運送会社に勤務するドライバーにとって、タコグラフは馴染み深いでしょう。
タコグラフは、運転距離を記録するのが主な目的ですが、労働者の権利を守るのにも役立ちます。タコグラフは残業時間を証明する大切な証拠であり、違法な長時間労働を是正したり、残業代を請求したりする際に有効活用できます。残業代請求は、結果として労働時間を短くし、過労死など最悪の事態を防ぐことができます。なかでもデジタコは、デジタルデータで記録を保存するので改ざん不能であり、その分、残業時間の証拠として、より価値ある資料です。
デジタコの義務化は、車両総重量や積載量によって対象が決まっていますが、義務化の範囲は法律改正によって拡大し続けています。
今回は、デジタコの義務化と、残業時間の証拠について、労働問題に強い弁護士が解説します。
運送業・ドライバーの残業代請求は、次の解説をご覧ください。
デジタコを義務化する法律改正が進む理由
デジタコをはじめ、タコグラフのことを「運行記録針」と呼びます。その名のとおり、車両の運行を記録するために取り付けられる機器です。
タコグラフには、アナタコ(アナログタコグラフ)とデジタコ(デジタルタコグラフ)がありますが、デジタコのほうが、記録をデジタルデータで保存している分、改ざんが難しいというメリットがあります。冒頭の通り、デジタコ装着の義務化される範囲が拡大し続けているのも、主に道路の安全確保、違反車両の監督強化が目的です。
過去にも貨物自動車運送事業法の法律改正があり、最大積載量の重い車両から順にデジタコの義務化が進んでいました。デジタコの義務化は本来の目的である道路の安全確保といった目的だけでなく、労働者の残業代請求、労災防止にも役立つといった点で、労働問題の一部としても注目されます。
なお、タイムカードなど重要な資料を改ざんする悪質な会社への対策については、次に解説します。
「タイムカードの改ざん」の解説
デジタコ義務化の対象範囲は拡大されている
デジタコをはじめ、タコグラフのルールを定めるのが国土交通省です。なぜなら、「道路の安全確保」が目的だからです。
平成23年11月より「トラックにおける運行記録計の装着義務付け対象の拡大のための検討会」で議論が進められていましたが、検討会の結果、特に死亡事故や長時間、長距離輸送が多く、積載重量の重い車両から、義務化を拡大していくことが決まり、貨物自動車運送事業法の改正によってデジタコの義務化の範囲は拡大されています。
直近の義務化の拡大については次の通りです。
重大な事故を起こしやすい車両が、まずは対象となっていますが、ただ、デジタコは、それ以外の車両でも有効です。
平成27年(2015年)4月~の義務化拡大
平成27年(2015年)3月31日以前は、事業用の車両でも「車両総重量が8トン以上または最大積載量が5トン以上」という条件を満たすトラックにしか、デジタコの装着は義務付けられていませんでした。
しかし、平成26年(2014年)の省令(貨物自動車運送事業輸送安全規則)改正により義務化の対象が拡大。
平成27年(2015年)4月1日の施行より「車両総重量が7トン以上又は最大積載量が4トン以上」のトラックまで、デジタコ装着が義務付けられました。この改正は、平成27年(2015年)4月1日以降に新車で購入した車両に適用されます。
平成29年(2017年)4月~の義務化拡大
そして、平成29年(2017年)4月施行の改正により、デジタコ装着義務の範囲は、さらに拡大されることに。平成29年(2017年)4月1日からは、「車両総重量が7トン以上または最大積載量が4トン以上の普通自動車である事業用自動車」のすべての車両に、デジタコの装着が義務化されました。
デジタコ装着義務に違反したときの罰則
デジタコの装着は、貨物自動車運送事業法という法律に定められた義務なので、これに違反した場合には罰則が科されるおそれがあります。違反内容ごとのペナルティは、次の通りです。
違反内容 | 罰則 |
---|---|
デジタコの未装着 (記録義務違反) | 30日間の車両使用停止 |
デジタコの不備 | 普通自動車:4,000円 大型・中型自動車:6,000円 |
ただ装着しただけで満足するのではなく、故障していないか、不備がないか定期的にチェックすることが大切です。
タコグラフは残業時間の証拠になる
運送業は、違法な未払い残業代、長時間労働の多い業種だといわれています。
そのため、運送会社で働くドライバー、トラックやタクシー、バスの運転手は、注意を要します。もちろん、残業代を正しく払い、さほど労働時間の長くない運送会社もあります。しかし、長時間働いても残業代がもらえず、給料も変わらないブラックな運送会社は多いです。
運送会社でも、残業代に特別なルールはありません。
「運送会社なら払わなくてもよい」ということはまったくなく、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を越えて働いていれば、残業代を請求することができます。このとき、残業時間を証明する証拠が必要で、デジタコをはじめとしたタコグラフが役立ちます。
アナタコ(アナログタコグラフ)だと、針の移動によって記録されており、不正確だったり改ざんされてしまったりといった不都合もありましたが、デジタコ(デジタルタコグラフ)のデータの改ざんは容易ではなく、とても価値の高い証拠です。
デジタコの記録は、会社側が保管していることが通常です。まずは、これら客観的な証拠の開示を要求することからはじめてください(※ 参考:タイムカードの開示請求)
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
まとめ
今回は、平成29年(2017年)4月1日に施行されたデジタコの義務化拡大について解説しました。
デジタコの義務化は、労働者にとって、改ざんできない残業代の証拠が用意されたことを意味します。安全の観点はもちろん、ドライバーの残業代請求という観点でも、朗報といってよいでしょう。
タコグラフは、安全面でなくてはならない装置ですが、労働者の正当な権利の確保にも役立ちます。残業時間を証明する証拠が増え、より効果的に、残業代請求できます。残業代請求を検討しているドライバーなどの労働者は、ぜひ早めに弁護士に相談ください。
運送業・ドライバーの残業代請求は、次の解説をご覧ください。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】