「過労死」という言葉は広く知られるようになりましたが、その危険性や具体的な対策については、十分に理解されているとはいえません。
長時間労働や過度なストレスが続くと、脳・心臓疾患や精神障害を発症し、過労死や過労自殺につながるおそれがあります。過労死の防止は企業の安全配慮義務の一環ですが、労働者自身にも適切な対処が求められます。当事務所にも、次のような相談が寄せられています。
- 「毎月の残業が100時間近くあり、体調が悪化している」
- 「休日も休めず、上司に相談しても改善されないが、このまま働き続けてよいか不安」
- 「家族が長時間労働で疲れ切っているが、本人が仕事を辞めようとしない」
本来、過労死を防止するには、企業が安全配慮義務を果たし、長時間労働の是正や労働者の健康管理に取り組む必要があります。しかし、過重労働を放置するブラック企業では、会社の改善を待つだけでは健康や生命を守れないおそれがあります。労働者自身も危険な兆候を見逃さず、休職や退職、弁護士への相談などを検討することが大切です。
今回は、過労死を未然に防ぐための具体的な対策について、企業と労働者それぞれの立場から、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 過労死は長時間労働やストレスが原因であり、企業には防止する義務がある
- 労働者にも、健康管理や休暇取得など、過労死からの自己防衛が必要となる
- 過労死対策を怠った企業には、法的な責任と社会的なリスクが生じる
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過労死を防ぐにはどうすればよい?
過労死を防ぐためには、まず、その原因や危険性を正しく理解することが重要です。
過労死とは、業務による過重な負荷によって脳・心臓疾患を発症し、死亡することを指します。また、強いストレスによって精神障害を発症し、自殺に至る「過労自殺」も含まれます。過労死等防止対策推進法では、死亡に至らない脳・心臓疾患や精神障害そのものも「過労死等」に含まれ、対策として、病気の発症自体を防ぐことが大切です。
過労死の危険性を考える上で、重要な目安となるのが「過労死ライン」です。
過労死ラインとは、長時間労働による脳・心臓疾患と業務との関連性を判断する際に、労災認定基準の目安となる労働時間数です。次のいずれかに該当する場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。
- 発症前1ヶ月間に、おおむね100時間を超える時間外労働がある場合
- 発症前2〜6ヶ月間のいずれかの期間で、1ヶ月あたり平均おおむね80時間を超える時間外労働がある場合

2021年9月には、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、労働時間以外の負荷要因についても、評価の対象や方法が拡充・明確化されました。具体的には、勤務間インターバルが短い勤務、休日のない連続勤務、深夜勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務などが考慮されます。過労死ラインに達しなくても、それに近い長時間労働に加え、これらの負荷要因が重なる場合、業務と発症との関連性が強いと評価されることがあります。
過労死を防ぐには、企業が長時間労働を是正し、労働者の健康状態に配慮することが不可欠です。また、労働者自身も、心身の不調を感じたら無理をせず、休養を取り、医療機関を受診し、会社に業務負担の軽減を申し出るなど、早めの対策を講じることが重要です。
企業が取り組むべき過労死対策

企業には、労働者の健康と安全を守る義務(安全配慮義務)があり、過労死対策も同義務の一環となります。過労死を防ぐための具体的な取り組みは、企業が組織的に進める必要があります。
企業が取り組むべき過労死防止の具体的な対策は、以下の通りです。
労働時間を把握して上限規制を遵守する
企業の過労死対策は、労働時間の正確な把握が大前提となります。
労働時間を把握しなければ、長時間労働を抑止することができません。具体的には、タイムカードや勤怠管理システム、パソコンのログなどの客観的な記録を活用することが重要です。
そして、把握した労働時間が、労働基準法の定める上限の範囲内に収まるよう管理すべきです。労働基準法では、時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」とされます。特別条項付き36協定がある場合でも「年720時間以内」「2〜6ヶ月平均で月80時間以内」「1ヶ月100時間未満」という上限を守らなければならず、月45時間を超えられるのは年6ヶ月までとされています。
この上限を超えないよう、業務量を見直したり人員配置を最適化したりするなど、労働時間を減らすための具体的な取り組みが不可欠です。
「残業時間の上限」の解説

