懲戒処分とは、企業秩序に違反した労働者に下される処分のことです。業務でのミスや、問題行為を起こした労動者に下されるおそれがあります。
懲戒処分は会社による制裁(ペナルティ)を意味し、労動者には少なからぬ不利益があります。言い渡されると不安になるのも無理はありませんが、懲戒処分にはいくつかの種類があり、どのような問題に対して、どの段階やレベルの懲戒処分が許されるかには一定の基準があることを知るべきです。重すぎる懲戒処分は違法であり、無効です。懲戒処分の法律知識を理解し、その処分が違法でないかを検討する必要があります。
懲戒処分を受けてもなお会社に残るなら、処分後の適切な対処法も重要です。対象となった行為に比して処分内容が重すぎたり、懲戒処分までのプロセスが適切でなかったりすると、不当な懲戒処分として争うことができます。
今回は、懲戒処分の種類や内容、受けたときの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 懲戒処分は、企業秩序を乱す問題行為への制裁だが、様々な種類がある
- 懲戒処分の種類ごとに、対象となる行為の内容、レベル、判断基準が異なる
- 違法な懲戒処分を受けたら、撤回を求めると共に損害賠償請求して争うべき
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懲戒処分とはどういう意味か
懲戒処分の意味
懲戒処分とは、企業や組織が、秩序違反、不正行為があったときに労動者に対して下す制裁のことです。つまり、わかりやすくいうと、懲戒処分は、社内のルール違反に対するペナルティです。
懲戒処分の目的
懲戒処分の目的は、企業秩序を守る抑止力となると共に、違反者に制裁を下すことです。
企業体では、私生活では全く関わりを持たない人が複数集まり、目標達成のために組織として仕事をします。そのため、法律の遵守はもちろんですが、使用者の定める規律や、社内の秩序を守る必要があります。具体的には、懲戒処分の目的には、次の複数の側面があります。
- 規律の維持
組織の健全性と調和を保ち、円滑に運営するには、その組織内におけるルールをそれぞれの労動者が遵守し、互いに譲歩し、協力し合わなければなりません。 - 再発の防止
懲戒処分は、不正や規律違反に制裁を下すことで抑止力として機能し、再発を防止できます。 - 教育と指導
従業員に規則遵守の重要性を認識させることもまた、懲戒処分の目的の1つです。
ルール違反となる非違行為に対して罰がないと、悪意ある問題社員がいたときに企業の秩序を保てません。問題社員が得をする組織では不公平感が生じ、優秀な人材が流出してしまいます。懲戒処分は、健全な会社経営にとって不可欠です。
懲戒処分の法的根拠
懲戒処分をする権利を、懲戒権と呼びます。懲戒権についての法律の根拠はなく、労働契約に基づいて使用者に与えられる権限です。
ただし、懲戒権は、雇用契約を交わすだけで当然に認められるわけではありません。労働基準法89条にて、懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項(定めをする場合には必ず就業規則に記載すべき事項)とされることから、就業規則に明記して初めて生まれる、特別な権限です。就業規則には、懲戒処分についての以下の事項が記載されるのが適切です。
- 懲戒処分の種類と内容
- 懲戒処分の手続き
- 懲戒処分の対象となる行為
また、労働契約法15条において、労働者の行為の性質や態様などの事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用の不当処分として違法であり、無効となります。
なお、公務員の場合は民間企業とは異なり、国家公務員法82条ないし地方公務員法29条という法律上の根拠に基づいて処分されます。
懲戒処分の対象
懲戒処分の対象となる行為は、労動者に非のある問題行為です。例えば、懲戒処分を下される典型的ケースには、次のものがあります。
前述の通り、懲戒処分は、就業規則の相対的必要記載事項であり、懲戒処分を下す権限を会社に与えるならば、就業規則に定める必要があります。逆に言えば、就業規則の記載がないのに懲戒処分を下すことは許されません。そのため、勤務先の就業規則を確認すれば、どのような行為が許されていないのかを、事前に知ることができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
