副業をする労働者は、昨今、増加しています。「本業だけでは食っていけない」という消極的な副業ばかりではなく、多様な働き方が推奨され、社外において能力を生かせるとして、肯定的にとらえられるケースも多いです。
しかし、「本業を頑張ってほしい」というように、副業を敵視する会社はまだまだ多いもの。副業が禁止されていたり、許可制とされていたりする企業もあります。このとき、「どこまでの範囲が禁止される副業なのだろうか」という疑問が生まれるでしょう。
副業を厳しく禁止する会社だと、バレると懲戒処分や解雇の対象となってしまいます。自分では「副業」したという気持ちがなくても、パワハラされてしまうケースもあります。
会社に影響の少ない仕事や、家庭の事情でやむを得ないものでも「副業」なのでしょうか。今回は、副業禁止の範囲について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 副業は、憲法の「職業選択の自由」による保障により、自由なのが原則
- 副業は、本業以外で収入を得られ、かつ、本業への支障が大きいとき禁止できる
- 副業禁止の範囲がどこまでか疑問のあるとき、就業規則のルールを確認する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
副業禁止は違法?
働き方改革において「副業解禁」が話題になりました。「副業」と聞いて、あなたはどのような仕事を思い浮かべるでしょうか。副業が当たり前になった現代、副業としてできる仕事も多様化していて、人によって、副業で行いたい仕事も異なります。
ネットオークションやメルカリで持ち物をお小遣いに変えるのは、誰しもしているでしょう。このような収入への影響の小さい行為も、「本業以外でお金を得ている」という意味では「副業」の一種ということができます。
その一方で、競合のライバル企業でこっそり働く、情報を漏洩するなどといったように、会社に大きな悪影響のある副業もあります。
副業について、禁止も許容も、法律にはルールが定められていません。ただ、憲法では「職業選択の自由」が保障されますから、どのような仕事をするかは労働者の意思次第です。そのため、副業は自由にすることができるのが原則であり、禁止はあくまで例外です。
このとき、会社の業務に、多大な支障があるような副業は、例外的に禁止できます。例外的に副業を禁止できる場合も、どのような副業が禁止なのか、就業規則などでルールを明らかにし、労働者にもわかりやすく説明されていなければ、その禁止に従う必要のないケースもあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
副業禁止の範囲はどこまでか
会社から「副業は禁止」と指示されたとき、どこからどこまでの副業が禁じられるのでしょうか。具体的に指示するのが会社の適切な対応ではありますが、そうでない企業もあります。
そこで、労働者がよく行うことのある業務ごとに、副業の考え方について解説します。
転売・オークションは?
ヤフオクやメルカリの普及により、個人でも転売により収入を得るのが容易になりました。転売やオークション、通販も、本業以外で収入が得られますから、副業の一種です。
ただ、一個人がする転売やオークションが、禁止される副業に当たる可能性は低いです。自分の購入した私物、不用品を売って収入を得ても、本業への影響は少ないからです。一方、多額の仕入れをし、転売ビジネスで収益を上げようとすれば、副業として禁止されるおそれがあります。転売が「ビジネス」として行われる場合には、多くの時間を費やすこととなり、本業がおろそかになる危険もあるからです。
アフィリエイトは?
アフィリエイトもまた、片手間でする副業なら、禁止される範囲には含まれないと考えてよいでしょう。個人ブログで収入を上げる、といった稼ぎ方も、現代ならではです。
なお、アフィリエイトの収入は、稼ぎの割には手間がかかることも多いもの。「放置しておくだけで月10万円」といった簡単に儲かるという内容の広告は、詐欺の可能性もあります。アフィリエイトで収益を得るため、多くの作業が発生するとき、労働時間が長くなれば禁止される副業の範囲に含まれる可能性は高まります。
風俗・キャバクラは?
女性労働者の場合、風俗やキャバクラなどの水商売という副業の選択肢もあります。しかし、勤務する本業が堅い会社であるほど、水商売で働くことは禁止されやすいです。風俗やキャバクラで働いていたと広まれば、会社の名誉、信用を害するおそれがあるからです。
「キャバクラでの副業は会社にバレる?」の解説
親族の会社の役員は?
親族の会社の役員に就任するよう、依頼されることがあります。このときにも、本業の会社が副業禁止だと、「抵触するのではないか」という疑問があるでしょう。しかし、親族の会社の役員になる程度なら、本業に大きな影響はなく、禁止される副業の範囲には含まれないと考えられます。
ただし、業種が同じであるなど、競合しないかどうかは注意を要します。役員になると、会社法によって、副業禁止よりも重い「取締役の競業避止義務」を負うからです。親族の会社の役員となった結果、本業の業種と重複していると、禁止される副業となるおそれがあります。
「名ばかり役員の違法性」の解説
株式投資・FX・仮想通貨は?
株式投資、FXや仮想通貨など、投資もまた、本業以外の収入となります。仮想通貨投資は流行し、サラリーマンでも「億り人」になる人もいます。これらの、いわゆる「利殖」は、禁止される副業の範囲には含まれないと考えてよいでしょう。
投資は、どのような方法でも「労働」はなく、本業への影響はないからです。株式投資では、本業の業種や役職によっては、インサイダー取引にならぬよう注意を要します。
ボランティアは?
