会社が経営難に陥って、倒産や破産といった事態に直面すると、そこで働く労働者は、辞めざるを得ないことがあります。つまり、倒産して会社が無くなってしまえば、解雇されても仕方なく、それ以上働き続けることができないのは当然です。
業績が悪化して倒産してしまうケースでは、解雇は突然に通告され、給与や退職金も満足に支払われないなど、労働者にとって大きな不利益があります。予期しない倒産に遭ってしまったとき、労働者としても、不利益を減らすための対応を知っておかなければなりません。
今回は、会社が倒産した場合に労働者がどのような対応を取るべきか、特に、不当解雇となる可能性とその争い方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
倒産による解雇とは
倒産による解雇とは、会社が倒産して無くなることによってこれ以上働き続けることができなくなり、労働者が解雇されてしまうことを指します。解雇は、会社の一方的な判断による労働契約の解約のことですが、倒産で会社が無くなるなら、解雇となるのは当然です。
「倒産」は、業績が悪化などの経営上の理由によって、会社が立ち行かなくなってしまうことの総称で、大きく「清算型手続き」と「再建型手続き」の2つに分類されます。
- 清算型手続き
事業を継続できないときに、会社の法人格を消滅させる倒産手続きであり、破産、特別清算が、清算型に該当します。 - 再建型手続き
事業を続けながら、返済期の繰り延べや債務免除などの交渉を通じて債務整理を行う手続きであり、会社更生、民事再生が、再建型に該当します。
労働者の立場では、どちらの倒産手続きかによって、解雇を争えるかどうかが変わります。
清算型の場合、事業が停止して廃業してしまうので、労働者は解雇されるのが原則です(会社が無くなれば、不当解雇を争う相手もいません)。これに対し、再建型だと、企業が再建を目指すために必要な人材を残さなければならず、すぐには解雇されないこともあります。また、再建型なのに解雇されたとき、正当な解雇理由がないなら、解雇の撤回を求めて争うことができる可能性があります。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
倒産による解雇は不当解雇にあたる?
次に、倒産による解雇が、不当解雇として違法になるケースについて解説します。
倒産による解雇が不当解雇かどうかは、倒産の状況や、解雇手続きの方法によって変わります。原則は、倒産を理由とする解雇は不当解雇にはなりませんが、例外的に、倒産が正当でない場合や、解雇の手続きを守らない場合には、不当解雇を争える可能性があります。
清算型の倒産なら解雇は適法である
会社が急に倒産した場合、特に、清算型の代表例である破産手続きに入った場合、事業の継続は不可能となるため、解雇をする正当な理由があります。破産手続きが終了すると法人格が消滅して会社が無くなってしまうので、解雇することは適法です。
経営の事情などを理由とした整理解雇も、業務上の必要性が高い場合には有効となるケースもあるところ、倒産せざるを得ない状況はその最たる例であり、不当解雇には該当しません。
「正当な解雇理由の例と判断方法」の解説
解雇手続きに不備があるなら不当解雇
倒産が理由でも、解雇の手続きについて法律の定めを遵守する必要があり、これらが守られないなら不当解雇として争える可能性があります。解雇手続きに不備があるのは、例えば次のケースです。
解雇予告がなされていない場合
労働基準法20条は、少なくとも解雇の30日前に予告をするか、もしくは30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う義務を定めており、この義務は倒産時でも守らなければなりません(なお、即日解雇が必要で、かつ、解雇予告手当も払えないほど業績が悪化している場合、手当について倒産手続き内で処理することとなります)。
「解雇予告手当の請求方法」の解説
解雇理由が明確でない場合
倒産を理由とする解雇でも、労働基準法22条によって解雇理由証明書を交付する義務があるため、解雇理由について具体的に説明がされないなら不当解雇となる可能性があります。労働者としても解雇を争うかどうかを決めるためには、具体的な事業継続の可能性や経営破綻の理由などといった事情が明示される必要があります。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
