突然、会社から「退職を考えほしい」と勧められ、辞めざるを得ないことがあります。思いもよらないタイミングで退職すると、その後の生活を守るため、失業保険が非常に重要な局面となります。失業保険は、離職理由が自己都合か、会社都合かによって扱いが異なります。
退職勧奨の失業保険は会社都合で受給できる?
離職票にはどのような離職理由が記載される?
退職勧奨のケースほど、失業保険が今後の生活に大きく影響します。結論として、退職勧奨の失業保険は、会社都合として受給することができます。退職の働きかけで辞めることとなった点で、労動者の本意とはいえず、失業保険がすぐもらえるよう保護が必要だからです。
しかし、退職勧奨で辞めざるを得なかったのに、自己都合扱いにする会社もあります。誤った扱いを正すためには、会社からの勧奨が理由で退職する場合に、離職票にどのように記載するのが正しい扱いなのかを知る必要があります。
今回は、退職勧奨で退職した場合の失業保険の扱いや、離職票の確認方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職勧奨の失業保険は、会社都合として有利に受給することができる
- 退職勧奨で辞めるときに労使トラブルが起きると、不当に自己都合扱いされやすい
- 退職勧奨で辞めるなら、離職票をチェックし、誤りがあれば異議を申し立てる
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退職勧奨で辞めた場合の失業保険の扱い
初めに、退職勧奨で辞めた場合の失業保険の扱いについて解説します。
結論として、辞めるよう説得する退職勧奨は、会社側の理由によって行われるもので、労動者には全く辞める理由がないことが多く、失業保険は会社都合となるのが原則です。
会社都合の方が自己都合よりも有利
退職には大きく分けて、会社都合退職と自己都合退職の2種類があります。この離職理由の違いは、失業保険の受給条件や給付の内容に大きく影響します。
基本的に、労動者にとって、会社都合で失業保険をもらう方が有利な扱いです。会社都合なら給付制限期間がなく、7日間の待機期間が明けたらすぐに受給できるのに対して、自己都合だと、7日間の待機期間の後、2ヶ月間の給付制限期間があり、この間は失業保険が支給されません。給付日数も、被保険者期間や年齢に応じて、会社都合なら90日から330日、自己都合なら90日から150日と定められ、会社都合の方が多く受給できる可能性があります。
「自己都合退職と会社都合退職の違い」の解説
退職勧奨による退職は会社都合となる
退職勧奨とは、企業が社員に対し、自主的な退職を促す行為です。法律上、退職勧奨そのものは違法ではないものの、拒否しても続く場合や、強要される場合には、違法となります。なかには、クビにして不当解雇を争われるのを恐れるあまり、退職勧奨の体裁を取りながら、辞めさせようとしてくる問題のある企業もあります。
いずれにせよ、退職の働きかけを受けることは、労動者にとって本意ではなく、最終的に自主退職(辞職)の形を取ったとしても、積極的に辞めたかったわけでは決してありません。したがって、退職勧奨は企業側の理由で行われているのが明らかであり、失業保険においても会社都合退職として有利に扱われる必要があります。
「退職勧奨の手口と対処法」の解説
退職勧奨が会社都合と認められる具体例
退職勧奨によって退職した場合、会社の働きかけがある一方で、辞め方としては、退職届を出して去る点で、自主退職(辞職)の形式を取ることが多いです。そのため、自己都合なのか会社都合なのか、区別が曖昧になってしまう場合があります。
- 自己都合とすべきケース
従業員が自らの意思で退職届を提出し、退職に同意している場合 - 会社都合とすべきケース
会社からの働きかけや強い圧力によって、退職を余儀なくされた場合
悪質な会社ほど、違法性を指摘されないよう巧妙に退職勧奨を進めるため、上記2つの差異は、ますます分かりづらくなってしまいます。自主退職(辞職)は、完全に労動者の意思によって、辞めたいときに辞める場合を指すのに対し、退職勧奨の場合には、労動者は心の底から辞めたいわけではなく、退職条件や今後のキャリアなど、様々な考慮のもとに退職を選択したに過ぎません。
退職勧奨による退職が、会社都合となるケースには、次の具体例があります(なお、圧力が強い場合には、違法な退職強要である可能性があります)。
- 退職を拒否すると解雇など不利益な扱いがあると示唆された
- 何度も退職を促され、辞めるしかなかった