ボランティアは、労働が発生するという意味では、本業を圧迫する可能性があります。しかし、まったく収入を得ていないなら、禁止される副業の範囲には含まれません。
ただし、ボランティアに注力するあまり、本業をおろそかにしたり、疲れが出て本業に支障が出ていたりすると、本業において注意されたり処分を受けたりするおそれがあります。
「無償労働(無給労働)の違法性」の解説
禁止される副業かどうかを判断する方法
では、具体的なケースで「禁止される副業かどうか」を判断する方法を解説します。
どこまでの副業が禁止されるかは、「本業の片手間ならOK」「収入を得なければOK」「違法な仕事でなければOK」など、さまざまな基準があるでしょうが、その会社ごとで、ケースバイケースの判断が必要となります。
就業規則を確認する
社内に統一的に適用されるルールは、就業規則に書かれています。副業禁止は、ある程度会社全体に適用されると考えられるので、まずは就業規則を確認しましょう。社員の種類によって就業規則が複数ある会社では、どれが適用されるかを調べる必要があります。
就業規則を周知する義務が会社にあるため、わからないときは会社に確認する手が有効です。就業規則に定められた副業に関するルールは、例えば次のものです。
- 会社に悪影響を及ぼさない一定の範囲の副業は自由
- 副業を、事前に会社に届出しておけば自由
- 副業をするときは、事前に会社の承諾が必要
- 副業は、原則として禁止
なお、どのルールが定められても、副業の範囲を知り、「そもそも副業にあたらないのではないか」という反論ができないかどうかもあわせて検討してください。
「雇用契約は口頭でも成立する」の解説
就業規則の副業禁止が有効か検討する
「副業」には、明確な定義がないと冒頭で解説しました。しかし、勤務する会社によっては、就業規則に「副業」を定義し、届出制や許可制にしている例もあります。
就業規則でどこまでの副業が禁止されるかによっては、必ずしも副業すべてが禁止とは限りません。就業規則は、あくまでも会社内のルールであって、法律ではありません。そのため、就業規則の定めが違法ならば、その規定は違法、無効となり、従う必要はありません。
就業規則による副業のルールが厳しすぎるとき、違法の可能性があります。このときは、次に紹介する判断基準によって、どこまでの副業が禁止かを判断してください。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
「本業に影響を及ぼすか」が基準
どこまでの副業が禁止されるかを判断する重要な基準が、「本業に影響を及ぼすか」という点です。法律上、「副業」の明確な定義がなく曖昧であり、「副業」を禁止する法律もない以上、どこからどこまでの副業が禁止となるのかは、判断の難しい問題となります。
本業に影響する副業とは、例えば次のようなケースです。
- 堅いイメージを大切にする本業に勤務しながら、水商売、風俗などを副業とする。
- 違法行為、不適切な行為を副業とする。
- 本業の合間に、業務時間中に副業をし、本業がおろそかになる。
- 本業の業務時間とは重ならないが、本業に十分な休養・睡眠をとることができない副業をする。
ただし、この判断基準からしても、どこまでの副業が禁止されるかは、会社、業種、副業の内容によって、個別に判断しなければならないことを理解していただけるでしょう。
「労働問題の種類と解決策」の解説
副業禁止に違反したら会社をクビになる?
最後に、副業禁止のルールに違反した場合の制裁について解説します。
副業禁止の会社では、ルールを徹底するため、最悪は解雇、つまりクビもあり得ます。大きな不利益があるからこそ、禁止される「副業」がどこまでか、範囲を知っておく必要があります。
副業禁止が、就業規則に定められ、労働契約の内容となっているケースがあります。このとき、そのルールが合理的なものならば、労働者は守らなければなりません。ルールが合理的なものかは、その範囲が限定的に理解されているかどうかによります。
副業禁止に違反すれば、企業秩序を侵害していることとなります。すると、会社から注意指導され、懲戒処分による制裁を受ける可能性があります。副業禁止違反の損害が大きいケースや、何度注意しても改善されないときは、解雇の可能性があります。
次の副業だと会社のデメリットが大きく、解雇されやすいといえます。
- 副業により休養がとれず、本業に集中できていない
- 夜間の副業によって、本業の遅刻、欠勤が増えた
- 本業と副業が、競合している
- 本業の重大な企業秘密が漏洩されてしまった
- 禁止された副業をすることが、本業の信用を低下させる
- 副業で稼ぎすぎて、本業の社内の公平感を損なう
また「副業した」という事実そのものだけでなく、それによって業務に支障を生じさせたり、重大な企業秘密を漏洩させてしまったりすれば、会社から損害賠償請求をされるおそれもあります。
したがって、勤務する会社で禁止される副業の範囲を理解しなければ危険です。副業に対する会社の姿勢を知り、バランス良く副業するのが大切なポイントです。なお、副業違反で懲戒解雇されたら、会社と争う必要があります。
「懲戒解雇を弁護士に相談すべき理由」の解説
まとめ
今回は、どこからどこまでの業務が「副業」なのか、つまり、副業の範囲について解説しました。
働き方改革で「副業解禁」が話題となりました。副業は、うまく活用すれば、労使双方にメリットがありますが、禁止とする会社も多いもの。副業が禁止される会社では、その範囲を知り、ルールの範囲内で副業しなければなりません。
ただし、本業に影響しない副業を理由にした懲戒処分や解雇は、不当なおそれがあります。もし、副業を理由に不利益を受けてしまったら、早めに弁護士に相談してください。
- 副業は、憲法の「職業選択の自由」による保障により、自由なのが原則
- 副業は、本業以外で収入を得られ、かつ、本業への支障が大きいとき禁止できる
- 副業禁止の範囲がどこまでか疑問のあるとき、就業規則のルールを確認する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】