懲戒解雇になると「給料がもらえないのでは?」という相談例があります。
懲戒解雇は、問題行為に対する制裁を意味します。そのため、責任追及され、会社から「支払えない」と言われた場合、受け入れて泣き寝入りしてしまう人もいます。しかし、懲戒解雇であっても、働いた分の給与を受け取ることはできます。
懲戒解雇の理由について労働者に非があっても、給与から損害賠償分を差し引くことは違法であり、未払いのまま放置する会社の対応こそ法令違反の可能性もあります。また、処分前の自宅待機中も、給与は支払われるのが原則です。
一方で、賞与や退職金などは、不支給・減額が認められるケースがありますが、不当に減らされないように注意が必要です。
今回は、懲戒解雇と給与の関係と、「給料は支払えない」と言われた場合の対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 懲戒解雇でも働いた分の給料は原則支払われ、未払いは違法となる
- 賞与や退職金は就業規則や理由により不支給・減額となる場合がある
- 給与から損害賠償を一方的に相殺されても、同意がなければ違法となる
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懲戒解雇になったら給料はどうなる?

結論として、懲戒解雇であっても給料は支払われます。
これは、労働契約による当然の帰結であり、そもそも懲戒解雇だからといって給料を支払わなくてもよい理由がありません。
働いた分の給料は支払われるのが原則
懲戒解雇であっても、既に働いた分の給料は必ず支払われます。
これは労働の対価として賃金の支払いが法律上の義務だからです。労働契約において、労働者が労務を提供するのに対し、使用者(会社)は賃金を支払う義務を負います。たとえ重大な規律違反があって懲戒解雇が有効だとしても、過去に働いた事実は消えません。
重要なのは、「解雇」と「賃金の支払い」は別問題ということです。会社が、どのような事情で解雇しても、給与の支払いを拒むことはできません。したがって、「懲戒解雇だから給料は支払わない」と言われたら、違法と考えてよいでしょう。
なお、退職後も未払いとなっている給与は、労働者の請求があった場合は7日以内に支払う義務があります(労働基準法23条)。
解雇日までの給料は日割りとなる
では、実際にどこまでの給与が支払われるのでしょうか。
基本的には「解雇日までに働いた分」が対象になります。例えば、月の途中で懲戒解雇された場合、最終出社日(または解雇日)までの勤務に対する給与を受け取ることができます。多くの会社の就業規則や賃金規程は、月給制であっても日割り計算で決めることを定めているからです。
不当解雇と判断されれば解雇後の給料も発生する
一方、解雇日以降の賃金は、原則として支払い義務がありません。ノーワーク・ノーペイの原則があるため、働いていない将来の給与は受け取れないからです。ただし、懲戒解雇が不当解雇として違法・無効と判断されれば、解雇後の期間についても賃金(バックペイ)が発生します。
懲戒解雇という重い処分が無効になりやすい点については、後述「懲戒解雇の有効性を検討する」をご参照ください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

懲戒解雇が有効でも給料未払いは違法

以上の通り、懲戒解雇でも給与は支払われるのが原則です。
したがって、たとえ懲戒解雇が有効だとしても、会社が給与を減らしたり、支払わなかったりすることは労働基準法違反となり、違法です。
労働基準法24条は「賃金全額払いの原則」を定めており、既に発生した賃金はその全額を支払わなければなりません。これは、不当な控除や中抜きによる搾取を防ぐためのルールであり、横領や重度のセクハラ・パワハラなど、懲戒解雇すべき問題行為があっても、「罰として給料をカットする」といった対応は違法です。
以下のような対応は、違法となる可能性が高いです。
- 「懲戒解雇なのに給料を請求するのか」と発言し、あきらめさせる。
- 懲戒解雇を理由に、働いた分の給与を一切支払わない。
- 会社の損害を理由に、一方的に給与から差し引く。
- 問題行為の責任を取るよう伝え、賃金を大幅にカットする。
たとえ会社に損害が発生しても、その回収は別途の損害賠償請求の手続きによるべきであり、労働者の同意なく賃金から相殺することは許されないのが原則です。また、そもそも、会社の主張するような損害が発生しているとは認められないことも多いものです。
なお、懲戒処分としての減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1という上限がある上(労働基準法91条)、懲戒解雇している場合、減給処分も下せば二重処罰となるおそれがあります。
例外的に懲戒解雇で給料が減額・不支給になるケース