有給休暇の取得を推進する
過労死を減らすために、法律上の権利である有給休暇の取得を促すことが対策となります。
労働基準法により、使用者には年5日の有給休暇を確実に取得させる義務があります。単に制度を設けるだけでなく、実際に取得しやすい雰囲気を作る責任があります。また、有給休暇の計画的付与制度(計画年休)を導入し、取得状況を可視化することも有効です。管理職が率先して取得し、「仕事が忙しくて休めない」という状況を生じさせないためには、業務量の調整も欠かせません。
「有給休暇を取得する方法」の解説

勤務間インターバル制度を導入する
勤務間インターバル制度とは、勤務の終了から次の勤務の開始までに、一定時間以上の休息を設ける仕組みであり、労働者の生活や睡眠の時間を確保し、疲労回復につながります。2019年4月より、勤務間インターバルの導入が努力義務とされ、一般には11時間程度が望ましいとされますが、業種によって異なります。努力義務ですが、過労死対策としては積極的な活用が望まれます。
ストレスチェックを実施して早期発見に努める
常時50人以上の事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています。
この制度は、労働者が自身のストレス状態を把握し、セルフケアにつなげることを目的とし、企業には、高ストレスと判定された従業員からの申出に応じて、医師による面接指導を実施する義務が課されています。また、検査結果を集団的に分析すれば、過労死が起こるおそれのある職場環境に早めに気付き、未然に防ぐことができます。
社内外の相談窓口を整備する
過労死に至るような働き方をする人は、責任感が強く真面目なことが多いです。
そのため、職場の悩みや心身の不調を一人で抱え込まないよう、相談しやすい環境を整備することが非常に重要で、社内外の相談窓口の整備が欠かせません。ハラスメント相談窓口の設置は、労働施策総合推進法上の義務とされていますが、社内の窓口だけでなく、社外の法律事務所に委託するなどの方法で、上司や同僚には話しにくい内容でも相談につなげることができます。
また、時間外・休日労働時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合、速やかに医師による面接指導を実施する義務が、労働安全衛生法で定められています。産業医などの医師が労働者の心身の状況を把握し、必要に応じた就業上の措置を講じられる体制を整えることも、過労死を防止する企業側の対策として有効です。
過労死を防ぐための労働者個人の対策
一方で、過労死を防ぐには、労働者個人の対策も欠かせません。
長時間労働が常態化した環境では、疲労やストレスの蓄積に自分でも気づきにくいことがあります。法令を遵守しない会社で働いている方は、自分を守るためにも、危険を感じたら躊躇せずに社外に相談することが重要です。以下では、労働者個人が講じるべき過労死対策を解説します。
健康状態や疲労は客観的に評価する
過労死の原因は、長時間労働や過重労働による疲労の蓄積にあります。
ただ、「疲れた」「つらい」といった言葉は抽象的であり、人によって評価が異なります。ストレス耐性や体力、我慢強さにも個人差があるため、健康状態や疲労は、客観的な基準で評価すべきです。その指標となるのが「労働時間の長さ」です。自分では「疲れていない」「まだ頑張れる」と考えていても、一定の時間を超える長時間労働は違法です。その基準は、平均的な労働者であればつらいと感じる水準であると理解してください。
「労働時間を把握して上限規制を遵守する」で前述した通り、月80時間超の残業が一つの目安ですが、それを下回る場合でも、会社の安全配慮義務違反を認める裁判例があります。
「残業が月100時間を超える場合の違法性」の解説