- 業務から外され孤立させられるなど、残っても活躍の道がない
- 業績悪化など経営上の理由で、人員削減の対象となった
これらの状況では、労動者が自主的に退職を選んだということはできず、会社都合退職として、失業保険においても優遇された扱いを受けるべきです。
「退職強要の対処法」の解説
退職勧奨で辞めるなら離職票を必ず確認する
退職勧奨に不服なら拒否すべきですが、実際は、退職勧奨に応じる人も少なくありません。退職条件で優遇され、将来のキャリアに不利益がないなら、この機に辞める選択もよいでしょう。
退職勧奨に応じて辞めるなら、必ず離職票を確認してください。次章「退職勧奨なのに自己都合にされたときの対応」の通り、会社都合退職とすべき退職勧奨の場面なのに、自己都合退職の扱いとしてくる問題ある会社が存在するからです。
離職票は、雇用保険(失業保険)を受給するための重要な書類です。退職勧奨で辞めるとき、特に注意を要するのが、離職票の「離職理由」欄の記載です。離職理由は、失業保険の観点から退職の理由を分類したものですが、前章「会社都合の方が自己都合よりも有利」の通り、自己都合か、会社都合かの区別によって失業保険の受給に差が生じます。
退職勧奨による退職なら、離職票は、会社都合とするのが正しい扱いです。具体的には、雇用保険法と同施行規則で、「事業主から退職するよう勧告を受けたこと」は、特定受給資格者となる条件として定められています(雇用保険法23条2項2号、雇用保険法施行規則第36条9号)。
雇用保険法23条2項2号
特定受給資格者(前条第三項に規定する算定基礎期間(以下この条において単に「算定基礎期間」という。)が一年(第五号に掲げる特定受給資格者にあつては、五年)以上のものに限る。)に係る所定給付日数は、前条第一項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる当該特定受給資格者の区分に応じ、当該各号に定める日数とする。
(……中略……)2. 前項の特定受給資格者とは、次の各号のいずれかに該当する受給資格者(前条第二項に規定する受給資格者を除く。)をいう。
雇用保険法(e-Gov法令検索)
(……中略……)
二 前号に定めるもののほか、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く。第五十七条第二項第二号において同じ。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職したもの
雇用保険法施行規則36条9号
法第二十三条第二項第二号の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。
雇用保険法施行規則(e-Gov法令検索)
(……中略……)
九 事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。
(……中略……)
労働法の知識がなく、「解雇しなければ自己都合だ」と考えていたり、違法な退職強要を行ってしまったりする会社では、離職理由について誤った記載をされがちです。違法な働きかけがバレないよう自己都合を装おうとする悪質なケースもありますので、よくチェックしてください。
「離職票のもらい方」「離職票が届かない場合の対処法」の解説
退職勧奨なのに自己都合にされたときの対応
最後に、退職勧奨なら会社都合とするのが正しいのに、自己都合扱いされてしまう理由と、不当に自己都合にされてしまったときの対処法について解説します。
退職勧奨なのに自己都合扱いされる理由
退職勧奨で辞めたなら会社都合なのに、会社が自己都合と離職票に記載するのには、いくつかの理由があります。
法律知識がないから
退職勧奨なのに自己都合扱いする理由の1つ目は、会社に法律知識がないからです。
退職勧奨で辞めるとき、最終的には退職届や退職合意書にサインをするケースが多く、形式的には、労動者が自主的に退職する場合と同じに見えます。労働法の知識の乏しい会社は「退職届を受け取ったのだから自己都合だ」「解雇ではないのだから自己都合だ」などと誤解し、誤った自己都合扱いを招いてしまいます。
違法な退職強要を隠すため
退職勧奨なのに自己都合扱いする理由の2つ目は、違法な退職強要を隠すためです。
退職勧奨は、あくまで労動者の自主的な退職を促すに過ぎず、拒否しても続くなど、強要するのは違法です。このとき、違法な退職強要を労動者側に争われると、退職が覆ったり、慰謝料を請求されたりといった危険があるため、違法行為を行った証拠を残さないことを目的として、離職票に自己都合と記載してくるのです。
