華やかな芸能界ですが、芸能人とはいえ一人の人間。労働問題の犠牲になれば、芸能人といえども心身に大きな苦痛を負います。アイドルブームで、芸能界が身近に感じられる反面、過酷な労働を強いられる人もいます。
むしろ、芸能人だからこそ起こりうる特有の労働問題もあります。
「売れるまでタダ働きは当たり前」といわれた
夢のため、長時間労働を我慢せざるをえない
「売れてもお金がもらえない」など搾取され、過酷な労働環境で酷使される人もいます。
芸能人であっても、労働基準法の「労働者」として保護される可能性があります。それなら、長時間働けば残業代がもらえますし、残業時間に上限があります。レッスン料や衣装代を控除され、給料がなくなることもありません。
今回は、芸能人に起こる労働トラブルについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- アイドルや歌手・芸人・タレントなどの芸能人も労働基準法の「労働者」にあたる
- 実質は雇用だが、形式は業務委託の芸能人は、ブラックな労働で搾取されがち
- 芸能人でも「労働者」に該当すれば、残業代や解雇の規制といった保護が受けられる
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芸能人の労働者性とは
労働基準法に定義される「労働者」だと認められるかどうか、という問題を「労働者性」といいます。労働者性とは、労働者として法律上の保護を受けられるかどうかの判断基準です。
芸能人は、一般的な「労働契約」を結んでいないこともあります。しかし、弱い立場にあれば労働者として保護すべきケースもあり、労働者性が争点となります。
労働基準法の「労働者」とは
労働基準法9条は、「労働者」について次のように定義しています。
労働基準法9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働基準法(e-Gov法令検索)
つまり、労働基準法で「労働者」だと認められる要件は、次の2つです。
- 「使用」の要件
事業または事務所に使用されていること - 「賃金」の要件
労務提供に対して賃金を支払われていること
「賃金」は、労働の対価として与えられるお金のことをいいます。労働者による労働は、時間による評価になじみ、最低賃金法による最低限度を超えている必要があります。そして、「使用される」とは、使用者の指揮命令下で労務に従事することをいいます。
労働者といえるかは、働く人が、指揮命令に従っているかがポイントです。労働の進め方など、細部まで指示を受け、監督され、拘束されているほど、労働者性が認められやすいです。「労動者」という弱い立場に置かれているなら、法律による保護を受けることができます。
「労働問題の種類と解決策」の解説
芸能タレント通達による定義
アイドルやタレント、歌手など、芸能人が「労働者」かどうかは、頻繁に取り上げられる問題です。過去にも現在にも、よく問題になっています。
そのため、芸能人の労働法における扱いについては、通達が出されています(通称「芸能タレント通達」)。芸能タレント通達で、芸能人の労働者性について重要な定義が定められています。芸能タレント通達が定める、「労働者」には該当しない4つの要件は、次の通りです。
- 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、その芸術性や人気などについて当人の個性が重要な要素となっていること
- 当人に対する報酬が、稼働時間に応じて定められたものではないこと
- リハーサル、出演時間等のスケジュール管理を除き、労働時間の拘束をされないこと
- 契約形態が雇用契約ではないこと
通達のこれらの条件にあてはまるなら、その芸能人は「労働者」ではなく、労働基準法は適用されません。逆にいうと、労働基準法の保護が必要ないほど、強い立場だといえるでしょう。例えば、長時間労働の規制なしでも、そもそも労働時間を拘束されないため、保護は不要です。
一方で、契約の形式によって決まるわけではありません。契約形態が雇用契約ではなくても、実質が雇用契約なら、労働者としての保護を受けます。これを悪用して、芸能人を酷使する芸能事務所、プロダクションなどは、労働基準法違反の疑いがあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
芸能人が、労働基準法の「労働者」として保護されるケースとは
芸能人だとしても、労働基準法の「労働者」として保護されるケースがあります。どのようなケースで、芸能人が労働基準法の「労働者」といえるのか、解説します。
「労働者」なら、未払い残業代、労働時間の規制、解雇の規制など、労働法の保護が受けられます。このとき、たとえ芸能人でも、オフィスで働くサラリーマンと同じ法律が適用されます。
労働契約を結ぶ芸能人
芸能人の契約形態には、様々な種類や内容があります。テレビなどを見れば、華やかで、自由に働いているイメージがあるかもしれません。しかし、実際には、労働契約を結んでいる芸能人もいます。芸能事務所やプロダクションとの契約が労働契約なら、労働基準法の「労働者」として保護されます。このとき、形式も、実質も、いずれも労働者だからです。
「雇用契約書がもらえないことの違法性」の解説
業務委託だが、実質は雇用の芸能人
芸能事務所やプロダクションとの契約が業務委託なら、個人事業主扱いということになります。いわゆるフリーランスということです。業務委託契約は、法的には委任契約か、または請負契約にあたります。これらの契約は、労働契約とは異なり、労働基準法の保護は受けられないのが原則です。
しかし、このときも、労働者性の判断は、形式でなく実質でします。つまり、実質的に、指揮命令がされており、労働者と見られるなら、保護を受けられるのです。この判断は、契約書を見ていてもわからず、働き方の実態を確認しなければなりません。
その結果、事務所と芸能人の間に、労働について指揮監督関係があれば、契約の名称にかかわらず労働者性が認められ、労働基準法が適用されることとなります。
