休暇には、会社によって色々な種類があります。ただ休みたいからといって休暇を利用しても、その分の給料をもらえないケースがあります。それが今回解説する「無給休暇」です。有給休暇のように給料の発生する休暇もありますが、給料をもらって休めるのは法的な権利だからで、休暇一般に当然給料が生じるわけではありません。
給料がないなら休暇をとらなかったのに
給料を受け取って休む権利を探したい…
無給の休暇は、欠勤とも異なります。「欠勤」は労働義務がある日に休むことですが、「休暇」はそもそも労働義務がありません。
したがって、休暇なら休んだことに責任はないはずが、悪質な会社だと休暇を取得する人を嫌い、目をつけられてしまいます。不当な処遇に対抗するには、無給休暇の法的な扱いを理解しておく必要があります。無給休暇をとると、給料の計算方法や在籍期間などにも様々な影響が生じます。
今回は、無給休暇の法的な意味と、利用した場合の扱いについて詳しく解説します。
- 無給休暇には、法律上、労働者の保護のために定められた様々な種類がある
- 無給休暇を会社が特別に定めるとき、その狙いとなる目的に即した制度設計となる
- 法律上の権利である有給休暇なのに、給料を払わず無給とするのは違法
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無給休暇とは
無給休暇とは、給料の発生しない休暇のことです。休暇は、本来の労働日に、労働義務が免除されるものであり、その多くは労働者の申し入れによって取得されます。
休暇は、ノーワークノーペイの原則によって給料はないのが原則です。「年次有給休暇」が有名ですが、無給休暇の方がむしろ原則的な扱いなのです。それでもあえて「無給休暇」という用語があるのは、よく知られた「有給休暇」でないことを明示するためです。
休暇には、法律上の権利であるものと、労働契約で定めるものの2種類があります。法律上の権利である休暇には、年次有給休暇のように給料の発生する休暇もありますが、育児休暇や介護休暇など、必ずしも有給でなく、無給休暇となる例もあります。労働契約上の休暇は、給料の有無を会社が自由に決められるので、その多くは無給休暇です。たとえ無給でも、休暇を取れることは労働者にとってメリットです。本来は働くべき日に休めることで、休息を取ってワークライフバランスを向上させる効果があるからです。そのため、無給だとしても、育児休暇や介護休暇のように労働者保護のために法的な権利とされた休暇は守られるべきで、会社には取得させる義務があります。
一方で、給料は生活の根幹であり、労働者にとって非常に重要な権利です。そのため、無給休暇を取得することで、かえって生活が困窮しないよう、悪質な会社による不当な処遇を避ける必要があります。「無給とすることが違法ではないか」「他の労働条件に悪影響はないか」といった観点から、本解説を参考に対処してください。
「休日と休暇の違い」の解説
無給休暇の種類
法律で定められた休暇には、年次有給休暇(労働基準法39条)以外にも多くの種類があります。これらは、法律の定める休暇という意味で「法定休暇」と呼びます。前章に解説の通り、法定休暇は、年次有給休暇を除けば、原則として無給休暇となります。
無給となる法定休暇の例には、次のものがあります。
また、法律で義務とはされていなくても、会社が特別に制度として休暇を設けるケースもあり、このような休暇を「特別休暇」と呼びます。労働契約上の休暇を有給とするか、無給とするかは会社の自由であるため、特別休暇をはじめとした多くの休暇は、無給とされています。会社の制度設計にもよるので、特別休暇中の給料の扱いについては、就業規則で確認しておきましょう。
産前産後休業が無給のケース
労働基準法65条は、産前産後休業の付与を義務付けています。具体的には、出産予定日前の6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、出産後の8週間について、女性を就業させてはならないと定めます(ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合は、医師が支障がないと認めた業務に就かせるのは差し支えないとされます)。
産前産後休業は無給が原則であり、会社が特別な配慮として有給としない限り、休業した分の給料は受け取れません。産前休業は請求しなければ取得しないことができ、産後休業についても産後6週間の経過後は、取得しないことを選択できるため、給与をもらいたい場合にはこれらの休業はせず、代わりに有給休暇を取得することもできます(なお、産後6週間までの休業については、女性の請求の有無によらず義務となります)。
なお、健康保険から出産手当金が受給されるほか、企業内の制度として出産祝い金を設けるといった例もあるため、補償を受けることができないか調べておきましょう。
「マタハラの慰謝料の相場」の解説
生理休暇が無給のケース
労働基準法68条は、生理休暇を定めています。具体的には、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、就業させてはならないこととなっています。生理休暇中の給料は各企業の判断であり、無給とすることも可能です。また、有給とする場合も、休ませることは義務ですが、有給とするのは月一日までなどといった制限をすることが可能です。