懲戒処分の内容と種類
次に、懲戒処分の種類について解説します。
会社から懲戒処分を決定した旨の通知書を受領したら、どのような処分の内容なのかを確認してください。懲戒処分の種類については、会社のルールによってある程度自由に定められますが、以下では、一般的によくある懲戒処分の種類を、その重さのレベルの軽い順に説明します。
【労働契約の継続を前提とした懲戒処分】
懲戒処分のうち、軽度のものは、会社に居続けることを前提として、再発防止や教育、指導としての意味を強く持ちます。
このとき、懲戒処分によって改善の機会を与える意味がある一方で、度重なる違反があり改善の余地なしと評価されると、その後になされる解雇の正当性を高める効果を有します。
【労働契約の解消を前提とした懲戒処分】
懲戒処分のうち、重度のものは、会社を辞めることを前提とします。制裁としての強い意味を有し、組織から追放する強度の処分となります。このような重度の懲戒処分、特に懲戒解雇をされた場合には、「問題社員」というレッテルを貼られ、再就職に大きな悪影響です。
懲戒処分には多くの種類があり、その最たる例が「懲戒解雇」です。つまり、最も重い懲戒処分だと、会社をクビになってしまうわけです。懲戒処分の種類ごとに、それぞれの特徴やメリット、デメリットを踏まえた対応が大切です。
なお、これらは民間企業におけるよくある懲戒処分の例であり、公務員の場合、国家公務員だと国家公務員法82条に「免職、停職、減給又は戒告の処分」が、地方公務員では地方公務員法29条で「戒告、減給、停職又は免職の処分」が、その懲戒事由と共に定められています。
懲戒処分の前に、注意や指導をされることがあります。度重なる注意がなされ、懲戒処分直前だと「厳重注意」と呼ぶことがあります。注意も指導も、いずれも行動を改めるよう働きかける行為ですが、懲戒処分そのものではありません。
そのため、注意や指導は、懲戒処分に求められるような厳格な手続きは不要で、日常的に行われます。その結果、注意指導では改善される見込みがないと判断されると、次に懲戒処分が下されます。
したがって、労動者としては、懲戒処分になってしまう前に、注意指導の段階から慎重な対処が求められます。
戒告・譴責
戒告とは、労働者の将来を戒めることを内容とした懲戒処分です。企業によっては「訓戒」「訓告」といった名称で呼ばれることもあります。譴責とは、将来を戒めることに加えて、始末書の提出を求めることを内容とした懲戒処分です。始末書という形に残る記録を出させる点が、譴責の特徴です。
いずれも懲戒処分としては軽度ではあるものの、「罰を与える」という制裁的な意味合いがあることが重要で、人事考課、評価の際にも考慮されます。そのため、処分後に昇給がなくなったり昇進が遅れたり、賞与の減額(ボーナスカット)をされたりといった不利益があります。
戒告や譴責は、処分として軽度であることから、対象となる行為も軽度の違反に対して用いられます。ただし、軽度の非違行為も、長期に渡り続いたり、繰り返されたりといった場合は、より重度の処分を下されるおそれがあります。
「戒告の意味と適切な対応」「始末書の拒否」の解説
減給
減給とは、発生した賃金から一定額を差し引くことを内容とする懲戒処分です。
働いた分の給料が払われるのは当然ですが「罰として一部を減らす」という意味です。減給による不利益は一時的なもので、減給の懲戒処分によって減らされた給料も、翌月以降は元に戻るのが通例です。また、減給の懲戒処分には、労基法による限度が定められています(労働基準法91条)。
労働基準法91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
この条文によれば、減給の懲戒処分は、その1回の金額は、平均賃金の1日分の半額が上限とされ、また、一賃金支払期(通常は1ヶ月)に何度減給しても、その総額の10分の1を超えてはなりません(二重処罰は禁止されるので、1回の問題行動に行える減給は1回のみです)。
なお、遅刻や早退、欠席した分の減給は、ノーワークノーペイの原則によって働いていない分の給料を控除するもので、減給の懲戒処分(働いて生じた給料の減額)とは性質が異なります。
「減給の違法性」の解説
出勤停止
出勤停止とは、一定の期間、労働者の就労を禁止する処分です。企業によっては「停職」「自宅謹慎」「懲戒休職」といった名称で呼ぶ例もあります。