再建型の倒産なら不当解雇の可能性あり
解雇は、労働者保護のために制限されており、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当出ない場合には、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。業績悪化に伴う解雇は労働者に全く非がないため、整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力義務、③合理的な人選基準、④手続きの妥当性)を満たさない限り、不当解雇となります。
事業の立て直しを目的とした再建型の倒産手続きなら、法人格が必ず消滅するとは限りません。そのため、全ての労働者を解雇するのは不当であると判断される可能性があります。確かに、倒産の手続きを取らざるを得ない状況はとても切迫しており、通常よりは整理解雇が認められやすいものの、不当解雇を争う余地は十分にあります。
会社からの説明が十分ではない場合、合理的な理由はなく、その解雇は不当である疑いがあります。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
倒産手続きが正当でない場合は不当解雇
以上の解説は、倒産が避けがたいことを前提としています。これに対し、経営状況が良好であったり、まだ余裕があったりするにもかかわらず、「倒産するから」という理由で労働者を辞めさせるのは、明らかに不当解雇です。このケースを、「偽装倒産による解雇」と呼ぶことがあります。
倒産手続きがそもそも真実でなく、労働者に退職してもらうための嘘だった場合、「騙して辞めさせる」ことが許されるわけもなく、不当解雇として争うべきです。また、説明されているより業績が悪化していないなら、人員削減の必要性はなく、整理解雇としても不当です。
実質的には同一性のある会社(経営層が同じ、事業内容が同じなど)が事業を継続している場合、まさに労働者の解雇を理由にして倒産を偽装しており、不適切なのは明らかです。
「解雇の意味と法的ルール」の解説
会社が倒産してももらえるお金と労働者の保護について
倒産の大きな理由は、会社に金銭的余裕がないことでしょう。そのため、倒産を理由にした解雇のケースでは、従業員にも満足に金銭支払いがされないおそれがあります。
倒産した会社の労働者は、給与や退職金の未払いといった深刻な問題に直面します。会社倒産してももらえるお金を知ることで、法的な保護を受ける必要があります。倒産の場面で、労働者の債権は、他の債権と比べて優先されており、未払賃金立替制度による救済も存在します。
解雇予告手当が受け取れる
「解雇手続きに不備があるなら不当解雇となる」で解説の通り、倒産を理由とする解雇であっても解雇予告のルールは適用されるため、30日に満たない予告期間しかないならば、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を受け取ることができます。
「解雇予告手当請求書の書き方」の解説
倒産時の未払い給与や退職金の取り扱い
たとえ企業が倒産するとしても、これまで働いた分の対価はなくなりません。したがって、倒産による解雇が不当かどうかに関わらず、未払いの給与や残業代、退職金などといった労働の対価を請求することができます。
そうはいっても現実問題として、倒産をした会社から給与などを回収するのは困難です。以下の通り、倒産手続きの観点から、労働者にどのような保護があるかを理解しましょう。
労働債権は優先的に保護される
倒産の手続きでは、企業の資産が清算され、債権者に分配されます。なかでも、労働者の未払い給与や退職金は「労働債権」となり、他の債権より優先して配当を受けることができます。社員の生活に直結する労働債権は、それだけ重要性が高いと考えられているからです。
具体的には、労働債権は、担保のある債権、税金・社会保険料に次ぐ優先順位であり、一般債権よりも優先して回収できます。
「未払い賃金を請求する方法」の解説
未払い給与の立替払い制度を利用できる
会社が倒産した結果、資産の不足によって未払い給与が全額支払われなかった場合、労働者健康安全機構による「未払い賃金の立替払い制度」を利用できます。この制度は、倒産によって支払われなかった賃金の一部を、国が立て替えて支給するものです。
「未払賃金立替制度」の解説
失業保険は会社都合となる
