残業代請求するに際して気になるのが「解決までにどれくらいの期間がかかるか」という点ではないでしょうか。残業代を受領するのは法的な権利であり、本来は今すぐもらえるのが当然なので、あまりに先になっては不利益が大きく感じてしまうでしょう。
転職が決まり、残業代請求に長い時間かけられない
いつになったら残業代を払ってもらえるのだろうか
「早く残業代をもらいたい」という本音は当然。しかし、残業代請求のステップが交渉、労働審判、訴訟と進むにつれ、どうしても一定の期間(時間)がかかります。裁判手続きに進めば準備もしっかりとする必要があり、焦って進めると失敗し、損するおそれもあります。
残業代請求の解決期間を理解して粘り強く対処することで、獲得できる残業代を増額できる可能性もあります。少なくとも会社の提案を鵜呑みにして和解してしまうことは避けましょう。解決までにかかる期間を短縮して速やかに解決したいときはもちろん、しっかり時間をかけて納得のいく残業代を勝ち取りたいときも、弁護士のサポートが有効です。
今回は、残業代請求の解決期間について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 残業代請求の解決までのスケジュールは、交渉、労働審判、訴訟の順で進むのが基本
- 解決までにかかる期間は、交渉なら1ヶ月、労働審判なら3ヶ月、訴訟なら1年が目安
- できるだけ速やかに解決したいなら、証拠を準備し、早い段階で弁護士に依頼する
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残業代請求の解決期間とスケジュール
まず、残業代請求の解決期間を知るために、着手から解決までのスケジュールを把握する必要があります。残業代をどのような流れで請求し、回収できるのかをあらかじめ理解し、現在地を知れば「予想外に時間がかかった」「期間がかかりすぎで不安だ」といった疑問を解消できます。
残業代請求の解決期間と、そのスケジュールは、次の通りです。自身の残業代請求が現在どの段階なのかを理解できれば、解決までにあとどれくらいかかるのかを大まかに知る助けとなります。
まずは内容証明で残業代請求して会社と交渉し、話し合いによる解決を目指す段階です。合意が成立すれば、示談によって残業代をもらうことができます。最も解決期間が短く済む反面、労使が合意に至らなければ解決することができません。
交渉に応じてくれない不誠実な会社や、交渉が決裂した場合には、労働審判を申し立てることで正当な残業代を請求します。労働審判のなかで合意することができれば、調停が成立して残業代を獲得することができます。
調停が成立しない場合には労働審判委員会による審判が下され、残業代の支払いが命じられますが、審判から2週間以内に労使いずれかが異議申立てをすると、通常訴訟に移行し、解決までには更に時間を要します。
通常訴訟による解決は、残業代請求のスケジュールのなかでも最も期間のかかるプロセスです。その反面、未払い残業代を証明するために、証拠と主張を裁判所にじっくりと審理してもらうことができます。
交渉、労働審判、訴訟のいずれの段階も、その手続き中に和解で解決することができ、その場合には必ずしも上記の期間だけかかるとは限りません。
交渉から労働審判、訴訟へと進めていくごとに、残業代請求の解決までにかかる期間は延びることを意味します。解決期間が長くなることはストレスであるだけでなく、弁護士に依頼している場合は費用が増えるデメリットもあります。しかし、解決までの期間を短縮したいからといって妥協したり、あきらめて泣き寝入りしたりするべきではありません。
残業代請求に詳しい弁護士に依頼すれば、できる限りの早期解決を目指せると共に、いざ解決期間が長くなってしまったときにも、裁判手続きを代わって対応してもらえます。
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残業代請求の解決にかかる期間
次に、それぞれの手続きごとに、残業代請求の解決にかかる期間を解説します。
なお、残業代請求の解決期間の説明は、あくまでも目安であり、実際には個々の事案によっても異なります。転職先の都合など「必ずいつまでには終わらせたい」といった希望がある場合は、弁護士に依頼する際に必ず伝えておいた方がよいでしょう。
交渉にかかる期間は、約1ヶ月
残業代請求のはじめに行うのが、交渉、つまり、話し合いです。「強制的な手段ではない」という意味で、「任意交渉」とも呼びます。具体的には、残業代の請求書を内容証明で会社に送って請求の意思を示します。会社から回答や反論があったときは、再反論するなどして交渉を進めます。
残業代請求を交渉で解決するのにかかる期間は約1ヶ月です。最初の請求に会社が一切反論せず、直ちに支払いに応じるなら即座に解決できます。しかし、残業代を未払いにしてきた問題ある企業との交渉は、難航する可能性が高いでしょう。したがって「交渉による解決期間が1ヶ月」というのは「1ヶ月で解決できる」という意味ではなく、むしろ「交渉を1ヶ月しても解決できないなら、次の手段を検討すべきである」という意味です。