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育児休業が無給のケース
育児介護休業法5条は、育児休業の取得について定めており、原則として1歳未満の子を養育する人には育児休業が付与されます。育児休業もまた休む権利はあるものの、給料が保障されるわけではなく、無給休暇とされている会社が多いのが現状です。
休業中の所得保障のため、雇用保険により、育児を開始してから180日の間は、休業前の賃金の67%を保障する育児休業給付金を受給できます(雇用保険法61条の6。なお、181日目以降は、50%の支給率)。また、育児手当を特別に支給するなど、育児する男女を積極的に応援する会社も増えていますが、一方で、育休を取得したことを理由にハラスメントをするなど、悪質ないじめ、嫌がらせの原因となることも少なくありません。
育児期間中はどうしても出費が嵩んでしまいます。それなのに無給休暇だと収入もなく、生活が困難になり、満足に育児ができないおそれがあります。育児休業が無給なときは、まずは残っている有給休暇から消化することも検討してください。
「育休が取れない場合の対処法」の解説
介護休業が無給のケース
育児介護休業法11条は、要介護状態にある家族の介護のために休みを与える制度を定めます。介護休業も、原則として無給であり、給料は支払われません。とはいえ、家族の介護は大きなストレスとなり、介護休業なしには、仕事と介護の両立は困難なケースも多く、非常に重要な権利です。なお、雇用保険から、介護休業給付金を受給できます(雇用保険法61条の4)。
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子の看護休暇が無給のケース
育児介護休業法16条の2は、子の看護休暇について定めています。子の看護休暇は、小学校就学前の子を養育する労働者に与えられる休暇であり、その名の通り「看護」をする場合のほか、予防接種や検診などの理由でも、休暇を取得できます。子の看護休暇も、無給休暇が基本です。
子どもはいつ体調を崩すか、判断が難しいもので、無給とはいえ休暇の必要性が高いです。ただ、育児休業や介護休業といった他の無給休暇に比べると、公的な補償は十分ではありません。
「ジェンダーハラスメント」の解説
特別休暇が無給のケース
特別休暇は、会社が就業規則などに規定し、労働契約の内容として設けた休暇制度です。労働契約上の休暇は、法律上の義務ではなく、給料の有無についても会社が自由に定められるため、無給休暇となっているケースが多いです。
特別休暇は様々な種類がありますが、以下には、よくある無給の特別休暇の例を紹介します。
慶弔休暇が無給のケース
結婚や葬式などの理由で付与される慶弔休暇は、特別休暇の典型例です。慶弔休暇を付与するのは、家庭の事情で休む社員への配慮ですが、無給とされるのが原則です。
「特別休暇」の解説
病気休暇が無給のケース
病気休暇は、業務以外の原因でかかった病気について与えられる休暇です。病気休暇を設ける会社の多くは、原則として無給休暇としています。病気休暇を消化した後は、休職命令を下されるのが一般的な扱いです。そして、私傷病によって休む場合、健康保険から傷病手当金の給付を受けることができます。
「病気を理由としたハラスメント」の解説
夏季休暇が無給のケース
夏の暑さによって業務が非効率となるのを避けるため、夏季休暇を設ける会社は多いです。ただ、夏季休暇も原則として無給の休暇です。なお、有給休暇の消化のため、計画年休などの方法で夏季休暇に有給休暇を充当する会社の場合、例外的に、夏季休暇中であっても給料を支払う義務が生じます(なお、計画年休でも、労働者が自由に取得できる有給休暇を5日は残さなければなりません)。
「夏季休暇を有給休暇とすることの違法性」の解説
無給休暇とその他の制度との違い
無給休暇の他にも紛らわしい言葉があり、混乱するかもしれません。しかし、定義をしっかり把握すれば、その他の制度との違いを理解できます。以下では、無給休暇と間違えやすい、他の制度との違いを解説します。
無給休暇と有給休暇の違い
無給休暇と有給休暇は、いずれも労働義務がない点では変わりません。その違いは、名称から明らかな通り「給料が出るかどうか」という差です。休暇は、ノーワークノーペイの原則から、労働義務がない代わりに給料もないのが原則。つまり、無給休暇こそ原則的な姿だということです。
「有給休暇を取得する方法」の解説
無給休暇と欠勤の違い
無給休暇と欠勤は、いずれも会社に行かない点、その期間の給料がもらえない点は共通します。その違いは、そもそもの労働義務があるかどうかの差です。
欠勤は、労働義務があるにもかかわらず休むことで、労働契約の債務不履行を意味します。無断欠勤やバックレをすれば、会社から損害賠償請求されるおそれもあります。無給休暇は、労働義務が免除されていますから、休んでも債務不履行にはなりません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
無給休暇と休職の違い