倒産を理由に解雇される場合でも、一定の要件を満たせば失業保険を受給できます。
倒産による解雇は、労働者が時期を決めることができないため、「会社都合退職」として失業保険の受給で優遇されます。すぐには再就職先が決まらない人も多いでしょう。仕事のない状態で生活を維持するために、ハローワークで手続きをして、失業保険を積極的に活用すべきです。
「失業保険の手続きと条件」の解説
倒産による解雇までの手続きの流れ
次に、倒産に伴う解雇の手続きについて解説します。
会社の倒産には、法律による複雑な手続きが定められています。倒産は、労働者だけでなく、他の債権者や株主など、多数の利害関係人が複雑に絡む問題だからです。倒産と、それに伴う解雇の手続きを知ることで、労働者の利益を害されないよう注意する必要があります。
倒産に伴う解雇の手続きの流れ
倒産に伴う解雇の手続きの流れは、次のステップで進みます。
解雇回避の措置
経営が困難であって倒産に向かう場合にも、まずは解雇回避の措置を講じるべきです。残業の軽減や希望退職の募集、退職勧奨などによって人件費をカットし、倒産を回避することができるなら、それに越したことはありません。
また、倒産後の混乱が置きないよう、重要な社員には個別説明を行います。
「リストラを拒否する方法」の解説
会社の破産手続き開始
倒産手続きは、裁判所に申し立てることによって開始されます。
破産手続きだと、会社の資産を換価して、各債権者に配当します。このとき、労働者を含む債権者には、個別に通知が送付されます。あわせて、倒産手続きが進むなかで、労働者に対して解雇が行われるのが通例です。
倒産手続きにおける資産の管理や清算、債権者への分配の責任を負うのは、裁判所から選任された破産管財人です。解雇についても、企業からではなく管財人から通告を受けることもあります。
従業員説明会が開かれる
倒産の申し立てに前後して、従業員説明会が開催されるのが一般的です。このとき、全従業員に対して倒産することが知らされ、どのようなスケジュールで解雇となるのかの説明を受けられます。
解雇通知と解雇予告手当の支払い
会社または管財人が、労働者に対して解雇通知を行います。解雇通知は、労働基準法20条によって30日前に行うことが原則とされていますが、予期せぬ倒産の場合にはこの日数に不足することが多く、不足する日数分の解雇予告手当が支払われます。
「解雇通知書を受け取ったときの対応」の解説
未払い賃金や退職金の清算
解雇されたとしても、労働者には未払い賃金や退職金が支払われます。
倒産による解雇の場合、会社の経済的余裕が十分でないことが多いものの、労働債権は他の一般債権より優先するため、倒産手続きにおいてできる限りの清算が行われます。また、万一賃金が払われないときは、未払賃金立替払制度を利用します。
「会社を解雇されたらやること」の解説
解雇通知のタイミング
倒産に伴う解雇通知のタイミングについて、原則として、30日前に労働者に対して行うべきです。というのも、労働基準法20条による解雇予告のルールは、倒産が理由だとしても適用されるからです。そして、30日前の通知の義務を怠った場合、不足する日数分の解雇予告手当が払われます。
倒産を理由とする解雇の場合にも、具体的な解雇理由や解雇日を明示して行う必要があります。また、倒産で会社が消滅する場合は、その理由についても労働者に説明すべきです。
なお、倒産によって解雇される時期やタイミングは、実際に法人格が消滅するのと同時に労働者としての地位を失うケースもありますが、それよりも早く順次解雇していく場合もあります。
「解雇が無効になる例と対応方法」の解説
会社が倒産する場合に労働者が取るべき対応
会社が破産すると、労働者は、急な解雇や給与の未払いに直面してしまいます。そのため、速やかに、適切な対応を取る必要があります。
倒産による解雇を不当解雇として争う
本解説の通り、倒産による解雇は、不当解雇となる可能性があり、その場合には、徹底して争うことを選択すべきケースもあります。
まずは、解雇通知書や解雇理由証明書を確認して、解雇日や解雇理由が法的に適切なものかどうかを検討してください。解雇の理由が不当である疑いがあるときは、すぐに会社に対して異議を述べると共に、労働問題に精通した弁護士に相談するのがお勧めです。
「解雇を撤回させる方法」の解説
未払いの給与などを請求する