出社しない期間は、本来は出勤日のため、休日には含みません(有給休暇で代替することもできません)。制裁の意味を持つため、出勤停止の期間中は無給となるのが原則です。出勤停止の期間は、およそ7日から30日とされる例が多いです。ある程度自由に会社が決められますが、長すぎる出勤停止は不当な処分となるおそれがあります。
出勤停止の懲戒処分は、業務命令として命じられる自宅待機と似ていますが、区別する必要があります。業務命令として命じられる自宅待機は、会社の事情によるものなら給料が生じます。また、懲戒処分の準備、調査のために発されるとしても、証拠隠滅や再発の危険があるといった理由のない限り、給料が払われるべきと考えられています。
「自宅待機命令の違法性」の解説
降格
降格とは、職能資格や資格等級を低下させる懲戒処分です。職位を引き下げる懲戒処分のことを、区別して「降職」と呼ぶことがあります。
評価制度が確立された企業では、基本給は資格や等級と連動して決まります。そのため、降格や降職といった懲戒処分を下されると、給料は減ることになります。降職によって職位を外された結果、役職手当が支給されないといった不利益も生じます。経済的な不利益だけでなく、社内での評価も下がるためプライドも傷つくでしょう。
なお、降格や降職は、懲戒権ではなく人事権の行使としてされるケースもあり、区別する必要があります。制裁的な意味合いではなく、能力不足や役職への不適任など、評価に基づく処分は「人事権の行使」であると考えられます。
「不当な降格への対処法」の解説
諭旨解雇・諭旨退職
諭旨解雇とは、退職届を提出するよう勧告し、拒否した場合には解雇する処分です。退職届を拒否した場合の処分が「解雇」でなく「退職」とする場合には「諭旨退職」と呼ぶこともあります。
諭旨解雇は、懲戒解雇よりは軽度の処分であると位置づけられるものの、結果的には労働契約が解消されてしまう強い効果を生みます。拒否する場合は懲戒解雇を脅しに使う点で、労働者への強制力が強く、負担の大きい処分なのは明らかで、懲戒処分のなかでも厳格な法規制が適用されます。
なお、諭旨解雇は、退職を促す点で退職勧奨と似ていますが、区別すべきです。退職勧奨はあくまで労動者の自由な意思が尊重され、拒否することができるのに対し、諭旨解雇は懲戒処分の種類の1つであり、退職を拒否しても結局は強制的に会社を追い出されてしまいます。
「諭旨解雇」の解説
懲戒解雇
懲戒解雇とは、懲戒処分として行われる解雇のことです。懲戒処分のなかで最も重く、問題社員と評価し、一方的に会社から追い出すことができます。会社にとって「伝家の宝刀」、労働者にとって「死刑」にも例えられる究極の懲戒処分です。
労動者の重責あるとき、労働基準監督署長の除外認定を得ると、解雇予告手当も支給されません。
懲戒解雇のデメリットは非常に大きく、それに相応する理由が必要です。解雇の一種でもあるので解雇権濫用法理の適用を受け、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。その処分の重さからして、相当性の要件について最も厳しい基準で判断されます。
懲戒解雇は労動者にとってのデメリットが非常に大きく、その反面、厳しい法規制を受けるので、労動者としては「懲戒解雇を下されたら争うのが原則」だといえます。たとえ一定の非があろうとも「懲戒解雇にするほど重度ではない」と主張できれば相当性の要件を欠き、懲戒解雇を無効にできる可能性があります。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
どのような行為に対してどのレベルの重さの懲戒処分をされるかの判断基準を具体例で解説
懲戒処分の理由は、就業規則の「懲戒事由」に定められています。これを見れば、どのようなとき、どのレベルの重さの処分が下されるか、予見できるのが理想です。しかし実際は、起こり得る問題を全て列挙するのは不可能で、ある程度一般的な条項を設けるしかありません。会社の判断に任される範囲が広すぎると、重すぎる制裁、つまり、不当処分のリスクが高まります。
そこで、労動者として重要なのは、どのような行為や事情に対してどの程度の処分が許されたのか、懲戒処分の有効性について判断した裁判例の知識をつけておくことです。具体的な事例と比較すれば、自身の処分の妥当性を知る助けにもなります。
戒告・譴責の具体例
