懲戒解雇をされ「会社に来なくていい」と突然言い渡されると、動揺してしまうでしょう。ショックのあまり、給料が未払いなのに泣き寝入りしている方もいます。懲戒解雇は、会社が従業員に下す最も厳しい懲戒処分であり、給与の問題にまで考えが及ばないおそれがあります。
しかし、懲戒解雇でも働いた分の給料は受け取ることができます。ミスや不手際といった懲戒解雇の理由となる事情について労働者に非があっても、会社の主張するような多額の損害賠償請求は認められず、少なくとも同意なく給料から差し引くのは違法です。懲戒解雇前の自宅待機中の給料についても、支払うべきなのが原則です。
懲戒解雇は、不当解雇になりやすく、会社と争うべきケースは少なくありません。このとき、もらい損ねている給料がないかどうかを検討し、未払いがあるなら必ず請求しましょう。
今回は、懲戒解雇になったときの給料の扱いを、労働問題に強い弁護士が解説します。
懲戒解雇されたら給料がもらえない?
見に覚えのないことでも、懲戒解雇されると後ろめたい気持ちになるでしょう。責任感が強く、「自分が悪かったのでは」と自責の念にかられる方もいます。しかし、懲戒解雇が仮に有効になされても、これまで働いた分の給料がなくなるわけではありません。
残念ながら懲戒解雇という重大な処分を下され、自分に非があって争うこともできないケースは存在します。会社に負い目や引け目を感じるのは仕方ありませんが、既に発生している給料まであきらめてしまう必要はないのです。
給料は「労働したこと(働いたこと)」によって当然に発生します。懲戒解雇された時点では既に、働いた分の給与請求権は発生済みなのです。たとえ後から問題行為が発覚しても、労務提供した事実に変わりはなく、一旦発生した給料は、その後の懲戒解雇によっても決して無くなりません。
このような基本的な考え方に対して、ブラック企業では、使用者から次のような反論を受けることがあります。いずれも誤った理解と言わざるを得ず、真に受けてはいけません。
問題行為の責任をとって給料を返上すべきだ
迷惑かけたのだから給料は辞退するのが当然
問題ある就労には給与を支払う価値がない!
以上の会社の誤った主張は、労働者の後ろめたい気持ちに付け込んで給料をあきらめさせようとするもので、不当な対応です。このような理由で給料を支払わないなら、違法な給料未払いなのは明らかであり、決して屈せず、正当な権利は胸を張って主張し続けてください。
なお、退職後も未払いとなっている給料は、労働基準法23条1項により、労働者の請求があった場合には7日以内に支払う義務があります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
懲戒解雇の責任と給料の関係は?
次に、懲戒解雇の責任と給料の関係について、詳しく解説します。
正当な解雇理由がなく、不当解雇ならば争うのは当然。そして、懲戒解雇を争うケースを弁護士に依頼すれば、未払いとなっていた給料もまとめて請求してくれるでしょう。
一方で、「懲戒解雇そのものは有効」というケースもあります。つまり、重度のセクハラやパワハラ、業務上横領など、責められてもしかたない問題行為を引き起こして懲戒解雇されたケースです。このときでもなお「懲戒解雇の責任」と「給料の支払い」は、全くの無関係ではないものの切り分けて考えることができます。
したがって、懲戒解雇を争わないとしても、未払いの給料を請求すべき場面があります。
本当に懲戒解雇は有効?不当解雇ではないか確認すべき
まず、あきらめてしまう前に、懲戒解雇の違法性を争うことをよく検討してください。つまり「本当に懲戒解雇は有効なのだろうか」と、今一度じっくり考えてみましょう。
解雇は厳しく制限されており、そのなかでも懲戒解雇には特に厳しく判断されます。解雇権濫用法理のルールによって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
懲戒解雇に該当する事由があったとしても、最も厳しい処分である懲戒解雇にふさわしい程度のものでない限り、不当解雇であると判断される可能性は十分にあります。ハラスメントや横領などといった、解雇されてもしかたない問題行為があるにしても、その内容が軽度であったり、謝罪と反省をしっかり示していたり、被害回復が果たされていたりすれば、裁判で争った場合には「懲戒解雇には相当しない」と判断してもらえる可能性もあります。
なお、解雇の30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要がありますが、例外的に、解雇予告の除外認定を得た場合は手当なく即日解雇が可能です(労働基準法20条)。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
懲戒解雇前の自宅待機時の給与はもらえる?
懲戒解雇前に会社から自宅待機を指示されることがあります。この期間中の給与計算についても、不当な扱いを受けることがあります。
自宅待機が企業の指示によるものなら、その期間の給与は基本的に支払われるべきとされます。会社の一方的な都合で自宅待機を命じられた場合、本来なら勤務できたはずであり、民法536条2項によって給与請求権を失わないからです。また、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、労働基準法26条によって平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。
したがって、懲戒解雇前の自宅待機時の給与は、支払われるべき場合が多いのであり、未払いとなっているなら請求を怠らないようにしてください。
「自宅待機命令の違法性」の解説
会社から損害賠償請求されてしまう?
