
残業代が会社から支払われない労働者(従業員)の中には、「残業代請求」と検索をしたときに、司法書士事務所の広告を目にした方もいるのではないでしょうか。
残業代請求を行うときに、司法書士に依頼することもできるのでしょうか。
司法書士や認定司法書士と、弁護士との違いを、インタビュー形式で紹介していきます。
結論からもうしますと、労働問題がトラブルとなった場合には、万全を期してのぞむためには、最初から労働問題に強い弁護士へ、法律相談をするべきです。
司法書士と弁護士の違い
- Q そもそも「司法書士」の専門分野は、残業代請求なのですか?
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- 司法書士は「街の法律家」だと思って頂ければ、おおむねイメージ通りかと思います。
さまざまな法律相談を聞きながら、市民に根差した活動を行います。
ただ、一方で、司法書士は、登記実務の専門家でもあります。そのため、会社の登記や、法務局における供託、不動産の登記など、多岐に渡る登記実務を担当します。
そのため、登記業務をメインに行っている司法書士の中には、あまり市民からの法律相談の依頼を受けていない方もいます。
- 司法書士は「街の法律家」だと思って頂ければ、おおむねイメージ通りかと思います。
- Q 「認定司法書士」というのはなんですか?通常の司法書士との違いを教えて下さい。
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- 司法書士の仕事の中には、法律相談の仕事が含まれることをご理解いただけましたでしょうか。
法律相談の中で、お話し合いで解決しない場合には、裁判を行うことが一般的です。例えば、今回解説します残業代請求の場合、残業代を内容証明で請求しても会社に無視された場合には、裁判を行います。
「認定司法書士」とは、2002年に行われた司法書士法の改正によってつくられた、新しい資格です。
司法書士のうち、一定の要件(研修・試験への合格)に対し、法務大臣が認定することによって「認定司法書士」となります。
認定司法書士は、通常の司法書士の業務(法律相談、登記業務など)に加えて、簡易裁判所で行う裁判の代理人となることができます。
つまり、簡易裁判所の管轄となる、「請求額140万円以下」の民事事件について、弁護士と同様に、依頼者の代理人として訴訟活動を行うことができます。
例えば、残業代請求の場合、請求額が140万円を超えない場合には、認定司法書士に依頼して、裁判で残業代請求を行うことができます。
- 司法書士の仕事の中には、法律相談の仕事が含まれることをご理解いただけましたでしょうか。
- Q 弁護士と認定司法書士との違いはどのようなものですか?
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前の回答でご理解いただけましたとおり、司法書士であっても、認定司法書士であれば、一定の裁判について、代理して争うことができます。
とはいえ、簡易裁判所で行うことのできる裁判に限定されていますから、これを超える金額の場合には、司法書士が代理することはできません。
したがって、残業時間(サービス残業)が長時間つづき、未払い残業代が多額となる場合には、司法書士がこれを代理して裁判をすることはできません。
代理することができないのは、裁判だけに限るものではなく、話し合い(任意交渉)による合意についても、「140万円以下」の請求についてしか行うことができず、これを越えた請求額について交渉を行ってしまうと、弁護士法違反となります。
これに対して、弁護士の場合、請求額に制限はありません。したがって、請求する未払い残業代の金額が多額となっても、裁判で争うことができます。
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前の回答でご理解いただけましたとおり、司法書士であっても、認定司法書士であれば、一定の裁判について、代理して争うことができます。
残業代請求を弁護士に頼む理由
- Q 残業代請求を司法書士に頼むことができますか?
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原則として、司法書士は、残業代についての話し合い(任意交渉)を行うことはできません。つまり、労働者(あなた)を代理して、会社と話し合って残業代を支払ってもらうことは、司法書士にはできません。
この原則の例外として、認定司法書士の場合に、簡易裁判所の管轄となる「140万円以下」の残業代に限り、話し合い(任意交渉)を行うことができます。
しかし、残業代請求の場合、労働者の側に十分な証拠がないことが一般的であり、請求すべき「ただしい残業代」がいくらになるのかは、法律相談の段階では、ある程度の予想しかできません。
交渉を行い、会社から残業代請求に必要な証拠を開示してもらって計算した結果、残業代の金額が140万円を超える場合、司法書士はただちに代理しての交渉を中止しなければなりません。
この場合、自分で交渉を継続するか、弁護士に残業代請求の続きを依頼することとなります。
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原則として、司法書士は、残業代についての話し合い(任意交渉)を行うことはできません。つまり、労働者(あなた)を代理して、会社と話し合って残業代を支払ってもらうことは、司法書士にはできません。
- Q 労働審判での残業代請求を司法書士に頼むことができますか?
