セクハラの加害者と会社から疑われてしまった方から、よく相談されます。「会社は、被害者の女性の言い分しか聞かないのか」と質問されることもしばしば。それほど、理不尽な状況に置かれてしまっているケースが多いのです。
セクハラについての証言が、被害者と加害者とで食い違うことはよくあります。しかし、「セクハラがあったのではないか?」と疑われ始めると、会社は被害者のいうことしか信じてくれないのではないかと思ってしまうほど悪い流れになります。
最終的に、セクハラを理由に懲戒解雇など、厳しい処分を受けたら争うしかありません。加害者とされた側から、労働審判や訴訟を起こすこととなります。裁判所はさすがに、「被害者の言い分だから」というだけで信用はしません。
つまり、セクハラ加害者が事実関係を争うなら、裁判を見据えた勝負になります。加害者、被害者の証言が食い違うとき、裁判所がどのように判断するかを理解しなければなりません。
- 被害者というだけで信用されるわけではないが、証言のための事前準備が大切
- セクハラに関する証言、発言の信用性について、裁判所の判断基準を理解すべき
- 被害者の証言と食い違っていても、自分の記憶に基づいて、否定し続けるのが重要
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証言の食い違いとは?
セクハラ事件では、「被害者と加害者の食い違い」がよく問題になります。セクハラ被害者の言い分が信用されやすいことから、特に加害者側にとって深刻な問題です。
セクハラ加害者の立場では、慎重な対応を要します。会社から「発言内容に食い違いがある」と責められても、すぐに反論するのは止めましょう。不用意に口走った発言が、むしろ不利になるおそれもあります。
会社から「食い違い」を指摘されたら、まず、どこが食い違うのか明らかにしましょう。「その場ですぐに反論すること」は、さほど重要ではありません。
食い違いある部分を特定せず、自分の気持ちだけで強く反論しても信じてもらえません。むしろ「無理している」「必死になっている」と評価され、状況が悪化するケースもあります。
まず、セクハラ加害者と被害者の「証言の食い違い」が生じるポイントごとに、反論の注意点を解説していきます。
「セクハラ行為の有無」についての証言の食い違い
まず、食い違いの1つ目のポイントは「セクハラ行為があったかどうか」。
セクハラ被害者とされる人のなかには、実際にはなかったセクハラ行為を会社に報告する人がいます。嘘のセクハラを、あったことのように会社に報告するのに「裏の動機」があることも。
- 加害者のことをおとしめたい
- 加害者が、社内で処分されてほしい
- 加害者からハラスメントを受け、悪化した労働環境を改善したい
- セクハラ以外のことで感じた不快感の仕返しをしたい
- 加害者に昇進してほしくない
セクハラ被害者とされる人に、悪意のあるケースです。また、そうでなく、被害妄想のこともあります。「セクハラ被害があった」と思い込んで、精神が錯乱してしまう人もいます。このとき、会社もまた事情聴取を十分にせず、誤解してしまう場合も少なくありません。
「セクハラ行為の有無」について証言の食い違いがある場合、その行為が重大なものであるほど、「どちらの証言が、客観的な証拠に整合しているか」という基準で、よく検討しなければなりません。
「セクハラ加害者の対応」の解説
「セクハラ行為の程度」についての証言の食い違い
次に、食い違いの2つ目のポイント「セクハラ行為の程度」についてです。「セクハラ行為の悪質性」と言い換えることもできます。
セクハラしてしまったのは事実でも、「性交渉した」というのと、「着衣の上から身体を触った」というのでは、違法性の程度が大きく異なり、会社の処分も変わってきます。セクハラ行為の「程度」についての食い違いなら、加害者としても全否定はやめましょう。行為のすべてを否定し、責任逃れする態度では、反省がないとして厳しく処分されてしまいます。
セクハラは真実なら、(その「程度」に争いがあるのはさておき)まずは迷惑をかけた部分については謝罪、反省し、被害者との示談を目指す対応がよいでしょう。
「セクハラの謝罪文」「セクハラで示談する流れ」の解説
「被害者の同意の有無」についての証言の食い違い
最後に、食い違いの3つ目のポイントは「被害者の同意があったかどうか」です。つまり、加害者側からすればあったと思っていた同意が、被害者側に否定されるケース。
「無理やりだった」と言われると、悪質性がかなり高いことになるので、慎重に対応してください。ただ否定するだけでは、労働審判や訴訟では、「同意」が認められないことも。社内の上下関係があると、部下から明確に拒絶するのは難しいと判断されるケースがあるからです。
立証責任の点からしても、「被害者の同意」は、加害者が立証しなければなりません。
どちらの証言が信用されるの?
