社内恋愛は、恋愛中はとても楽しいですが、うまくいかなくなると、途端に居心地が悪くなります。
ブラック企業ほど社内恋愛、社内結婚が多いのではないでしょうか。サービス残業、長時間労働で会社に拘束されつづける環境では、会社の同僚くらいしか出会いがない場合もあります。
社内恋愛はもちろん、更に社内結婚にいたった場合や、残念ながら別れてしまった場合、男女どちらかが退職するというケースもあります。
大きなトラブルとなって業務に影響すれば、会社の判断により「解雇」という事態になってしまうこともあります。
この場合、多くのケースでは、女性側が身を引くことが多いのではないでしょうか。しかし、これは、昭和の時代から続く「男尊女卑」の考え方を引きずるもので、あまり適切とはいえません。
社内恋愛で、業務には全く支障を生じさせていないにもかかわらず、解雇されてしまった場合、不当解雇のおそれがあります。対処法について、弁護士が解説します。
目次
1. 会社は社内の男女関係のルールを作れるの?
会社は、労働者と雇用契約を結んでいます。
雇用契約に基づいて、会社は労働者に対して業務についての命令をすることができ、これに対して、労働者は会社に対して、賃金を請求できます。
そのため、業務に関することや、会社内の秩序に関することについては、労働者は、会社の命令が合理的であれば、これにしたがわなければなりません。
今回とりあげる「社内恋愛」「社内結婚」は、厳密には業務それ自体ではないものの、会社の内部で起こることです。
会社は、社内の男女関係について、ルールをつくることができるのでしょうか。また、労働者は、会社がつくった男女関係に関するルールを守らなければならないのでしょうか。
1.1. 社内ルールは就業規則にあり?
会社は、各事業所ではたらく労働者が10人をこえると、就業規則を作らなければいけません。
就業規則は、会社内ではたらく際のルールを決める重要なものです。
会社内のルールのうち、個人ごとに決めずに統一的に決めたいものについては、就業規則に決める場合が多いです。したがって、社内ルールは就業規則を見ればわかります。
ただ、社内恋愛、社内結婚の禁止といったルールは、就業規則には書いていないことが多いです。
実際に社内恋愛、社内結婚を事実上禁止しているような会社では、経営者や上司が口頭で伝えたり、ひどい場合には張り紙をしたりなど、パワハラ的な伝え方のことも少なくありません。
1.2. 社内恋愛を会社が禁止できる?
「恋愛禁止」というアイドルは多いですが、「社内恋愛禁止」というルールのある会社も多いです。
会社が社内恋愛を禁止するのは、さきほど説明しました「企業秩序維持」という目的が強いです。
例えば、社内恋愛したカップルが、次のような行為によって、社内の秩序をみだし、業務の遂行を困難にすることがあります。
- 業務時間中にいちゃいちゃしていて、他の従業員の気が散る。
- 業務時間中にプライベートのことを話して業務を中断する。
- 社内恋愛がうまくいかなくなり、退職してしまう。
- 有給休暇を2人でまとめてとるので、人員が不足する。
- 社内メールやチャットでカップルの会話をして仕事が進まない。
社内恋愛中に、カップルがまわりを見えなくなってしまうと、このような問題が起きる可能性があります。事前に会社が「社内恋愛禁止」というルールを設定することがあるのは、そのためです。
恋愛は個人の自由ですから、会社といえども、社内恋愛を一律に禁止できるわけではなく、「社内恋愛が禁止であること」に合理性がなければいけません。
したがって、全く会社に迷惑をかけず、業務に支障を及ぼさない社内恋愛まで禁止することは、違法である可能性があります。
1.3. 社内結婚を会社が禁止できる?
社内恋愛を禁止することと同様、社内結婚を禁止することも、会社が一律に行うことは困難です。
恋愛が個人の自由であるのと同様、結婚もまた個人の自由であるからです。
そのため、社内結婚が、業務に支障を生じさせているかどうかがポイントとなります。
社内恋愛、社内結婚が不倫だった場合には、もう少し話がちがってきます。
不倫であろうが、プライベートのことであれば、不倫だけを理由に解雇したり、懲戒処分としたりすることはできません。
しかし、会社は企業の秩序を維持しなければならないという目的があり、社内で不倫をすることは、企業秩序に悪影響を及ぼします。
不倫がばれて配偶者から会社に対して嫌がらせをされるなど、企業秩序に影響してしまうような場合には、会社からの処分があるおそれもあります。
弁護士の立場からいえば、不倫をすることは、相手の配偶者から慰謝料を請求されるおそれの高い行為であるため、全くお勧めできません。
2. 社内恋愛禁止、社内結婚禁止のルールに違反したら?