休憩・休日・休暇を積極的に活用する
適度な休息を取ることが、過労死対策として非常に有効です。
労働者には、休憩・休日・休暇を取得する法的な権利があります。具体的には、労働時間が6時間を超えた場合は45分以上、8時間を超えた場合は1時間以上の休憩を、労働の途中に取らせる義務が使用者(会社)にあります(労働基準法34条)。また、1週1日または4週4日の法定休日が確保され、法定休日に労働した場合は通常の1.35倍(35%割増)の休日手当が支払われます。
労働基準法39条は、一定の継続勤務をした労働者に対して年次有給休暇を取得できる権利を付与しています。

このように、働きすぎにならないよう休息を取ることが法律上保障されています。これらの権利が軽視され、満足に休めない状況は、過労死の一歩手前だといっても過言ではありません。配慮のない会社では、労働者が積極的に権利を主張し、休養の時間を確保し、疲労を蓄積させない努力をすることが、過労死を防ぐ対策となります。
「休憩時間を取れなかった場合」の解説

違法な業務命令は拒否する
過労死を防ぐために、労働基準法、労働安全衛生法の理解が欠かせません。
いずれも、労働者の健康と安全を守るための最低限度を定める強行法規であり、労働者の同意があっても法律違反の定めは無効となります。中でも、過労死対策として重要なのが、残業代に関するルールです。未払い残業代を請求することは、企業にとって長時間労働を抑止するための対策を講じるきっかけとなることが多いためです。
労働基準法は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働に対し、通常の1.25倍(25%割増)の時間外割増賃金の支払いを義務付けています。また、月60時間を超える場合、割増率は1.5倍(50%割増)となります。休日労働は1.35倍(35%)、深夜労働は1.25倍(25%)という割増賃金がそれぞれ発生します。
労働基準法違反には刑事罰による制裁があるため、違法の疑いがある場合は、労働基準監督署に通報するのが有効です。
「違法な残業の断り方」「労働基準監督署への通報」の解説


医師の診断を受ける
過労死に至る前には、体調不良や心身の不調などの症状が現れることが多いです。
健康状態を過信せず、過労死の予兆を感じたら、すぐに医師の診断を受けましょう。医学的な判断については専門知識を有する医師に任せるべきであり、自己判断は危険です。例えば、吐き気やめまい、頭痛、睡眠障害(眠れない、中途覚醒してしまう、寝起きでも疲れが取れないなど)といった症状は、過労死の前兆ではないかと疑うべきです。
多忙を理由に、「病院に行く時間がない」「仕事が終わらない」といって先送りにしている人もいますが、危険と言わざるを得ません。本来は、会社が異常を察知して通院を促すべきです。しかし、労働者を過労死に至るほど働かせる会社に、適切な対応を期待することは困難です。
「過労死の前兆」の解説

弁護士に相談する
労働者ができる過労死対策として、弁護士への相談は最終手段の一つです。
過労死が起こるような職場は、それ以外にも多くの労働問題を抱えています。違法な長時間労働があるにもかかわらず残業代が未払いだったり、終わらない仕事の責任を押し付けられてパワハラを受けたりするケースが典型例です。いわゆるブラック企業では、根性論や精神論を押し付け、偏った価値観を信じ込ませ、我慢して従う労働者を搾取していることが珍しくありません。
責任感が強く真面目な人ほど、我慢してしまう傾向にあるため、他人の言葉に耳を傾けることが重要です。そして、職場に法令違反の疑いがあるときは、労働問題に精通した弁護士のアドバイスを受けるのがおすすめです。
「過労死で弁護士を探している方へ」の解説