以上のような食い違いがあるとき、どちらの証言が聞いてもらえるでしょう。
セクハラの加害者だと疑われてしまった男性社員にとっては、会社が何らかの処分をしようという流れとなると、「女性の言うことしか信じてもらえないのか」と思う場面が多いのではないでしょうか。
しかし、証言の信用性は「女性だから」「被害者がかわいそうだから」といった理由では判断されるのではありません。会社がどう判断するかはともかく、労働審判や訴訟など、裁判所では、証言の信用性を判断するにあたっては一定のルールがあります。
確かに、一部のブラック企業では、女性側に偏った判断が下されがちですが、誤った判断がされて処分されても、裁判所で争えば覆すことができます。セクハラを理由として、懲戒解雇、普通解雇などの厳しい処分となってしまった労働者の方も、裁判所で、「地位確認請求」という手続を行うことにより、労働者としての地位があることを主張して争うことができます。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
セクハラ証言の信用性の判断方法
では、セクハラについて、被害者と加害者とされる人の証言が、まったく食い違っているケースで、裁判所が、証言の信用性をどのように判断するかを、解説します。
裁判所の判断基準は、最終的な結論を導くためのもの。会社における事情聴取や、懲戒委員会における証言にも、同じルールが適用されます。自分の発言が、「信用できる証言」になっているかどうか、確認してください。
セクハラ加害者とされ、冤罪の疑いをかけられたら、事前準備は欠かせません。嘘をつくわけではないものの、思いつくままに発言していては、足元をすくわれます。懲戒解雇など厳しい処分だと、弁明の機会が与えられます。しっかり準備して臨み、反論を説得的に伝えなければなりません。
客観的証拠と合致しているかどうか
まず、労働審判や訴訟といった争いにおいて、裁判所が一番重要視するのが「客観的証拠」。つまり、「物」としてかたちに残っている証拠です。法律用語では「物証」といいます。
「証言(発言)」も証拠としての価値はあります。しかし、「物」として残らず、変動しやすく、「客観的証拠」に比べると信用性が低いと判断されます。セクハラのケースでいうと、客観的証拠には次の例があります。
- セクハラ発言をしているメール
- セクハラにあたる休日のデートの誘いをしているLINE
- セクハラが行われた場所に一緒にいった証拠(ホテルのライター、旅行チケット、レシート等)
- セクハラ行為を記録した録音データ
- セクハラ行為中の加害者を撮影した写真
セクハラは、密室で行われたり、少なくとも隠れてされることが多いものです。なので、全てのセクハラに客観的証拠があるとは限りません(むしろ、客観的証拠などないセクハラ事案のほうが多いでしょう)。
客観的証拠が存在するセクハラの場合に、被害者と加害者の証言が食い違っているとすれば、その客観的証拠に合致する証言をしているほうが、信用性が高いと判断されます。逆に、客観的証拠と明らかに矛盾した証言をしてしまうと、信用性がないと評価されます。
「裁判で勝つ方法」の解説
他の証言と合致しているかどうか
セクハラ事案のなかには、目撃者がいるケースがあります。目撃者がいる場合、セクハラの目撃証言もまた、重要な証拠となります。
というも、セクハラの被害者、加害者は、それぞれ当事者で、自分にとって有利な証言をしようとします。これに対し、目撃者は第三者であり、中立な立場での証言が期待できます。そこで、さきほどの「客観的証拠との合致」と同様に、「目撃者などの第三者の証言と合致しているかどうか」が、セクハラについての証言の信用性の、重要な判断基準となるわけです。
証言に具体性・迫真性があるかどうか
セクハラのケースのなかでも特に、「セクハラ行為があったかどうか」が食い違っている場合、当時の出来事を「どれだけ具体的に記憶しているか」という点が、証言の信用性の重要な判断要素となります。
嘘をついていると、具体的ではなく、曖昧に答えてしまうことがあります。嘘を具体化しすぎると、証言の矛盾や変遷、証拠との違いが見えてしまうからです。これに対し、自分が本当に経験したことなら、具体性、迫真性をもって表現できるのは当然です。したがって、具体的であり、迫真的な証言は、裁判所でも「真実だ」と評価されやすいのです。
セクハラを否認するときも、具体的な事実を詳しく語ったほうが信用されやすく、有利に判断してもらうことができます。
証言に矛盾・変遷がないかどうか
嘘をつき、さらにその嘘を具体化していくと、その場しのぎで証言が変わってしまう場合があります。
つまり、「嘘の上塗り」というわけです。法律用語で「証言の矛盾」「証言の変遷」と呼びます。
虚偽の事実で塗り固めると、他の客観的な証拠や目的者の証言と矛盾してしまいます。セクハラ行為の加害者とされたケースでは、できるだけ矛盾や変遷を少なくしなければ、証言を信用してもらうのは困難だと言わざるを得ません。
事情聴取のたびに言っていることが違うとなると、「セクハラ加害者が必死に言い訳を作っている」という印象を抱かれてしまうからです。
嘘をつく理由(動機)があるかどうか
セクハラ加害者とされてしまったとき、「セクハラしていない」と強く反抗しても、「嘘をついているのではないか」と思われてしまいやすいです。これは、セクハラ加害者ほど、責任や不利益から逃れたくて、嘘をつく動機があるからです。
逆に、セクハラ被害者にも、嘘をつく理由があるケースもあります。例えば、常日頃のパワハラ被害があり、上司を陥れるために「セクハラされた」と嘘をつかれてしまったケースです。このように、「嘘をつく理由(動機)があるかどうか」は、証言の信用性に影響する事情となります。
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セクハラ加害者の証言が信じてもらえない場合には?