裁判例では、次のケースで、戒告・譴責が有効と判断されています。
- 教員が、担当授業の増加、委員会業務の実施を拒否した(大阪地裁令和2年1月29日判決)
- 他社員に対し、国籍を差別する発言をした、席の横に立たせて注意した、大声で怒鳴りつけたなどのパワハラ行為(東京地裁令和元年11月7日判決)
- 部長が部下に対し、帰宅後の遅い時間に何度も活動報告を求めた(東京地裁令和2年6月10日判決)
- 就業時間外の社宅で、会社を中傷するビラを配布した(最高裁昭和58年9月8日判決)
減給の具体例
裁判例では、次の事情が減給の事由とされ、懲戒処分を有効と判断しました。
- 大学教授が学生に、人格や尊厳を傷つける侮辱的なメールを複数送信した(東京地裁平成31年4月24日判決)
- 社用のパソコンに許可なくアプリをインストールし、これを利用した会話に参加するよう他社員を勧誘し、私語を楽しむための組織作りをした(札幌地裁平成17年5月26日判決)
出勤停止の具体例
裁判例では、次の事情が出勤停止の事由とされ、懲戒処分を有効と判断しました。出勤停止や停職の期間もあわせて記載しますので、相場の目安にしてください。
- 119番通報に不適切な対応をした(停職6ヶ月、広島高裁岡山支部令和2年3月5日判決)
- 責任著者である大学教授が、不正論文のチェックを怠った(停職1ヶ月、熊本地裁令和2年5月27日判決)
- 顧客の事業場における業務を、会社に無断で、体調不良のため終了すると顧客に伝えた(出勤停止7日、東京地裁平成15年7月25日判決)
- 学科長によるパワハラ(停職1ヶ月、鳥取地裁令和2年2月21日判決)
- 新聞記者が自身のサイトで、取材源、記事の締め切り時刻などの秘密を公表して会社を批判した(東京地裁平成14年3月25日判決)
- パワハラ行為の関係者らに圧力をかけた(富山地裁令和2年5月27日判決)
- 公務員が勤務時間中、コンビニの女性社員にわいせつな行為をした(停職6ヶ月、最高裁平成30年11月6日判決)
降格・降職の具体例
降格・降職が有効とした裁判例では、次の事情が懲戒事由とされています。
- 大学教授が、教え子の女生のマンションに一晩滞在した(東京高裁令和元年6月26日判決)
懲戒解雇の具体例
懲戒解雇を有効とした裁判例では、次のような事情が認定されています。
- 遅刻、欠勤を繰り返し、注意指導しても態度を改めなかった(横浜地裁昭和57年2月25日判決、東京地裁平成5年12月7日判決など)
- 採用条件である国家試験に一向に合格せず、研修を受けるよう指示されても従わず無断欠勤した(大阪高裁平成6年2月25日判決)
- 配転命令が出され再三出勤を督促されても拒否し続けた(名古屋地裁平成16年4月27日判決)
- 一斉退職し、無断で在庫商品や顧客データを持ち出し、会社に多大な損害を与えた(東京地裁平成18年1月25日判決)
- 対立候補(元取締役)を擁立し、現経営陣の更迭を求める署名活動をした(大阪地裁平成13年12月19日判決)
- 部下に対する悪質なわいせつ行為(大阪地裁平成12年4月28日判決)
- 取引先へのバックマージンの要求と収受(名古屋地裁平成15年9月30日判決)
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
懲戒処分を受けるとどうなる?労動者側のデメリットと影響
次に、懲戒処分を受けたらどうなるのか、そのデメリットや影響について、労動者側の立場で解説していきます。
なお、懲戒処分の二重処罰は禁止されます。そのため、1つの問題行為に対して複数回の懲戒処分を下すのは違法です。一方で、以下の不利益は、懲戒処分そのものではなく、二重処罰の禁止に反しません。例えば、問題行為を理由として懲戒処分にした後、それによって低評価とし、異動や配転といった人事処分を下したとしても二重処罰ではありません。
社内の評価が下がる
懲戒処分されたことにより、社内の評価が低下するのは避けられません。懲戒処分を受けたことは、社内で記録され、今後の人事考課や査定に影響します。
また、懲戒処分を下された事実は、社内で公表されるリスクがあります。会社は、再発を防止すべく、公表によって他社員にプレッシャーをかけようとします。ただし、報復や見せしめ目的の公表は不当なので、違法な名誉毀損として争う余地があります。違法かどうかを分けるポイントは「その公表が、再発防止という目的にふさわしいやり方かどうか」という点です。
