※ 本解説は、2020年当時の現状に合わせた解説となっています。
令和5年3月13日以降、政府は、マスクの着用について個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となる旨を発表しました。また、同年5月8日以降、新型コロナウイルスは5類感染症へと移行しました。
したがって現在は、職場でマスクをつけないことの問題性は、本解説の当時に比べると著しく低下したと考えられます。本解説の内容は、社会の情勢に合わせて今後変更を予定しており、現時点では、2020年当時の「コロナ禍」の参考資料とお考えください。
なお、マスク着用は、コロナに限らず、風邪やインフルエンザといった咳の出る体調不良を抱えた社員がいる場合は、労働問題の原因になりやすく、その場合、本解説の対処法が同様に当てはまります。
社内における社員間の距離が近すぎることも、ハラスメントその他の軋轢を生む原因となリ得るため、そのような場合に安全配慮義務違反の問題が生じるかどうかを検討するのに参考となる知識です。
感染症防止のため、マスクの着用が職場でも浸透しています。しかし、それでもなお、マスクをしない人のいる職場もあります。
常にノーマスクで過ごす人はさすがに少ないでしょう。しかし、ちょっとした会話ならマスクせず話しかけたり、いつもアゴマスクだったり。職場の飲み会に参加せねばならず、マスクなしにしゃべりかけられ不愉快に思う例もあります。
会社が対策してくれなくて怖い
社長が原因となっているのでは
会社は、社員の健康を守り、安全な環境で働かせる義務(安全配慮義務)を負います。そのため、感染の危険があるような事態で、予防策を打たずに働かせるのは違法です。
今回は、職場でマスクをしない人への対応と、会社の責任について解説します。
- 「職場でマスクしない人」の問題は、ハラスメント問題と似た法律問題が生じる
- 職場の安全を守らず、社員の健康を害してしまうなら、会社に責任がある
- 職場にマスクしない人がいて危険なときは、出社を拒否することができる
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職場でマスクしない人の問題は、安全配慮義務違反という法律問題になる
会社は労働者に、健康的で、安全な環境を提供する義務(安全配慮義務)があります。労働者にとって、職場は人生の大半を過ごす、とても重要な場所です。快適な職場でなければ、心身の健康を害してしまい、大きな不利益を被ります。
労働契約法5条も、次のように定め、使用者が労働者の安全に配慮すべきことを示しています。
労働契約法5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法(e−Gov法令検索)
労働者の病気を防止することが大切なのは、風邪やインフルエンザ、うつ病などはもとより、新型コロナでも同じことです。現在の社会情勢を考えると、最低限の対策をすることは、会社における安全配慮義務の一内容となると考えるべきです。
- マスク着用
- 咳エチケット
- 手洗い・うがい
- アルコール消毒
- 窓開け・換気
したがって、職場のマスク問題は、法的には安全配慮義務違反の問題の一環となります。マスクを着用しない人を放置しておけば、他の社員の健康を危機にさらしてしまいます。マスクをつける、つけないの問題は、個人の価値観によっても変化しますが、最低限のルールは会社が統一的に定めて、社内に周知し、浸透させていかなければなりません。
特に、職種によっては法律上の安全配慮義務は、更に高いレベルで要求されます。人との接触機会が多く、マスクを着用する必要性が高いと考えられるのは、例えば次の業種です。
- 飲食店の従業員
- 接客業
- 医療従事者
「労働者の自己保健義務」「安全配慮義務」の解説
マスクしない人のいる職場での適切な対応
次に、マスクをしない人のいる職場で、どのような対応が適切かを解説します。
前章では、マスク着用は、他の社員の安全を守る行為だと解説しました。そのため、会社が安全配慮義務の一環として、徹底して教育しなければなりません。会社の教育が十分でなく、個人の価値観や判断に任せていると、他人への思いやりがなく、必要な場面なのにマスクをしない人がいることもあります。
マスクしない人と距離をとる
マスクしない人が職場にいるとき、距離をとるようにしましょう。これは、物理的に距離をとるのはもちろんですが、精神的な面においても、関わっていると疲弊してしまいます。マスクしない問題点を会社に理解してもらい、席替えをしてもらうなどの方法も有効です。
「違法な異動を拒否する方法」の解説
マスクするよう会社に注意指導してもらう
職場でマスクしない人に対しては、会社から注意指導をしてもらうのが適切です。考え方や価値観は人それぞれであり、頑固な人のなかには自分の考えに固執し、否定されると強く反発する人もいます。そのため、直接労働者同士で指摘をすると、トラブルの元となってしまいます。
職場のマスク問題は、医学的な問題にとどまるものではなく、職場の人間関係を円滑に進め、少なくとも他の社員に不快感を与えないという点でも重要です。検討を怠り放置すれば、労働問題をはじめとした法律問題に発展します。
職場のマスク問題が労働問題であり、ハラスメントにも繋がりかねないことから、会社は、安全配慮義務の観点からして、マスクをしない人に注意指導をすべきです。現在の情勢からすれば、必要な場面でマスクをしない人に対しては、マスクをするよう業務命令することもできます。