「個人事業主の解雇の違法性」の解説
具体的な業務について指示を受ける場合
芸能人のなかには、自分の契約形態がわからない人も多くいるでしょう。悪質な芸能事務所、プロダクションのなかには、契約書など存在しない会社もあります。それでも、労働者として保護を受けられるケースがあります。労働契約は、口頭であっても有効に成立するからです。
芸能人の業務には多くの種類があります。事務所主催のイベントでの接客、会場整理や事務作業、裏方作業など、具体的な業務について指示を受けるなら、労働基準法の「労働者」にあたる可能性が高いケースだといえます。
「労働時間の定義」の解説
労働基準法の「労働者」である芸能人の法的保護
最後に、労働基準法の「労働者」だと認められると、芸能人にどのような法的保護があるか、解説します。
「労働者」である芸能人と、「個人事業主」である芸能人には、大きな違いがあります。そのため、これまで個人事業主だと思っていた方が、実際には労働者として保護を受けるべきだったと判明したときには、数多くの権利主張が可能となります。
最低限の給料がもらえる
労働基準法の「労働者」なら、給料をもらえます。労働基準法で、労働者には賃金が払われることが保障されているからです。給料の金額は契約で決まりますが、最低賃金法で下限が定められ、それ以下なら違法です。
労働基準法24条により、給料は、毎月一定期日に、通貨で受けとることが保障されています。不当に低い報酬しか得られず生活できないようなら、最低賃金法違反の疑いが強いです。
「未払い賃金を請求する方法」「給料未払いの相談先」の解説
残業代をもらえる
労働基準法の「労働者」なら、決められた時間を超えて働けば、残業代をもらえます。このことは、芸能人でも同じです。「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働けば、通常の賃金の1.25倍の割増賃金が払われます。
この場合、労働したといえる時間について、しっかり証拠を残しておきましょう。芸能人を「労働者」だと考えない会社は、残業の証拠を用意していない可能性が高いからです。
「残業代の計算方法」の解説
労働時間の規制がある
芸能人のなかには、健康への配慮がされず、体力の限界を超えてこき使われている方もいます。しかし、労働基準法の「労働者」にあたるなら、労働時間には制限があります。
弱い立場にある労働者は、労働時間に規制がないと、心身を害してしまうからです。芸能人でも、頑張りすぎた結果、うつ病や適応障害などにかかってしまう方は少なくありません。追い詰められて自死するなど、過労死、過労自殺の問題も、ニュースになっています。
「36協定の上限(限度時間)」「過労死について弁護士に相談する方法」の解説
年少者の深夜労働が禁止される
労働基準法では、満15歳未満を「児童」として、原則として使用できません。また、満18歳未満を「年少者」とし、労働時間に制限を加えて保護しています(労働基準法56条以下)。児童、年少者についての保護の内容は、主に次の通りです。
- 児童の使用は、有害でなく軽易なもので、行政官庁の許可を受け、修学時間外に行う
- 「映画の制作又は演劇の事業」についても同様とする
- 年少者を使用するとき、学校長の証明書、親権者などの同意書を要する
- 年少者に深夜業をさせられない(交代制で、満16歳以上の男性を使用する場合を除く)
- 年少者の危険有害業務は制限される
- 年少者の坑内業務は禁止される
15歳というと中学生、18歳というと高校生です。つまり、労働基準法の「労働者」だと、子役やアイドルなどの芸能人には、一定の制限が適用されます。
「深夜残業」の解説
完全歩合制が違法となる
業務委託の個人事業主なら、仕事がなければ報酬をもらえないのは当然ですが、労働者ならむしろ仕事を与える責任が、会社側にあります。そのため、仕事がなくても、一定の給料は保障されます。
つまり、労働基準法の「労働者」なら、「仕事がなければ給料がない」という完全歩合制は違法。いわゆる「出来高払制」をとったとしても、法律で保障給を払う義務があるとされます。
レッスン代など給料控除が禁じられる
芸能人のなかには、給料について不当な扱いを受けている方もいます。しかし、労働基準法の「労働者」なら禁止される処遇です。
例えば、労働者の給料は、中間搾取を禁ずるため、控除は許されないのが原則です。そのため、労働者の同意なく、あらかじめレッスン代やプロモーション費用が引かれることはありません。違約金などが発生することもなく、CDやライブチケットが買い取らされることもありません。
休日・休暇がとれる
労働基準法の「労働者」なら、芸能人といえど休日・休暇をとれます。「1週1日または4週4日」の法定休日が保障され、その日に働けば、通常の賃金の1.35倍の休日手当がもらえます。また、有給休暇をはじめとした、労働基準法に定められた休暇をとることができます。
「有給休暇を取得する方法」の解説
まとめ
今回は、芸能人の労働者性と、労働法の保護を受けられるかどうかを解説しました。アイドル業界の「タダ働き」問題など、芸能人の労働問題はよく報道されています。
実際には、芸能人が労働基準法の「労働者」かどうか、ケースバイケースの難しい判断です。労働契約でなくても、実質的に保護される場合もあるので、あきらめるのは早いでしょう。労働者性が争われた裁判例で、芸能人を労働者だと認めたケースは過去にもあります。
自分自身はもちろん、子どもや友人が芸能界で苦しんでいるとき、ぜひ一度弁護士に相談ください。弁護士は「芸能人だから」と偏見を持たず、労働法で救えないか、アドバイスできます。
- アイドルや歌手・芸人・タレントなどの芸能人も労働基準法の「労働者」にあたる
- 実質は雇用だが、形式は業務委託の芸能人は、ブラックな労働で搾取されがち
- 芸能人でも「労働者」に該当すれば、残業代や解雇の規制といった保護が受けられる
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