「違法な報復人事への対策」の解説
一定期間の就労ができなくなる
懲戒処分によって、これまでと同じようには業務ができなくなります。重度の懲戒処分だと、懲戒解雇や諭旨解雇になれば会社にいられなくなりますし、出勤停止になったら一定期間は無給で休まなければなりません。軽度な処分でも、あわせて異動、配置転換を受けることもあります。
懲戒処分を受けてしまうと、これまでと同様の評価を受け、活躍のチャンスを与えてもらうのが難しい局面も少なくありません。
「違法な異動を拒否する方法」の解説
転職活動の支障になる
懲戒処分は、転職活動の支障になることもあります。懲戒解雇をされたことが発覚すれば、再就職は事実上困難になってしまうでしょう。そうでなくても、前職で懲戒処分をされたということは、企業の秩序を乱す問題行為をした社員だというレッテルを貼られてしまいます。
なお、懲戒解雇をされたことは、離職票の記載や採用面接でのやり取り、リファレンスチェックなどでバレる可能性がありますが、履歴書の賞罰欄に書く必要はありません。
「懲戒解雇が転職でバレるかどうか」の解説
退職金が減額、不支給となる可能性
懲戒処分を受けたことで、退職金が減額、不支給となる可能性もあります。つまり、懲戒処分をきっかけとして退職金の全部または一部がもらえなくなるケースです。
多くの会社の退職金規程は、懲戒解雇されたこと(もしくは懲戒解雇事由が存在すること)が、退職金を減額または不支給とすることのできる事情と定めています。また、懲戒処分によって評価が下がった結果、計算の基礎となる基本給が低くなることも退職金の減額に影響します。
しかし、たとえ懲戒解雇が有効だとしてもなお、退職金の不支給は違法であると判断した裁判例もあり、退職金の請求をあきらめてはなりません。
「懲戒解雇でも退職金がもらえるケース」の解説
懲戒処分をするときの手順
次に、懲戒処分をするときの手順について解説します。
労動者を守るために、懲戒処分をするときは適切な手続きを経なければなりません。正しいプロセスを踏んでいない懲戒処分は、不当処分として違法になる可能性があります。
懲戒処分の手順は、まずは使用者側がしっかり理解し、遵守すべきものですが、労動者側でも、不当な処分の犠牲にならないよう頭に入れておいてください。
監督者となる上司や、同僚からの報告によって、規律違反や不正が発見されると、まずは社内で調査がされます。
懲戒処分の対象となる行為を特定するために、事実関係を把握することも目的とした調査が実施されます。調査では、書類などの客観的な証拠の収集のほか、目撃者である他の職員のヒアリングなども行われ、違反行為の具体的な内容が特定されます。
調査した内容は記録され、会社が懲戒処分を決める際の参考資料となります。
処分に足る程度の証拠が集まったら、次に、対象者の聴取を行います。
対象者の聴取は、事実関係を補完する意味を持つだけでなく、弁明の機会を付与する意味があります。違反行為の疑いがあっても、対象となる従業員の反論も聞く必要があり、一方的な決めつけで処分をするのは不当です。
調査結果及び弁明の内容をもとに、適切な処分内容を決定します。
懲戒処分の内容の決め方は、企業規模や組織のルールによっても異なります。小規模な会社では社長の一存によることもありますが、恣意的な処分は許されません。一方で、就業規則において懲戒委員会や懲罰委員会といった協議の場が定められている場合は、これに基づいて公正かつ適切な判断過程を踏まなければなりません。
処分が決まったら、処分内容を記載した通知書が交付されます。懲戒処分の通知書には、その処分の内容や種類と共に、理由が記載されています。
処分の有効性を争う場合は、処分理由を明らかにする必要があるので必ず受領してください。口頭のみでしか処分が伝えられないときは、労動者から積極的に、書面を交付するよう求めましょう。通知書の記載が抽象的で反論が難しいときは、反論が可能な程度に具体的な理由を教えるよう強く求め、通知書の出し直しを要求すべきです。
通知が終わり、処分日になると懲戒処分が実施されます。
懲戒処分が終了しても、なお会社に残る場合には、改善がされたかどうかのモニタリングをし、再発防止の努力が尽くされます。フォローアップの一貫として、再教育や指導、研修が実施されることもあります。
懲戒処分された記録は、社内に保管され、将来の評価資料の一部として参考にされます。