無給休暇は、給料は支払われないものの、労働者への恩恵的な意味合いがあります。これに対し、休職は、私傷病によって休まざるを得ない場合の処遇です。
休職は、労働者の休養のためだけでなく、会社にとっても意味があります。そのため、休暇とは異なり、会社の命令によって行われます。休職期間の満了までに、復職できるまでに回復しなければ、退職扱いとされてしまうのが通常です。
「うつ病休職と給料の関係」の解説
無給休暇の給料の計算方法
無給休暇を取ると、その期間が無給である分だけ、給料の総額が減ってしまいます。このとき、減額される給料が、どのように計算されるのかを理解しておかなければなりません。無給休暇を取得したことで、ボーナス(賞与)の査定が下がるなど、他の事情に悪影響となることもあります。
欠勤控除の計算の仕方
無給休暇を取得した分は、給料が払われないため、欠勤控除をする必要があります。欠勤控除の計算方法は、本来もらえる給料から、無給休暇に相当する分を差し引いて算出します。
- 無給休暇のあった月の給料
= 本来の月給 - 無給休暇を取得した日数分の給料 - 無給休暇を取得した日数分の給料
= 月給 ÷ 月の所定労働日数 × 無給休暇の日数
基本給だけでなく手当も支払われている場合には、その手当の性質ごとに、控除すべきかどうかを判断する必要があります。その手当が、労働日数に応じて払われる性質のものなら、欠勤控除されることとなります(例:労働日数に応じて計算された通勤手当、固定残業代など)。
「残業代の計算方法」の解説
傷病による無給休暇なら傷病手当金をもらえる
無給休暇の理由が、傷病によるものなら、傷病手当金をもらうことができます。傷病手当は、健康保険の被保険者が私傷病によって就業不能となった際に支給される金銭です。私傷病、つまり、業務外のケガや疾病による就業不能が、連続で3日以上続くことが条件です。
無給休暇のなかでも、病気休暇のようにやむを得ず取得する場合に、傷病手当金を活用しましょう。
「退職後も傷病手当金を受給し続けるポイント」の解説
無給休暇がボーナス算定に影響する場合がある
ボーナス(賞与)は、一定の期間を対象とした査定をもとに算定されます。このとき、無給休暇を取得したことがマイナスに評価され、ボーナスが減らされてしまうのは不当です。とはいえ、ボーナスの支給条件は、会社がある程度の裁量をもって定めることができます。
有給休暇は法律上の権利なので、その取得を理由にボーナスを減額するのは禁止されますが(労働基準法附則136条)、無給休暇にはそのような規定がなく、休暇の期間が長すぎると、貢献度に影響を及ぼしたり、公平の観点などからボーナスを減らさざるを得なかったりする場合もあります。本来なら払うべき賞与を支給しないのは違法です。
「ボーナスカットの違法性」の解説
有給休暇を無給とするのは違法であり許されない
有給休暇が取得できることは、労働基準法上の権利です。この場合、労働義務は免除され、かつ、その休暇分の給料も払われて休めます。単に労働からの解放だけでなく、給料の支払いも補償されているのです。
そのため、有給休暇を申請したのに、その日分の給料が払われないのは違法です。有給休暇を適切に与えないことは、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑罰の対象となる悪質な行為です(労働基準法119条)。この場合、本来払うべきだった給料分に加えて、遅延損害金と付加金を請求することができます。付加金は、支払うべき給料と同額を上限とする(つまり、2倍まで払わせることができる)厳しい制裁です。
したがって、会社に勝手に無給の休暇にされてしまったら、その責任を追及できるのです。まずは会社に内容証明を送付して交渉し、決裂する場合には労働審判、訴訟といった裁判手続きで請求していくのが実務的な方法です。
「違法な年休拒否への対応」の解説
まとめ
今回は、無給休暇についての法律知識を解説しました。
休暇が無給になるケースには、有給休暇を除く法定休暇や、特別休暇といった例があります。「休暇」というと「有給休暇」のイメージから「給料はもらえるもの」と思う人もいますが、むしろ給料の発生する休暇の方が例外であり、無給休暇が原則となります。
無給休暇は、他の休日や休暇と同じく、労働から解放される大きなメリットがあります。しかし一方で、休暇分の給料は支払われず、ボーナス算定にも悪影響となるおそれがあります。休暇を取得する社員に対して不利益な処遇を強いるブラック企業もあります。無給休暇を有効に活用するためには、給料が少なくなるなど、無給休暇のデメリットもよく考慮しておかなければなりません。
なお、有給休暇を取得することは法律上の権利であり、有給休暇を取得した日を無給とされたなら労働基準法違反で、違法となります。勤務先の休暇の扱いについて不満のある方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 無給休暇には、法律上、労働者の保護のために定められた様々な種類がある
- 無給休暇を会社が特別に定めるとき、その狙いとなる目的に即した制度設計となる
- 法律上の権利である有給休暇なのに、給料を払わず無給とするのは違法
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