経営上の理由から、会社が事業所の閉鎖を決定することがあります。閉鎖されそうな事業所、業績が悪化している企業で働く労動者としては、並々ならぬ不安を感じるでしょう。
たとえ閉鎖されたとしても雇用契約は続くため、余剰人員は転勤を命じられるのが通常。ただ、経営が悪化していたり、転勤先が見当たらなかったりすると、最悪は解雇、つまりクビを言い渡されるケースもあります。確かに、事業所の閉鎖は経営判断ですが、それによって解雇が正当化されるわけではありません。解雇は、労動者の不利益が大きく、法律で厳しく規制されるからです。
事業所閉鎖に伴う解雇は、労働者の責任は全くなく、その有効性は厳格に判断されます。会社から事業所閉鎖の説明を受けても、残りたい意思があるなら、雇用継続を求め、決して退職勧奨には応じないでください。
今回は、事業所閉鎖に伴う解雇と、事業縮小による不当解雇への対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 事業所閉鎖が会社の判断で可能でも、その際の解雇には法規制がある
- 事業所閉鎖のみを理由にした安直な解雇は、違法な不当解雇のおそれがある
- 事業所閉鎖に伴って会社を辞める場合には、失業保険は会社都合となる
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事業所閉鎖と解雇の基本的な考え方
まず、事業所閉鎖と解雇の基本的な考え方について解説します。
事業所閉鎖が決定されれば、今の職場で働き続けることはできません。しかし、だからといって自動的に労働契約が終了するわけでもなければ、解雇が正当化されることもありません。事業所閉鎖という会社の都合によって労動者の地位が奪われはせず、法的な保護を受けることができます。
事業所の閉鎖は経営者が決定できる
まず、事業所の閉鎖については経営判断です。
経営判断というのは、つまり、会社が自由に決定できる事項であるということ。不満があったとしても労動者の立場では争うことができません。労動者は、労働条件や就労環境について意見を言うことはできますが、経営者ではないので、経営判断に口出しすることはできないからです。
事業所単体で赤字が出ていたり経営不振だったりする場合に、「その拠点や事業を止めるべき」と判断するのは経営判断として合理的です。ただ、それだけでなく、施設の老朽化、従業員数の低下、競合する企業の移転、関連企業との事業所の集約など、様々な理由で、事業所を閉鎖する判断をすることがあります。マイナスの小さいうちに事業撤退、業務撤退を決める企業もあります。
そして、これら経営上の判断は会社に裁量があり、明らかに違法でない限り争えません。
配置転換や異動で労働者の雇用を維持する責任が会社にある
「経営判断は会社の自由」というのは、あくまで違法でない範囲に限った話です。
いくら事業所の閉鎖が会社の自由であるといえど、閉鎖に伴う解雇までも自由なわけではなく、全くの別問題です。「閉鎖するからすぐ辞めろ」というのは、解雇に関する法規制に反し、違法の可能性が非常に高いもの。労動者にとってもこのようなことがまかり通ってはあまりに酷です。
解雇は、会社による一方的な契約の終了であり、法律上厳しく規制され、会社には雇用を維持する努力が求められます。解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
多くの企業では、事業所閉鎖によっても雇用を維持できるよう、まず配置転換や異動、転勤といった方法で対処します。自社内での雇用維持が難しい場合は、関連企業への出向やグループ会社への転籍を検討することもあります。
その前提として、事業所閉鎖に至った経緯や今後の処遇の説明が必要です。できるだけ早く、遅くとも事業所を閉鎖する1ヶ月前には、従業員に説明を行うべきです。また、それでもなお、配置転換などに関する業務命令は、不当な動機・目的があったり、労動者に通常甘受しがたい不利益を与えたりする場合は無効になります。
「違法な異動命令の拒否」の解説
それでも余剰が生じる場合の対応と労動者側の対策
以上の手段を検討してもなお雇用の維持が難しければ、会社は雇用を終了する方向で動いてきます。事業所閉鎖による余剰人員は、最終的には辞めざるを得ないリスクがあります。このとき、使用者側が取り得る方法と、労動者側の対策は、以下の通りです。
希望退職の募集
まず、希望退職の募集が大々的に行われる場合があります。プラスとなる条件を付与することで退職を希望する人の応募を求める方法です。代表的なものは、退職金の上乗せですが、それ以外に、有給休暇の買取や転職先の斡旋などを約束する例もあります。