「弁明の機会から解雇までの手順」「懲戒処分の決定までの期間」の解説
懲戒処分を受けたときの対処法
次に、懲戒処分を受けたときの対処法について、解説します。
懲戒処分を下されたときには、初動の対応が非常に大切です。不当な処分だとして争いたい場合は、会社の言うなりにならず、速やかに証拠収集して準備を進めましょう。
なお、「違法な懲戒処分の争い方」は後述します。
反省して改善する必要がある
軽度な懲戒処分の目的は、本人の反省と改善を促すことにあります。まだ会社に未練があるならば、懲戒処分を受けたらまず、改善の努力をするのが先決です。
重度の企業秩序違反でない限り、速やかに懲戒処分を下されるとは限りません。まずは注意指導、調査など、兆候があるのが通常だからです。このような流れを感じたら、嘘はつかず、細部にわたって事情を伝え、会社に協力する姿勢を見せましょう。自分だけでなく関係者のヒアリングも実施される場合、矛盾する発言は後で不利益に働きます。
軽度の懲戒処分では、会社側の視点からすれば「反省して謝罪するなら、これ以上責めることはないのに……」と思うケースも少なくないものです。
就業規則の懲戒事由を確認する
懲戒処分を受けたら、就業規則を確認することも忘れてはなりません。
前述の通り、懲戒権は、就業規則に定められていない限り使用者には与えられません。したがって、懲戒処分をされたとき、就業規則に定めた懲戒事由に該当するのか、確認を要します。次章の通り、懲戒事由に該当しないなら懲戒処分は違法です。
就業規則は、労働者への周知が義務付けられており、閲覧できないのは違法です。そして、10人以上の社員を雇う事業場では、就業規則を労働基準監督署に届け出る義務があります。会社に開示を請求し、見せてもらえないなら労働基準監督署で見せてもらう方法があります。
「就業規則と雇用契約書の優先順位」の解説
弁明の機会を最大限に活用する
懲戒処分が決定される前に、対象者には弁明の機会を付与されることがあります。懲戒解雇などの重度の処分では、弁明の機会がなければ違法であり、有効性を争えます。
弁明の機会は、対象となる行為について労働者の言い分を伝える機会です。有利な情状を伝えることができれば、処分のレベルを軽減できます。弁明の機会では、書面を作成し、次のような事情を積極的に伝えていくのが重要です。
- やむをえない動機・理由があること
- 問題行為による会社への損失が小さいこと
(会社の被害について既に弁償していること) - 反省していること
- 将来の改善の余地があること
- 過去に同種、類似の行為をしていないこと
- これまでの勤務で十分な貢献があること
一方で、保身に走ったり、嘘をついたり、言い訳ばかりしたりといった態度は、悪く評価されるおそれがあります。
「正当な理由のある解雇の例」の解説
懲戒処分が違法となる場合とその具体例
次に、違法な懲戒処分の具体例を解説します。
たとえ会社の規律や秩序を乱していても、どのような処分でも認められるのではありません。懲戒処分には正当な理由が必要であり、その処分が妥当でなければなりません。「処分が重すぎる」「納得できない」と疑問があるなら、懲戒処分の有効性を争うことができます。
懲戒事由に該当しない
まず、就業規則の懲戒事由に該当しない場合、懲戒処分を下すことはできません。そのため、懲戒事由に該当しない処分は違法であり、直ちに争うべきです。
就業規則の懲戒事由は、多くの場合、抽象的な文言で定められます。「その他、企業秩序に違反する行為」などの一般的な条項があるときも、該当するといえるには、処分の内容とバランスがとれるほど問題が重度である必要があります。
適正な手続きを欠いている
懲戒処分を行うにあたっては、適正な手続きを踏むことが必要です。労働協約や就業規則で定めた手続きを経る必要があり、これらを無視してする処分は違法です。踏むべき適正な手続きには、次のものがあります。
- 弁明の機会の付与
- 懲戒委員会や懲罰委員会などの開催
- 労働組合との協議
また、形式的にはプロセスを踏んでいても、労働者に対して事実関係が具体的に明らかにされていなかったり、不意打ちで弁明が十分にできていなかったりといった事情があるとき、その手続きが形骸化しており、違法の疑いがあります
処分のレベルが重すぎる
懲戒処分は、不利益が大きいため、相応する理由がなければなりません。対象となる行為と比べ、処分のレベルが重すぎるときは違法です。