懲戒解雇でも、働いた分の給与は支払われるのが原則ですが、例外的に、減額や不支給が認められるケースもあります。いずれも、無制限に認められるわけではない点に注意を要します。
減給処分がある場合
労働者に問題があり、減給処分となった場合、給与が減ることがあります。ただし、あらかじめ就業規則に定めを置き、合理的な理由に基づかなければなりません。
前述の通り、懲戒処分としての減給には法律上の上限があり、1回につき平均賃金の1日分の半分、総額でも賃金支払期における総額の10分の1までとされます(労働基準法91条)。なお、懲戒処分として減給を行う場合、同じ事情について懲戒解雇も行うことは二重処罰として許されません。
欠勤控除される場合
懲戒解雇でも給与が支払われるのは「働いた分」についてです。
働いていない時間の賃金は発生しないため、例えば、無断欠勤や遅刻・早退があった場合のほか、労働者に明らかな問題があり、証拠隠滅や再発防止を理由として就労を禁止した場合などは、例外的に賃金を支払う義務が生じないことがあります。
損害賠償との相殺に同意した場合
労働者の行為によって生じた損害を賃金から一方的に差し引くことは許されませんが、例外的に、労働者の同意があれば相殺が可能です。横領した事実が明らかであるなど、返金や損害賠償の義務が生じる場合、給与からの相殺について労働者も同意をすることがあります。
ただし、真意に基づく同意である必要があり、同意書などの証拠が必要となります。損害賠償を給与から差し引く方法が違法となりやすいことは、後述「損害賠償との相殺は拒否する」「会社の主張する損害賠償請求が認められるかを検討する」をご参照ください。
賞与が支給されない場合
懲戒解雇されたことで、賞与(ボーナス)が支給されないことがあります。
まず、賞与については「支給日に在籍していること」を条件(支給日在籍要件)とする企業が多く、懲戒解雇により支給日前に退職した場合は不支給となります。さらに、就業規則に「懲戒解雇の場合は賞与を支給しない」と定められていたり、業績評価によって賞与支給額が決まるところ、懲戒解雇されたことで低評価と査定されて不支給となったりする場合があります。
これらの賞与未払いの扱いは、就業規則の定め方や、実際に労働者が起こした問題行為の重大さに照らして、有効とされる可能性があります。
「ボーナスカットは違法?」の解説

退職金が不支給・減額される場合
就業規則や退職金規程で「懲戒解雇の場合は退職金を不支給または減額とする」と定める例があります。この規定も有効とされますが、無条件に適用できるわけではありません。
裁判実務では、退職金の功労報償的な性格からして、過去の功労を無にするほどの非違行為がなければ、全額不支給は無効(少なくとも一部は支払うべき)とされており、違反行為の内容や程度、会社への影響、従業員の勤続年数などが総合的に考慮されます。
「懲戒解雇でも退職金は請求できる?」の解説

懲戒解雇で給料がもらえない場合の対処法

では、懲戒解雇で給料が支払われないとき、どのように対処したらよいでしょうか。
「懲戒解雇が有効でも給料未払いは違法」という原則を理解した上で、たとえ自身の問題行為が原因となっていたとしても、あきらめずに給与を請求しましょう。
懲戒解雇の有効性を検討する
給与未払い以前に、懲戒解雇そのものが無効であるケースもあります。
解雇は法的に厳しく制限されていますが、その中でも懲戒解雇は、普通解雇や諭旨解雇といった他の解雇にも増して厳しく判断されます。解雇権濫用法理により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ、不当解雇として違法・無効となります(労働契約法16条)。

したがって、就業規則上の懲戒解雇事由に該当しても、最も厳しい処分である懲戒解雇にふさわしい違反行為がない限り、不当解雇であると判断される余地があります。ハラスメントや横領など、解雇となっても仕方ない問題を起こしたとしても、その内容が軽微であったり、謝罪と反省の態度を示していたり、会社の被害がそれほど大きくなかったりといったケースは、裁判で争って解雇無効を勝ち取れる可能性があります。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説

損害賠償との相殺は拒否する
会社の損害を理由に、給与との相殺を主張されても、拒否するのが適切です。
たとえ会社に損害が生じていても、給与から相殺するには労働者の同意が必要です。そして、安易に同意すれば、次章のように「そもそもその損害額が妥当か」をチェックできなくなります。損害が生じているとしても、交渉や訴訟などによる請求手続きを取り、その中で妥当な損害額を定め、労働者が責任を負う範囲で賠償をすべきです。
給与は、労働者の生活の糧となる重要な金銭なので、同意を強要することは許されず、同意がなければたとえ損害があっても給与を支払うべきです。
会社の主張する損害賠償請求が認められるかを検討する
損害賠償を理由に給与が支払われない場合、会社の言い分をよく吟味してください。
感情的になって過大な請求をしたり、本来は労働者の責任にすべきでない損害まで転嫁しようとしたり、将来発生するかもしれない損害まで見積もったりする会社もあるからです。前述の通り、労働者の真意に基づく同意があれば給与からの相殺も許されますが、そもそも会社の請求する損害賠償が妥当な金額どうかはよく検討すべきです。
なお、企業の経営では、使用者が労働者を使用することで利益を得ているため、損失もまた使用者が負うのが原則とされており、労働者に責任追及できるケースでも、生じた損害の一部に制限されるというのが裁判実務の考え方です(「報償責任」と呼びます)。
「会社から損害賠償請求されたら?」の解説

