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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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残業代の翌月払いは違法?繰越や退職・昇給時の支払いルール

残業代は働いた分の正当な対価なのに、支払い時期が遅れることがあります。

残業代の支払い時期に関する疑問は、労働者の多くが抱えています。

相談者

残業代が翌月払いなのは、法的に問題ない?

相談者

翌月払いの場合、退職したらいつもらえる?

支払い時期については、残業代もまた基本給と同じ扱いです。つまり、賃金に関する労働基準法のルールが適用され、毎月定期的に払わなければなりません。残業代だからといって翌月に後回しにするのは許されません。

今回は、「残業代の翌月払いは違法か?」という疑問に回答し、法律上の残業代の支払い時期のルールについて労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 就業規則などで支払日を定めれば、残業代の翌月払いが可能な場合あり
  • 残業代は、労働基準法の「賃金」に含まれ、毎月一定期日に払う必要がある
  • 退職時は、残業代を含めて、未払賃金を全て7日以内に支払う義務がある

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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残業代の翌月払いは違法?

はじめに、残業代の支払いを翌月に行うのが違法かどうか、解説します。

結論として、就業規則や雇用契約書で支払日を明確に規定した場合、必ずしも違法ではありません。ただし、支払いを先延ばしにする繰り越しや後払いは違法になる可能性が高いです。

就業規則の定めがあれば違法ではない

残業代の翌月払いは、就業規則や雇用契約書に支払日を明記すれば、違法ではありません。

労働基準法24条は「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」(同条2項)と定めています。ここでいう「一定の期日」とは、企業が賃金の締切日と支払日を明確に規定し、その期日に支払うことを意味します。

多くの企業が「月末締め・翌月25日払い」「20日締め・翌月10日払い」などを採用するのは、当月の勤怠データや残業時間を集計する作業に、一定の時間を要するからです。

就業規則の変更は勝手にできる?」の解説

支払いを先延ばしする「繰越」「後払い」は違法

一方で、残業代の支払いを先延ばしにするのは、労働基準法24条違反のおそれがあります。

翌月払いとして就業規則などに明記されている場合は適法ですが、これは、定められた支払期日を過ぎて支払う「後払い」とは別の問題です。

労働基準法は、賃金(残業代を含む)を「毎月一回以上、一定の期日」に支払うことを企業に義務付けます。つまり、残業代の支払いを翌々月や、更に先に繰り越せば、違法な未払いとまります。遅延が常態化すると、労働基準監督署による是正勧告が行われ、改善を指示される可能性もあります。

残業代の後払いは違法?」の解説

残業代の支払い時期に関する法律

次に、残業代の支払い時期について定めた法律を解説します。

残業代も、基本給と同じく「賃金」の一部なので、労働基準法24条の「賃金支払いの5原則」が適用されます。つまり、会社は労働者に、定期的に・遅れなく・全額を払わなければなりません。

賃金支払いに関する5原則

労働基準法24条では、会社が労働者に賃金を支払う際の基本的なルールとして、次のように「賃金支払いの5原則」を定めています。

  • 通貨払い
    現物や商品券などで支払うことはできません。ただし、労働者の同意がある場合に限り、銀行振込も可能です。
  • 直接払い
    特別な事情がない限り、労働者本人に直接支払わなければなりません。
  • 全額払い
    会社は、賃金を全額支払う義務があり、中抜きや控除は許されません。
  • 毎月一回以上
    賃金は少なくとも月に1回は支払う必要があります。
  • 一定期日払い
    支払日を曖昧にしたり、その都度変更したりすることはできません。

残業代も賃金の一部である以上、この原則が当然に適用されます。そのため、残業代だけを翌々月に回したり、一部しか支払わなかったりすることは、原則違反となります。この原則に反する場合は労働基準法違反となり、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則を受ける可能性があります。

労働基準法違反」の解説

毎月の給料日に払うのが基本

残業代は、基本給と同様に「毎月の給与支払日」にまとめて支払うのが原則です。

前述の「毎月一回以上、一定の期日」に払うという義務が残業代に適用されることから、就業規則や雇用契約書に特別な定めがない限り、残業代は基本給と同日に支払うべきだと考えられるからです。残業代の計算が遅れると、支払い漏れや計算ミスが発生しやすくなってしまいます。