セクハラ加害者とされ、どうしても会社がその証言を信じてくれないことがあります。最後に、会社が信じてくれないときの対応を解説します。
「セクハラ被害者の証言と食い違うから」という理由だけで信じてもらえないのは不当です。被害者の言い分しか聞かない会社が、セクハラ冤罪の危機を生んでいるのです。冤罪の疑いをかけられ、まったく信じてもらえないとき、会社の判断を絶対ししてはいけません。
その先に控える労働審判、訴訟に向け、しっかりと準備しなければなりません。
記録(メモ)をとる
セクハラ加害者の立場で、会社に証言を信じてもらえないなら、誤った判断の危険が迫っています。なので、会社が誤った判断をした場合の、対応方針を決めておきましょう。
セクハラ冤罪による懲戒解雇など、会社の誤った判断を争うには、労働審判や訴訟などの裁判所の手続きを利用することとなりますが、そのときにとても重要となるのが「証拠」です。重要なのが、できるだけ客観的証拠に合った証言を、最初から最後まで一貫してすること。
一貫した証言をするには、起こった事実をよく記憶し、整理しなければなりません。その作業は、頭のなかだけでは限界があり、記録(メモ)をしっかりとることをお勧めします。
裁判で争われるにしても、セクハラがあったとされる時点より随分と後のことになる可能性もあります。
セクハラ問題で、被害者と加害者に食い違うのあるケースこそ、記憶喚起を要します。
食い違いのポイントを把握する
次に、セクハラ問題で、被害者と加害者の証言が違うとき、食い違いのポイントを把握するのが大切です。セクハラ加害者の疑いをかけられても、食い違いのないポイントにまで反論していては、重要なポイントを見逃すおそれもあります。
食い違いのポイントを見極め、そのポイントに絞って客観的証拠に基づいた反論をしてください。
明確に否定する
セクハラ被害者の証言と食い違っている部分について、自分のやっていないセクハラ行為の疑いをかけられている場合、明確に否定するようにしましょう。
中途半端な態度や、悩むような姿勢だと、信用されなくなってしまいます。会社からも、「実際にはセクハラしたのを隠しているのでは」と疑われてしまいます。セクハラを否認するときは、断定的に反論するようにしてください。
明確に否定しても会社が聞いてくれない、という場合でも、あきらめてはいけません。「会社が厳しい処分(懲戒解雇など)をするなら争う」ということまで視野に入れるなら、「否定した」という事実を書面などで証拠に残しておきます。
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弁護士に相談する
ここまでお読みいただき、セクハラを疑う会社の対応が、「どうしても納得がいかない」「被害者の言葉ばかり信じている」と不安な方は、労働問題を扱う弁護士に相談ください。
弁護士は、会社の対応が適切かどうか、客観的な立場から検討し、アドバイスできます。そして、会社に対し、内容証明により、意見書を送り、主張を伝えます。それでも会社の処分が変わらないなら、弁護士のサポートのもと、法的手続きを利用することもできます。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
まとめ
今回は、セクハラ加害者とされてしまった方に向けてた解説でした。
加害者側から見ると、会社は、セクハラ被害者の証言ばかり信用するかに見えるでしょう。どれほど説得的に話しても、信じてもらえず、絶望するかもしれません。
しかし、裁判所で、証言や発言がどう判断されるかを知れば、対策を講じることができます。たとえ、被害者の証言をもとに、解雇など厳しい処分を下されても、裁判所で争うことができます。裁判所ならば、証言の信用性は慎重に判断してくれますから、否認し続けるのが正しい対応です。
- 被害者というだけで信用されるわけではないが、証言のための事前準備が大切
- セクハラに関する証言、発言の信用性について、裁判所の判断基準を理解すべき
- 被害者の証言と食い違っていても、自分の記憶に基づいて、否定し続けるのが重要
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