以上の検討によっても「懲戒解雇をされてもしかたない」と考えられるケースでは、労働者の問題行為の責任について「損害賠償請求」という形で責任追及を受けてしまう場合もあります。多額の業務上横領のケースなど、損害賠償が多額になると、「給料が払われない」と悩んでいられないほどに高額の請求を会社から受けてしまう例もあります。
懲戒解雇時に損害賠償を請求されたら、その金額が妥当かどうか、適正額かどうかを検討しましょう。懲戒解雇のケースでは、社長が感情的になって、裁判所では到底「損害」とは認められない金額を労働者に請求する場合があるからです。
「会社から損害賠償請求されたときの対応」の解説
損害賠償が認められても給料は払われる
懲戒解雇の理由である問題行為の内容によっては、損害賠償を受け入れざるをえないケースもあります。例えば、次のような問題行為が故意に行われた場合は、裁判でも会社の賠償請求が認容される可能性が高いと考えることができます。
- レジ金の持ち出し
- お金の使い込み
- 交通費の不正請求・横領
- 経費の不正流用
損害賠償請求に応じざるを得ない場合でも、給料は払ってもらえるのが基本です。というのも、労働基準法24条の定める賃金全額払いの原則によって労働者は保護されており、給料から損害賠償額を相殺することは、労働者の同意なくして一方的にしてはならないからです。
給料は、労働者の生活を支える非常に重要なもので、一方的な相殺は許されず、労働者の同意を要します。相殺の同意を強要することもまた、労働基準法違反であり、違法です。なお、懲戒解雇でも退職金を不支給・減額とできるのはごく例外的なケースに限られます。
法的に認められる損害賠償とは
会社が、懲戒解雇を決意した労働者に対して、給料を払わないために真っ先に考える手が、「問題行為に対する損害賠償請求」です。
会社から、「懲戒解雇となった理由について損害賠償請求する」といわれたとき、これを理由として「だから給料は払わない」といわれるケースです。このとき「そもそも損害が実際に生じているのか」をよく考えてください。
損害が実際には発生していないにもかかわらず、「迷惑をかけられた」「実際の損害はもっと大きいはずだ」「将来も影響が出たら全損失を請求する」などと脅されて、泣き寝入りしている人もいます。
このような発想で、過大な請求をしてくるブラック企業は、残念ながら珍しくありません。
以上の通り、実際には会社が請求してくるような「損害」は生じていないケースもあります。そして、仮に損害が発生していたとしても、(故意の横領行為など悪質性の高いものを除き)生じた全損害を労働者に請求できるわけでもありません。
企業の経営においては、使用者は、労働者を使用することによって利益を得ています。そのため、損失もまた使用者が負うのが基本とされており、労働者に責任追及できるケースは例外的なものです(その場合にも全損害を押し付けられるわけではなく、一部に制限されると判断する裁判例も多く存在します)。このような考え方を「報償責任」と呼びます。
「裁判で勝つ方法」の解説
給料からの相殺が許される例外的なケースとは
懲戒解雇をされてしまったとき、その解雇理由となった問題行為について、損害賠償請求が認められてもしかたないとしても、給料から相殺するためには「労働者の同意」が必須だと説明しました。
ここまで理解していてもなお、ブラック企業、ワンマン社長のなかには、口頭で強く伝え、相殺の同意を取り付けたと考えて給料を払ってこないケースもあります。
懲戒解雇のケースといえど、給料からの相殺が許される条件は、かなり厳密に考えられています。そのため、強要によって得た同意は無効となります。そもそも同意を強要すること自体が違法なパワハラであり許されず、不法行為(民法709条)として慰謝料の請求をすることもできます。
社員にとっての「給料」の重要性からして、有効な同意があったと言えるには、少なくとも「書面による同意」が必要となります。したがって、「給料からの相殺に同意する」という書面にサインしていない限り、争える余地は残っていると考えてよいでしょう。
「給料未払いの相談先」「未払いの給料を請求する方法」の解説
まとめ
今回は、懲戒解雇された上に、払うべき給与すらもらえていないときに、労働者がどのように対処すべきかについて解説しました。
仮に懲戒解雇となってしまうのが仕方ないケースでも、既に発生した給料は無くなりはしません。支払われるべき正当な給料の請求は、すぐにでもすべきです。あわせて、懲戒解雇が本当に有効かどうか、あきらめず検討してください。懲戒解雇は、不当解雇になりやすく、労働者の受ける不利益の大きさからしても、原則として争うべき場面がほとんどだといってよいでしょう。
懲戒解雇となり、給料すら払ってもらえないなら弁護士に相談ください。給料の未払いはもとより、懲戒解雇のトラブルをしっかり解決したいなら、労働問題に精通した弁護士がおすすめです。
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