社内恋愛禁止、社内結婚禁止について、合理的な理由がある場合には、次に、ルールに違反した場合の処分について検討します。
会社が労働者に対して、社内恋愛、社内結婚をしないようなプレッシャーをかけるために行う行為で多いのは、次の2つです。弁護士への法律相談も、この2つが非常に多いです。
- 社内恋愛、社内結婚をしたカップルを引き離すために異動(配置転換)を行う。
- 社内恋愛、社内結婚の禁止違反として解雇、退職強要をする。
では、社内恋愛、社内結婚を理由に、配置転換、解雇をされた場合、どのような点に注意したらよいのか、弁護士が解説します。
3. 社内恋愛で配置転換(出張、異動)された場合の対処法
社内恋愛、社内結婚をしたことを理由に、カップルの片方を異動させる会社も少なくありません。
この場合、まずは、配置転換(出張、異動)が有効であるかどうかを考え、対処法を検討します。
裁判例上も、業務上の必要性がある場合には、会社は労働者に対して、異動を命令することができます。
しかし、業務上の必要性がない場合や、労働者に対して与える不利益が大きい場合には、社内恋愛、社内結婚を理由とした異動は許されません。
例えば、社内でいちゃいちゃしていたり、カップル間の喧嘩を業務に持ち込んだりするような場合、業務上の支障が大きく、異動をさせる業務上の必要性があると言わざるを得ません。
社内恋愛、社内結婚をする場合には、異動の業務上の必要性が生まれないよう、注意して業務を遂行しなければなりません。
4. 社内恋愛で解雇された場合の対処法
社内恋愛、社内結婚をしたことを理由に、カップルの片方を解雇するような会社も少なくありません。古い、昔ながらの考えを持つ経営者が多いのではないでしょうか。
多くの場合、解雇の被害者となるのは、カップルのうちの女性側であることが多いです。
社内恋愛、社内結婚を理由に解雇する場合だけでなく、自主的に退職するよううながしたり(退職強要、退職勧奨)、退職をしないと居づらくなるように嫌がらせをしたり(パワハラ、職場いじめ)といった労働問題もあります。
4.1. 社内恋愛、社内結婚を理由に解雇は有効?
社内恋愛、社内結婚を理由とした解雇は、許されるのでしょうか。
法律には、次のような定めがあります。すなわち、「男女雇用機会均等法」という法律に定められているとおり、結婚したこと自体を理由として女性労働者を解雇することは、違法です。
男女雇用機会均等法9条2項事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
さらに、社内結婚を理由とした女性の解雇ではない場合であっても、解雇には、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由が必要となります。
多くの社内恋愛、社内結婚の場合、合理的な理由には該当しないと考えられます。
これは、たとえ会社が就業規則で「社内結婚=解雇」と定めたとしても、法律のルールが優先されます。
4.2. 内容証明で退職、解雇を拒否する
まず、社内恋愛、社内結婚を理由として、ブラック企業からしつこい退職勧奨を受けている場合には、この退職勧奨が違法となることを通知し、証拠に残す必要があります。
退職勧奨の中止を求める通知書を、会社に対して内容証明郵便で送ります。
というのも、退職を勧めること自体は会社に許されており、社内恋愛、社内結婚を理由としていたとしてもこれは同様です。女性労働者が自主的に退職するのであれば、退職は有効であり、後から争うことができなくなります。
解雇も同様です。
さきほど解説したとおり、特に社内結婚を理由とした女性労働者の解雇は違法となりますが、女性が自発的に退職するのであれば、退職は有効です。
4.3. 「社内恋愛、社内結婚により解雇」と会社にいわせる
次に、解雇の理由を明らかにしてもらいます。
会社は、労働者を解雇する場合や、解雇予告をした場合には、労働者が求める場合には、その理由を伝えなければなりません。
解雇理由証明書に関する労働基準法の条文は、次のとおりです。
労働基準法22条
- 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
- 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
解雇理由証明書を要求しておくことによって、「社内結婚」「社内恋愛」以外の理由を、あとで裁判で持ち出されないようにしておく必要があります。