未払い賃金を会社に請求する
懲戒解雇後に給料がもらえなかった場合、会社に対して支払いを求めましょう。
会社から「懲戒解雇だから支払わない」などの反論が予想される場合、口頭ではなく、内容証明郵便など書面で請求して、明確に証拠を残すことが大切です。後の紛争に備え、雇用契約書、就業規則、給与明細、勤怠記録といった証拠を整理しておいてください。また、懲戒解雇の場面では、会社が労働者の非を責めることで給与の未払いを正当化しようとするため、それに反論するための資料を確保しておくことが重要です。
「給料未払いで泣き寝入りしないためには?」の解説

労働基準監督署と弁護士に相談する
会社との交渉で解決しない場合は、労働基準監督署に未払い賃金として申告する方法があります。懲戒解雇であっても、賃金未払いがあれば労働基準法違反として扱われ、助言指導や是正勧告を行ってもらえる可能性があります。
あわせて、弁護士にも相談しておけば、給与の請求だけでなく、懲戒解雇そのものの有効性についての争いも検討することができます。
「不当解雇は弁護士に相談すべき?」の解説

労働審判や訴訟を検討する
労働基準監督署や弁護士からの働きかけによっても給与の支払いがされない場合は、労働審判や訴訟といった法的手続きを検討します。特に、懲戒解雇の有効性自体が争点となるケースでは、未払い賃金に加えて解雇後の賃金(バックペイ)が問題となることもあります。
懲戒解雇と給料に関するよくある質問
最後に、懲戒解雇と給料に関するよくある質問に回答しておきます。
懲戒解雇前の自宅待機中の給料はもらえる?
懲戒解雇前に、会社から自宅待機を命令されることがあります。
自宅待機が会社の指示による場合、その期間の給与は支払われるのが基本です。会社の都合で自宅待機を命じられなければ就労できたはずであり、危険負担の原則によって賃金請求権はなくならないからです(民法536条2項)。また、使用者の責に帰すべき事由による休業は、休業手当(平均賃金の6割)の支払い義務が生じます(労働基準法26条)。
例外的に、労働者の規律違反が明らかであり、証拠隠滅や再発防止の観点から自宅待機を命じた場合、賃金の支払い義務が生じないことがあります。
「自宅待機命令の違法性」の解説

懲戒解雇後の生活を守るためには?
懲戒解雇後は収入が途絶えるリスクがあるため、生活を守るための準備が必要です。
代表例が失業保険ですが、「重責解雇」と判断されると3ヶ月の給付制限が設けられるため、解雇後すぐには受給できない点に注意が必要です。あわせて、再就職を円滑に進めるため、懲戒解雇の経緯をどのように説明するかも整理しておきましょう。
即日解雇された場合の給料は?
懲戒解雇の中には、即日解雇される例もあります。
解雇は、30日前に予告するか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払いを要しますが(労働基準法20条)、懲戒解雇とするほどの規律違反がある場合には速やかに会社から排除する必要があると考えられるためです。
月の途中で即日解雇された場合、最終出社日(または解雇日)までの給与が日割りで支給されるのが原則です。あわせて、労働基準監督署の除外認定を得られる例外的なケースでない限り、解雇予告手当を受け取ることができます。
「即日解雇されたらどうすべき?」の解説

【まとめ】懲戒解雇と給料の関係

今回は、懲戒解雇された際に、給料がどうなるかについて解説しました。
結論として、懲戒解雇となった場合でも、「働いた分の給料は支払われる」というのが原則です。たとえ労働者に非があったとしても、会社の判断で賃金を未払いとすることは違法です。給与未払いがあった場合は速やかに請求するとともに、そもそも懲戒解雇が、不当解雇として違法・無効となるのではないかもよく検討してください。
一方、賞与や退職金は、就業規則の定め方や個別の事情によっては不支給・減額とすることが認められますが、その条件は厳しく審査されるため、「支払わない」と言われた場合でも、会社の説明が正しいとは限りません。
懲戒解雇となった上に、給与すら支払ってもらえない場合は、弁護士に相談して法的手続きを取ることを検討してください。
- 懲戒解雇でも働いた分の給料は原則支払われ、未払いは違法となる
- 賞与や退職金は就業規則や理由により不支給・減額となる場合がある
- 給与から損害賠償を一方的に相殺されても、同意がなければ違法となる
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