交渉は、主張と反論が交互に、ターン制で進むのが基本なので、解決までの期間を早めるには、会社の回答に期限を設けるのが有効です。例えば「本書面の到着から1週間以内に回答がなければ法的手続きに移行します」などとして期限を設けて警告を記載するようにします。
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労働審判にかかる期間は、約3ヶ月
交渉が決裂したときや、誠実に応じてくれない場合、労働審判を申し立るのが実務です。労働審判は、労働者保護のために通常訴訟よりも簡易かつ迅速に審理を進める工夫がされています。法律上、3回の期日までで解決することとなっており、平均審理期間は70日程度となっています。
申し立てから40日以内に第1回期日が設定されて、その後、次回の期日までに2週間〜4週間程度の期間をおきます。したがって、労働審判で残業代請求を解決するまでにかかる期間は、約3ヶ月となります。第1回、第2回の期日で解決することができれば、期間をより短縮することができます。労働審判での合意が難しい場合には、裁判所が審判を下します。労使のいずれかが審判に不服のあるとき、2週間以内に異議申立てをすれば訴訟に移行します。
最初から訴訟にしてしまうと裁判に時間がかかりすぎる場合、まずは労働審判による解決から試すのがお勧めです。
「労働審判の流れ」「労働審判による残業代請求」の解説
訴訟にかかる期間は、約1年
残業代の請求をするときに、解決までの期間が最も長くかかるのが訴訟による方法です。訴訟で残業代請求するにあたり、解決期間は約1年となります。
審判に異議申立てをされた場合のほか、労働審判に向かないケースで初めから訴訟を選択することもあります。また、会社が強硬で調停が難しい場合、主張や証拠が大部で労働審判での簡易な審理に適しない場合など、「事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるとき」、労働審判委員会は労働審判法24条に基づいて労働審判事件を終了させることができ、この場合には通常訴訟に移行します(いわゆる「24条終了」の場合)。
このように、通常訴訟で争われるケースは、訴訟そのものの性質として審理に時間がかかるだけでなく、揉めやすい事案であり、時間がかかりやすいケースであるといえ、解決期間は長くなると覚悟しなければなりません。
なお、日本の訴訟制度は「三審制」であり、第一審に不服なら控訴、控訴審に不服なら上告を、各判決から2週間以内に行うことができます。この場合、解決までに数年の期間を要することも珍しくありません。
残業代請求の解決までの期間を早める方法
最後に、残業代請求の解決期間を、少しでも早める方法を解説します。
残念ながらブラック企業に入社し、残業代トラブルに悩まされると、解決までの道のりは長いと言わざるを得ません。悪質な会社ほど残業代をすぐには払わず、少しでも先延ばしして長引かせようと戦略を練ってくるからです。
できるだけ早期に請求する
残業代請求の解決期間を早めたいなら「できるだけ早期に請求する」ことを心掛けてください。解決期間がどれほどだと予想されても、早く請求を開始すれば、その分だけ早く解決するのは間違いありません。また、期間が早まるだけでなく、早い段階で請求しておけば、労使の対立が激化しづらく、互いに譲歩することによって解決しやすい傾向にあります。
できるだけ早期に請求すれば……
- 残業代が少額なうちに是正できて会社としても譲歩しやすい
- 労使の感情的な対立が深刻になる前に和解できる
- 今後も働き続けることを前提とした解決をしやすい
残業代請求のタイミングを早めるには、専門家である弁護士への相談についても早めにしておくべきです。「自分で交渉してみて、支払ってもらえなかったら弁護士に依頼しよう」という方もいますが、このような進め方はおすすめできません。
弁護士は、裁判の専門家であるだけでなく、交渉の専門家でもあります。交渉段階で弁護士からプレッシャーをかけることで、裁判に至らず解決でき、解決期間を短縮することが期待できます。
「残業代請求の時効」の解説
証拠を集める
残業代の証拠を集めておくことも、解決期間を早める役に立ちます。交渉段階において証拠が十分にあり、きちんと整理して提示されれば、会社側としても「払わずに粘っても無駄だ」「裁判になったら負けてしまうだろう」と考え、あきらめて残業代を払ってくれる可能性が高いからです。
したがって、残業代請求の交渉をスムーズに進め、早く解決するには、残業代に関する法律と裁判例を理解して、正しい主張をする必要があります。無理な要求や独自の主張に固執し、過大な請求をすれば、会社から甘くみられ、交渉に応じてもらうことは難しくなってしまいます。会社に顧問弁護士がいるなど法的なアドバイスを受けられる状態なら、裁判になれば実現可能な残業代の請求は、交渉でも受け入れてもらいやすく、結果的に早い解決に繋がります。