応じて辞めるかどうかは労動者の自由なので、メリットとデメリットを比較検討して、慎重に検討するのが大切です。
「希望退職制度」の解説
降格・減給
事業所が閉鎖されると、その拠点の責任者たる立場も一緒に消滅します(ポジションクローズ)。その結果、異動や転勤など配置転換が可能だとしても、移った先で同じ地位を保証されるとは限りません。たとえ解雇されないにせよ、事業所の閉鎖が、労動者の降格、減給を招くことがあります。
しかし、このような会社側の理由により、労動者の非がないのに一方的にする降格、降給は不当であり、違法の可能性があります。
「労働条件の不利益変更」の解説
退職勧奨
希望退職の募集が功を奏しないと、個別に退職勧奨されます。事業所が閉鎖され、どうしても余剰者を退職させざるを得ないとき、希望退職時よりも上乗せされることがあります。それでもなお退職するかは労動者の任意なので、応じたくない場合は拒否しましょう。
「退職勧奨の拒否」の解説
整理解雇
会社がとる最終手段が、整理解雇。解雇のなかでも会社の経営上の都合を理由とするものであり、事業所閉鎖に伴う余剰人員の解雇は、まさに典型例です。労働者に帰責性のないもののため、かなり厳しい法規制が適用され、簡単には有効になりません。
「事業所閉鎖による解雇が違法になる条件」を検討し、不当解雇のおそれのあるときは、会社と徹底して争うべきです。
「整理解雇の違法性」の解説
事業所の閉鎖を理由に解雇されたときの争い方
事業所の閉鎖を理由とした解雇は、争うことができます。解雇に不当性が疑われるなら、解雇の撤回を求めるべき。復職したくはないというお気持ちでも、不当解雇の解決金をもらって金銭解決する方針を目指すこともできます。
事業所閉鎖に伴って解雇されたとき、争わず転職するのも一つの方法です。争うには費用と労力がかかるので、退職を選択される方もいますが、あきらめてはいけません。
雇用維持の努力をするよう求める
事業所閉鎖を理由に解雇通知書を受け取ったら、まずは争う意思を示し、解雇の撤回を求めましょう。雇用維持の努力が不足しているなら、解雇を避けるための方策を会社に考えさせることが重要です。契約の際に勤務地を限定して雇われていたとしても、転勤を申し出ることも可能です。
勤務地限定契約を結んだ労働者に対しても、会社は一定の配慮をせねばなりません。
裁判例でも、外資系企業が国内2拠点のうち1つを閉鎖し、労動者を解雇した事案で、裁判所は、勤務地限定契約であることを認めながら「支店で雇用したといっても雇用契約は被告と交わされたものであるし、就業場所の限定は、労働者にとって同意なく転勤させられないという利益を与えるものではあるが、使用者に転勤させない利益を与えるものではない」とし、「人員整理の対象者が閉鎖される支店の従業員に自動的に決まるものではない」と判断しました(シンガポール・デベロップメント銀行事件:大阪地裁平成12年6月23日判決)。
事業所閉鎖の説明を求める
解雇通知を受けたら、まず解雇理由証明書を交付するよう求めましょう。解雇理由証明書は、不当解雇の証拠のなかでも特に重要で、交付させることで反論すべき点をより詳細にチェックできます。
解雇の理由が「事業所を閉鎖するから」という以上に説明されていない場合は、より具体的で詳しい経緯説明を求めてください。経営判断に労動者が口出しできないにしても、その説明を求めることはできます。会社としても、納得のできる説明を尽くすことは必要です。
退職勧奨は拒否する
引き続き在職することを望むなら、退職勧奨への正しい対応は拒否の一択です。応じてしまうと復職の要求は極めて困難になるからです。
最初は穏やかな調子でも、事業所の閉鎖日が近づくにつれて、パワハラまがいの態様で退職勧奨が進められることもあります。拒否しても続くなら、違法な退職強要であり、不法行為に該当します。慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することで対抗できるので、その場合に備え、面談時には録音しておくなどの予防策を講じてください。
「退職勧奨のよくある手口」の解説
解雇の違法を主張して争う
解雇を争う方法には、交渉による方法と、裁判による方法があります。いきなり裁判に進むのではなく、まずは任意に撤回してもらえるよう交渉すべきです。しかし、交渉が決裂した場合は、速やかに法的手続きに移行します。
解雇を争う裁判手続きのうち、よく利用されるのが労働審判と訴訟です。労働審判は、労動者保護のために簡易かつ迅速、柔軟な解決を目指せるので、まずはこの制度を利用するのがお勧めです。法的なトラブルは、事業所を相手とするのでなく、使用者となっている法人自体に行います。裁判の相手は法人(代表者)となり、書面や送達は本社に送るのが実務的です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