国による過労死対策の現状

過労死は社会的な課題でもあるため、企業・個人の対策だけでなく、国がどのような対策を進めているのかも理解しておきましょう。
国の過労死対策は、2014年施行の過労死等防止対策推進法をもとに整備されています。同法は、過労死等の防止を「国の責務」と位置づけ、政府は、毎年の過労死等防止対策白書の公表、11月の過労死等防止啓発月間の実施などを通じ、社会的な認知の向上を図っています。さらに、過労死等防止対策大綱を策定し、自動車運転業務、医療、IT、建設業といった重点業種の指定や勤務間インターバル制度の普及といった目標を掲げて施策を推進しています。
近年では、働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制や、労働時間の客観的把握の義務化など、法規制が大幅に強化されています。
このように、国も過労死対策の整備を進めています。そのため企業は、実務上も国が定めた基準やガイドラインを踏まえ、安全配慮義務を果たさなければなりません。
過労死しないために注意しておくべきこと
いわゆるブラック企業に入社してしまっても、その企業の価値観に染まらないことが大切です。
長く働き続けると過労死の危険が高まるため、すぐに退職する覚悟を持つようにしましょう。少なくとも、次のような考え方はおすすめできません。
- すぐに退職すると、転職活動で「問題社員」と思われる
- 仕事に「つらさ」や「我慢」を伴うのは当然
- 今辞めても、すぐには転職先が見つからないのではないか
問題のある会社では、労働者が軽視されています。身近で味方になってくれる家族や友人に状況を正確に伝えれば、「すぐに辞めるべき」とアドバイスしてくれるでしょう。自分の考えが、特定の価値観や偏見に流されそうなときは、複数人の意見を聞いて判断すべきです。
過労死対策に関するよくある質問
最後に、過労死対策に関して、よく寄せられる質問とその回答をまとめておきます。
過労死対策を怠る企業にはどのような罰則やリスクがある?
対策を怠って過労死を引き起こした場合、企業は安全配慮義務違反の責任を問われ、遺族から多額の損害賠償を請求される可能性があります。また、残業時間の上限を超える長時間労働や残業代の未払いは、労働基準法違反として「6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(労働基準法119条)。
過労死は、メディアで報道される例も少なくなく、法的なリスクに加え、企業の社会的信用の失墜や、それに伴う人材の流出、採用難といった事実上のリスクもあります。
- 2025年6月1日より、懲役刑・禁錮刑は廃止され、拘禁刑に一本化されました。
家族や同僚が過労死しそうな場合はどうすればよい?
過労死しそうな働き方でも、「自分は大丈夫」と思っている人は多いものです。
家族や同僚に過労死の危険がある場合でも、心配しすぎると反発され、逆効果なことがあります。重要なのは、労働時間などの客観的データを示し、現状を伝えることです。
まずは、帰宅時間を記録し、労働時間が長すぎることを本人に伝え、医師の診察を受けるよう勧めるのが適切です。本人が聞き入れない場合、家族が匿名で労働基準監督署に情報提供をしたり、弁護士に相談したりする方法も検討してください。


【まとめ】過労死の対策

今回は、過労死の対策について、労使双方の立場から解説しました。
過労死は決して特別な出来事ではなく、長時間労働や過度なストレスが積み重なることで、どのような企業でも、誰にでも起こり得る重大な問題です。適切な労務管理や働き方の見直し、そして早期の相談や対処によって、そのリスクを軽減する対策を講じなければなりません。
過労死対策のためには、企業は労働時間を適正に把握・管理し、職場環境を改善すること、労働者個人としても無理に我慢せず、違法な扱いでないかを見極めることが重要です。「まだ大丈夫」などと過労死を甘く見るのではなく、法律知識をもとに検討し、未払い残業代や違法な長時間労働がある会社に対しては、責任を追及する姿勢が大切です。
過労死を防ぐためには、「起きてから対処する」のではなく「未然に防ぐ」意識が重要です。心身の不調を感じたら、予兆を察知し、早めに弁護士に相談してください。
- 過労死は長時間労働やストレスが原因であり、企業には防止する義務がある
- 労働者にも、健康管理や休暇取得など、過労死からの自己防衛が必要となる
- 過労死対策を怠った企業には、法的な責任と社会的なリスクが生じる
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