事案に適した請求方法を選ぶ
残業代請求における解決方法は、事案の状況や会社の対応によって、適したものを選択する必要があります。前章では、交渉、労働審判、訴訟のそれぞれについてかかる期間を説明しましたが、それ以外にも、少額の残業代を速やかに獲得したいなら少額訴訟、労働基準法違反の悪質なケースなら労働基準監督署への通報なども、解決するための選択肢となります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、これらを理解して最も効果的な方法を選択することで、迅速な解決を目指すことができます。
「残業代を取り戻す方法」の解説
遅延損害金、付加金を請求する
遅延損害金と付加金の請求は、未払い残業代の支払いを遅らせる(もしくは支払わない)企業に対する制裁として機能します。そのため、遅延損害金や付加金を請求しておけば、会社が不当な反論をして残業代を払おうとしないリスクを回避し、解決までの期間を早めることができます。
経済的な合理性を考慮して譲歩を検討する
残業代請求の解決までの期間が長引くと、その分だけストレスがかかることでしょう。転職先が決まっていて、早く解決したいという方も少なくありません。このようなケースは、泣き寝入りはよくないですが、早く解決するためにある程度の妥協や譲歩を検討すべき場合もあります。
経済的な合理性を考慮して譲歩し、残業代請求を和解や示談によって解決しようとするときには、その解決内容が妥当なものかを慎重に検討してください。最終的には、あなたの納得感が重要となります。例えば「1年争って得られる500万円」より「今すぐもらえる300万円」の方が価値がある、と感じる方にとっては、長期化しないうちに譲歩するのは合理的な判断だといえます。
この際は、争いが長期化し、法的な手続きに進んだ際にかかる費用や、残業代の勝率、将来の裁判で獲得できる額の見通しなども考慮して検討する必要があります。
「残業代請求の和解金の相場」の解説
解決期間を早めるために残業代請求を弁護士に依頼する
残業代請求の解決期間を早めるには、弁護士に依頼するのが有効です。弁護士に依頼することで、解決までの期間に、次のような良い影響があります。
- 交渉において強いプレッシャーをかけられる
- 労働審判や訴訟を見据え、法律・裁判例を踏まえた正しい請求ができる
- 会社側の反論を理解し、先手を打って再反論しておける
労働法を熟知した弁護士が戦略的に進めれば、確実に、解決までの期間は早まります。初回の法律相談で、「依頼した場合はどれくらいの期間で解決できそうか」という点を質問して確認するようにしましょう。また、弁護士に依頼することは、残業代請求の解決期間が長期化した場合のデメリットを解消する役にも立ちます。
- 裁判手続きの豊富な経験をもとにサポートできる
- 面倒な書類作成や窓口を一任でき、ストレスを軽減できる
- 残業代請求を争っている間の転職活動に支障を生じさせない
できるだけスピーディに残業代トラブルを解決するには、弁護士の人選も注意を要します。解決までの期間を早めたいなら、労働問題に精通しており、レスポンスの早い弁護士を選ぶのがお勧めです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
本解説では、残業代請求をすると決意した労働者に向けて、残業代請求の解決までにかかる期間について解説しました。
解決期間があまりに長過ぎると、残業代請求をあきらめてしまう人もいます。また、予想外に長い期間がかかると、途中で「本当に解決に向けて進んでいるのだろうか」と不安を感じてしまうのも無理はありません。本来、残業代は法的な権利であり、残業をした月の給料と共に支払われるべきであって、解決が遅れれば遅れるほど労働者にとって不利益になってしまいます。
悪質な会社であるなど、解決期間が長くなってしまいそうなとき、弁護士に依頼すれば、面倒事を肩代わりしてくれて、期間をかけて粘り強く交渉することができます。解決までの期間をじっくりとかけられる余裕があれば、妥協せず徹底して戦うことにより、獲得できる残業代を増額することもできます。残業代請求を検討している方は、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- 残業代請求の解決までのスケジュールは、交渉、労働審判、訴訟の順で進むのが基本
- 解決までにかかる期間は、交渉なら1ヶ月、労働審判なら3ヶ月、訴訟なら1年が目安
- できるだけ速やかに解決したいなら、証拠を準備し、早い段階で弁護士に依頼する
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