未払い賃金を請求する方法」の解説

就業規則で支払日を決めている場合

就業規則や雇用契約書で支払日を決めている場合は、それに従います。

つまり、労働契約上、「翌月払い」というように明確に定めれば、残業代を、基本給の翌月に支払う方法も違法ではありません。

この場合、「賃金支払いに関する5原則」との関係では、あらかじめ支払日が定められていれば、翌月払いであってもその期日に支払えばよいこととなります。確かに、残業代は「賃金」に含まれますが、その締め日や支払日を、基本給と分けて設定することも問題ありません。

例えば、基本給を「当月30日締め、当月25日払い」と定める会社において、残業の実績を見てからしか支払えない残業代について翌月払いとしているケースがあります。

給料日が土日祝日の場合

給料日が土日祝日に重なる場合、民法142条は、期間の末日が休日に当たる場合は、取引をしない慣習がある限り翌日に満了する旨を定めます。つまり、法律上は、給料日が土日祝日の場合、翌営業日に払えばよいこととなります。

多くの企業では、給料の支払いは銀行振込を利用しているため、金融機関の休業日と重なる場合には翌営業日払いとしても違法ではありません。

なお、念のため、就業規則や雇用契約書において、給与の支払日が休日の場合には翌営業日に支払うことを定めておくべきです。また、労働者保護の観点からは、可能なら、前倒しでの支払いを検討するに越したことはありません。

労働問題に強い弁護士」の解説

残業代の翌月払いが違法となるケース

次に、残業代の翌月払いが違法と判断されるケースについて解説します。

定められた支払日を過ぎて支払う、賞与に含めて後払いする、一部のみを支払うといった運用は、いずれも賃金支払いに関するルールに反しており、違法です。

給料日を過ぎて支払うケース

就業規則上の期限を過ぎてから残業代を支払うことは、支払いの遅延となるため違法です。

賃金の支払い遅延や、不十分な勤怠管理がある場合、労働基準監督署の是正勧告の対象となり得ます。支払いの遅れている給料や残業代を請求する際は、遅延損害金や遅延利息を合わせて請求したり、悪質な場合には付加金の支払いを命じてもらえたりするケースもあります。

労働基準監督署の是正勧告」の解説

賞与(ボーナス)でまとめ払いするケース

残業代は働いた分を毎月支払う必要があるのに対し、賞与(ボーナス)は、一定期間を対象としてまとめ払いが多いでしょう(例:夏季賞与・冬季賞与・決算賞与など)。まずこの点からして、残業代を賞与に含めることはできません。

よくあるのは、会社が「残業代はボーナスに含めて支払った」と主張し、それ以上の金額を支払わないケースです。このとき、就業規則や雇用契約書、給与明細などを見ても「何時間の残業代が支払い済みなのか」が不明確だと、未払いの有無が判別できなくなってしまいます。

この問題は、固定残業代(みなし残業手当)とも共通します。つまり、給与や手当に残業代を含んで支払うとき、何時間分が残業代として払われているかを明確に区分した上で、差額が生じる場合には追加で支払う必要があるとされています。

ボーナスに残業代を含むのは違法」の解説

残業代の一部しか支払わないケース

残業代を一部しか支払わないと、未払い残業代が生じることとなります。

残業代に関するルールは労働基準法37条に定められており、残業した時間帯によって、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を越えて働いた場合には時間外割増賃金として通常の賃金の1.25倍(月60時間を超える残業は1.5倍)、「1週1日または4週4日」の法定休日に働いた場合には休日割増賃金(休日手当)として通常の賃金の1.35倍、深夜労働(午後10時〜午前5時)には深夜割増賃金(深夜手当)として通常の賃金の1.25倍(深夜かつ残業なら1.5倍)を支払う必要があります。

これらの残業代(割増賃金)について、「今月は概算で支払い、来月に調整する」「仮払いとして一部だけ渡す」といった運用は、法律上認められていません。また、前述の通り、「固定残業代を払っているから、それで支払い済み」という扱いも違法であり、実際の残業時間が、あらかじめ固定で支払われた時間を超えれば、超過分の残業代を別途支払う義務があります。

加えて、「今月は多く残業したから、翌月は少なく働いて調整する」といった月を跨いだ繰り越し精算も違法であり、残業代は、毎月の賃金締切日ごとに清算しなければなりません。

残業代を取り戻す方法」の解説

残業代の支払いが遅れた場合の対応は?