事業所閉鎖による解雇が違法になる条件
事業所閉鎖による解雇に不満な点があるなら、解雇の有効性を確認しておく必要があります。事業所閉鎖を理由とした解雇が違法となる条件について、会社の経営上の理由による解雇であるため「整理解雇の四要件」の基準によって判断されます。
- 人員削減の必要性
まず、事業所閉鎖が理由になるとしても、人員を削減する必要があるかをチェックします。廃止した事業所の近くに新たな事業所を設けるなど、企業の方針に一貫性がない場合、合理性を欠き、ひいては必要性がないと判断されます。 - 解雇回避の努力義務
事業所閉鎖で解雇をする前に、できるかぎり解雇を回避する努力を尽くしたかを精査します。経費削減や非正規社員の雇止めなど、正社員の解雇に先行すべき手を打っていなければ解雇は無効の可能性があります。勤務する事業所が限定されていても、必要な回避措置が免除されるわけではありません。 - 人選の合理性
解雇がやむを得ない場合も、その対象の人選が合理的な基準に基づき、主観を交えずに行われていることが必要です。閉鎖する事業所で働く労働者だけが解雇の対象となっているとき、会社全体としての配置の適正を考慮しておらず、人選の合理性には疑いがあります。 - 手続の適正性
最後に、解雇にあたって事前に説明や話し合いの機会、労働組合との協議の場を設けられているか、手続きが適正かどうかを検討します。事業所閉鎖の対応に追われて余裕がなく、雑なプロセスで進められてしまうとき、その解雇は違法の可能性があります。
なお、事業所閉鎖、業務撤退や事業縮小などに基づく解雇も、解雇日の30日前に予告をするか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を払う必要があります(労働基準法20条)。特に、事業所閉鎖はある程度の準備が必要で、あらかじめ予測できる場合が多く、突然の解雇は違法となる余地があります。
「解雇予告手当の請求方法」の解説
事業所閉鎖による解雇について判断した裁判例
次に、事業所閉鎖による解雇について判断した裁判例を解説します。
解雇は、労使の対立が如実に表れる労働問題なので、交渉がまとまらず裁判で争われる例も多くあります。
事業所の閉鎖を理由とした解雇が有効とされた事例
複数の大学を経営する学校法人が、数年内に在校生のいなくなる短大の廃校を決定し、そこで働く教授らを解雇した事案。教授らは勤務地限定契約を結んでいた。
裁判所は、勤務地限定は「労働者の同意なくして当該短大以外の場所で就業させられないことを意味するにとどまり、当該短大が閉校される場合において、雇用確保の努力の程度を軽減させる理由となるものではない」とし、学校法人は雇用確保の努力をすべきと判断。ただし、大学の特殊性に鑑み、必要とされる解雇回避努力義務の程度が軽減されています。
つまり、教員の採用権限が、実質的には理事会でなく学長や教授会にある点を考慮し、私企業と違って、学校法人自らの決定によって、他の学校において新科目の創設、教員の配置人数の増加、教員としての採用といった措置を取ることは不可能と評価した。また、学校法人も策を講じなかったわけではなく、短大の教員を対象とした補充人事を各大学に要請するなどの手段をとっていた。
裁判所は、これら以外の方法で雇用の継続を提案するのは著しく困難だとし、解雇回避努力を十分に尽くしたものと認め、解雇を有効なものと判断した。
事業所の閉鎖を理由とした解雇が無効とされた事例
タクシー乗務員として勤務した労働者が、事業譲渡による営業所閉鎖によって解雇された事案。
裁判所はまず、損益悪化、大幅な債務超過から税や社会保険料の滞納に至り、場合によっては人員削減を含む抜本的な経営再建策が必要であったと認めた。しかし「経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることは困難」だとし、解雇の必要性を否定した。
また、本件解雇後に、事業譲渡先に被解雇者の雇用を要請したり、被解雇者の一部に事業譲渡先への就職を勧誘するなどした事情があるとはいえ、十分ではないと判断。説明会は実施したものの、事業譲渡について一切言及せず、抽象的な解雇理由を示しただけで、団体交渉の要求にも応じていないことなどから、解雇について十分な説明・協議が行われたとはいえないと判断し、結論として、本件解雇を無効とした。
「労動者が裁判で勝つ方法」の解説
事業所閉鎖を理由とする退職は会社都合となる
