働条件の1つだからです。
2. 「退職すること」を理由とする減給
以上のことから、労働条件を不利益に変更する「減給」は、労働者の同意がなければできないのが原則です。
また、例外的に「減給」が可能なケースは、次に解説しているとおり、一定の要件を満たす場合には可能ではありますが、「退職すること」だけを理由とする場合、このいずれにもあてはまりません。
したがって、「退職すること」を理由に、残りの雇用期間の賃金を不当に引き下げる会社の行為は、違法であると考えて良いでしょう。
退職までの期間が、月の途中で終了するケースで、労働日数を日割りで計算し、月額の賃金を割合的に支払うことは違法ではありません。
例えば、月額賃金が30万円であるところ、最後の1か月間の労働日が月の半分で終了した場合に、月額賃金の1/2を支払うことは、今回解説する「違法な減給」ではありません。
3. 減給ができるケースとは?
労働条件を、労働者に不利益に変更することは、労働者の同意がない限りできないのが原則です。
しかし、労働条件を一切変更できないとすれば、会社にとっても硬直的な運用となりかねません。
そこで、次の場合には、減給が可能であることとされています。
- 労働者の真意からの同意があるケース
- 就業規則変更によって、合理性のある変更をするケース
- 懲戒処分によって減給するケース
ただし、いずれも、厳格な要件が必要であり、そのハードルを越えなければ、勝手に言及することはできません。
3.1. 労働者の同意があるケース
労働者の同意があれば、賃金を減額(減給)できます。
しかし、「給料」という労働条件が最重要であることから、同意は「真意」からのものでなければなりません。少なくとも、書面での同意がなく、口頭で合意したという程度では、「真意」による「同意」があったといえるかどうか疑わしいといえます。
今回解説する、「退職を理由とする減給」のケースでは、労働者が同意をしていた、という減給理由は、到底考え難いでしょう。
3.2. 就業規則の変更によるケース
就業規則は、すべての労働者に適用される会社のルールであり、就業規則を変更することでそのルールを変更することができます。
とはいえ、労働者に不利益に就業規則を変更する場合には、変更が「合理的」でなければならないものとされています。
今回のように「退職を理由とする減給」では、そもそも就業規則の変更が合理的に行われることは考え難いでしょう。
3.3. 懲戒処分による減給のケース
最後に、減給が許される3つ目のケースとして、懲戒処分のケースがあります。
「退職を理由とする減給」であっても、退職間際の労働者に業務上の大きなミスが発覚し、懲戒処分として「減給処分」を下す場合には、減給が可能です。
しかし、懲戒処分としての減給には、次のような制限があり、無制限にできるわけではありません。
- 1回の懲戒処分による減給が、1日分の平均賃金の50%以内
- 1か月の懲戒処分による減給の総額が、月額賃金の10%以内
なお、退職前後の業務上の大きなミスによって、会社が損害を負っていた場合であっても、給料から損害賠償額を差引いたり、相殺したりすることは、労基法違反です。
4.「退職」を理由とする減給を争う具体的な方法
「退職すること」を理由として、ブラック企業が給与を一方的に「減給」するという労働トラブルは、具体的には、「給与が満額振り込まれない!」という形であらわれます。
この「退職による減給」を争うための具体的な方法は、「未払い賃金を請求する方法」と同様の方法になります。
つまり、具体的には、次のような手順で進めてください。
- 内容証明郵便で、「減給」された未払い賃金を請求する。
- 労働審判で、「減給」された未払い賃金を請求する。
- 「減給」の総額が60万円以下の場合
:少額訴訟で、「減給」された未払い賃金を請求する。 - 「減給」の総額が60万円を超える場合
:通常注用で、「減給」された未払い賃金を請求する。
また、「退職による減給」に関する労働トラブルでは、この「未払い賃金の請求」という性質とともに、「退職トラブル」の性質も併せ持ちます。
そのため、話し合いの中で、「退職」自体や、「解決金」「割増退職金」などをあわあせた和解案による解決を提案することも検討してみてください。
5. まとめ
今回は、「退職」の意向を伝えたら、残りの期間の賃金を減額(減給)されてしまったという労働者の方の法律相談に、弁護士が回答しました。
「どうせ辞めるなら給料を引いてやろう。」というブラック企業の悪質なやり方に負けず、未払いとなっている賃金を請求してください。
退職をめぐるトラブルにお悩みの労働者の方は、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。