会社が破産手続きに入ると、破産管財人が選任され、企業の資産が清算されます。労働者は、この手続きの流れを把握し、自身の債権(給与や退職金)を適切に主張する必要があります。
なお、倒産する前兆を早めに察知できれば、労働基準法25条の定める「非常時払」を活用して、給料日前でも、そこまでの労働分の対価を請求することができます。できるだけ早く倒産に気付き、速やかに請求することが、給与の未払いで損してしまわないために重要なポイントです。
「給料未払いの相談先」の解説
退職勧奨に応じるかどうかを検討する
倒産が迫っている企業では、労働者に対して退職勧奨が行われることが多いです。退職勧奨は、会社が労働者に自主的な退職を促す、早期退職の一種です。倒産が間近に迫っているときは、労働者としても、退職勧奨に応じるかどうか、慎重な判断を要します。
退職勧奨に応じてもらうための条件として、会社から、退職金の上乗せや有給休暇の買い取りといった有利な条件が提案されることがあります。このとき、将来の倒産がどれほど現実的なのか、そこまで残って働き続けるのと、提示された条件を飲んで辞めるので、どちらが得なのか、といった点が、判断基準となります。
「退職勧奨の拒否」の解説
倒産によって解雇された時の注意点
最後に、倒産によって解雇される労働者が知っておくべき注意点を解説します。
経営悪化に早く気付くための兆候を知る
勤務先の倒産による弊害を軽減するには、なるべく早く気付くのが重要なポイントです。経営悪化には、いくつかの兆候があるため、それに気付いて早く対処すべきです。
- 給与に遅配や未払いが生じる
- コスト削減のためのリストラが行われる
- 部署の閉鎖、事業の縮小が起こる
- 役員や上司が頻繁に交代する
- 取引先や顧客が減少する
- 財務状況が後悔されなくなる
突然の解雇を予想できないと、収入がなくなり、自身のみならず家族の生活も立ち行かなくなってしまいます。倒産がやむを得ないにしても、早めに察知していれば、再就職先を探したり、いざというときに備えて貯金したりなど、計画的に行動することができます。
「会社をクビになる前兆」の解説
労働条件を確認しておく
経営悪化の兆候に気付くことができたら、次に、自身の労働条件を確認しましょう。労働条件は、雇用契約書や就業規則によって知ることができます。倒産が予想されるときに確認しておきたい労働条件は、次の通りです。
- 給与の支払日や金額
万が一、給与が遅延したり未払いが生じたりした場合、いつ、どのような請求をすべきかを知るために、給与の支払日と金額を把握しておきましょう。 - 退職金のルール
倒産によって解雇されるとき、退職金の有無、支払い条件、支給時期を把握しておくことで、退職金の未払いに備えましょう。通常、退職金規程で明らかにされます。 - 解雇のルール
経営悪化に伴うリストラや早期退職の勧奨が行われる場合があるため、解雇や退職に関する条項についても、就業規則などで確認しておいてください。
「労働条件の不利益変更」の解説
弁護士に相談する
経営悪化が進行している企業では、労働者への配慮は十分でないことが多いです。会社の説明が不十分であったり、倒産するよりも前から給料がもらえなくなったりと、様々な不利益が降り掛かってきます。こうした状況に備えて、早めに弁護士に相談しておくのが賢明です。
労働法を熟知した弁護士に相談し、会社に警告をしてもらう方法によって、倒産するにせよしないにせよ、不当な処遇をしないよう配慮してもらうことができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、会社が倒産した場合の解雇について解説しました。
倒産による解雇は、会社にとってもやむを得ない事情であり、正当な解雇理由として認められてしまいやすいのが現実です。偽装倒産でもない限り、会社そのものが無くなってしまえば、雇い続けてもらうのは不可能です。
しかし、倒産によって解雇されるケースは、未払い給与や退職金など、労働者の権利が侵害されやすい局面です。倒産を受け入れざるを得ないにしても、労働者としての権利は守るべきで、未払いがあるならば、必ず請求しておくようにしましょう。倒産する場合でも、労働債権は優先されるので、適切な手続きを踏むことで保障を受けられる場合もあります。
会社の経営状況に不安を感じたら、不利益を最小限に抑えるために、できるだけ早めに対応策を講じておくことが重要です。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】