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労働審判での残業代請求は、司法書士に依頼することはできません。労働審判で、労働者(あなた)の代わりに交渉することができるのは、弁護士だけです。
労働問題を裁判で争うと、半年から1年程度の期間がかかることが通常です。困難な労働問題である場合など、複雑なケースでは1年を超える裁判も少なくありません。
簡易裁判所で争ったとしても、残業代請求では、会社が徹底的に争ってくる場合、すぐには終わりません。
簡易迅速に、労働トラブルを解決する手段として、「労働審判」という方法が用意されていますが、労働審判で代理人となることができるのは、弁護士だけです。
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労働審判での残業代請求は、司法書士に依頼することはできません。労働審判で、労働者(あなた)の代わりに交渉することができるのは、弁護士だけです。
- Q 解雇されて、残業代請求と解雇を合わせて争うとき、司法書士に頼むことができますか?
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不当解雇をされて、解雇の無効を争いたいという場合には、司法書士に依頼することはできません。
不当解雇をされて解雇を争う場合、「地位確認請求」という争い方になりますが、地位確認請求の場合、訴額がすくなくとも160万円とされますから、簡易裁判所で司法書士を代理人として争うことができないからです。
したがって、残業代請求とあわせて、不当解雇の問題も争いたいという場合、法律相談は、司法書士ではなく弁護士にするのが適切です。
司法書士は、法律相談を担当することができません。
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不当解雇をされて、解雇の無効を争いたいという場合には、司法書士に依頼することはできません。
司法書士に残業代請求を依頼する費用
- Q 残業代請求を司法書士に依頼する費用は、弁護士より安いですか?
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残業代請求をする場合に、司法書士に依頼した方が弁護士費用よりも安いケースもありますが、必ずしもそうとは限りません。
というのも、残業代請求だけの場合には、おおむね費用相場が決められており、これは弁護士であっても司法書士であっても変わらないからです。
むしろ、司法書士の場合、「140万円以下」の残業代請求しか代理することができないことから、報酬金の割合が不当に高い事務所もあります。「着手金無料」におどらされず、報酬金のパーセンテージを確認してください。
また、本来は代理ができない140万円を超える残業代請求について、本人請求訴訟のサポートとして、残業代計算などの一部の業務だけを行い、報酬を請求する司法書士もいますが、弁護士法違反となる可能性のあるグレーな行為であるといわざるをえません。
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残業代請求をする場合に、司法書士に依頼した方が弁護士費用よりも安いケースもありますが、必ずしもそうとは限りません。
- Q 残業代を計算するだけで、お金がかかるのですか?
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弁護士は、労働者(あなた)の代理人となって、労働者(あなた)の代わりに使用者(会社)と交渉をし、未払いの残業代を請求して、残業代を回収します。
そのため、「残業代を計算する」というだけで報酬を請求することはありません。
これに対して、さきほど解説したように「140万円以下」の残業代請求しか代理することのできない司法書士は、小規模な残業代請求に限られてしまいます。
140万円以上の残業代請求についても、「残業代を計算する」という業務に対する対価であったり、裁判所に同行するという業務に対する日当であったりといった形で費用を請求される場合がありますが、弁護士であればそのような費用はかかりません。
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弁護士は、労働者(あなた)の代理人となって、労働者(あなた)の代わりに使用者(会社)と交渉をし、未払いの残業代を請求して、残業代を回収します。
- Q 内容証明を作成するだけで、お金がかかるのですか?
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内容証明を作成するだけでは、お金はかからないのが普通です。
というのも、残業代請求の場合、未払いとなっている残業代を回収してはじめて意味があるのであって、内容証明を作成するだけではなにも変わらないからです。
弁護士の場合、内容証明を作成し、これを、労働者(あなた)の代わりに、代理人として使用者(会社)に送り、交渉を行います。そして、交渉の結果として、残業代を回収したときに報酬をもらいます。
これに対して、140万円を超える残業代の請求ができない司法書士であっても、内容証明の作成という業務に対して、費用を請求する事務所もあるため、注意が必要です。
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内容証明を作成するだけでは、お金はかからないのが普通です。