危険な出社はとりやめる(欠勤する)
注意指導されたり、業務命令されたりしてもなお、マスクしない人が反抗的なとき、職場の危険はなくなりません。このような危険のある職場への出社は、とりやめることができます。つまり、感染の危険があるならば、欠勤してもよい場合もあるわけです。業種や会社によっては、テレワークにしてもらえないか、会社に願い出るのもよいでしょう。
会社が安全配慮義務を果たさないために出社のリスクが高いとき、出社できないのは会社の責任であり、欠勤したからといって責められる理由はありません。無理やり出社するよう命じられても、違法な業務命令に従う必要はなく、懲戒処分などの制裁が下るなら、不当処分として争うべきです。
安全への配慮がされておらず危険な会社に来るよう強要されるのは、ハラスメント問題と同様の状況だといえます。例えば、「会社にいくと暴力を振るわれる」「長時間労働を強要されて健康被害が出ている」といったとき、会社の責任によって出社できないのと同じ法律問題です。なお、使用者側に原因があって出社できない場合には、その期間中の給料を請求することができます。
「うつ病休職中の給料」の解説
弁護士から警告書を送る
職場にハラスメント相談窓口があるときは、マスクしない人を通報し、相談してもよいでしょう。しかし、ブラックな会社や、そもそも社長が原因だと、対応してくれない可能性があります。
労働者自身が言っても危機感を持たない会社には、弁護士から警告書を発してもらうのが有効です。弁護士名義の警告書なら、法律知識に基づいて正しい指摘をし、強いプレッシャーになります。
- 安全配慮義務の法的根拠を示す
- 義務を果たすための具体的な改善策を提示する
- 義務違反が続く場合は法的措置を講じることを示す
弁護士からの警告書は、内容証明で送ることにより、証拠化できます。会社の対策が不十分で、後にトラブル化するときに備え、証拠を準備しておきましょう。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説
会社の対策が不十分なときは労災になる
ここまで会社にはたらきかけても対策が不十分なときは、会社の責任を問いましょう。具体的には、対策が不十分で起こった病気について、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求するとともに、労災申請をするようにします。
「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(厚生労働省・2020年4月)の通達でもわかる通り、コロナは労災になりえます。その特殊性から、従来の労災認定より、感染経路の特定は緩やかに考えるべきとも示されました。つまり、これまで通りの判断基準だと「業務が原因かどうかは不明だから労災ではない」とされた症状でも、労災認定を受けられる可能性があります。
また、医療従事者や、海外出張の業務命令を受けた人だと、特に労災認定の可能性が高まります。労働者は、会社の働く場所を選べませんし、生活のため、そう簡単には退職できません。そのため、会社が対策を万全にしなければ、安全配慮義務違反の責任があるのは明らかです。
マスクしない人の主張にも配慮して話し合いを重視する
一方で、どうしてもマスクしたくないという人もいます。このとき、一方的に偏った対応をするのではなく、互いの立場を理解して話し合うことが、円満な職場を作るために大切です。
- 貧困で、マスクを買うお金がない
- 肌荒れがひどく、マスクができない
- 猛暑の作業で、マスクすると熱中症になる
他の社員と距離をとり一時的にマスクをはずしたりするのが許されることもあります。そのため、ほんの少しマスクをしなかったからと、過剰に反応すべきでないケースもあります。なかには、マスクをしてもらうために、会社の費用で用意してくれる、配慮ある会社もあります。
なお、仮にマスクをしない人がいても、すぐ解雇するのは、不当解雇のリスクがあります。まずは口頭で注意指導し、それでも従わなければ軽度の懲戒処分とするのが適切であり、改善の余地があるならば直ちに解雇をするべきではありません。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
まとめ
今回は、昨今、法律上もよく問題となる、職場でのマスク問題について解説しました。
社会問題への意識の高さ、危機感の大きさは人それぞれですが、職場で円滑にすごすためにも、常識的な対応をしなければなりません。マスクしない人がいる問題のある職場では、会社に注意してもらうのが適切です。労働者個人の判断にまかせるのではなく、職場の安全は会社が守るべきです。
社長がマスクしていないなど、対策してくれなそうな会社は、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 「職場でマスクしない人」の問題は、ハラスメント問題と似た法律問題が生じる
- 職場の安全を守らず、社員の健康を害してしまうなら、会社に責任がある
- 職場にマスクしない人がいて危険なときは、出社を拒否することができる
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