事業所閉鎖を理由とする退職は、会社都合となります。失業保険をすぐに受給できる特別受給資格者として、「事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む。)に伴い離職した者」を挙げており、事業所閉鎖によって会社を辞める方は、まさにこれに該当するからです。
事業所閉鎖の影響で会社を辞めざるを得なくなった人にとって、退職理由が会社都合か自己都合かは、重要な関心事となります。この点の違いが、失業保険に影響するからです。会社都合なら待機期間(7日間)の後すぐ失業保険を受給できる一方、自己都合退職では給付制限期間(2ヶ月)があります。受給の上限額も、会社都合の方が労動者にとって有利です。
事業所閉鎖で退職するのは「会社都合退職」が正解にもかかわらず、残念ながら「自己都合退職」扱いにしてくる会社もあります。このようなブラック企業は、労働法の知識がないか、または、社員に対するハラスメント、嫌がらせをしている可能性があります。悪質な会社では、事業所の閉鎖を言い訳にして、必要のない解雇をしてくることも。これだと、トラブルのない退職が叶いません。
離職票を受け取ったとき、離職理由に誤りがあるなら、ハローワークに必ず異議申立てを行い、会社都合退職と判断してもらうようにしてください。
「失業保険をもらう条件と手続き」の解説
事業所閉鎖による解雇についてのよくある質問
最後に、事業所閉鎖による解雇についてのよくある質問に回答しておきます。
なお、事業所閉鎖による解雇と類似のケースとして、事業縮小や事業撤退による解雇が問題となることがあります。事業縮小も事業撤退も、結局は「就労していた拠点がなくなる」という点では事業所閉鎖と共通しますが、区別して対応するのが重要です。
事業縮小による解雇は争うことができる?
事業縮小による解雇は争うことができます。
理由によらず、その意思表示が使用者による一方的な雇用契約の終了なら、解雇に関する法規制が適用されるからです。事業縮小による解雇には、事業所単位での閉鎖だけでなく、部門や部署単位で働きどころがなくなるケースもあります。
いずれの場合も不当解雇でないかを精査すべきですが、場所的な拠点を移動する必要がない分、事業所を閉鎖する場合に比べて更に、解雇が違法となる可能性は高いです。
事業撤退による解雇は争うことができる?
経営者の高齢化や後継者不足などを理由に、やむなく事業撤退することがあります。外資系企業が日本でのビジネスを終了するケースもあります。唯一の事業を撤退する場合、会社の清算手続きをとることもあります。
事業撤退による解雇も争うことができます。労働契約において約束した職種や事業が消滅したとしても、他に事業が続いているなら、会社は、できる限り解雇回避の措置を講じる必要があります。
ただし、雇用されている法人が消滅すると、残念ながら契約関係は当然に終了しますし、その直前にされた解雇も有効となると考えられます。
事業所閉鎖を理由に退職勧奨されたときの対応は?
事業所閉鎖を理由に退職勧奨されたとしても、退職するかどうかは労動者の自由なので、必ずしも応じなくてもよいです。拒否してもなお働きかけが続くならば、違法な退職強要の疑いが強く、会社の責任を追及して争うことができます。
自分の働く事業所が閉鎖されるなら転勤を、職種がなくなるならジョブチェンジを、労動者側から提案することによって会社に残れる確率を上げることができます。
ただし、事業撤退をする会社は、赤字の可能性も高いので、賃金未払いのリスクも踏まえて対応を検討してください。
まとめ
今回は、事業所の閉鎖による労働者への影響と、解雇への対処の仕方を解説しました。
働き慣れた事業所が閉鎖されてしまうと、不利益やダメージは大きいでしょう。その上に不当な解雇の被害に遭ってしまったら、有効性を争う必要があります。事業所閉鎖が経営判断であるとしても、多くの企業ではいきなり解雇されることはなく、転勤や異動などの措置に講じて雇用を維持しようとします。しかし、労動者の生活をないがしろにし、退職に追い込もうとするブラック企業もあります。
事業所閉鎖にともなう解雇トラブルに巻き込まれた場合、労動者一人で対処するのは難しいのではないでしょうか。すぐにでも弁護士に相談することをおすすめします。なお、閉鎖された事業所の近くに労働問題に強い弁護士が見当たらない場合、本社の近くで法律事務所を探すことも視野に入れてください。
- 事業所閉鎖が会社の判断で可能でも、その際の解雇には法規制がある
- 事業所閉鎖のみを理由にした安直な解雇は、違法な不当解雇のおそれがある
- 事業所閉鎖に伴って会社を辞める場合には、失業保険は会社都合となる
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