5. 社内結婚をして、退職する方がよいケース
以上のとおり、「社内結婚=退職」という考え方は、古いです。現在では、社内結婚をしながらうまく夫婦ともに仕事を続けているというケースも多くあります。
一方で、社内結婚をして、退職、退社をした方がよいケースもあります。
ただ、この場合であっても、社内恋愛から社内結婚を決断するまでの間に、しっかりと検討しておけば回避できた問題もあります。
社内恋愛、社内結婚は、突然のタイミングです。事前に準備がどうしてもできず社内結婚をしてしまった場合で、退職を検討した方がよいケースを、弁護士が解説します。
5.1. 夫婦間に、出世の格差が大きい場合
社内結婚をした夫婦のうち、片方が大幅に出世していて、もう一方はあまり出世に興味がないという場合、片方の出世を助けるために、もう一方の夫婦は「家に入る」、もしくは「より責任の軽い仕事に転職する」という選択肢が検討できます。
現在、女性活躍が叫ばれてはいますが、このケースでは、夫婦のうち、女性の方が身を引くというパターンが、まだまだ多いのではないでしょうか。
今後は、社内の立場、仕事への興味関心の強さによっては、女性が会社に残り、夫側が転職、退職、退社という選択肢をとることも考えられます。
5.2. 出産、育児に専念したい場合
社内結婚をした後に、出産、育児の予定があるとしても、ただちに退職、退社しなければならない理由とはなりません。
会社は、「育児介護休業法」という制度にしたがって、社内結婚の後に出産を予定している労働者(社員)に対して、次のような休業などを提供しなければならないこととされています。
- 産前・産後休暇
- 育児休業
- 時間外労働の制限
- 深夜労働の制限
- 子の看護休暇
- 勤務時間の短縮
これらの恩恵を利用して、出産、育児が可能なのであれば、退職、退社を勧めるわけではありません。
ただ、社内結婚をした夫婦の考え方で、「出産、育児に専念したい。」という場合には、退職、退社や、より責任の軽い仕事への転職を検討するのもよいでしょう。
5.3. 社風が社内結婚を許さない場合
社風として、社内結婚は許さないという社風があります。
社内結婚、社内恋愛を許さないという社風の是否は、すでに解説しました。しかし、いまだに社内恋愛、社内結婚に厳しい会社は多いです。
会社が社内結婚を許さない、でも、社内結婚をしてしまった場合、退社を検討するのも1つの手です。
仮にはたらき続けたとして、嫌がらせやパワハラの対象となるおそれもあります。
むしろ、そのようなブラック企業であれば、いずれにしても退職を検討した方がよいのではないでしょうか。
退職の際、慰謝料などを請求することを検討する場合は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
6. 社内恋愛中、社内結婚後もはたらくとき注意しておくこと
社内恋愛、社内結婚中であって、はたらくときに、注意しておかなければならないことがあります。
会社の秩序を乱すような行為があれば、それは社内恋愛、社内結婚が禁止であるかどうかにかかわらず、懲戒処分や解雇の理由となる可能性があります。
社内恋愛、社内結婚が業務に影響を与えないように、次のことには最低限注意しておいてください。
- 社内恋愛中、社内恋愛前とで、カップル同士の態度を変えない。
- 社内で、プライベートな会話をしない。
- 社内恋愛している相手と他の同僚とで業務中の態度を変えない。
- 始業・終業時刻に影響を与えない(遅刻、早退など)。
- 飲み会、懇親会など社内行事では、社内恋愛中の相手ばかりと一緒にいない。
- 有給休暇の日程を合わせることが業務に支障を与えないか検討する。
7. まとめ
社内結婚、社内恋愛それ自体を理由として、解雇、異動をされた場合の対処法について解説しました。
そもそも、結婚、恋愛は個人の自由であって、会社といえども、完全に自由に禁止できるわけではありません。
一方で、労働者の側でも、社内結婚、社内恋愛をする場合には、会社の業務に支障を生じないよう、節度を守って行う必要があります。
会社の業務に支障を生じさせ、企業秩序をみだす行為があれば、たとえ個人の自由に属する結婚、恋愛であっても、解雇の合理的な理由となるケースもあります。
社内結婚、社内恋愛に対する会社の処遇に疑問、不安がある場合には、労働問題に強い弁護士へご相談ください。