助成金の不支給を回避するため
退職勧奨なのに自己都合扱いする理由の3つ目が、助成金の不支給を回避するためです。
助成金には会社都合退職者がいると不支給・減額されるものがあり、受給する会社は解雇を避ける傾向にあります。とはいえ、本解説の通り、解雇せずとも、退職勧奨でも会社都合になってしまうため、離職票に自己都合と記載することで助成金に支障が生じるのを避けようとするのです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
正しく会社都合扱いとしてもらうには
退職勧奨なのに自己都合扱いされ、不利益を受けてしまいそうなとき、正しく会社都合扱いとしてもらうには会社と交渉する必要があります。「退職勧奨の失業保険は、会社都合で受給すべき」という基本を理解していなかった会社なら、正しい法律知識をもとに説得すれば、本来の扱いに修正してくれる可能性があります。法律の専門家である弁護士から警告すれば効果的です。
しかし、会社にとって不都合なことを隠そうとして、意図的に自己都合と記載されているときは、説明しても理解されず、話し合いでは解決できないでしょう。この場合、離職票には「離職票に異議がある」という意思を示し、ハローワークに異議を申し立てる方法が有効です。異議申立てがされると、ハローワークは労使双方の事情を聞いて、離職理由について判断します。
「退職勧奨を受けた」という客観的な証拠を提出すれば、ハローワークに会社都合であるという正しい判断を下してもらうことができます。例えば、退職勧奨を示すメールやチャットのやり取り、面談の録音といった証拠が役立ちます。
「退職を会社都合にしてもらうには」の解説
退職勧奨に不服なら断固として拒否する
そもそも、会社が退職勧奨をすることには、「対象となる社員には辞めてほしい」、しかし「解雇を急ぐと、不当解雇として争われてしまう」という理由があります。解雇に厳しい制約があり、正当な解雇理由がないと違法となってしまう分、その代わりに退職勧奨を実施するのです。
退職勧奨は、退職を強制するものではなく、一方的に辞めさせる解雇とは、性質が大きく異なります。そのため、働きかけられたとしても、実際に辞めるかどうかは、労動者の判断に委ねられており、退職勧奨ならば、自由に断ることができます。
会社は、辞めてほしいと考える、いわゆる「問題社員」には、退職を促します。文句をいわず応じてしまえば、会社からは「自発的に辞めた」と言われかねず、このような問題ある会社ほど、失業保険の関係でも、自己都合として扱われる危険が大きいです。したがって、納得のいかない退職勧奨なら、失業保険上の扱いだけでなく、そもそも勧奨自体を拒否すべきです。
「退職勧奨の拒否」の解説
まとめ
今回は、退職勧奨で退職するときに、失業保険で不利に扱われないためのポイントを解説しました。失業保険においては、離職理由が自己都合か、会社都合かによって、受給するタイミングや給付の額が大きく変わります。
会社都合退職として認められた方が、基本的には労動者にとって有利なため、退職勧奨を受けた際には、その退職理由が会社都合として正しく扱われるよう注意しなければなりません。そして、会社が誤って自己都合扱いとしてくるときは、不当な処遇を正すよう要求し、話し合いで解決できない場合は、離職票を取得してハローワークに異議を申し立てるようにしてください。
また、退職勧奨はしばしば、不当な圧力によって強制され、違法な退職強要に発展することがあります。このときも失業保険が会社都合なのは当然ですが、それ以上に、不当に辞めざるを得ない状況とされたことについて、弁護士に相談して争うことができます。
- 退職勧奨の失業保険は、会社都合として有利に受給することができる
- 退職勧奨で辞めるときに労使トラブルが起きると、不当に自己都合扱いされやすい
- 退職勧奨で辞めるなら、離職票をチェックし、誤りがあれば異議を申し立てる
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【失業保険の基本】
【離職理由について】
【失業保険をもらう手続き】
【失業保険に関する責任】
★ 退職勧奨の労働問題まとめ
【退職勧奨・退職強要】
- 退職勧奨とは
- 退職勧奨のよくある手口
- 違法な退職勧奨を断る方法
- 退職勧奨は会社都合となる
- 退職勧奨と解雇の違い
- パワハラとなる退職強要
- 「退職しないと解雇」は違法?
- 遠回しに辞めろと言われたら
- 「明日から来なくていい」
【リストラ・希望退職】
【報復人事・左遷】