次に、残業代の支払いが遅れた場合の、労働者側の対応について解説します。

残業代の支払いが遅れるのは労働基準法違反であり、厳しく請求すべきです。会社が支払いを拒むなら、労基署への通報や弁護士による法的請求を検討しましょう。迅速な解決のため、証拠(就業規則・賃金規程・賃金台帳・勤怠データ・タイムカードなど)を準備するのが有益です。

遅延損害金や付加金を請求する

残業代の支払いが遅れた場合、遅延損害金や付加金も合わせて請求しましょう。

遅延損害金は、賃金の支払いが期日を過ぎた際に生じる賠償金のことで、在職中の未払いに対しては2020年4月1日以降の利率は年3%が適用されます。一方、退職後は「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃金支払確保法)の定める年14.6%の利率が適用されます(遅延利息)。また、会社が故意に支払いを遅らせたり、不誠実な対応を取ったりした場合、裁判所の判決によって付加金の支払いを命じてもらうことができます。

これらの金銭は、賃金を遅延させた会社への制裁を意味するので、請求してプレッシャーをかければ、支払いを促すことができます。残業代の時効は3年となっており、早めの請求が重要です。

未払い残業代の遅延損害金」「付加金」の解説

労働基準監督署に通報する

残業代の支払いが大幅に遅れている場合は、労働基準監督署(労基署)に相談・申告しましょう。労基署への相談は無料で行うことができ、匿名での申告も可能です。労働者が相談し、監督官が調査をした結果、未払いが発覚すれば是正勧告を下してもらえる可能性があります。

なお、労基署は行政機関であり、強制的に未払い分を回収してくれるわけではありません。確実に支払いを受けたいなら、次章の通り、弁護士を通じた法的請求を検討すべきです。

労働基準監督署への通報」の解説

弁護士に相談して法的に請求する

労働基準監督署に相談しても解決しない場合や、確実に未払い残業代を回収したい場合は、弁護士に依頼して法的に請求する方法が有効です。

まずは会社に対して内容証明で支払いを請求し、応じない場合は、労働審判や訴訟といった裁判手続きでの請求が可能です。労働審判は原則3回以内の期日で解決を目指す簡易的な手続きで、スピーディーに結果を得やすいメリットがあります。

弁護士費用は、回収できた残業代の16%~30%程度が目安です。「完全成功報酬制」や「初回相談無料」の法律事務所もあるので、費用面が心配な場合でも、まずは相談してみてください。

残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説

【ケース別】残業代支払い時期について

最後に、残業代支払い時期についてケース別で解説します。

残業代は、原則として毎月の給料日に支払われますが、退職・昇給といった状況では処理が複雑になり、取扱いを誤る企業も少なくありません。

退職が決まった場合の残業代は?

退職する場合、残業代も含めて全ての未払い賃金について、労働基準法23条により、労働者の請求から7日以内に支払わなければならないと定められています。これは退職理由を問わず、会社に義務付けられたルールです。

退職したらやることの順番」の解説

月の途中で昇給した場合の残業代の計算は?

月の途中で昇給があった場合の残業代計算についても解説します。

この場合、残業代は昇給前後の賃金をもとに按分して計算することととなります。例えば、月の前半(昇給前)に20時間、後半(昇給後)に10時間の残業をした場合、それぞれの期間の基礎賃金を別々に算出し、各残業時間を乗じた上で合算します。昇給前の低い時給で全期間を計算したり、昇給後の金額を一律に適用したりするのは誤りです。

残業代の基礎賃金には、基本給のほか職務手当や皆勤手当なども含まれる一方で、通勤手当や家族手当などの性質上除外される手当もありますので注意が必要です。

残業代の計算方法」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、残業代の支払いを「翌月払い」とすることについて解説しました。

残業代が「翌月払い」だからといって、直ちに違法になるとは限りません。就業規則や雇用契約書などで明確に定めて労働契約の内容とされており、その賃金の支払期日通りに支払われているなら、翌月の支払いでも労働基準法には違反しません。

しかし一方で、支払期日を過ぎても残業代が支払われなかったり、一部は翌月に支払うと言われたりするケースは、継続的に未払いが生じるおそれがあります。賞与などに含めて支払ったり、退職後も未払いが放置されたりするケースも、違法の可能性が高いです。これらの場合、労働基準監督署に相談したり、弁護士に依頼して法的に請求したりすることを検討すべきです。

残業代の支払いが違法なのではないかと感じたら、まずは冷静に就業規則を確認し、証拠を集めた上で弁護士に相談するのがお勧めです。

この解説のポイント
  • 就業規則などで支払日を定めれば、残業代の翌月払いが可能な場合あり
  • 残業代は、労働基準法の「賃金」に含まれ、毎月一定期日に払う必要がある
  • 退職時は、残業代を含めて、未払賃金を全て7日以内に支払う義務がある

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