懲戒処分は、その行為の性質や態様などの事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は違法であり、無効となるからです(労働契約法15条)。
例えば、処分が重すぎると判断した裁判例に、次のものがあります。
- 高校教諭の修学旅行引率中の少量の飲酒などに対し、3ヶ月の停職処分は重すぎると判断した裁判例(大阪高裁平成20年11月14日判決)
- 7年前の職場での暴行行為に対し、諭旨解雇は重すぎると判断した裁判例(最高裁平成18年10月6日判決)
処分が過大かどうかの判断は、裁判例の知識を有する専門的な検討が必要であるため、労働問題に精通した弁護士のアドバイスを得るのが有益です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
違法な懲戒処分に納得できないときの争い方
最後に、違法な懲戒処分されてしまったときに会社と争う方法を解説します。
労務管理の知識のない会社では、一方的かつ恣意的な懲戒処分が、トラブルに繋がるおそれがあります。
弁護士に相談する
違法な懲戒処分を争う際には、はじめに弁護士に相談するのが有益です。
弁護士に依頼すれば、弱い立場にある労働者が、会社に負けないようサポートしてくれます。懲戒処分を下された時点で、会社から強い権限を行使され、辛い思いをしていることでしょう。そのまま自分ひとりで争っても立ち向かえないとき、弁護士の助力を得ましょう。
懲戒処分の撤回を求める
違法な懲戒処分を受けたら、その問題点を指摘し、撤回を求めましょう。在職を前提とした軽度な処分でも、将来の評価に響くなど、悪影響は大きいもの。まして、懲戒解雇なら、撤回して復職させるよう、要求しなければなりません。
懲戒処分の違法性をよく吟味し、内容証明で、処分を撤回するよう強く主張します。弁護士名義で通知書を送付してプレッシャーをかければ、違法の疑いの強い懲戒処分を撤回させたり、少なくとも会社が考え直して軽度の処分に変更してくれたりといった解決が期待できます。
損害賠償請求する
違法な懲戒処分は、労働者に対する不法行為(民法709条)となります。そのため、これによって負った損害について賠償を請求できます。違法な減給によってもらえなくなった給料も請求可能です。また、違法な懲戒処分によって精神的苦痛を受けたなら、慰謝料の請求も可能です。
退職する
懲戒処分を受けると、問題社員のレッテルを貼られ、会社に居づらいことでしょう。いっそのこと退職するという選択肢を検討する方もいます。また、懲戒解雇のように強制的に追い出される前に、自主退職するという手もあります。
退職は労働者の自由ですが、退職の意思表示の効力は、2週間が経過した後にしか効力を生じない点には注意が必要です(民法627条1項)。退職の効力が発生する前に下された懲戒処分は、有効になってしまいます。退職届を提出してもなお、退職までの間に懲戒処分される可能性は否定できません。
「退職届の書き方と出し方」の解説
労働審判や訴訟で争う
交渉が難しいときは、労働審判で争っていきます。懲戒処分をした会社にとって、企業秩序に違反したという点から、なかなか交渉が円滑には進まないケースも多いもの。交渉が困難な場合、裁判所の判断を得るべきです。労働審判に納得いかないときには、2週間以内に異議申立てをすれば、自動的に訴訟へ移行します。
「労働者が裁判で勝つ方法」の解説
まとめ
今回は、懲戒処分の種類、対処法について、労働者側の立場で解説しました。
様々な種類のある懲戒処分ですが、その重さによって対処法は異なります。また、ケースのレベルに応じた処分の重さでなければ、不当処分の疑いがあります。とはいえ、どんなときに懲戒処分が下されるのか、明確な基準があるわけではありません。
ケースバイケースだからこそ、裁判例などを参考に、懲戒処分の種類を理解しておきましょう。懲戒処分を下す権限があるとしても、会社の自由に任せられているわけではありません。対象となる行為の態様、会社に与える不利益などとバランスがとれない不当な懲戒は争うべきです。
- 懲戒処分は、企業秩序を乱す問題行為への制裁だが、様々な種類がある
- 懲戒処分の種類ごとに、対象となる行為の内容、レベル、判断基準が異なる
- 違法な懲戒処分を受けたら、撤回を求めると共に損害賠償請求して争うべき
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